操ら令息の反抗。
カーラ視点追加しましたッ!
よければご覧くださいッ!!
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「貴方といてもつまらないわ……。」
「なぜだ…?」
「だって貴方――
『私』を、見ていないもの。」
―――――――――――――――――――――
「マニキュレイト。お前は私の言う通りに、動いていたらいいんだよ。」
「――はい。わかりました。」
「それならマニキュレイトができるだろう」
「――そうですね。」
「レイト!これお願いしてもいいか?」
「――勿論だとも。」
私は幼少時から全ての物事を決められて生きてきた。
習い事、友人、職場、取引き相手。
やれと言われたことをやり、頼まれたことは断らない。
ついたあだ名は操ら令息。
誰が付けたのか知らんが、込められた皮肉な意味以上に滑稽さを感じるのは私だけだろうか。
そんな私に婚約の申込みがあった。
自慢では無いが容姿は整っていると思う。昔は婚約の打診など山程来たし、顔合わせも何回も行った。
意志は無いが心がないわけではない為、女性を無難にエスコートすることもできていると思う。
だが、私自身、結婚に前向きではないこと、そして何よりこんなあだ名で有名になりすぎた為、すべて破談。そして今日び、まともな家から婚約の打診なんてものは来ない。
大抵は落ち目の家、もしくは、成り上がった一代貴族等の準貴族といったところからだ。
我が家の家格からすると、その様な家は釣り合わない。
無視しろと決められている。
が、流石にこのままではまずいと感じたのか、初めてそういった家と顔合わせを行えという指示が来た。
相手は金を積み、一代貴族となった商人の娘。
家族、友人から勧められた物を手土産に、勧められた劇を見に行き、勧められた店で食事を食べる。
そして言われたわけである。
「あなたといてもつまらない」…と。
――――――――――――――――――――
「『私』を見ていないとはどういうことだ…?」
彼女は答える。
「それを私に聞く事自体が『私』を見ていない証拠よ。
今日一日、貴方といた私は楽しそうだった?嬉しそうだった?悲しそうだった?辛そうだった?
何も分からないでしょう?
貴方が見てるのは私個人じゃない。貴方の想像の中にいる私よ。目の前にいる、『私』じゃない。」
私は押し黙る。
彼女の言葉に考えさせられたからだ。
そして気づく。
私が今回を含め、今まで顔合わせをしてきた御令嬢にどれだけの失礼をはたらいていたか。
「もし貴方に反省の気持ちが少しでもあるのなら、次に会う時は、”貴方自身の”エスコートを私にしてくださいな。」
そういって彼女は立ち上がり去っていった。
とてもではないが追いかけることはできなかった。
しかし、少し経ち気づく。
――次があるのかと。
これでまた破談になると思っていた私は驚いたが、ここまで来たら次は必ず満足させてみせる。
決意を新たにスケジュールを確認した。
――――――――――――――――――――
そこからは彼女と色々な場所に赴いた。
彼女が見たことがないと言っていた海。
彼女がいつか来たいと言っていたレストラン。
あるときには逆に彼女に下町を案内されたりと様々な経験をした。
ここまできたら私にも分かる。
私は、明るく、はっきりとモノを言う、天真爛漫な、『彼女』に惹かれているのだと。
何をすれば彼女が喜ぶのか、笑顔になってくれるのか、それだけを常に考えるようになっていた。
だが、そんな私の気持ちとは裏腹に、彼女は過ごせば過ごすほど笑顔が曇っていった。
鈍感な私でも気づくほどに。
何がいけないのかと考えても。
何も、分からない。
ただ、時間だけが過ぎていく。
そんな時だった。
――彼女が倒れた。そう聞いたのは。
――――――――――――――――――――
息を切らしながら彼女の部屋に着く。
勢いよく扉を開ける。
そこで待っていたのは、ベッドから上体だけ起こし、笑顔でこちらを見る彼女だった。
「あら、来てくれたのね。」
「――どうして言ってくれなかったのだッッ!私は……私は君に無理をしてほしいわけではないッッッ!……だが、なにはともあれ、君が…君が無事で、よかった…。」
私が安堵の息をもらすと彼女は微笑んで言う。
「私ね。――もって数日なんだって。」
「――は?」
「どれくらいかは私次第なんだって。」
頭の理解が追いつかない。
何も考えられない。
彼女は微笑みながら話す。
「私ね。もともと身体が弱かったの。
産まれた時から今まで、ずぅーっと。
だから顔合わせしたあとに婚約なんてすぐ断るつもりだった。
でも最初に貴方に会った時、この男は何なんだって思ったわ。だってそうでしょ?
