22.突然の来訪
それからは平和に過ごしていた。
トラヴィス様は言っていた通り、料理を届けてくれたわ。
それも2、3日に一度の頻度で。
しかも、お礼を言った時に“気に入った”と伝えた料理が、必ず一品は入っているのよ。本当に優しい人ね、トラヴィス様は。
笑顔で料理を頬張る弟妹達は、とっても可愛くてね!
それはそれは幸せそうよ。
その上、食事の質が格段に上がって、弟妹達の肌艶も良くなっているわ。弟妹達の幸福だけではなく、健康もトラヴィス様のお陰で向上したわけよ。やっぱり今までの食事では栄養が足りていなかったのね。
ところで、結果はどうなったのかしら?
コワルスキー伯爵のことよ。捕まったの?
それとも潜入したパーティーで得られた証拠では足りなかったのかしら?
ゼノンの話では、証拠は充分だと言っていたけど、どうだったの?
ゼノンに頼めば調べてくれるだろうけど、そうじゃないのよ。
依頼主から聞きたいのよ。
依頼内容が完了したら、それで終わりだなんて寂しいじゃないの。
トラヴィス様らしくないというか、料理を届けてくれる時に手紙の一つもくれたらいいじゃないの!って思うというか。
いえ“トラヴィス様らしさ”を知れるほど深い仲でも、頻繁に会ってもいないのだけどね。
そうして更に一週間が過ぎ、そろそろ仕事を再開しようかと思っていた時のこと。馬車の音がして、誰か来たのかしら?と思ったら、まさかの人物だった。
「お嬢様。トラヴィス様が、お見えです」
「えっ?!」
ゼノンから耳打ちされた名前に、思わず私はガタッと立ち上がってしまった。
弟妹達は「どうしたの?」と首を傾げている。
今、私は広間で弟妹達に本を読み聞かせていた。
私は笑顔で誤魔化しながら、弟妹達を残してゼノンと部屋を出る。
「えっ、トラヴィス様が? ここに直接? 何故?!」
「恐らく事件の進捗を報告にいらしたのではないかと」
「あぁ、そう。えっ、わざわざ? あ、いえ、とりあえず応接室に案内して」
突然のことに私は慌ててしまう。
確かに結果を知りたいとは思っていたけど、本人が直接わざわざ報告に来なくたって良かったのよ? 手紙一つで事足りたと思うのだけど。
まぁ、来てしまったものは仕方ないわ。追い返すわけにもいかないからね。
快く招き入れるわよ。
と、そこまで考えて私はハッとした。
重大な問題があることに気付いたのだ。
「あ、父は今……」
「先程、確認した時には眠っていらっしゃいました」
さすがゼノン、抜かりはないわね。
私の考えをよく分かっているじゃないの。
私はトラヴィス様に父を、この家の恥を見せたくないのよ。
それから父に余計なことも知られたくないわ。
私の仕事のことも、侯爵であるトラヴィス様のことも。
父が、どう出るか分からないからね。
「そう、ならいいわ。あ、お茶の用意もお願いね」
「かしこまりました」
ゼノンに指示を出した後はマーサだ。
私は広間に戻って、小声でマーサに伝える。
「マーサ、お客様が見えたから弟妹達をお願い出来るかしら? 出来れば部屋から出ないように」
「かしこりました、お嬢様」
マーサは深く理由を尋ねることもなく承知してくれた。
トラヴィス様と交わした契約書には守秘義務について記載されていたので、私とゼノン以外には聞かせるわけにはいかないわ。
とは言っても、あの契約書は私が口外するというよりは、トラヴィス様が私のことを漏らさないようにといった内容なのよね。かなり私に有利な契約だったわ。
最後に、私は弟妹達に言い聞かせる。
「お客様がいらっしゃるから、皆は良い子でいてね。マーサの言う事を、ちゃんと聞くのよ」
「はい」「「「はーい」」」
ヨシュアはキリッと、あとの弟妹達は緩い口調で答えた。
弟妹達に言い含めたところで、私は応接室に急ぐ。
部屋に着くと、扉の前でティーセットを用意したゼノンと遭遇した。
ナイスタイミングってところかしら?
