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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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7/22

ヤ×目×××プ編③

「お、良い感じですね。もう少し動きをコンパクトにしてみましょうか」

「はい!」


 座学が終われば実践。

 透さんに幾つか基本的な技を教えてもらうことになった。

 最初に教えてもらったのが基本の突き。リードパンチというものだった。

 ジャブの速さでストレートの威力というのが売り文句だそうで。


「縦拳はあんまり使わないから新鮮だなあ」

「……そう言えば勇八くんは我流と仰っていましたが」

「はい。つっても最初はこだわりがあるとかではなく身体を鍛えることを優先してた結果ですが」

「ふむ?」

「こう見えて小学校入学ぐらいまではかなりの病弱でして」


 病魔を打倒するために只管身体を鍛え続けていて技を学ぶ余裕などはなかった。

 とは言えずっとそれでは飽きてしまうのも事実。

 時折、お爺ちゃん先生を始めとするお医者さんや大人の患者さん父母に技を教えてもらったりもしていた。


「元気になった後で何か一つ、本格的にと思わなくもなかったんですけど」


 健康になって改めて自分を振り返った時、そういう選択肢も頭に浮かんだ。


「けど?」

「こう、勿体ない? 申し訳ない?」


 俺に技を授けてくれた人たちのスタイルは皆、バラバラだ。

 プロレスを基本とする父母でさえそう。

 母は空中戦を多用する華やかな立ち回りで父は荒々しい立ち回りを好んでいる。


「俺も分かってンですよ」


 どれか道を一つに絞った方がずっと楽に強くなれるって。

 あれもこれもとつまみ食いしてちゃどうしたってその歩みは遅くなる。

 でもどれか一つに絞るのは嫌なんだ。


「今の俺を形作るものを捨てちゃうような気がするんです」


 別にそんなことはないと頭では分かってる。

 俺に技を授けてくれた人たちも別に何も言わない。

 だからこれは極々私的な俺だけのこだわり。でもそのこだわりこそが大事なことだと思うから。

 ない頭であれこれ考えた末、決めたのだ。


「亀の歩みでも良い。全部抱えて俺だけの道を歩いて行こうって」

「……なるほど」

「だから透さんから教えてもらった技も俺の血肉にさせてください」


 知識を得るだけじゃなく技を身に着けようと思ったのは透さんが素敵だからだ。

 こんな素敵な人から貰った技が俺を形作る欠片の一つになるならそれほど嬉しいことはない。


「……参りましたね」

「嫌でした?」

「そうではありません。手を抜いていたわけではありません。私なりに真面目に教えようとはしていました」


 でも軽かった、と透さんは言う。


「キラキラした目で見て来るものだから気分が良くなってもっと良いところを見せたいなという見栄、でしょうか」


 そんな気持ちが根っこにあったとのこと。


「しかしそこまで真摯に学ぼうとしてくれている勇八くんに対してそれではあまりに失礼」

「別に俺は気にしませんけどね」

「なのでここからは私も気持ちを入れ替えて指導すると致しましょう」

「真面目だなあ」

「勇八くんこそ」


 というわけで指導再開。

 拳の打ち方。そして使い方の実例を熱心に教えてもらった。

 習った技はリードパンチとあの滑車に繋がれたように滑らかな連撃。チェーンパンチの二つだ。


「ところで勇八くんは飛び道具などは?」


 指導が一段落した互いの技について話し合っていると透さんがそう切り出した。

 飛び道具というのは拳銃とかそういうんではない。

 いや武器ありのバトルもあるけどな。この流れで話題に挙がった飛び道具は“波ァ!”的なアレである。


「持ってませんねえ。あれば便利だしカッコイイんで覚えたいとは思ってるんですが」


 波ァ! 的な技を使うために必要なエネルギーは多々ある。

 生命力、精神力、霊力、魔力、気功、妖力、神通力。

 先天的な素養もあれば後天的に得られる力もあるので本当に様々だ。


「そういう透さんは?」

「一応、魔力を使った技が幾つか」

「おぉ! 魔力ってことはご先祖様に魔女とか悪魔が?」

「魔族が居たそうです」


 ちなみにこの世界は悪魔とか天使、宇宙人なんかも普通に存在する。

 他にも世界征服を狙う悪の秘密結社とか企業もな。

 格ゲーだもんね。そりゃあ居るさ。最終的には律儀にトーナメントとか開いて白黒キッチリつけようとしてくれる。


「ただまあ、力に目覚めたのが大学受験の時でして」


 鍛える暇などなく今は魔性の力が強くなる深夜にしか使えないのだとか。

 ってことは今見せてもらうのは無理そうだな。


「でも長ずればバトル開始前のコマンドでキャラ変できるようになったりするんじゃないですか?」


 カラーチェンジだとかのキャラバリエーション。

 これもちゃんとこの世界のルールに組み込まれている。

 戦業になるような人間なら大体は使える。だから俺の母も一瞬でパッキンになったり青肌になったりする。


「かもしれませんね。っと、私のことはさておき。勇八くんです勇八くん」

「?」

「魔力持ちだからでしょうか。私はその手の力を多少は感じ取れます」


 曰く、俺も何かしら不思議な力を持っているのではないかとのこと。

 マジか。いやでも転生者だしそういうんがあっても不思議ではないのか?


「偶に変なのが見えたりしてたけど……そうか、素養あるんだ俺……」

「まだ技として発露していないならこれからでしょう」

「やべえな俺の未来めっちゃキラめいてる」


 むっちゃテンション上がるわ。

 やっぱ波ァ! 系の技ってさ。バトルが好きとかどうこう以前の問題じゃん?