全部人任せで自分の意思なんて無い操り人形みたいだったんだもん。
私にはどんなにしたいことがあっても、行きたい場所があっても、簡単にはできなかった。諦めたものも沢山あったのに。」
「それならどうして、どうして、また会おうと思ってくれたんだ…?」
「――悔しかったから。
私は今まで必死で生きてきた。少しでも自分ができることを探して、楽しみを見つけて、自分の人生に後悔がないように一生懸命、生きてきた。
なのに、そんな私が貴方の生き方を認めてしまったら、諦めてしまったら、私は、私の今までの人生を否定することになるから。
だから、ごめんね。貴方のためでもなく、ただただ、私のために、次も会いたいって思ったのよ。」
「謝る必要など、無い。君が悪い事など一つも、ない。
自分の意志を持っていなかった私が悪いのだ。
人にはそれぞれに感情があり、人生がある。
人生とは、自分の意志で道を選び、歩いていくことなんだと、私は君に教えられたよ。
だから君の選択は間違えてないと、私は胸を張っていえるとも。」
「――うん。私の選択、間違ってなかったんだ…。良かったぁ…。
――ねぇ、レイト。私、少し眠くなってきちゃった。」
私は彼女の手を握り言う。
「君が眠るまで。いや、寝たあともずっとここにいるとも。これは他の誰でもない私の、私自身の意思だ。」
「――ありがとう。」
そういって彼女は寝息を立て始める。
彼女の寝顔は安らかで、とてもあと数日の命とは思えないほどだった。
――――――――――――――――――――
そこから彼女は起きて寝てを繰り返した。
起きたときには他愛もない話をして、寝ている時は手を握り、彼女の回復を願った。
だが、それでもその時はやってきた。
彼女が血を吐いた。
医者を呼びに行こうとした私を彼女は止める。
「レイト。もう、いいよ。私、自分の状態くらいわかるから。もう、ダメみたい。」
こんな時に限って頭は真っ白で。
何も言葉が浮かばない。
胸には色々な思いが渦巻いている。
彼女は辛そうに、嗚咽混じりに話し始める。
「あのね、私、最初貴方のこと……好きでも、なんでもなかったの。でも、でもね、貴方が一生懸命『私』を見てくれたから。
私、貴方に惹かれていったの…。
誕生日に連れてっいってくれたレストラン……美味しかった…!
一緒に見た海は…沈む夕日が、綺麗だった…!
下町の案内をした時は…驚く貴方の顔が可愛かった…!
そうやって貴方に…惹かれていけばいくほど、私…死ぬのが怖くなった…!!
だから…どんどん上手く笑えなくなった…!
身体のこと話さなきゃって思ってたけど、話したら捨てられるんじゃないかって、ずっと怖かったッッッ…!」
彼女は泣きながら言う。
「でも、でもね、レイト。私、貴方のこと好きになってよかったって心から思えるよ。
私は私の人生に後悔はないよ…!
――嘘。後悔がないなんて、嘘。
貴方と、もっと…もっともっと、ずっと、ずうっと一緒に居たかったよぉ…」
彼女は泣きながら言う。
――私は…私もッッ!!
気持ちを言おうとした、その時。彼女が被せるように言う。
「――いいのッ!貴方は私とは違う。これからがあるの。だから、だからね?
私が死んだら、私のことは忘れて。
私以外の人を想って、その人と幸せになって。
今までいろんな人のお願いを聞いてきた、操ら令息のレイトだから。
私の最後のお願い。聞いてくれるよね…?」
私はゆっくりと首を横に振り、ぼやけた視界で彼女を見る。
「言っただろう?
人生とは自分の意志で道を選び、歩いていくこと。
君のお陰で操ら令息ではなくなったんだ…。
だから君の最後の、願いは、きけないよ…。
私の魂は…いつまでも君と、
――カーラと共にある。」
「レイトの…馬鹿――」
そう言って笑みを浮かべて目を閉じた彼女の目が覚めることは二度となかった。
――――――――――――――――――――
「――来るのがすっかり遅くなってしまった。
すまないな。
いや勿論、忘れてたわけじゃないぞ。
君の目の前で誓ったことだからな。
あの時、君にかけた言葉が、態度が、対応が正しかったのかどうか、今でも自問自答するよ。
思えば、君の頼みを断ったのはあれが初めてだったのかもしれないな…。
――うん。そうだ。
いつまでも君のことを忘れない。
この誓いを守るために、帰ったら君との事を本として記録に残そうか。
タイトルは…そうだな…。
操ら令息だったのに、
君の最後の願いにいつまでも応える気がない、
そんな私にちなんで――」
操ら令息の反抗。
了