23.事の結果
不安を打ち消してくれたのはトラヴィス様だった。
「いや、外から偵察していた者からは、別段何もなかったと報告を受けているから大丈夫だ」
あ、良かったわ、何もなかったのね。安心したわ。
というか、外から偵察していたのね。
念のためと言ったところかしら。
さすがトラヴィス様、手筈は万全ね。
でも出来れば、もっと早く、それを聞きたかったわ。
ずっと“何もないわよね?”って不安だったのよ。
陽気で愉快な気持ちだったし、鼻歌を歌ってしまったから、いきなり踊り出していないかと心配だったわ。
えっ、本当に私、何も変なことをしてないわよね?
「だが、君が酔ってしまっただけで済んだのは、幸運なことだったのだよ。“万が一”が起きた可能性だって否定できない」
「万が一って、あそこには誰も来ないと」
「確かに、事前の偵察でパーティーの際には人気がないことを確認している。しかし、だからと言って誰も来ないという確証があるわけではない。君と同じように、庭で休もうとする人がいないとは言い切れないだろう?」
「それは、そうですけど」
確かにね、トラヴィス様の言う通りよ。
でも、そんなこと言ったら私は、どこに潜んでいれば良かったと言うのよ。会場内にいてボロを出す確率が上がるよりは、あのベンチにいる方が計画は成功する確率が高いわ。誰かに遭遇しても、それが危険人物とは限らないのだから。
「悪意ある人間が現れて、君に危害を加える可能性は充分にあったのだ。幸い、誰も来なかったようだが」
「何かあれば、ゼノンを呼ぶので大丈夫ですよ。それに多少なら護身術も身に着けていますから」
「ゼノン君が優秀なのは知っているが、彼が駆け付ける前に君を傷付けることは出来てしまう」
「それは、そうですけど」
私は先程と同じ言葉を繰り返した。
確かに笛でゼノンを呼んでも、来るまでに数分は掛かるでしょうね。
その間に、ナイフで滅多刺しにでもされたら死んでしまうわ。
でも、そんな人が夜会にいるのかしらね?
ターナー夫人が余程の恨みを買っているのなら、話は別だけど。可能性は、とても低いと思うのよ。だから、そんなことを気にしても仕方ないと思うのだけどね。
「それに酔っていた君は、何かあっても抵抗が出来ない状態だったはずだ。むしろゼノン君を呼ぶという判断が冷静に出来ただろうか?」
うっ、それを言われると痛いわ。
何せ、シャンパンを飲んだ後の記憶がない程に酔ってしまったのだから。
まぁ、酔っていても抵抗ぐらいは出来たでしょうけどね。笛を吹くという判断が出来たかと問われれば、即答できないわ。酔っていても思考力は正常だったと信じるしかないのだもの。
「アネット嬢の身は守ると言っておきながら、この体たらく」
トラヴィス様は意気消沈気味で、額に手を当てて首を振っている。
えっ、私を守るですって?
そんな話は聞いていないのですけど?
ゼノンを見たら、コクリと頷いた。
あ、ゼノンとの話し合いで、そういう話が出ていたのね?
トラヴィス様との交渉はゼノンに任せっきりだったから、知らなかったわ。
ちゃんと報告してよ、ゼノン!
報連相は大事よ!
「証拠ばかりに気を取られて、君を蔑ろにしてしまった。本当に申し訳ない」
再び頭を下げるトラヴィス様に、私は慌てて顔を上げるよう手を出した。
「顔を上げてください。先程、『後で気づいた』と仰いましたよね? 先に思い付かなかったのですから、仕方ないことですわ。それに間違えてシャンパンを飲んでしまったのは私の落ち度です。トラヴィス様が気にする必要はありませんわ。結果論かもしれませんが、私は無事だったのですから、それで良いではありませんか」
「アネット嬢は優しいね」
頭を上げたトラヴィス様は僅かに微笑んだ。
優しいのはトラヴィス様だと思うのですけどね。言われなければ気付かなったことを、わざわざ知らせて謝罪してくださったのですから。
トラヴィス様の誠意ある姿勢、尊敬しますわ。
「まぁ、その件の詫びについては後でするとして。事の結果が知りたいのではないかと思ってね」
「どうなりましたの?」
それ、それ! 気になっていましたわ!
