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14話 アン・シャーリー、先住民に襲われる

 赤毛のアン・シャーリー(まだ恋のなんであるかもしらない、しょっちゅうかんしゃく起こす11歳)と、4年後にはくたばる予定のマシューじいさんは、駅舎からグリーン・ゲイブルズの屋敷に戻る途中で、北米先住民(昔風に言うならインディアン)の襲来を受けた。騎兵隊が来る、というか騎兵隊が存在する仮想世界なら、持久戦も可能だろう。しかしここは、北米先住民はいても騎兵隊はいない仮想世界なのだった。


 マシューは銃をかまえて、慎重に狙いをつけた。とはいえライフルならともかく、散弾銃で狙える距離はこれっぽっちもない。ウマの全力疾走なら3秒ぐらいで駆け抜けるぐらいの距離。それでもマシューは果敢に、ウマ上のひとりを撃ち落とした。


 うっ、と声を出したマシューの胸には、しかし、手作り感のある、太い軸と矢じりを持った矢が突き刺さった。


「じいさん、ここで死んじゃだめだよ! まだ株価は大暴落してないよ!」と、おれはマシューの体をゆさぶった。


 先住民のリーダーと思われる、一段と派手な羽飾りをつけた年長の男は、おれに顔を向けると威圧感のある目を細め、かたわらの、おれのかばんを指差した。おれは震えながら差し出すと、取っ手と留め具が外れて、中身が御者台に散らばった。


 男は黙ってその中から、梅干しの入ったガラス瓶の容器を受け取り、その代わりに、ウマの背に乗せてあった袋を放ってよこした。袋の大きさと中に入っているものは、子供の死体と同じぐらいのように、おれには思えた。


「………と、このように、仮想世界の物語なんてのはいくらでもなるんだからね」と、ウマに乗った男たちが素早く立ち去ったあと、矢が刺さったままのマシューは言った。


 ウマから落ちた男は、ゆっくりと再びウマに乗ろうとしているところを、マシューは散弾銃で頭を狙って撃った。


「こういうのはとどめを刺すことが肝心なんだ」と、マシューは説明した。


     *


 あいつらなー、アンの中身が日本人だと知ると決まって襲いに来るんだよ、と、マシューは言った。菜食主義者で肉は食わないもんだから、ってんで、一度梅干しをもらったらどうやら病みつきになったらしいのね。


 おお、これは取れたてのイノシシの肉だ、と、マシューは、リーダーの男が残した袋を確認して喜んだ。


「なお、リーダーの息子も、アンたちと同じ学校に通ってるはずだ」


「あー、無口で力持ちで、バスケとかやってるタイプ?」とおれは聞いた。


「そんな設定はないし、そもそもこの話には出てこない」と、マシューは力強く断定した。


「えー? マイノリティを出すのって、テンプレじゃん。口から火を吹いて中華料理を作るダイアナとか、エラがついてて素潜りが得意な半魚人の黒人とか」


「それやっちゃうと石ノ森章太郎の『サイボーグ009』の設定パクリだけどね。多様性を意識すると、どうしてもテンプレかその逆のパターンしかうまく出せないのよ。数学が得意で、そっち方面で奨学金をもらった有色人種とか、ラップが得意な東洋人とか、ナチス・ハンターのドイツ人とかね」


「つまり、ディズニーアニメが嫌いなんだ」


「え、なにそれ、そんなものこの時代にはないよ」


 石ノ森章太郎原作の漫画・アニメはあっても、ディズニーアニメはない、って設定はおかしくないか。


     *


 なお、北米先住民の男に取られた梅干しは、例によって、くしゃくしゃになった衣類とかをかばんに押し込んで閉じると、きれいに整えられた服といっしょにかばんの中に収まっている。何度取られても大丈夫なのである。

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