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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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ヤ×目×××プ編②

「ここは」

「開発途中で放棄された地下水路です。滅多なことでは人も来ませんしお誂え向きでしょう?」

「へえ?」


 良いんじゃないの?

 入り組んだ地下水路でやり合うというのは中々にそそるシチュエーションだ。

 剥き出しのパイプとかが良い味出してる。

 四角いリングの中でやるのも好きだが境界がないフリースタイルも俺は好きだ。


「昼間は誰も来ないので丁度……ぶっ!? い、いきなり何を」

「もう我慢できないってことですよ」


 シャツを脱いで荷物(本とか途中で買ったドリンクなど)と一緒に脇の方へ置く。

 流石に全裸でやるほど羞恥心を捨てたつもりはないがバトルで服が破れたら困るからな。

 せめてシャツぐらいは脱がせて欲しい。


「普段着ならともかく初めてのマチアプだからってんで気合入れてお気にのシャツ着て来ちゃったもんで」


 相手が柔道とか投げ技主体ならシャツを着たままにするが透さんは違うからな。

 ぐっ、ぐっと軽く準備運動をしつつあちらの準備が整うのを待つ。


「透さんはそのままで良いんですか?」


 シュっとしたパンツルックで動きやすそうではあるが上着ぐらいは脱いだ方が良いのでは?


「そ、そうですね」


 ごほん、と咳払いをして透さんはジャケットを脱ぎ二度三度、深呼吸をした。

 すると途端に空気が変わった。


「私はお姉さんですからね。リードして差し上げましょう。さ、どこからでもご自由に」


 相手の一撃をまずは受けるのが俺のスタイルだけど……歳の差があるからな。

 あちらからすればそれで終わってしまうかもしれないのだ。要求しても受け入れ難かろう。

 なら少しでも本気でやってもらえるようこっちが力を示すしかあるまい。


「では」

「!」


 カクカクと不自然な姿勢で超速接近する俺に透さんは目を見開いた。

 必殺とキャンセルを利用した移動方法。見た目がキモいのが難点だが速さはお墨付き。

 脇腹に拳を差し込もうとすると透さんが攻撃を弾かんと手を動かす……が。


「キャンセル!?」


 更にキャンセルし懐に潜り込みそのまま跳躍。頭突きで顎を弾いてやった。

 着地と同時にバックステップで距離を取り様子を窺う。

 当然のことながらダメージは殆どない。しかし今のであちらの認識も改まったようだ。


「驚きました。その歳でここまでやれるだなんて。早熟の天才、というやつでしょうか」


 早熟?


「冗談じゃねえ! こちとらくたばる寸前まで熟れ熟れパッションフルーツさァ!!」


 小学生と大学生。男と女ではあるがその体格差は如何ともし難い。

 それを承知の上で速さに重きを置いた必殺LA・LA・LA LOVE RUSHを繰り出した。

 速さを優先しているので威力は低く、そこに体格差も加われば更に軽いものになるだろう。

 だがそれならそれでやりようはある、


「ごめんなさい。私の態度はあまりにも失礼でしたね」


 と思ってたんだがなあ。

 頬を紅潮させ興奮を滲ませたまま透さんは俺の攻撃を捌き始めた。


(カットがうめえ……体格差ゆえじゃない、テクだこれは!!)


