16話 アン・シャーリー、堕天使を教会に入れる算段をする
おれと堕天使のルキフェルとは、日曜学校の教会への道を歩いた。初夏から盛夏にむかおうとしているこの季節は、歩いていると汗ばむような暑さが感じられた。とりあえず帽子の飾りのための花は集め終わったので、ルキフェルはおれの歩幅に合わせて歩いてくれた。おれの3歩がルキフェルの2歩ぐらいになるような歩幅だった。しかし、おれの本来の姿(体型)は、アン・シャーリーよりもむしろルキフェルに近いので、視界も含めて歩きにくいのはおれのほうだった。やはり、数か月しないと馴染まないよな、この体には。
ルキフェルは、最近の(堕天使的には、ここ百年ぐらいが最近のようである)キリスト教はどうなってんのか、説教とか聞いてみたいそうである。あの頑丈な、たまご売りのおっさんですら、眠くなってしまうような牧師の話を聞きたいなど、確かに今どきのヒトじゃない。
長老会派に限らず、プロテスタント系の教会は異教徒には、カトリック系と比べると寛大である。実際にそうであるかはどうかは知らないけど、ルキフェルが言うんだから多分この世界ではそうなってるんだろう。
「でもねえ、その格好じゃちょっと、変質者というか変なおじさんみたいで、門前払いされそうだな」
おれと歩いているルキフェルは、とりあえず堕天使の白と黒の羽根は隠したけど、寝起きの貴族のようなネグリジェみたいな寝間着姿で素足。地面に直接触れることは、どういう原理か不明だけどないみたいで、靴をはいたおれの足のほうがはるかに汚れていた。
「あー、見た目は変えられるよ」と、ルキフェルは言って、ふわっというかもわっというか、霧みたいなのを周りにまとうと、その霧は小さくなって、中からはおれ(というか、アン・シャーリー)と変わらない大きさの美少女になった。
「これだったらどうかな」
美少女ルキフェルは、寝間着っぽい白い服の裾を両手で拡げておれに挨拶した。
マジ天使。
「いいと思うけど、頭の上にぐるぐる回る、天使の輪のようなものまでついてるのはなんとかなるの。あ、消せるのね。しかし、この界隈の女子だったら、もうすこし小ぎたない感じのほうがいいかなあ。あと、わたしには友だちとしてダイアナちゃんがいることになってるし」
そう言うとルキフェルは、また姿を変えた。今度はすこし小ぎたない美少年。美少女は、小ぎたない感じにするのは難しいのだそうだ。
「一応、キャラ設定としては、女子のことなら何でも知ってる、女子攻略ゲームにありがちなギルバートの友だち、ってのはどうよ」
「どうよ、と、言われても。今のわたしが、同じ年の異性を連れて教会に行くのは、あれこれ聞かれそうで嫌なんだけど。本当の学校がはじまってからにしてくれないかな」
「そうだね」と、少年姿のルキフェルは頭をかいた。
言い忘れたが、美少女のときでも美少年のときでも、ヒトの形をしたルキフェルの髪の毛は白と黒とが複雑に混ざった色をしていて、目はきれいな緑色だった。
*
赤褐色のおれの髪と同じ色の地面に、ぐてー、と細長いものが横たわっている。白と黒のダイヤ柄のヘビである。おれは、はよはよ、とせかしているように見える緑色のヘビの目を見ながら、ようし、って気分になって取り上げると、腰の周りに回して前のほうで軽くしばった。
「いて、いて、いてて。なんで勝手に締め上げてくるんだよ」と、おれは苦しんだ。
「ごめん、ヘビだから。でも自分で締めるより楽だろ」
おれはヘビに変身したルキフェルのしっぽのほうを持って、ばしばしと地面に叩きつけたので、ルキフェルの目は××みたいな感じになった。
「楽じゃねーよ。苦しいよ。しょうがないなあ。じゃあ、もっと小さいヘビになって。そうそう、いいね」
おれは、30センチぐらいの細い紐のようになったルキフェル(引き続き白と黒のダイヤ柄)を、うまいこと帽子の花飾りの中にかくした。
教会の前には、はじまりを待って雑談している女子や男子の複数の集団があり、おれはすました感じでそこを素通りした。なにあれ、うけるー、マシューさん家にこないだからいる子だよね、あの子、本当にキリスト教徒なの、という、ぶつぶつひそひそした話し声も漏れ聞こえたけど、別に気にすることはないだろう、とおれは思った。
話している声は日本語だったから、どうせみんなこのバーチャル世界にツアーで来た日本人だと判断できるからね。




