40.侯爵家に来てから初めての外出ですわね
「う~ん」
ある日。屋敷内を歩いていると、眉間に皺を寄せたトラヴィス様が唸りながらサロンでお茶をしていた。
硬い表情をしているのに、いつもの如くキラキラしているわ。もはや、あの輝きはトラヴィス様の隠せない特徴なのね。
トラヴィス様の後ろに控えるトーマを見たら、私に気付いてコクリと頷く。入っても良いという合図なので、私はサロンに足を踏み入れた。
「どうなさったのですか、トラヴィス様」
「あぁ、アネットか。実は茶会の招待状が届いてね」
言いながらトラヴィス様が座るように促してくるので、私はソファに腰かける。すぐさまトーマが私の分の紅茶を出してくれた。
「昔馴染みのツークエ伯爵が、ささやかな茶会を開くと言うのだが」
「? 何か懸念することがあるのですか?」
「う~ん。それが、アネットを連れてくるようにと書かれていてね」
「私ですか?」
私はツークエ伯爵と面識はないのだけどね? 何か私に用があるのかしら?
「あぁ。私が婚約したと知って、どんな令嬢か会ってみたいと思ったのだろう」
「私で良ければ、お供しますわよ?」
「しかしなぁ、う~ん」
渋っているトラヴィス様。
私を連れて行くと、何か不都合があるのかしら? あっ、分かったわ!
「私のマナーが、まだまだ未熟で申し訳ありません。私を連れて行ったら、トラヴィス様が恥を掻くことになってしまいますわね」
侯爵家に来てから、私はマナーについて侍女に教わっているわ。彼女は、良く出来ていると言ってくれるのだけど、まだまだ足りないと思うのよね。それでトラヴィス様は私を外に出したくないのよ、きっと。
「え? いや、違う。アネットのマナーは、ちゃんと出来ているから安心しなさい。どこ出しても恥ずかしくはないから」
あら、違ったの? まぁ、トラヴィス様が『ちゃんと出来ている』と言うのなら、大丈夫なのでしょうね。
「そうなのですか? でも、それなら何故?」
「まだコワルスキーが捕まっていないからね。君を外には出したくないんだよ」
もしかして!
この屋敷に来てから3週間以上経ったけど、一度も侯爵邸の外に出たことがないのはコワルスキー元伯爵を危険視してのことなの?
まぁそうか、そうよね。私はトラヴィス様の弱点ですもの。私に何かあったら、トラヴィス様が困るわ。
でも、ゼノンがいれば大丈夫だと思うのよ。何てったって、某国の元諜報員ですからね!
「ゼノンがいれば大丈夫だと思いますわよ?」
「それは、そうだが」
「そもそも、コワスルキー元伯爵は既に国外へ逃亡しているのではないですか? 捜索されていると分かっていて、この国に留まっている理由なんてないでしょう?」
「それが国外に出た形跡がないんだ。まだ国内に潜伏しているのだろう」
「そうなのですか? でも、何の目的で国内に?」
「恐らくは、私だろうな」
「トライヴィス様ですか?」
「私の周辺を探っていた事からも分かるが、コワルスキーは復讐がしたいのだろう」
そんな、くだらない事のために国内に留まっているの?
脱獄したのなら、さっさと逃亡すればいいのに。命より復讐の方が大事なのかしらね? 悪党の考えることは、よく分からないわ。
トラヴィス様は暫く悩んでいたけど、ゼノンがいれば私の身の安全は確保されると考えたようで、お茶会へ私を伴って参加することに決めた。
******
さて、お茶会当日よ!
この日のために新しいドレスをトラヴィス様が用意させようとするのを全力で阻止した私は偉いと思わない?
そう、あのトラヴィス様を止められたのよ! 快挙だと思うわ。
トラヴィス様からは、すでに沢山のドレスを頂きましたからね。今日は一緒に街へ出掛けた時に買っていただいた水色のドレスを身に纏っているわ。これは侍女が選んだのだけどね。トラヴィス様と並んで気づいたわ。
これ、トラヴィス様の髪の色と同じよ。侍女に、やられた感が否めないわね!
ゼノンとトーマの御する馬車は、順調にツークエ伯爵家に着いた。そこで一つ、問題が起きたのだ。
「例え侯爵様の使用人でしても、平民の立ち入りは御遠慮いただいておりまして」
ツークエ伯爵家の執事が、そう告げたのである。
この場合の平民とはゼノンのことよ。
実はトーマは伯爵家の三男なのですって。
それにしても、この執事は一見しただけで、よくゼノンが平民だと分かったわね? 侯爵家に住むようになってから、ゼノンはトーマと同じ執事服を着ているのだけど。
そうよ、男爵家とは比べものにならないぐらい上質な執事服よ。さすが侯爵家ね。使用人の衣服のランクも高いわ。
それはさておき。ゼノンは私の護衛でもあるから一緒にいてもらいたいのだけど、お茶会の主催者側が禁止しているのなら従わなくてはならないわ。
どうしたものかと私はトラヴィス様に視線を送る。トラヴィス様も反論しようと口を開くが、それをゼノンが遮った。
「では馬車で、お待ちしております」
あっさりと下がるゼノンに、私は近づく。
こういう身分どうこう言われるの、私は好きではないわ。平民だろうが、貴族だろうが、同じ人間ではないの?
前世での教育が生きている所為か、無性に腹立たしくなってしまうのよね。でも当のゼノンは気にする素振りは一切なく、私の身を心配していたわ。
「お嬢様。どうか、お気をつけて」
そんな風に言われたら、私の怒りなんて吹き飛んでしまうわね。
「大丈夫よ。トラヴィス様もトーマもいるから。それに、いざとなれば笛を吹くわ」
胸元に隠している笛に服の上から手を当てると、ゼノンはコクリと頷いた。そこにトラヴィス様も加わる。
「ゼノン君。何かあれば、遠慮なく屋敷内に立ち入るように。咎は私が払い退けるから、心配はいらない」
「承知致しました」
執事の礼をするゼノンと馬車を残して、私達は茶会の会場へと向かった。
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