35.元諜報員の実力
弟妹達が居間に戻った後、私は自室でゼノンから報告を受けた。
「それで、どうだったの?」
「やっぱり目的は偵察だな。特に動きもなく、こちらを窺っているだけだった。暫くしたら去って行ったぜ」
そう、もう危険は去ったのね。
特に危害を加えられることもなく済んで良かったわ。
心底ホッとしたところで、疑問が浮かんだ。
「それにしても何故、我が家を偵察したのかしら? もしかして、私が関わっていると知って?」
「それはないだろうな。知っていたら偵察の後、すぐに仕掛けてくるか、監視に誰か残すはずだ」
確かにゼノンの言う通りだわ。
私の所為で証拠を掴まれたと知られたのだったら、既に何かしら行動に移しているはず。捕まえるとか、下手したら傷つけるとか報復されているところよね。
その下調べだったとしても、誰一人残すことなく立ち去るわけないわ。
監視はしておきたいはずだもの。
でも、そうすると謎は深まるのよ。
「それじゃあ、何故ここに?」
「トラヴィスの隙を探しているんだろう」
「トラヴィス様の隙?」
「あぁ、付け入る隙だ。恐らくだが、アイツらはトラヴィスに関わった人間すべてを調べているんだろう。そこからトラヴィスの弱点を見つけようってわけだ」
あぁ、なるほど。
トラヴィス様を脅すとか、従わせるネタを掴もうってわけね!
「でも、私なんかトラヴィス様の弱点にならないでしょうに」
「何言ってんだ、お嬢。お嬢はトラヴィスの弱点だろう」
「えっ?! 何故! どうして!」
「分っかんねぇか~。まぁ、仕方ねぇな。お嬢だもんな」
盛大に溜息を吐いて、一人で自己完結しているゼノン。
しかも何気に私のことを馬鹿にしてない?
勝手に納得しないで、教えなさいよ!
どういうことなの?
何故、私がトラヴィス様の弱点になるのよ!
「まぁ、理由は追々分かるだろうから聞いてくれるな。俺の口から言うわけにはいかねぇんだよ」
訳知り顔のゼノンに私は納得がいかず、ジトッと視線を送った。
けれど、ゼノンは気にする素振りもなく話を続ける。
「とにかくだ。アイツらには知られていないだろうが、お嬢はトラヴィスの弱点になりえる。だから注意しなくちゃならねぇ。下手すりゃ、お嬢は拉致られるからな」
「!!」
それって、もしかして!
今度は私がターナー夫人ってこと?!
どどど、どうしましょう。
弟妹達が巻き込まれたら大変よ!
いえ、もう既に巻き込まれているのでは?!
「どうしましょう、弟妹達は大丈夫かしら?!」
「そこなんだよな。トラヴィスの隙は、お嬢。お嬢の隙は、弟妹達。お嬢一人なら、いくらでも守れるが……弟妹達も含めるとなると、ちっと手が足りねぇ」
そうよね、そうよね。
たとえ元諜報員でも、流石のゼノンでも難しいわよね。
どうしましょう、どうしましょう。
とっても、とってもマズイわ!
「とりあえず、このことをトラヴィス様に知らせなくてはね。手紙を書くわ!」
こうなったら、トラヴィス様に判断を仰ぐしかないわ。
あぁ、連絡手段に手紙しかないなんて! 時間がかかるじゃないの。こういう時にスマホがあれば! すぐ連絡が出来るのに! 前世の文明の利器が恋しいわ!
なんて思っている時間すらも惜しいわ。
「ゼノン、すぐトラヴィス様に届けて……あ、ゼノンが御遣いに行ったら護衛がいなくなってしまうわ。どうしましょう。私が行く?」
「お嬢、落ち着いてくれ。狙われるかもしれないお嬢が外に出てどうする」
「あ、そうよね。えっと、どうしましょう?」
「心配しなくても、トラヴィスには伝わっているはずだ」
「えっ、どうして?」
「この屋敷には、トラヴィスの護衛が2人付いているからな」
「はい? え、護衛は断ったわよね?」
「あぁ。下手に護衛が付いたら目立つから、やめてくれとトーマにも伝えた」
「じゃあ、どうして」
「だから、目立たないように付けたみたいだな」
目立たないようにって、どういうこと?
「この屋敷を見守れるように、裏と斜向かいの建物に部屋を手配したみたいだ」
「なっ! それなら何故、トラヴィス様は教えてくれてないの?」
「断られたから、内密にしたかったんだろう」
「でも、ゼノンは知らされていたのでしょう? 私にも教えてくれたらいいじゃないの」
そんな重要なことを隠すなんて、ゼノンは誰の味方なの?!
「いや知らされてはいない。トラヴィスの屋敷で感じたのと同じ気配が、こちらをずっと窺っているから気づいただけだ」
はい???
気配だけで分かったの?
そういえば、さっきもワコルスキー伯爵の屋敷にいた見張りの気配と言っていたわね。
「悪意は感じなかったから、護衛なんだろうなーと思って放置してた」
「ゼノン」
私は俯き加減で、静かに名前を呼んだ。
「なんだ?」
「貴方って、本当に凄いのね!」
顔を上げた私は羨望の眼差しを向ける。
「どうした? 急に」
「気配だけで分かってしまうだなんて凄いわ。しかも、それを記憶しているってことでしょう? とんでもない特技ね」
「ハハッ、もっと褒めてくれていいんだぜ?」
「凄いわ、凄いわ! ゼノンは凄いわ!」
茶化した様子で口角を上げるゼノンに、私の焦燥は消えていった。
焦る私を落ち着かせようとしてくれたのね。
本当にゼノンは凄いわ。
「まぁ、今頃トラヴィスが報告を受けているだろうから、そのうち手紙が届くだろうよ」
「そうね。まずは、それを待ちましょう」
なんて話した1時間後、まさかの事態になったわ。
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