27.ドレスの次は、お察しよね……
次に馬車が着いたのは、バッグや靴、帽子やショールを扱う服飾品店だった。
先程と同様、高級店よ。何となく、この後の展開が想像できたわ。私の優秀な頭脳がピンときたわよ!
トラヴィス様は私をエスコートして、店の奥へと進む。入ったのは個室だった。
ほら、やっぱり。別に優秀でなくとも分かる展開よね。ここは先程と変わらない広い個室よ。きっと、ここでドレスに合う品を選ぶのでしょうね?
「これに合う品を頼むよ」
私の隣に座るトラヴィス様が声を掛けると、トーマが数枚の紙を店員に渡した。
それを受け取った店員は一旦、部屋から出て行く。
あれ、もしかしてドレスのデザイン画ではないかしら?
チラリと見えたイラストから私が察していると店員が戻ってきた。
それも複数人。ぞろぞろと箱を抱えて入ってくる。
ま、まさか……あれ全部、服飾品?
気が遠くなっていく私を無視して始まる試着大会。手元にあるドレスに着替えて、バッグや靴を合わせていく。手元にないドレスに合わせる服飾品は、デザインとサイズだけを確認していった。
ドレスに合わせて数種類のバックや靴が用意され、試着した私を見たトラヴィス様が「いいね」とか「他には?」とか店員と話を進めていく。
私は欲しいとか、気に入ったとか言ってはいないのですけどね?
完全に蚊帳の外よ。
言われるがままに試着していた私は、着てきたドレスに袖を通す。
最後は、このドレスに合わせた靴に履き替えて終わりだ。
「よく似合っているよ」
「ありがとうございます、トラヴィス様」
やっと終わったようね。
思わず、ふぅと息を吐くとトラヴィス様がお茶を勧めてきた。先程と同じように、トラヴィス様の前のテーブルにはティーセットが並んでいる。私は座るとティーカップに口を付けた。
あぁ、生き返るわ。一体、何回着替えたのかしら。
こんなに一日に何度も着替えたのは初めてよ。疲れたわ。
「では次に行こうか」
私が紅茶を飲み終わると、トラヴィス様は立ちあがった。
もう何となく察しているわ。
あれ、全部買う気なのよね?
トラヴィス様が「いいね」と言った物は箱に収められて、ゼノンとトーマが抱え始めている。
「トラヴィス様、あれは」
「あぁ、これもお詫びの品だよ。受け取ってくれるかな?」
「も、もちろんですわ。ありがとうございます」
僅かに顔を引き攣らせながら、お礼を言うとトラヴィス様は不思議そうにしていた。
先程トラヴィス様は『次に行こう』と仰ったわね。何となく嫌な予感がするのだけど。気のせいだと思いたいわ!
******
馬車が止まったのは、高級宝飾品店の前だった。
あぁ、外れて欲しかった予感が見事に的中してしまったわ。そうよね。ドレス、バッグ、靴ときたら、次はアクセサリーよね。もう逃げ出したいわ。
私は頭痛がする蟀谷を押さえたくなるのを耐えながら、トラヴィス様と共に入店した。先程と同様に個室に入って、並んでソファに座る。トーマが渡したデザイン画を元に、お勧めのアクセサリーが所狭しと並べられた。
それが次々と私の首に、耳に、髪に当てられていく。トラヴィス様は服飾品店の時と同様に「これは、いいね」「あちらは、どうだろうか」と選ぶついでに、宝石の説明も聞いていた。
はわわぁぁっ、私は聞きたくないわ~~~!!!
ターナー夫人の一件で宝石の勉強をした私には、その価値が分かってしまうのよ。なまじ知っているだけに値段が想像できて、白目を剥きそうなのだけど……まさか、得た知識が仇になる日が来ようとは。
あぁ、トラヴィス様。お願いですから、その宝石は選ばないでくださいませ。その宝石の希少価値、お分かりですか? とんでもない値段なのですよ? あ、そっちの宝石は脆いですわ。壊れやすいので、やめてくださいませ。ちょっ、それは! その宝石だけは、ご勘弁を! トラヴィス様、お願いです。私、そんな高価な物をつけて歩けませんわ。落としたり傷つけたりしたら、私の心臓は止まってしまいますわよ! 後生ですから! せめて、そっちの量産されている比較的高価ではない方を選んでくださいませ!