 男の子としてはどうしたって憧れちゃうっていうかさあ。

 実戦で使えないような技でも全然良いよ。手から波ァ! 出せるだけで俺は満足さ。


「……男の子はそういうの好きかなと思い話題にしましたが正解だったようですね」

「どしたんです?」

「いえ何でも」

「そっすか。あ、今日どっちの家に泊まります?」

「ど、どっち……ですか?」

「俺ん家でも全然問題ないですけど他人の家にお泊りするのが苦手って人も居るしその場合は透さんのとこ行きますけど」


 どっちでも俺は全然構わない。

 父が帰って来るのは十中八九明日の夕方だろうしな。早くても昼過ぎだ。

 俺が健康になったから気兼ねなく出かけられる、ってよりは俺に気を遣ってだ。

 幼い俺は親の時間を奪ったことを大層気にしていて父母もそれを察していた。

 だから健康になってからは外出の予定があると楽しんでるから大丈夫と示すように全力で遊んで来るのだ。

 ホント、最高の両親だぜ。


「……勇八くんのお部屋を見てみたい気もしますが自分のパーソナルスペースに招き入れるというのも捨て難い」


 うんうん唸りだしたので静かに見守るつもりだった。

 しかしめっちゃ葛藤しているようなので助け船を出すことに。


「次、違う方に泊まれば良いんじゃないですかね」

「次!?」

「今回だけで縁が途切れるとか勿体ないっしょ。いや透さんが迷惑ってんなら遠慮しますけど」

「全然全然迷惑じゃありません! オールオッケー! オールオッケーです!!」


 だろうね。


「じゃ、そういうわけなんでちゃちゃっと今日のを決めてくださいな」

「…………わ、私の家で」

「OK。じゃあ一旦帰って着替え取って来ますね。それと言い訳もここで決めときましょうか」


 親戚の子供説。病院時代に親切にしてくれて今も付き合いが続いているお姉さん。

 或いは俺が頼み込んで弟子にしてもらったとかでもありだな。

 俺が幾つか例を挙げると、


「し、しっかりしてますね」

「今時、小学生でもこれぐらいは平気でやりますって。で、どれにします?」

「じゃあ二番目で」

「OK」


 というわけで帰り支度を済ませて水道施設を後にする。

 一度お宅を拝見してみたいとのことなので透さんも一緒だ。


「……立派なお宅ですね。これもお父様の?」

「はい! 母さんと二人で夢を詰め込んだとか。あ、とりあえずお茶出しますね」

「いえお構いなく。まだ水が残ってますしね」

「そうですか?」


 ってかやけに興味津々だな。俺がどうとかではなく……。


「そんな面白いです? 普通の家だと思いますが」

「建築についても学んでいるので」

「え、透さんって文系じゃなかったんですか?」

「ああ、読書は単なる趣味ですよ。こう見えて工学部です」


 将来的にはステージギミックに関わる仕事に就きたいとのこと。

 マジかそっちの畑の人だったのか。


「そして恐らくですが、勇八くんのお家にもその手のギミック仕込まれてると思いますよ」

「マジで!? 嘘、どこ!?」


 殆ど病院でこの家は暮らし始めてまだ三年程度だがすっかり馴染んだ自覚はあるんだがな。

 暮らしててそんなの見たことないぞ俺。


「少し、探しても?」

「良いです! ってか探したいです!!」

「では王道の和室から拝見しましょうか」


 ということなので透さんを連れて和室に。

 和室に入った瞬間「ああ、ありますねこれ」と透さん。

 素人の目には普通の和室だがその手の知識がある人間には違いが分かるのだろうか?


「多分、ここをこうして……えい」

