49.貧乏から脱却して、めでたしめでたしよ!(途中からゼノン視点)
こうして丸く収まった私達が正式に婚約してから数ヵ月が経った。
あ、正式にというのは“私の中では”って意味よ。最初から、ちゃんと婚約していたのだから、正式も何もないのだけどね。
結婚自体は、私が誕生日を迎えて成人したら直ぐにすることになったわ。婚約は出来ても、結婚は先よ。とは言っても、あと数ヵ月のことだけどね。
ウィンター男爵家は一旦トラヴィス様預かりとなったわ。父が復帰するか、ヨシュアが継ぐと決めるまでスプリンガ侯爵家に入るそうよ。高位貴族が、いくつか爵位を持っているのは、こういうケースもあるのね。
弟妹達はスプリンガ侯爵家の養子になったわ。そう、トラヴィス様の養子に。
ということは私がトラヴィス様と結婚したら戸籍上、弟妹達は私の子どもになるのよね。私としては、弟妹達の母親な気持ちもあるから構わないのだけど、複雑な立場になってしまうのかしら?
まぁ、弟妹達は変わらず接してくれるでしょうけどね。
それよりも、男爵家の人間が侯爵家に入るのですから、反発があるのでは?と心配だったのよ。けれど弟妹達に能力があったお陰で、杞憂で終わったわ。
あの“音楽が得意な使用人”と“元絵画の家庭教師の使用人”は、その界隈で有名な人だったのよ。彼らが後ろ盾になってくれたのも大きいわね。
ヨシュアは優秀さ、ユアンは騎士としての素質、ユリアはバイオリンの才能、ヤトルは絵の才能、それが認められた形ね。才能ある下位貴族を上位貴族が養子に迎えることは、よくあることなのよ。だから問題ないみたいだわ。
あら、そう考えると私だけ何の才能もないわね。
むしろ私が、周囲から反発を受けるのでは?と思わず危惧してしまったわよ。けれど、それもまた杞憂で終わったわ。
あの年になっても浮いた話の一つもないトラヴィス様が、ついに婚約したと侯爵家の人達は大喜びだったの。だから、一先ずは安心よ。
あぁ、トラヴィス様にロリコン疑惑が浮上したと聞いたけど、それは些細なことよね。それよりも、これからトラヴィス様の婚約者として恥ずかしくないよう精進しなくては!
今日はね、数ヵ月後に控えた結婚式のためのウェディングドレスの仮縫いの日だったの。
そう、憧れのウェディングドレスよ! 純白のドレスを選んだわ!
いくらコスプレで色々な衣装を着たことがあるとは言っても、ウェディングドレスはないからね。楽しみで仕方ないわ。うふふっ。
その仮縫いも終わって、今はトラヴィス様と庭の散歩をしているわ。ここは私のための庭園なのですって!
侯爵家は、すごいわね。誰かのための庭を造ってしまうのだもの。この庭園は私の瞳の色に合わせてピンクの花が一年中、咲くように造ったのだそうよ。
バラはもちろんのこと、チューリップ、アネモネ、タチアオイ、コスモス、マーガレット、ラナンキュラス、ポピー、カーネーション、あと何だったかしら……花の勉強もするべきかもしれないわね。とにかく、とっても素敵なの!
今、とっても私は幸せよ。
これもトラヴィス様と出会ったお陰ね。愛するって素晴らしいことだと知ったわ!
こうして私は貧乏から脱却して、可愛い弟妹達の生活を守ることに成功したわ。当初の目的は果たしたわよ。
でもね、気になることがあるの。困っている女性達は、まだまだいるのよ。もう、お金の心配はいらないから稼ぐ必要はないのだけどね。お金のためではなく、女性達のために私が出来ることをしたいわ。
あ、私の好きなダリアよ!
