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第26話 誰だって成長するんだよ①


 俺は頭の中のラジコンをアサルトから奪い取り、俺は逃走を図る。

 俺の逃げる姿にスマッシュは「待てやコラ!」と追いかける。

 俺は全速力で走り、エレベーターへと急ぐ──

ふりをした。

 俺は畳に左前脚を思いきり踏んで留まり、俺は姿勢を低くして屈みながら刀を振り上げる。


「ッ!?」


 予想だにしていなかったのか、俺からの一撃は防げず心臓付近に深々と突き刺さり、身体は斜め横に真っ二つになる。


「なんだと……?奴がこんな姑息な不意打ちをするわけがねぇ。まさかあのガキが……!?」


 スマッシュは苦しげな声を上げながら斬られた下半身を手に取ろうとするが俺はそうはさせまいと、取り返そうとしていた奴の下半身をみじん切りよりも細かい超微塵斬りにしてやった。


「この人間のクソガキ…!」


 スマッシュは胴だけの身体から苦悶の表情で力を入れているように見えた。

 すると既に俺に細斬れにされた下半身が斬られた箇所からもぞもぞとうごめきながら足が生えてきた。

 再生してやがるのか。

 気持ち悪ぃ、俺もああまでして再生したくはないね。


「その人間のクソガキにぶった斬られる気分はどうだ?ちなみに俺は最高に気分がいいぜ!体育が終わった後のスポーツ飲料飲んでる時みてぇによォ!」


 俺は高揚感を感じながら言い放つ。俺の友達のできない理由、好きな人とのデートを邪魔されたこと、そしてその好きな人は俺を好きじゃなかったこと、あまつさえ、その子が俺の頭の中にいる同居人に寝取られたことだ!


 ──だからお前はまだ付き合ってすらいなかっただろ!寝てすらいないじゃないか!


