33.穏やかな休日に届いたトラヴィスからの的確な贈物
翌日、居間に行くと弟妹達が遊んでいた。
あぁ、今日も弟妹達が可愛いわ!
弟妹達は私に気付いて駆けて来る。
「お姉様。今日も、お家にいるの?」
「えぇ、そうよ」
「最近、姉様が一緒だから、僕とっても嬉しい!」
ユリアの問いに答えたら、隣にいたユアンがパァッと顔を明るくした。
「そしたら、お姉様に本を読んで欲しいの!」
「あ、ユリアずるい! 僕とオセロしようよ、姉様」
ユリアとユアンが言い合う中、ヤトルは私の足に抱きつき、ヨシュアは何か言いたげにしながら一歩後ろに立っていた。
「順番よ。まずは、ユリアの本から読みましょう。本だから皆でね」
「「は~い」」
皆で床に座って、ユリアが持って来た本を朗読する。ヤトルは、ちゃっかりと私の膝の上に座っていた。
本当に可愛い弟妹達だわ。私が外に出ることで、寂しい思いをさせてしまっていたのね。お金は必要だけど、仕事を減らして弟妹達との時間を作るべきかもしれないわ。
“今”という時間は、後から取り戻せないのだもの。
皆、静かに耳を傾けている。ゆったりと時間が流れて、本を読み終わった。読んでいる間に眠ったしまったヤトルをマーサに預けて、今度はオセロを始める。
ヤトルにオセロは、まだ早いから丁度よかったわね。
手加減をしつつ、ユアンだけではなく、ユリアとヨシュアとも対戦する。皆でワイワイと盛り上がった。
「さぁ、次はヨシュアの番よ。何がしたい?」
「えっ、僕もお願いしていいのですか?」
「もちろんよ。言ったでしょう、順番だと」
弟妹達の手前、遠慮していたヨシュアは目を輝かせた。
「ありがとうございます、姉上。僕はチェスがしたいです」
「いいけど、私は弱いからヨシュアの相手として不足ではないかしら? ゼノンなら」
「僕は姉上と、その、遊びたいのです」
食い気味に私の言葉を遮ったヨシュアは段々と俯き加減になる。
「ふふふっ、分かったわ。持ってらっしゃい」
「はい!」
顔を上げたヨシュアは、嬉々としてチェスセットを取りに行った。
ヨシュアにも我慢させてばかりよね、きっと。もっと自由にさせてあげたい。どうにか叶えたいわ。
戻ってきたヨシュアとチェスの対戦が始まった。
実は私はオセロが得意だけど、チェスは全然ダメなのよ。そもそもルールの把握から、ちょっとね。だから横からゼノンに補足してもらっているわ。
え、ズルじゃないかって? 大丈夫よ、ただ駒の動きやルールを教えてもらっているだけで、指し方のアドバイスをもらうわけではないからね。それにね、ほら。
「ヨシュアの勝ちね」
「姉上、もう一戦お願いします」
「いいわよ」
私がヨシュアに勝てるわけないのよ。ゼノンならヨシュアと対等に戦えるのだけどね。むしろ、ゼノンの方がヨシュアより強いわ。
そう考えると、ゼノンって凄いわね。実際の戦闘もゲームも強いのだから。
「あー、お兄様ばっかりズルイ!」
「僕達、チェス出来ないのにー!」
双子からブーイングが出た。
そうよね、まだ二人にはチェスは難しいものね。
「それなら二人も覚えたらいいじゃないか。まず、これはポーンで」
ヨシュアが二人に駒の役割を説明し始めた。
これは私も聞いておくべきね。ほうほう、この塔の形をしているのはルークで、縦と横に動けると。これを覚えていられたら苦労しないのよねぇ。
ヨシュアのチェス講義が終わった時、ヤトルが目をこすりながら起きる。と、同時に誰かが屋敷を訪ねてきた。すぐさまゼノンがエントランスへと向かう。誰かしら?と思っている間に、ゼノンが沢山の箱を抱えて戻ってきた。
「ゼノン、それは? というか、誰だったの?」
「トラヴィス様から遣いの方でした」
「トラヴィス様の?」
「はい。こちらは、お嬢様宛のものです。先日、トラヴィス様から贈られたドレスが直されたものです」
あ、そういえば屋敷にあるのが全部ではなかったわね。サイズ調整が必要なドレスは仕立て直して、我が家に届ける手筈になっていたわ。
ゼノンが開けた箱の中を見て、歓声を上げたのはユリアだった。
「わぁ~、綺麗~! ねぇ、お姉様。着て見せて!」
「えっ」
「僕も見たいです」
「僕も! 着たところ見たい!」
私の戸惑う声に、ヨシュアとユアンが続く。
どうしましょう。
この流れはファッションショーになる予感よ。
あの時の疲労を思い出して、私は身体が重くなる気がした。
なんとか回避できないかしら?