その後の展開を教えてくださいまし!
「掴んだ証拠を精査した結果、奴らのアジトを突き止めることが出来た。そこから偵察によって犯人達の動きを把握して、昨日、ワコルスキー伯爵を始めアジトにいた全員を捕縛することに成功したよ」
「まぁ!」
無事、一網打尽に出来たのね。証拠のお陰で捕まえることが出来たというのだから、私がターナー夫人に変装した甲斐もあったってものよ!
「ただ、まだ残党がいるようだ。居場所の特定に手こずっているが、絶対に全員を見つけ出して捕縛する」
決意を示すように、トラヴィス様の目には強さが宿る。
残党がいたの?
もしかして私が思っているよりも大きな組織なのかしら?
「ワコルスキー伯爵は余罪も含め徹底的に追及していく。恐らく、他にも犯罪に手を染めているだろうからな」
余罪があるとは本当に悪人ね。ともかく元凶が捕まって良かったわ。
これで、これ以上の被害は抑えられるはずよ。
「それからコワルスキー伯爵の処遇についてだが、極刑は免れないだろう」
「そうですか。それで、コワルスキー伯爵達に捕まっていた人達は、どうなりました?」
「あぁ。アジトの監禁部屋に捕らえられていた人は全員保護している。既に取引が行われてしまった人については、アジトにあった書類から居場所を特定して救出する予定だ」
「良かったですわ」
本当に良かったわ。
拉致されて怖い思いをしたでしょうけど、無事に保護されて。
心に負った傷は癒えないかもしれないわ。それでも、これ以上は傷つけられることがない。それだけが救いよ。
私に何か出来ることはあるかしら?
少しでも被害者が癒える助けになれないかしら?
あぁ、貧乏男爵家で非力な女の私には無理かもしれないわね。
弟妹達を守るので精一杯だもの。私は無力ね。
「これも全て君たちのお陰だ。協力してくれて、ありがとう」
「いいえ、お役に立てて良かったですわ。被害に遭われた方々が、少しでも救われると良いのですけど」
「アネット嬢は優しいね。そうそう、これが約束の報酬だ」
トラヴィス様はソファの横に置いていた鞄をズイッと、こちらへ押した。それをゼノンが持ち上げて、コクリと頷く。中身は間違いないという合図だ。
さすが元諜報員ね。
持っただけで重さから金額が分かってしまうのだから。
あぁ、その場で中身を確認するなんて野暮なことしないわよ。こういうのは信用で成り立っているの。前世の日本なら、きっちり数えて確かめるところでしょうけどね。
「ありがとうございます」
私は頭を下げる。
これだけあれば、ヨシュアを学園に通わせることが出来るわ!
あとは仕事を再開すれば、もっと弟妹達の生活を充実させられるわね!
「ところで今日この後だけど、時間はあるかい?」
「? えぇ、ありますわ」
「それなら、どうだろう。先程言っていた“お詫び”として、街へ出掛けないかい?」
「街へですか? まぁ、いいですけど」
街へ何をしに行くのかしら?
別にお詫びなんていらないのだけど……いえ、どうせなら美味しい料理を、これからも届けてくださらないかしら?と思って図々しい提案しようとしたら、ニコニコ顔のトラヴィス様と目が合った。
あらあら?
何故、そんなに笑顔なのですの?
トラヴィス様は、とびきりの笑みを浮かべたまま「では、行こうか」と手を差し出してくる。
とても提案が出来る雰囲気ではないわね。仕方ないわ。どうせ街へ行くのなら、弟妹達に何か買って帰りましょう。
最近はトラヴィス様が料理を届けてくれるお陰で、その分の食費も浮いているから少し余裕があるわ。
何がいいかしら?
やっぱり、お菓子がいいかしらね?
「あぁ、もちろんゼノン君も一緒に来てくれていいからね」
言われて、ゼノンは無言で一礼した。
その顔には“当たり前だろう”と書いてある。
こうして私とトラヴィス様は出掛けることになったわ。
トラヴィス様は一体どこへ行くつもりなのかしらね?
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