37.へぇ、婚約ね? 誰と誰が?
二つ案があると言われたのだから、もう一つの方も聞いてみましょう。もしかしたら、屋敷を壊すよりはマシな案かもしれないわ。
「ちなみに、もう一つの案は、どのようなものなのですか?」
「あぁ、もう一つは婚約する」
「婚約? 誰と誰がですの?」
「アネット嬢と私だ」
「私とトラヴィス様が? 婚約?」
へぇ、婚約ねぇ?
…………はぁぁぁぁ?!?!?!
何を言っているのかしら、この人は!!!
ワンテンポ遅れて情報を処理した私の思考は混乱をきたした。
「一体、どうして婚約だなんて話になるのですか?!」
「婚約者の家の内情を知って、不自由がないようにと君達を侯爵家に迎えいれる。何も違和感はない話だろう?」
「違和感だらけですわ!!!」
本気?
本気なのですの?
一体どこに、屋敷へ避難させる口実に婚約する人がいるというのですか!
「トラヴィス様と私は17才も年の差があるのですよ」
「貴族同士の結婚ならば、そのぐらいの年齢差は普通だと思うが」
「それは、そうでしたわ」
くっ、突拍子もない話に頭がついて行っていない所為で、ツッコミどころを間違えましたわ!
「あぁ、一回り以上も年が離れている私は、オジサンにしか見えなくて嫌かな?」
「オ、オジサン?」
トラヴィス様の自虐的な発言に、私はポカンと目を丸くした。
また何を仰っているの、この人は! トラヴィス様のような若々しい人をオジサンと言ったら、世のオジサン達は何と呼べばいいのかしらね? そこら辺にいる真のオジサン達に失礼ですわよ、トラヴィス様!
「トラヴィス様はオジサンではないでしょう。イケメンで若く見えるのですから」
「ハハハッ。君にイケメンと言われると嬉しいね。そう思うアネット嬢にとって、この容姿は好ましいということかな? だとしたら、この顔に生まれてきて良かったよ」
大層、愉快そうにしているトラヴィス様。
違う、そうじゃないですわ!
そういう問題ではなくてですね!
今度はツッコミを間違えませんわよ。
「そもそも、家格が違い過ぎますわ。トラヴィス様は上位貴族の侯爵様、うちは貴族の中でも底辺の貧・乏・男・爵・家ですのよ!」
「あぁ、家格か。まぁ、それは何とでもなる。問題ない」
自信たっぷりに言われても、問題だらけですわよ! あぁ、もう! この人は本当に何とかしそうだから怖いわ!
「マナーや教育などの違いはあるが、アネット嬢なら直ぐ身に付けられるだろう。伯爵令嬢になりきっている時なんて、まさに伯爵令嬢そのものだったから心配ない。君の変装の完成度の高さには一目置いているよ」
ひょんな方向から褒められてしまいましたわ。
まぁ、そうですわね。大抵、依頼されるのは伯爵家の令嬢が多かったですから、家格が合うように私も伯爵令嬢に扮していましたわ。だから、バレないようにと所作やマナーも覚えましたのよ。
「それに君の弟妹達も早くから侯爵家で暮らして、上位貴族のマナーに慣れた方が良いのではないかな?」
弟妹達……そうよ!
「私が婚約したら、弟妹達はどうなるのですか?」
「そのまま連れて来てくれて構わないが、身分を確立するためにも全員を養子に迎えようと思っている」
「養子に?」
「そうだ。特にヨシュア君は賢いからね。君と私の間に子が生せなければ、ヨシュア君を跡継ぎにしたいと思っているよ」
「えぇ?!」
えっ、トラヴィス様は、そこまで考えているの?