「うぉ!?」


 畳があり得ないひっくり返り方をした。当たれば吹っ飛ぶぐらいの勢いだ。


「ま、マジであったんだ……」

「あとは王道の掛け軸ですかね。あ、やっぱり。ほら、これをこう」


 掛け軸のある壁がバタンと回転し刀剣類のかかった壁が出現した。


「マジか……! 十波さん家ってばこんな楽しそうなお宅だったの!?」

「建築に関わる人間は自宅にこういう遊び心を見せる方が多いんですよ」


 多分、その内俺を驚かせるつもりだったんじゃないかと透さん。

 もしくは俺が独力で気付いてフフン、とドヤる気だったか。


「他にも色々ありそうですがこれぐらいにしておきましょうか」


 お父様の楽しみを奪うのも何ですしねと透さんは笑う。

 俺としても自分で探す楽しみが増えて嬉しいぜ。


「あ、そうだ。今日はそういう話も色々教えてもらって良いですか?」

「喜んで」

「やった! じゃ、直ぐ準備しますね!」

「……勇八くんのお部屋を拝見してもよろしいですか?」

「良いですよ~」


 見られて困るもんはないしな。


「これは女子プロFREEDOMの花形レスラー“プリンセスミーティア”……ファンなんですか?」


 でかでかと貼られたポスターやフィギュアを見て透さんがそう聞いて来るが、


「ファンっつーかママですね」

「ママ……え、お母さま!? ぷ、戦業の方でしたか」


 バトルスタイルがプロレスってだけでそこは言ってなかったもんな。そりゃ驚くわな。


「ってか透さんミーティア知ってたんですね」


 いやまあ確かに戦業ではあるけどさ。言うて団体としては中小レベルだからな。

 それなりに有名ではあるけど誰でも知ってるぐらいの知名度はないもん。


「え、ええ。友人が女子プロ好きでしてその関係で」

「へえ。あ、ちなみに飾ってるのは飾らないと母さんが拗ねるからです」


 ちなみに父さんの私室にも飾られてある。

 でも正直言うと中の人を知ってるから俺はミーティア推しではないんだよな。

 敵か味方かクイーンハーミットのが俺は好き。ハーミット、乱入しかしねえんだ。

 そういう脚本なんだろうけど必ず乱入して片方潰してから試合始めるのが面白過ぎる。


「ハーミット……確かに子供受けはあちらの方が良いかもしれませんね」

「パフォーマンスにやって来た着ぐるみが真っ二つに割れて中からハーミットが現れた時は死ぬほど笑いましたよ」


 逆に普通に試合組まれてたけど来ないパターンとかもあったな。

 普通にやるんだハーミットってなったけど腹痛のため欠席。

 相手の不戦勝で次の試合が始まってそこに乱入とか自由過ぎるのがハーミットの売りだ。

 しかもやたらつええんだ。無駄につええんだ。


「いやまあ、母さんも普通にカッコイイとは思うんですけど刺激がねえ」


 強いし試合も見てて楽しくはあるんだけどさ。プロレスなら俺は色物に片足突っ込んでるのが好きだ。

 だから年末のお約束であるミーティアVSハーミットでもハーミット応援しちゃう。


「……それお母さまに言っちゃダメですよ?」

「そこはまあ、はい」


 凹んじゃうからな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観もそうだけど主人公もシンプルに狂ってておもろすぎる。 この世界の設定考えたゲームクリエイターぶっ飛びすぎて口角上がるわ。 現実じゃ絶対むりだからこそ見たくなる
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