ゼノンと共に応接室に入ると、トラヴィス様は違和感なくソファに寛いでいた。
姿勢を崩しているわけではないのに、どうしてこうもリラックスしたように見えるのかしらね?
それに何故だかトラヴィス様が輝いて見えるわ。貧乏男爵家の調度品では、トラヴィス様の気品を隠せないのね。それどころか逆に引き立たせているわ。生粋の侯爵家当主が纏うオーラって凄いわね。
あんなヨレヨレの古びたソファに座らせて大丈夫なのかしら?
不敬にならない?
「アネット嬢、ごきげんよう。急に訪れて申し訳ないね」
扉の前で立ち止まっている私を疑問に思うこともなく、トラヴィス様は笑顔を向けた。
そう思うなら、先触れをくださいます?
まぁ、我が家は侯爵家からしたら格下の男爵家ですからね。
先触れを出したりはしないでしょうけど。
普通ならレディには準備がありますのよ!
これが伯爵令嬢とかなら、着替えたりと大慌てになっているところだわ。とは言っても、私には出来る準備はないのだけどね。だって私は貧乏男爵令嬢なのだもの。
「いえ、トラヴィス様。私もトラヴィス様に、お会いしたいと思っていましたの」
「私に?」
「えぇ、直接お礼が言いたかったのですわ。いつも美味しい料理をありがとうございます。お陰で弟妹達の肌艶も良くなっておりますわ」
「それは良かった」
ゼノンはカップをテーブルに置くと、私の背後に立つ。
私は紅茶に口を付けたけど、トラヴィス様は神妙な面持ちだ。
どうしたのかしら? 何か深刻な話でも? あ、もしかして! コワルスキー伯爵を捕まることが出来なかったとか? この間、潜入した時の証拠では足りなかったとか?
「それで、今日の何の御用で?」
「あぁ、まずは謝らせて欲しい。申し訳なかった」
「えっ?」
ソファに座るトラヴィス様は深々と頭を下げた。
えっ、何? 本当に証拠が足りないの? あ、それとも証拠をダメにしてしまったとか? もしかしたら再び潜入して欲しいという依頼かしら?
「あの夜会の時、君を一人にしたことで危険に晒してしまった」
「えっ?」
予想外の謝罪内容に、私は首を傾げた。
ん?
そっち?
『一人にした』って、あれは潜入だったのだから当然では?
トラヴィス様が証拠を探しに行くためだったのだし。
「いえ、別に危険ではありませんでしたよ。とにかく顔を上げてください、トラヴィス様」
促されてトラヴィス様は、ゆっくりと頭を上げる。
「これは後で気づいたことなのだが、私は会場内で君についているべきだったのだ」
「でも、それでは証拠の探索が」
「私は不要だったのだよ」
トラヴィス様はフッと視線を逸らした。
「証拠の探索はゼノン君一人で十分だった。私がしたことといえば、ゼノン君が屋敷へ入るために窓の鍵を開けたぐらいだからね。一味を捕まえたいなどと偉そうに言っておきながら、私は大して役に立っていないのだよ」
自虐的なトラヴィス様の物言いに“そうなの?”と、ゼノンを見たらコクリと頷いた。
あらあら、そうだったの。でも、ただの貴族であるトラヴィス様が、元諜報員のゼノン程の能力を持っていないのは当たり前のことよね? 侯爵とはいえ、流石に無理でしょう?
「ゼノン君が屋敷に入った後、私は会場に戻って君の傍にいれば良かったのだ。そうすれば、あんな事には」
「あ、あんな事って、ただ酔って眠ってしまっただけですよね? まさか、何かあったなんてこと……」
もしや私が知らないだけで、他に何かをやらかしていたなんて事ないわよね?
誰も来なかっただろうし、何事もなかったというのは、何かあった記憶がないからであって、何もなかった記憶があるからではないのよ。
流石に何かあれば覚えていると思うわ。
そう自分を信じているだけなのよ!
記憶がないって不安だわ!
ターナー夫人を含め泥酔して記憶が飛ぶ人達は、よく平気でいられるわね?! 醜態を晒していないか心配にならないのかしら?! 私、とんでもないことや恥ずかしいことをしていたりしないわよね?!
思い出しなさいよ、私!!
私の心中は最悪を想像して羞恥の嵐が起きていた。
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