24.弟妹達大集合
エントランスに向かい、外に出ようとした時―――ドンッ
「ねぇさま~」
「ヤトル坊ちゃま、アネットお嬢様はお出掛けになりますから」
私の足元に衝撃が走ったと思ったら、ヤトルが抱きついていた。少し涙目になっている。ヤトルの背後には、慌てて追いかけてきたマーサの姿があった。
「あら、ヤトル。どうしたの?」
「うぅ~、ねぇさま~」
「それが、ゼノンからアネットお嬢様がお出掛けになると聞いて、寂しくなってしまわれたようで」
「そうなの? ごめんね、ヤトル。姉様は少し出掛けて来るわ。皆で、お留守番できるかしら?」
「や~」
ヒシッと抱きついて離れないヤトル。
あらあら、困ったわね。こういう姿を見ると、母性が刺激されるというか。私も離れがたくなってしまうわ。
私を母親のように慕っているヤトルには、寂しい思いをさせてしまっているのかもしれないわね。まだまだヤトルは母親が恋しい年頃ですもの。
私は安心させるようにヤトルを抱きしめた。
「ヤトル、ダメだよ。戻っておいで」
「あ、ヤトルだけズルイ! 僕も」
「こら、お客様がいらしているのだから邪魔をしてはいけないぞ」
ヤトルを追って、ユリア、ユアン、ヨシュアがエントランスに来てしまう。
家族全員が集合してしまったわ。私の仕事は秘密にしているから、出来ればトラヴィス様のことを知られたくなかったのだけどね。
このまま騒がしくしていたら、弟妹達はトラヴィス様の存在に気づかないでいられるかしら? なんとか誤魔化せない?
「あの、姉上。こちらは?」
「あ、えっと、こちらは……」
私の願いも虚しく、賢いヨシュアは気づいてしまったわ。
さて、どうしましょうか。
侯爵様だと知ったら、ヨシュア達は吃驚してしまうわよ。
いえ、トラヴィス様の身なりを見て、既に戸惑っているようだわ。
何と紹介したものかしら。
思案していると、トラヴィス様が私の横に立った。
「初めまして、私はトラヴィスと申します。アネット嬢には仕事をお願いしているのです」
ナイスですわ、トラヴィス様! ご本人が侯爵と名乗らなかった以上、わざわざ私が補足する必要はありませんものね。
ナイスアシスト!と、トラヴィス様に顔を向けたら“紹介してくれるかな?”と視線が返された。
そうですわよね。
本来なら、こちらが先に名乗らなくてはならない所ですものね。
「トラヴィス様、この子が長男のヨシュアですわ。それから、次男次女で双子のユアンとユリア。そして末の弟のヤトル、メイドのマーサですわ」
手を向けて紹介していると、皆は名前が呼ばれたタイミングで会釈していた。
ついでにマーサも紹介しておいたわ。この場にいるのに紹介しないのも変かと思ったのだけど、それはそれで変だったかもしれないわね。使用人ですもの、普通の貴族は目もくれないはずだわ。
あぁ、もう!
貴族社会って難しいのよ!
「皆、あの料理をくださっているのは、こちらのトラヴィス様なのよ」
「「「「!!」」」」
その途端、皆の目が輝いた。
「いつも、ありがとうございます!」
「美味しいご飯を食べられて嬉しいです!」
「私、いつもデザートを楽しみにしています!」
「ぼく、ミュートボーリュだいしゅき!」
ヨシュア、ユアン、ユリア、ヤトルは次々に言うと、トラヴィス様をキラキラと見つめる。
舌っ足らずなヤトルの“ミュートボーリュ”は“ミートボール”の事だけど、トラヴィス様には伝わったかしら?
「喜んでもらえて良かったよ。また届けさせるから、リクエストあったら教えてくれたまえ」
弟妹達の反応に、トラヴィス様も満足気に笑っている。
私から感謝していることは伝えていたけど、こうして直接お礼を言われると嬉しいものよね。
「あぁ、そうだ」
そう言うと、トラヴィス様はエントランスの外に出て、すぐに戻って来た。
その手には大きな箱が。
「君達の大切な姉君をお借りするお詫びに、これを。おやつに食べるといい」
トラヴィス様から受け取った箱をマーサが開ける。
中には―――
「「「ドーナッツだ!!」」」
中身を見た弟妹達から歓喜の声が上がる。箱の中には、カラフルなドーナッツが沢山並んでいた。ヤトルは見えないようで、ぴょんぴょんと跳ねている。
これは海外ドラマとかで見掛けるドーナッツだわ!
日本で言うとミ〇ドではなく、クリスピー・〇リーム・ドーナッツみたいな感じね。あの平べったい箱に、シュガー、チョコレート、ストロベリー、ナッツなど色々なドーナッツが入っているわよ。
「「美味しそう」」
「僕、チョコレートがいい」
「あ、ズルイ! 私もチョコレート!」
声を揃えたユリアとユアンが取り合いになると、マーサがサッと箱を閉じた。
「チョコレートは2つありますから、喧嘩なさいませんように。希望が被るようでしたら、ちゃんと切り分けますからね」
「「は~い」」
マーサの提案に、二人は大人しく頷いた。
双子って好きな物が被ることが多いのよね。
さすがマーサは心得ているわ。
「姉上。ピンクのドーナッツは、きっと苺だから取っておきますね」
「ふふふっ。ありがとう、ヨシュア」
苺が好きな私にと気遣ってくれるヨシュアが可愛くて仕方ないわ。
これが可愛がらずにいられますか!
私はヨシュアの頭を撫でた。
それに気づいた弟妹達が、自分も!と身を乗り出そうとしている。
マズいわ。これでは、いつまで経っても出掛けられないわよ。
あぁ、でも頭は撫でてあげたいわ。
そんな私の葛藤を察してか、ゼノンがマーサに目配せする。
マーサはドーナッツの箱を、これ見よがしに掲げると歩き出した。
「さぁ、どのドーナッツにするか選びましょうね」
「「「はーい!」」」
マーサの後に続く弟妹達。
少し歩いてマーサは僅かに振り返ると、こちらにウィンクした。
さすがマーサ、まるでハーメルンの笛吹きのようね。
弟妹達の動かし方を心得ているわ!
弟妹達が去って、やっと私達はエントランスを出ることが出来た。
私達はトラヴィス様が乗って来た馬車に乗り込む。御者を務めるのは、トラヴィス様の執事のトーマ。その隣にゼノンが座ると、馬車は動き出した。
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