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(番外4)アン・シャーリー(の中の人)、堕天使にマンスプレイニングをされる

 おれたち(おれとルーシー)は調子に乗って、ドーは童貞のドー、レーはレイプのレー、とかひどい歌を歌いながら(ミはともかく、ファはご想像の通り)机をばんばん叩いて爆笑したので(天使のほほえみではなく堕天使の爆笑である)、気がついたら学食にいる人間の8割ぐらいがおれたちを見て青ざめていた。


「もうこのへんにしとこうか。おれたち、注目されすぎだよ」


「おれたち、じゃないの。この俺だよ、こ・の・お・れ」と、ルーシーはまず、指を二本立てて、次に一本(人差し指)にして、自分の端正な顔の頬を指した。


 確かにそうなんだけどね。


 女性体(それもとびっきりの奴)でも一人称は「俺」なんだな。おまけにナルシスト。男性体のときと変わらない。この話がアニメになったら声優は同じ人なんだろうか。


 そうこうしているうちに、おれの携帯端末に通知がきた。


「あー、また時間限定イベントのお知らせだよ。放っておくと1時間おきに来るんだよなー。えーと、グリーン・ゲイブルズの窓枠の塗り替え体験、アン・シャーリー限定か……」


 仮想世界のアン・シャーリーは、999人まで大丈夫らしい。どういうシステム(サーバー)でそんなことができるか、とんと不明だけど、ダイアナちゃんは99人までなんだな。


「お前なあ、それ、絶対マリラに騙されてるって」


「うん、知ってる。それはともかく、高いところ塗るのに便利だから天使の羽根貸して」


「ぶつぶつ」と、ルーシーは言った。リアルにぶつぶつと言ってるヒト(堕天使だけど)ははじめて見た。


「どこらへんで話に割り込んだらいいのかわからなかったんでずっと見てたの」と、プレートにカツ丼・天丼・親子丼の3丼セット(セットになっているのである)を乗せた子が恥ずかしげにおれたちに話かけてきた。面倒くさいから、ルーシーに、でもいいや。


 肩ぐらいの黒髪をきっちりとまとめて、控えめなメイクと控えめな服でまとめたその子は、モブキャラではどうやらないらしい。アパレントリィじゃなくてオブヴィアスリィかな。眼鏡は赤のハーフリム(アンダーリム)という、理系女子大生にはありがちなものではなく、レイ・ブラッドベリの娘がかけていたような、赤のザーマス眼鏡(って言うのだろうか。正式名称はフォックス型あるいはモンロー型。なお、スネオの母はそんなのかけてない)で、おれがガン見したら恥ずかしそうに大きなバッグにしまった。


「待ちかねたぞ」と、ルーシーは決まり文句を言って、親子丼以外の丼ものを受け取り、箸を使ってがつがつと食べはじめた。


「シナノです、よろしくお願いします」と、その子は自己紹介した。


 中国人ということじゃなくて、長野の高校から来たため、そのような仮名にしている、とのことである。


「ひょっとして、あなたも仮想世界では別の人なんだね。ダイアナちゃんじゃないし、これから登場する予定の人とかかな」


「あっちの世界では伯爵令嬢のリリちゃんだよ」と、堕天使のルーシーはすぐに言った。


 リアルと仮想世界じゃ人格、全然違うんだな。ゲーム世界とリアルでは違うキャラ、ってのは普通だから、そういうもんだと思うことにしよう。


 リリってのはリリスに由来してる、ってシナノさんの説明によると、ルキフェルよりも冒涜的かな。


「原作ですこししか語られていないキャラは、だいたい俺が考えてるんだ。なんてったって創造神と同じ能力があるんだからな」と、ルーシーは鼻の穴を広げながら言った。


 知ってるかー、イブはアダムの肋骨から作られた、ってことに聖書にはなってるけど、それが誤訳だったって、と、ルーシーはマンスプレイニングを仕掛けてきた。


 うん、知ってる。えーと、シュメール語からヘブライ語に翻訳されるときの「Ti」の解釈だったかな。


 マンスプレイニングとは、マン+エクスプレイニングで、要するにおっさんが若い女の子に、こういうの知ってる、って言いながら自慢そうに説明すること。若い女の子は、知ってても、へー、そうなんですか、とか言わなければならない。知ってたかな。


 そう、マンスプレイニングの説明をすること、まさにそれがマンスプレイニング。

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