ヨシュアがスプリンガ侯爵家の跡取りに? それは悪くないような……いえ、ヨシュアの意思が大事よ! ヨシュアは、この家を継ぐと思っているのだから。
「もちろんヨシュア君が望むなら、ウィンター男爵家を継げばいい。決めるのは彼が成人してからでいいのではないかな? それまでウィンター男爵家は私が預かろう」
そうよね、まだ早い話よね。あれ、何の話をしていたのだっけ? 論点がズレ始めているような。そうそう、婚約の話だったわ。ん、待って。そう、成人よ!
「あの、トラヴィス様。私は、まだ成人しておりませんので婚約は早いのでは」
「? 未成年のうちから婚約するのは普通ではないかな?」
つい前世の感覚で言ってしまいましたわ。愚問でしたわよ、私!
トラヴィス様の話が突飛すぎて、脳内の混乱が収まっていないわ。
「うっ、そうでしたわ……」
「まぁ、婚約するには保護者の同意が必要になるね」
そうそう、それですわ!
保護者の同意が……保護者って父よね? 同意とか取れる状態ではないわよ。これで一先ず、婚約の件はナシになるわね。ホッとしたわ。
「君達の場合、保護者は父君だった」
ん?
『だった』?
「しかし現在、父君は施設にいて保護者になれない。厳密に言えば、保護者の権利を剥奪されている状態だ」
えっ、そうなのですか? では、私達の保護者は一体?
「そのため、私が後継人になっている。つまり君達の保護者は私だ」
「えっ」
初耳なのですけど?! えっ、それって、つまり―――
「だから君の婚約は、私が手続き出来るというわけだ。これで気掛かりは解決したかな? では早速、婚約手続きを」
「えぇっ! ま、待ってください!」
「まだ何かあるのかい?」
何かって、まだ何にも解決していないような?
というか何故、婚約する方向で話が進んでいるのですか!
「私と婚約すれば、君の大切な弟妹達の生活も将来も安泰だよ」
「!!」
「それは君が一番に望んでいることではないのかな?」
そうよ、そうよ。
私の一番の願いは弟妹達の幸せよ。
トラヴィス様と婚約すれば、あの子達の生活は豊かになって、好きなことを自由に出来るわ。
あら、断る理由がないわね?
もしかして、これは千載一遇のチャンスなのではないかしら。私一人の力では四人の弟妹達を幸せにすることは難しいわ。でも、トラヴィス様の力を借りれば可能よ。
都合よく甘え過ぎかもしれないけど、日頃からゼノンもマーサも“もっと人を頼るように”と言っていたから良いのよね?
トラヴィス様がここまでしてくれる理由は分からないけど、提案してくれたのだから頼っても良いのよね?
「アネット嬢だけではなく、君の弟妹達も幸せにすると誓おう。だから、どうだろうか。私と結婚してくれないか?」
これは、まるでプロポーズ!
ちょっと、ドキッとしてしまったではないの!
どうしてトラヴィス様は、そこまでしてくれるの? あまりにも不憫だと同情されているのかしら。まぁ、それでもいいわ。私の願いが叶うのだもの。
私はコクリと頷いた。
「ありがとう。早速、手続きをしよう。では、今日中に私の屋敷に移り住むように。いいね」
「はい? 今日中ですか?」
「あぁ、いつコワルスキー元伯爵の手下が襲ってくるか分からないからね。荷物は後々に運び出せばいい。必要な物は揃えてあるから心配いらないよ。その身一つで来てくれたらいい」
何だかトラヴィス様の狙い通りに話が進んでいるように感じるのは気の所為かしら?
途中から論点が迷走していたような気がするのだけど。まぁ、今はこうするしかないわね。トラヴィス様に任せておけば大丈夫よ、きっと。
私の味方で、我が家のことを考えてくれるゼノンだって止めなかったのだもの。きっと、これが最善なのだわ。
こうして玄関先で立ち話を続けた結果、偵察されてから数時間後には弟妹達と共に侯爵邸へと足を踏み入れることになったのであった。
仕方ないじゃない。話がトントン進んで途切れなかったのだもの。応接室に案内する間もなかったわ。
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