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13話 アン・シャーリー、今風の言葉でしゃべる『赤毛のアン』を夢想する

 ぼくの家までは、ここからあと1600メートルほどだから、時速6.6キロメートルのウマの並足だと、15分ぐらいかな、と、マシューはおれに話しかけた。小説だと1時間で100ページ読めるとして、25ページぐらい。けっこうあるな。


「わざわざメートル法に直して言わなくてもいいんじゃないかな」と、おれは言った。


 そう言えば、さっき質問しかけてたことを思い出した。


「あのさあ……おれって、この世界に、シリーズの1冊目だけで4年間いないといけないの? そんなにいたら年取っちゃうよ」


 グリーン・ゲイブルズのアン・シャーリーの物語は、だいたいそのくらいの時間経過である。


「そうさのう、あっ、こんどはうまいこといいポイントで言えた、きみ、小説のほう読むにはどのくらい時間かかった?」


「子ども用のアブリッジ版で1時間ちょっとぐらいかな」


「それは早すぎるな。全部きちんと書いてある奴のほうは」


「それがねえ、「まあ」とか「○○だわ」っていう、アン・シャーリーその他の女子の女子語が気になりすぎて、全然読めないんよ。あれ、なんとかならないの」


「昔の翻訳だったら、そういうのあきらめるしかないんじゃないかな。ぼくだって、「わし」とか言ってるじゃん」


「じゃん、は、さすがにマシューが使う語としてはおかしいだろ。しかし、21世紀の翻訳でも「あら」とか女子、言ってたりするしね。たしかに、村岡花子の訳は、時代を感じさせるという意味では悪くないかもしれないけど」


「今風の言葉でしゃべる日本語の『赤毛のアン』を読みたければ、きみが訳せばいいんだYO!」


「DA・YO・NE!」とおれも言ってみた。これは20世紀末語である。


「比較的読みやすいのは、2011年にヴィレッジブックスから出てた林啓恵の訳かな。新刊書店では入手難だけど、ネット古書店価格はそんなに高くないし、近くの図書館でも置いてあるところあると思う」と、マシューは言った。


「そう! まさにそれ!」と、おれは喜んだ。


「あれかあ、普通に読めば1週間ぐらいかな。つまり、この仮想世界の「赤毛のアン・ワールド」のツアーも、実生活だと毎日2時間で1週間ぐらい。だらだら楽しんでも2週間ぐらいで終わるはずだよ。4年間ってことはないから、安心していいよ」


「だよねえ」


 おれは安心した。


 ツアーの代金からして、だいたいそんなもんだと思う。さすがに『赤毛のアン』の文庫本1冊よりは高いけど、文庫本10冊よりは安い。実際にリアルのプリンス・エドワード島へ1週間のツアーをするよりは、はるかに安い。女子高生であるおれの妹の小遣いでも、それに参考書代その他(いわゆる官費ですね)をごまかせば、なんとかなる程度だ。女子小学生でも大丈夫だろう。つまり、おれがこの世界で会う、物語の中の登場人物は、リアル世界では女子小学生から職業女子まで幅広い……ということはなくて。


 男子小学生から初老の爺さんまで幅広い。


 それでもいいか。


 ライトノベルのテキストだと、10万~15万字ぐらいとしよう。


 それを、作者は3か月ぐらいで書くんだよな。作者がいたら、の、話だけどね。


     *


「この世界の自由度って、けっこう高いんだよね」


「それはもちろん。なにしろ著作権フリーだから、ネット小説でやってはいけないこと以外は大丈夫だよ。どんとこいだよ」


 要するに、エロとか暴力とか、著作権ある人のテキストのパクリ(盗作)とかは、まあ駄目だろうな。


 おれ、じゃなくて、アン・シャーリーが陵辱されたり、残酷な殺人鬼だったり、村岡花子その他の訳文丸パクリはできない、という当たり前のことだ。


 たしかに、伯爵令嬢とか半魚人とかすでに出てきてるし。


 残照に浮かび上がった丘の上には、数頭のウマに乗った、数人のたくましい男がいた。そのうちのひとりは派手な羽飾りをしていて、全員上半身が裸で、日に焼けた肌(すこしゴルフ焼けっぽいけど、半裸でゴルフするヒトはいないだろう)、各人が弓矢その他飛び道具で武装している集団だった。


「野伏せり?」と、おれはマシューに聞いた。


「北米先住民の襲来だ!」と、マシューはあわてて、御者席の下から二挺の散弾銃を取り出し、ひとつをおれに渡した。


 昔(非ポリコレ)風に言うなら、インディアンだな。


「騎兵隊とかは助けに来てくれないのかな」


「この時代のこの島に、そんなものがいるわけないだろう」


 自由度の設定がフリーダムすぎる。


 疾風迅雷、その集団は雄叫びをあげながら丘を駆け下りて、おれたちのほうにやってきた。

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