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第1話 俺は普通の高校生なんです


「俺さ、夢があったんだよ」


 瀬田大道はとあるビルの一室でぼそりと呟く。

場所はおしゃれな洋風の内装で、床は高級そうな見た目の大理石、上には大きなシャンデリアが眩い光を放っていた。

 彼の顔はどこか諦観めいた顔つきで下を俯いていた。

 彼は顔つきはまだ若干幼さが残る少年だが、大人になりかけの高校生だった。


「部活に入って友達を何人か作ってさ、昼休みに弁当持ち寄って交換したり、放課後はゲーセン行って遊んで、気になる女の子が居たら話しかけてみてデートに誘うんだ」


 瀬田大道は大いに語る。

 彼の手には刀が握られており、低波真っ赤な返り血で濡れに濡れまくっていた。

 明らかに物騒な見た目と事件に関わっていそうな見た目をしていたが、そんな事を露ほども感じさせない落ち着いた雰囲気で独白を続けていた。

 だがこんなに饒舌に話しているというのに、話し相手は居ない。一人で喋っているが、その話し方はまるで本当に目の前に誰かが居て、その人物に向けて喋っているようだった。


「失敗したら肩叩かれて笑われて、成功したらおめでとうって言われて袋叩きにされて、そんな学園生活を俺は送りたかったんだ。でもさ……」

「居たぞ!あのクソ野郎だ!ぶっ殺せ!」

「俺の兄弟殺しやがって……!絶対生きて帰さねぇぞこの野郎!」


 瀬田大道は強面の男達に囲まれていた。真夜中なのにサングラスをつける男や小指が無い男、ドスを持つ者、拳銃を持つ者、バットや鉄パイプを持つ殺気立った者でいっぱいだった。


「観念しろやぁ!テメェの臓物引きずり出して大縄跳びしてやるよ!」

「俺はお前の腸でソーセージを作ってやる!知ってたか!?ソーセージの皮はヤギの象徴で出来てるんだぜ!?」

「え?羊じゃなかったか?」

「いや、ヤギだろ」

「牛じゃねぇの?」


 ヤクザの男達はただのうんちく一つでお互いの胸倉を掴み合っていた。仲間割れが起きそうだった。


「あー、なんでこんなことになったんだろ」


 瀬田大道は一筋の涙を流し、それが頬に伝って床に落ちた。


「お前がカチコミなんかするからだろうが!」

「ポン刀一本で奇襲仕掛けるとかお前マジで上等切り過ぎだろ!今時居ねぇよお前みたいな鉄砲玉!」


 ヤクザの一人がそう言うと、他のヤクザ達もこぞって「そうだそうだ!」と迎合し始めた。


「信じてください……俺は鉄砲玉でも殺し屋でもない。ただの普通の高校生なんです……」


 瀬田大道は役者も顔負けの迫真の泣き顔で訴える。普通なら幼気な男子学生の泣き顔に絆される者いるだろうが、今ここにいるヤクザの集団は、


「てめぇみてぇな刀で人斬って人肉喰うマジキチ高校生いるわけねぇだろ馬鹿野郎!ふざけた事言ってっと海沈めるぞコラァ!」

「お前俺の兄弟になにしたのか忘れたのか?ダンビラで払掻っ捌いて腸をラーメンみたいに啜って喰ったんだぞ!?俺もうラーメン食えねぇよ!」


 瀬田大道の恐るべき悪行に周りのヤクザ達は苦い顔をしたり、「おえええ!」と嘔吐したりしていた。


 この物語はサイコボーイが人肉を食べるスプラッタ系映画でも、血で血を洗う任侠映画でも、ソーセージの皮が山羊や羊や牛のどちらの小腸を使われているかを問うクイズ番組でもなく、少年と怪物の出会いと、友情と恋の物語である。

 何故瀬田大道という少年がこのような蛮行に至ったのか、それは少し前に遡る──。


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