口を出す隙が無いので、心の声を目で訴えてみたのだけどね。
微塵の欠片も効果がありませんでしたわ。
アクセサリーを合わせる度に私の顔を見るのに、何故トラヴィス様は心情に気付いてくださらないのですか! 顔色、私の顔色を見てくださいませ!
私が顔を青くして、眩暈を覚える中―――
薔薇色のドレスに合わせて、ルビー(これは説明するまでもないわね)
薄紅色のドレスに合わせて、モルガナイト(上流階級で人気よ。特に、この色は珍しいはずだわ)
深碧色のドレスに合わせて、パライバトルマリン(この鮮やかな色味は、とっても希少よ)
萌黄色のドレスに合わせて、アンブリゴナイト(硬度の低いから加工が難しく、幻と言われる希少石よ)
瑠璃色のドレスに合わせて、アウナイト(とてもカットが難しくて、滅多に市場に出回らない希少石よ)
空色のドレスに合わせて、ブルーダイヤモンド(ダイヤモンドの結晶が青くなるのは1億分の1の確率だと言ったら希少性が伝わるかしら)
金糸雀色のドレスに合わせて、スフィレライト(希少石で、特にこの黄色は珍しいのよ)
琥珀色のドレスに合わせて、ファイアオパール(このように遊色効果があって、色が濃いのは価値が高いのよ)
藤紫色のドレスに合わせて、タンザナイト(今は産出量が少なくて、希少になっているわ)
薄藤色のドレスに合わせて、ベニトアイト(ダイヤモンドより分散率が高い希少石よ)
―――と、希少性が高い宝石(=高額)ばかり選ばれてしまいましたわよ。
時々どちらが良いか聞かれたのだけれど、安い方を選んだら悉く却下されたわ。
それなら聞かないでくださいませ! まったく、もう!
結局、希少石ばかりだわ。私はターナー夫人ではないのだから、ペリドットとかアクアマリンとか一般的な石の方が安心して使えますのよ!
あぁ、この桜色のドレスにはシャンパンガーネットがチョイスされましたわよ。
桜の花のように綺麗な色合いだから、とっても素敵なのだけどね。
採掘地が限られる、とても希少なガーネットなのよ。
それが今、私の首と耳と髪に!
まぁ、他の希少石に比べれば低価格と言ってもいいから、まだマシね。貧乏男爵令嬢からしたら高価すぎるけど、マシったらマシよ! そう思わなくては、平常心を保っていられないわ!!
全身コーディネートが完成した私を見たトラヴィス様はホクホク顔だった。既にトラヴィス様が選んだアクセサリー達は箱に詰められ、ゼノンとトーマが手にしている。
「あの、トラヴィス様。さすがに高価すぎですわ。お詫びにしても、やり過ぎですわよ。もっと普通の宝石でも良かったではありませんか?」
小声で震える私を見たトラヴィス様はキョトンとした後、笑みを浮かべた。
「君に似合う物を選んでいた結果なのだけどね。君にこそ、この宝石が相応しいだろう」
「私はターナー夫人ではありませんのよ」
「ハハハッ。ターナー夫人より、アネット嬢に使われる方が宝石も喜ぶだろう」
「ですから」
ハァ、ダメだわ。トラヴィス様は超ご機嫌よ。私の言うことなんて聞く耳を持っていないわ。トラヴィス様を説得するなんて私には無理ね。
諦めた私は出された紅茶を一気に飲み干した。
先の二軒に比べて体力の消耗はなかったけど、ここでは精神が削られたわ。
つまり、トータル的に肉体も精神も疲労したわけよ。
お詫びの気持ちって本来、何を指すのかしらね?
宝石の説明は読まなくても大丈夫です。ただの私の趣味なので(笑