あ、そうだわ。
「着るのは今度ね。少し合わせて見せる分にはいいわよ」
誤魔化そうとしたら、言い終わらない内にマーサがサッとドレスを合わせてくれた。
仕事が早いわよ、マーサ。
「まぁ、これはこれは! 美しいですよ、お嬢様」
「本当だ~。お姉様、お姫様みたい!」
「姉様、綺麗!」
「とても似合っています、姉上」
「ねぇさま、きれー」
マーサの感想にユリア、ユアン、ヨシュア、ヤトルがキラキラと私に視線を向ける。
「ありがとう」
にこやかに答えたところで、私はゼノンに耳打ちする。
「ところでゼノン、他の箱は……まさか、全部ドレスではないわよね?」
あの時、直しに残した量にしては多すぎるわ。
「あぁ、こちらはヨシュア坊ちゃんにです」
「えっ、僕に?」
「はい」
ゼノンから箱を受け取ったヨシュアは、すぐに包みを解くと箱を開ける。
「これは!」
「学園入学前に、お読みになっておくと良いそうですよ」
それは参考書とノートとペンなど勉強道具一式だった。
来年、学園に入学予定と言ったから、トラヴィス様は贈ってくださったの?
「こちらはユアン坊ちゃんにです」
「僕にも?」
ゼノンは目録を見ながら、ユアンに箱を渡した。ユアンは興味津々で箱を開ける。
「わっ、すごい!」
「これは外側がゴムで加工してあるので、怪我なく鍛錬が出来るようにとのことです」
それは木にゴムが厚めにコーティングされた剣だった。
もしかして、ユアンが騎士に興味があると言ったから?
「それから、こちらはユリアお嬢様にです」
「私にも?!」
大きめの包みをユリアが開く。その中身をゼノンが手早く組み立てた。
「これ、ピアノだ!」
「まずは子供用で試してみてはどうだろうかと書いてありますね」
それは小さくて3オクターブしかないが、それでも立派なピアノだった。ちゃんと楽譜もある。
ユリアが音楽に興味があると私が言ったから、トラヴィス様はピアノを?
「そして、こちらがヤトル坊ちゃんにです」
「ぼく?」
ゼノンに手伝ってもらいながら、ヤトルが箱を開ける。中に入っていたのは、お絵かきセットだった。
幼いヤトルにはピッタリの物だわ。トラヴィス様のチョイスは的確ね! 贈物のセンスがハンパなく良いわよ!
「わ~い! ぼく、おえかきしゅる~」
「では椅子に座りましょうね」
マーサに連れられて、早速ヤトルは絵を描き始めた。
「姉上。僕、これで勉強します!」
「えぇ、頑張ってね」
「はい!」
ヨシュアは意気揚々と机に向かった。
「ゼノン、素振りを教えて!」
「かしこまりました」
うずうずしていたユアンは、ゼノンを伴って駆けて行った。
「お姉様、お姉様はピアノ弾ける? 私、楽譜も読めないの」
「少しなら弾けるわ。譜面も、これは簡単だから読めるわね。私が教えてあげるから安心して」
「やった~!」
しょんぼりとしていたユリアの顔はパッと明るくなる。
良かったわ、前世で音楽の授業があって。少しならピアノも弾けるし、楽譜も前世の物と変わらないから読めるわ。義務教育の勝利ね。
弟妹達はトラヴィス様からの素敵な贈物に夢中だわ。トラヴィス様は本当に優しい方ね。
私は弟妹達が大喜びしたこと、感謝の言葉を丁寧に丁寧にしたためた手紙をトラヴィス様に書いた。
弟妹達を抱き込めばいいと気付いたトラヴィスによる贈物攻撃です(笑