私は大輪の花に向かって駆け出した。
******
「ゼノン君。今更ではあるのだが、君は良かったのかい? 私とアネットが結婚して」
「本当に今更だな」
チラリと俺を見るトラヴィスに、誰にも聞かれていないことを確かめてから呆れるように返した。
「安心しろよ。お嬢が望んでいるのなら、俺が反論することは何もねぇ」
「そうなのかい? てっきり君は、アネットのことが好きなのだと思っていたよ」
「俺のお嬢に対する気持ちは、そういうんじゃねぇよ」
トラヴィスは“では、どういう感情なのだ?”と言いたげな顔を俺に向けた。
「お嬢は俺の命の恩人だ」
「だから恩を返しているだけだと?」
「そうだ。それに、お嬢は面白いだろ? 見ていて飽きない」
このくだらない世界において、お嬢といると“つまんねぇ”なんて思う間もなく、退屈することがない。この腐った世の中も、お嬢と一緒なら悪くねぇって思える。
だから俺は、お嬢と一緒にいるんだよ。お嬢の傍にいると生きてるって感じがするんだ。
それに、お嬢は肝が据わってるからな。“怪我をした見知らぬ少年を助ける”なんてことは、ない話じゃない。
けど、その助けた少年が隣国のスパイだと分かっても、変わらず接するなんて普通は出来やしない。ましてや、予め察してメイクまで施しておくなんて。
本当に、お嬢は面白い。あんな汚い仕事をしていると、お嬢の尊さが際立つんだよ。だから、そのままのお嬢でいて欲しい。
「それを守りたいだけだ。俺は、お嬢に笑っていて欲しいんだよ。だからアンタといることで、お嬢の笑顔が増えるなら、むしろ歓迎するぜ」
俺はニヤッと口角を上げた。
なんたって、お嬢はトラヴィスと結婚するんだからな。そう、悪の組織を潰したトラヴィスと。
そんな正義感を持ったトラヴィスとお嬢が一緒になったら、どうなると思う?
今までなかった権力と後ろ盾を得たお嬢が、どう行動するのか。面白いことになるのは間違いないだろう? ハハッ、今から楽しみで仕方ねぇや。だけどな。
「だがアンタと結婚することで、お嬢の笑顔が減るというのなら話は別だ。お嬢の笑顔を曇らせるものは何であろうと排除する」
警告の意味を込めてトラヴィスに視線を投げる。
「その心配は無用だ。私もアネットの笑顔を守りたい側の一人だからね。そういう意味では、君と私は仲間だと言える。どうだろう、これからは私達が協力し合ってアネットを守るというのは」
俺はハッと鼻で笑う。
アンタに守れるのかねぇ、お嬢のことを。
「だがまぁ、それも悪くねぇな」
まぁ、物理的な方は俺が、精神面はトラヴィスに任せたらいいのかもしれねぇ。役割分担ってやつだ。
俺達は、お嬢に視線を向けた。満開の花に囲まれたお嬢は、その花達に負けないぐらいの満面の笑みを浮かべながら駆けて来る。
「アネットの笑顔を絶やさないと誓おう。彼女を絶対に幸せにすると約束するよ」
「二言は許さねぇぜ」
決意表明のように告げたトラヴィスは、お嬢へと足を向けた。お嬢は一寸の躊躇いもなく、トラヴィスの胸に飛び込む。トラヴィスもまた、戸惑うことなくお嬢を抱き止める。
あのサバラン事件以来、お嬢はトラヴィスに対して素直に好意を示すようになった。
(お似合いだと思うぜ)
俺の決意は、お嬢が結婚しても変わらねぇ。生涯を懸けて、お嬢を見守り、そして守る。それだけだ。それには、まず―――
「また侯爵邸の警備を見直さなきゃだな」
見上げた空は雲一つなく澄み渡り、鮮やかな青が無限に広がっている。それは、まるでお嬢の将来を示しているかのように。
はい、最終話です!ここまでお読みいただき、ありがとうございました(_ _)ペコリ
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実はテーマを考えついたと同時に、一気に書き上げたんですよね。
(その所為でタイトルがハッキリ決められずグダグダしてしまいましたが…)
皆様、良いものを題材にして書かれているじゃないですか。ゲームとかネイルとか色々。
私には、そう言った深い知識のものがない。でも何かないかなーと考えた時、コスプレが思い浮かんだんです。そうしたらスルスルと話が湧いてきまして。このテンションのまま書かないと、絶対最後まで書けない!という謎の確信から、一気に書いてました(*^^)
時間が足りなくて、一日が30時間あればいいのに!と何度思ったことか(笑
ところで…ここまできて、ふと思ったんですけど、これ、ラブコメだったのでしょうか?
自分では、そこまでコメディではないと思うのですが…どうでしょう?




