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33話 アン・シャーリー、海沿いの道を行く

 おれとマリラは翌日、二輪馬車に乗って、海岸沿いの道をスペンサー夫人の家へ向かっていた。物語の中では、本当は男の子のはずがどうして女の子になってしまったのか夫人に聞くためと、極悪ババアのブリュエット夫人のアンに対する態度をみて、マリラがアンを引き取る決心をするためであることは、すでに物語を読んでいる人なら知っているはずである。


 すこし高いところから見下ろす海はなだらかに青く遠くまで広がり、陸は平坦ながらも多少の山坂を感じさせる土地の上に、複雑な色をしたさまざまな緑が、染色に失敗した子の髪の毛のように(ややネタバレ)広がっていた。季節は初夏で、やや湿気を帯びた空気が、ときおり海のほうから吹いてきて気持ちがいい。


 おれ、つまり仮想世界のアン・シャーリーは、朝食をすませたあと、物語の中では孤児のおれをグリーン・ゲイブルズに世話してくれたスペンサー夫人のところ(その正体は町の旅行案内人)に、マリラと一緒に行くことになった。荷物を部屋に置いたままにして置こうとしたら、それはだめ、と言われた。


「いーじゃんかよ、どうせ戻ってくるんだから」とおれは言い、マリラは、


「そりゃそうだけど、ここらへんは一応、元の孤児院へ送り返されるかもしれない、というので、グリーンゲーブルズにはもう戻れないだろう、という、アンの悲しい気持ちがある演出だから。はい、悲しい気持ちになって」


 言われてそうなるのは、もうこの本の展開を知っている人間には無理なのだった。


 爆弾が爆発するかもしれないというハラハラ感のある映画を2回目にみても、どうせ爆発しないし、主人公を含めた登場人物は、悪人を除いては死なない、ということは知っている。しかしなんでそういう物語(映画・小説など)を何度も見たり読んだりしてしまうのかは、わからない。


 これがミステリーなら、真犯人とかその動機などがわかっていても、伏線とか隠されていた事実など、再読によって気がつくこともあるし、たいていの場合は途中まで読んで、これ読んだこと絶対にあるはずなんだけどなー、だけど真犯人が誰だったっけ、みたいな気持ちで、あーそうそう、と最後の数ページで思い出す。


 しかしまあ、アンがマリラたちのところに戻ってこない、なんてことはない、というのは忘れないよね。それだったらこの物語終わっちゃうからね。

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