「うるせぇッ!!」


 俺はアサルトを頭の隅に追いやる。

 侍になってまだ日は浅いが案外ノリと勢いだけで動けばそうにかなるもんだな。


「今ので結構消費しちまったぜクソが……おいガキ、お前中々やるじゃねぇか。アサルトより戦いに向いてるかもな」


 スマッシュが人差し指を俺に向けながら言う。

 敵に言われても別になんとも思わないが、アサルトは別だった。


「なんだとこの野郎!コイツは苛立ちが最高潮に達してガンギマってるだけのガキだ!俺の方が強いに決まってるだろうが!」


 だがスマッシュの言葉に怒髪天となったアサルトがまたもや出てきては悪態を突く。

 そしてなにやらスマッシュの様子がおかしい。

 身悶えするような、何かに抵抗するかのように変な動きでくねくねしながら苦しんでいた。


「お前ばっかりずるいぞ!俺にも大道と闘らせろ!」

「な、俺はお前よりも強くて年長なんだからお前は引っ込んでろ……!」


 どうやら揉めてるらしく、お互い身体の制御権について問題があるようだ。

 だが攻撃を仕掛けるなら今がチャンスだ。

 俺はスマッシュの元に駆け出し、跳躍して刀を振り下ろした。

 だがすんでのところで奴の刀で防御され、一撃が入らなかった。


「ようし、やっと身体を取り返せたぜ。スマッシュちゃんはしばらく俺の頭ン中でおねんねしてな」


 鎧武者の中か出てきた声は水無瀬だった。

 どうやら交代したらしい。

 交代と言っても半ば強制的にだが。


「いやぁ同じような同居人を持つと苦労するなぁ」


 水無瀬は鼻で笑いながら言った。


「まったくだ。アイツと出会って俺の人生はめちゃくちゃだ。脳味噌やら心臓やら食わされるし、俺の友達を殺しかけるし、挙句俺の初恋の女の子を寝取りやがった」


 俺もその点については同調せざるを得ないので奴の言葉を肯定した。だが水無瀬は「まぁでも」と言葉を付け加える。


「こいつらが現れなかったら俺達は退屈な人生を過ごしてた。それにこうして出会えることもなかった。俺達もう友達って言っても遜色ないよな?」


 水無瀬は俺に馴れ馴れしくそう言う。


「流石の俺も人食いヤクザの友達なんかいらねぇよ!それに、お前らは俺と花連のデートを邪魔した挙句薫を人質に取った。それは万死に値する。覚悟しろ」


 俺はそう言って踏み込み、水無瀬に近づき次なる斬撃を繰り出す、俺とアサルトの脳は同期している。

 だから刀の構え方も斬り込みも動き方も自然と頭の中で浮かんでくるし身体もそれに合わせてくれる。

 俺と水無瀬は火花と共に鍔迫り合いをしていくうちに、奴の感情が俺に流れ込んでくるような感覚があった。

 純粋な殺意と高揚。奴は子供がサッカーや野球をやるように、純真無垢な心で殺し合いを楽しんでいた。

 分かっていたが、この男、水無瀬は理屈や問答で話が通じるような奴じゃない。

 拳や刀、肉体言語でしか己を表現できない男なのだ。

 俺はお前みたいな友達は要らないと言った。

 だが、凶器の本音と本音でしかぶつかり合えないがウソ偽りない気持ちで向かって来られるのは、案外悪くないものだと思えてきた。

 これもアサルトと脳を共有した結果なのか。

 それとも俺がおかしくなっているだけなのか。

 水無瀬は自分の刀で何度か防御を出来てはいるが時々斬られ、着実に残機を減らしていった。


「おい!なにまともに攻撃なんか喰らってるんだ!ちゃんと躱せ!防御しろ!ウェポニアン同士の戦いは無傷で済むものじゃないぞ!分かっているのか!?」


 スマッシュが顔を出し、水無瀬に対して怒号を浴びせるが当の水無瀬は


「分かってねぇのはお前だよ!いつ殺されるか分からないスリルこそが戦いのミソだろうが!お前は黙って俺の戦いぶりを見てろ!」


 水無瀬とスマッシュは互いに衝突しながら俺と戦っていた。

 バラバラのチームワークの今の奴らになら、この調子ならいける。

 勝てる!っと俺が勝ちを確信した所で、俺は油断をしてしまっていた。

 人間は大抵大事な場面で気を抜くと後でロクな目に遭わない。

 俺が奴の腹に刀を刺し込んだ時、奴は俺の刀を左手で握り放そうとしなかった。そして、


「オラァ!」


 気合の入った声でヘッドバッドを俺にお見舞いし、袈裟斬りを喰らわされた。


「全ッ然痛くねぇぞ!」


 俺はハイになってたせいもあって、痛みには鈍重になっていた。

 そのおかげかあまり痛覚は感じなかったが、深い傷になる一撃を喰らってしまった。

 俺はぐらりと態勢を崩してしまい、地に膝をつく。

 チャンスとばかりに水無瀬は俺に馬乗りになり、俺の胸に刀を突き刺そうとする。


「致命傷を負うことのない無限の喧嘩を楽しむのもいいが、こういう生きるか死ぬかの瀬戸際の喧嘩もやっぱいいもんだな!そうだろ大道?」

「ならさっさと満足して俺に殺されろよ!」


 俺は心臓に迫り来る刀の刃先を両手で真剣白刃取りのように掴み、貫通しないようにしていた。

 だがじりじりと少しずつ心臓に到達しそうになり、もはや時間の問題だった。

 だがここで俺は頭が良くない打開策を思いつく。その打開策とは……


「うおおおおお!」


 俺は両手で抑え込んでいた水無瀬の刀を敢えて受け、心臓に深々と刀身が刺さった。

心臓のど真ん中に諸に入り込み、さっきのヘッドバットとは別格の筆舌に尽くしがたい痛みが走る。

 だが俺は上半身の発条のみで起き上がり、奴の刀と重力に逆らうかのように水無瀬の鼻にお返しのヘッドバッドを喰らわせてやった。


「ぐおっ!」と水無瀬は顔を手で覆い、よろめいた。

 俺はすかさずそこに勝機を見出し、右手に持っていた刀で斬り上げる。

 上に刀を振り上げたあとは下に振り下ろし、切っ先を水無瀬の心臓目掛けて一直線に串刺しにした。


「どうだァ!胸ェ刺された気分は!これでも楽しいなんて言えるか!?」


 俺は水無瀬の胸に刀をぶっ刺したまま質問を投げかける。

 苦し気に俺の刀を掴みながら血の泡を出しながら笑って言う。


「楽しいね!ハッパや女やゴルフなんかより百億倍気持ちがイイぜ!」


 そう言って水無瀬はさっきの俺と同じように滑り出すように刀をよりもっと貫通させて俺に近づき、頭突きを俺の顔面に浴びせ、俺の心臓に刺さっていた奴は自分の刀を取り戻す。 


