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第2話 俺は普通の高校生なんです②


 その日満月の光は鈍く光り、怪しい眩さで辺りを照らしていた。

 夜風は昼間とは違い、掌を変えるかのようにびゅうびゅうと音を立てながら辺りの野草や木々を揺らしていた。


「あと何人斬ればいい?」

「俺が満腹になるまで終わらん」


 野草や木々以外に、風に揺られる男がいた。

 満月が爛々と輝く空の下で、男が独り言のようにポツリと刀に話しかけ、刀は男の言葉に淡々と答えるよう言った。

 月は人をおかしくさせると言うが、この男は狂ってはいない。

 刀が人語を介するなど非現実的だが、とにかく刀は喋っていた。


「それが一体いつになるのかと問うておるのだ」


 男は項垂れ、首をガクリと落とした。


「お前はお侍様だろ?人を斬るのが仕事だろうが」

「お主の腹を満たすために斬っておるわけではない。俺は民のために……」

「聞き飽きたから止してくれ。そら、来たぞ」


 刀がそう言うと奥に人影が複数人見えた。

 六人ほど居るように見え、全員刀を携帯していた。

 重厚な甲冑と兜を身にまとい、全員が殺気立った雰囲気で歩いている。

 その様子を確認した男は喋る刀の鞘に左手を添え、彼等の前に通せんぼするかのように現れた。


「…?己、何奴!」


 武士達が威圧するべく低い声で男に問いかける。だが男は歩みを止めることなく武士達の元に歩を進める。


「痴れ者が、名を名乗れ!」


 武士の一人が語気を強めて男に問いかけた。だが男は鼻で笑い、


「今から死ぬものに名乗っても意味がなかろう。貴様らは元来、民を守るべく刀を振るうはずの侍、がその民を搾取し、塵芥が如く斬り伏せたな。外道共め、なんたる狼藉か。この俺が成敗致す」


 そう言うと男は武士達の元に駆け出した。武士達は身を低くし、刀を抜くべく右手で柄に手を掛けたが、尋常ならざる速さで一番前にいた男を一刀両断した。


「なっ…?あっ……」

「一人やられた。用心しろ!」


 斬られた者は甲冑を着ているのにも関わらず、上から右斜めに斬られ真っ二つ。

 上半身と下半身が今生の別れを告げ、悲鳴を上げる暇も与えず、絶命させた男は次いで敵を見据える。

 他の武士達は急いで抜刀し、応戦した。

 だが武士達の目に男の太刀筋は見えず、二人目も悉く斬り伏せられた。

 三人目は辛うじて見切り、凶刃を受け流す。

 次に左横から来る一撃に対処すべく刃を向けるが、あろうことか刀身ごと身体を斬り裂かれた。残った三人は連携を取り、三人同時に襲い掛かる。


「おあああああああ!!」


 一人が囮となってわざと男の眼前に飛び掛かったが、串刺しにされた。

 だが刺された男は腹部に刺さった刃を掴み、鬼の形相で離さなかった。二人の武士は背後から男を刀で深々と斬り降ろし、さらに心臓近くに刀を刺し込んだ。


 武士達を襲った男は倒れ伏し、血が噴水の如く勢いよく噴き出した。

 残った武士二人はすかさず刀で首に突き刺し、確実に殺しよう念入りに刀を捻り、刺し殺す。


「死んだな?」

「あぁ、間違いない」


 武士達は男の死体から後ろに振り返って、戦友の亡骸に近づき、膝をついた。

 正面から袈裟斬り、背後から心臓を一突きして貫いた。

 さらにとどめで首に刀を刺し込んだ。

 故に彼等は安心していた。

 この状態で生きている者はいない。いるとすれば不死身か怪物だろう。

 それ故に武士達は、背後に男が立ちはだかっていることに気づかなかった。

 死んだはずの男は二人のうち一人の首を横から流れる動作で切断した。


「なっ!?己……!」


 首が転がった音に気づき最後に残った武士は急いで振り返り、収めた刀を振りぬこうした。だが、男は武士を斬らず、左手で武士の首をおもむろに掴んだ。


「あっぐっ…!」

「なぁ、もういいだろ?」


 胴体と首から血を流したまま気だるげに武士の首を掴み、誰に言うでもなく独り言のように言った。


「侍ごっこは終わりにして、そろそろ夕飯にしよう」

「己は、何者だ……!?」

「俺か?あぁ、俺は……」


 武士は呼吸困難になりながらも男の顔を見据えた。男は先程の堅い雰囲気から一変し、涎を垂らし、こういった。


「アサルトだ」


 そう言って、アサルトは口をガパリと開けて男の頭を喰い千切った。



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