俺と水無瀬は剣術なんて忘れてただリーチの長い刃物をお互いに向けて振り回すチンピラみたいな戦い方をした。

 片方が斬られて、もう片方が斬られる。

 そんな斬り合いとも呼べぬ斬り合いが続く事数分。

 またもや俺達はお互いの心臓を突き、貫かれていた。

 俺も水無瀬も刀を強く掴んだままだったのでお互いの心臓から刀を引きずり出すように抜いて地面に倒れる。


「クソが!残機をかなり使っちまった……!オイ、いい加減変われ水無瀬!このままだと二人共死ぬぞ!」

「いいじゃねぇか……このまま全力でぶつかり合って死ねるなら最高の死に日和だろう?」


 スマッシュが焦りながら水無瀬の身体のコントロールをしようとする中で、水無瀬は


「やめろ!まだ俺が戦っている最中だろうが!」

「うるせぇ!このまま心中なんかごめんだ!」


 スマッシュは水無瀬を無理やり抑え込み、再び制御権を確立した。

 スマッシュは水無瀬と違って本気で戦いを楽しむのではなく、アサルトを殺すことを最優先にしている。


──大道、俺に変わってくれ。奴は俺が斬る。今度は失敗しない」


 アサルトは真剣そうな、芯の通った声で俺に頼んだ。

 俺はこれまでアサルトと常識はずれな事ばかりしてきた。

だが俺もただ振り回されるだけなのはごめんだ。


「アサルト、この状況をひっくり返すための秘策を思いついた。作戦は……」


 俺はアサルトにこの状況をどう打破するかの作戦を教えた。

 一通り聞き終わった後のアサルトはは「イカれてる。だが気に入った」と無い親指を立てて笑った。


「勝つぞアサルト」


 俺はアサルトを信じることに決め、身体を貸した。

 ボロボロになった甲冑が自己修復されるが、ウェポニアン同士の戦いのせいか、着た者を守る機能は効果は今一つと見える。

 だからこそこれは俺の作戦に活かされる。


「次で終わらせてやる。かかってこい」

「終わるのはお前だよアサルトォ!」


 スマッシュは超スピードで飛び掛かった。

 アサルトはただ待ち構えて剣をスマッシュに向けるばかりだった。


 スマッシュは恐るべき速さの剣戟をアサルトに浴びせた。

 だがアサルトは上手くそれをいなしている。

 攻撃だけが取り柄だと思っていたが、防御も回避もしっかりと出来ている。

 先程とは打って変わって大違いだ。


「てめぇ、なんで……」


 スマッシュが戸惑いながら刀を振る。アサルトも自分自身で奴の攻撃を防いでいることに驚いていた。


「はぁ!」


 アサルトはスマッシュの刀を弾き、頭からつま先まで綺麗に斬り落とされた。


「ま、じい!」


 スマッシュは左右に分かれようとしている身体を左右の手で無理やりくっつけながら距離を取った器用な野郎だ、と俺は思った。

 真っ二つにされたのにくっつけて再生しようとするなんて、俺は改めて化け物と戦っているのだと再認識した。


「くそ、やべぇ、やべぇ!残機がもう無え……!マジで早くケリ着けねえと!」


 スマッシュに焦りの声が漏れた。このまま押し通せば勝てるかもしれない。

 だが気を抜けばまたさっきみたいにやられる。

 作戦通りにやらなければ勝てない。

 だが長くは続かない。

 身体をくっつけることに成功したスマッシュは刀で振るわれるとは思えないような重い上からの一撃をアサルトに叩きつける。

 あまりの重さに床が陥没し、畳が真っ二つに折れた。


「うらぁ!」


 スマッシュは更に上段から叩きつける。

 床は更に陥没し、アサルトはめり込む。

 スマッシュは怒りで我を忘れたかのように一心不乱に叩きつけられた。

 陥没していた地面は遂に陥落し、44階に到達する。

 そして43、42、41とどんどん下の階へと落ちていった。


「大道!」

「アサルトさん!」


 花連と薫の声が聞こえたが、段々と声は遠のいていく。

 俺は彼女達が崩落に巻き込まれないことを祈った。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死!!!」


 刀で斬られないように鎧で防御していたアサルトだったが、冷静さを失い一心不乱に振り下ろすスマッシュの凶刃は強く打てば打つほどスマッシュの攻撃の威力は高まっていった。

 鎧はどんどん剥され、壊されていく。

 さっきよりもものすごい速度で下の階層まで落ちていく。

 そしてやがて地上1階にまで到達してしまった。


「はぁ…はぁ……はぁ……」


 スマッシュは息切れしながら俺達を見下ろす。

 散々打ちのめされて主を守る機能を果たせなくなってしまった。

 鎧は見るも無残なボロボロの姿になっていた。体は動かず、声も出せない。


「もう、立てねぇだろ。今度こそ殺してやるよ。これで終わりだ」


 スマッシュは立ち上がり、刀を俺の胸に突き立てた。そして、


「くたばれ!」


 俺の胸に刀を奥深くまで刺し込んだ。



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