 大した威力もない連打を仕掛けることで俺はそれを布石にしようとしていた。

 心理的な隙を誘発して蜂の一刺しをくれてやるつもりだったんだ。

 だが透さんは肘から先の動きだけで器用に俺の連打を全て弾いてのけたのだ。

 油断はない。この状態では刺せない。


「!?」


 そして連打の切れ間。

 最小限の動きで最短ルートを進んで来た縦拳が俺の顔面を打ち抜いた。

 衝撃が走り吹っ飛ぶ俺。咄嗟に受け身を取って即座に体勢を立て直すと同時に鼻から血が流れ出す。


「まだ続けますか、なんて問いは愚――――」

「そうですね。やめましょうか」

「え゛」


 火照りだした身体。これからだろうというところで梯子を外された透さんがキョドり出す。

 俺は挑発的な笑みを浮かべ言ってやる。


「気に入らねえつってんだよ。まるで俺だけが“その気”になってるみてえじゃねえか」


 指鉄砲でその胸を撃つ。

 目を丸くする透さんに俺は言ってやる。


「気取った童貞よりストレートにパッションぶつけて来る童貞のが俺はカッコイイと思うがね」

「……またしても失礼かましてしまいましたね。一から十まで勇八くんが正しい」


 すぅ、と息を吸い込むと透さんは更に顔を赤くして叫んだ。


「OK!!(副音声:肉食系小悪魔小学生と歳の差決闘(おねショタ)キメたいですッッッ!!!!)」

「OK!!(副音声:よし来たそれでこそだ! 互いに求め合ってこそだよな!? バトルってのはさァ!!)」


 地を蹴り駆け出す向かう先は透さん――ではなく剥き出しのパイプだ。

 折角の地形を活かして遊ぼうぜ。俺の声無き誘いに頷き透さんも後を追って来る。

 パイプの上を走りながら三次元的に地形を確認し、攻め方を考える。


(よし決めた)


 動きを制限させてもらおう。

 狭い小道? トンネル? に突っ込む。透さんも入れはするだろうが十全に動こうとなればかなりキツかろう。

 タ、タ、タと壁を走ってターン、飛び込むように仕掛ける俺に彼女は告げる。


「先ほどは見事な連打を見せてくれましたね。私もお返しをしましょう」

「?!」


 キュっと腋を締めた状態でコンパクトに畳まれていた腕が伸びた。

 滑車に繋がれたように滑らかな動きで速射砲のように繰り出される拳が俺を打ち抜く。

 空中でラッシュを決められ〆の縦拳で体力ゲージが半分を切った。

 だが追撃は止まない。吹っ飛んだ俺を追って距離を詰め着地の瞬間に薙ぎ払うようなミドルキック。


(こ、悉く潰される!!)


 黙ってやられるつもりはない。流れを引き戻そうと俺は幾度も反撃を試みた。

 しかしその悉くが封殺され結局、空中での連射から六秒ほどで俺のゲージは削り切られてしまった。

 ふっ、と息を吐き軽く髪をかき上げる勝利ポーズが終わったところで俺は興奮気味に告げる。


「すごい! めちゃすごでしたよ透さん! 最高、最高だった!!」

「……」

「透さん? あ、すいません。ナマ言ったわりに楽しませてあげられなくて」

「い、いえそうではなくて」


 ?


「勇八くんぐらいの年齢だと……私もそうでしたが負ければ不貞腐れてしまうものだと」


 何ならあまりの大人げなさに嫌われたかもと不安になったのだという。

 俺は透さんの言葉を笑い飛ばしてやった。


「まさか! いや負けて悔しい気持ちはそりゃありますよ?」


 でもそれとバトルの最中に感じていた楽しさや相手へのリスペクトは別物だろう。

 それに悔しいというのも己の不甲斐なさであった透さんへのネガティブな感情ではない。


「透さんには最ッ高にドキドキさせてもらったもん」

「……はぅ!?」

「どうしました?」

「い、いえ。あまりに眩い笑顔に我が身を省みさせられたと申しますか」


 ああうん。そもそも下心ありでマチアプやってるわけだしね。

 でもそれは俺だってそうじゃん? けど俺には負い目は全然ないけどね。


「求め合った結果、拳を交えた。それで良いと思いますけどね」


 あんま難しいこと考えて楽しい思い出に水を差すのはどうかと思う。


「それとも透さんは俺とヤってて楽しくなかった?」

「……楽しかった、です。最初は年下。それも一つ二つではなく十離れた相手ということで」


 その、と言葉を濁す透さん。

 大丈夫大丈夫。分かってるよ。俺は気にしないと笑いかける。


「は、背徳感を楽しむことが目的でしたが勇八くんがあまりにも楽しそうだから」


 私も純粋に楽しめた、か。

 まだ素直じゃないな。俺は気にしないって言ったのに。


「おねショタもバトルも両方楽しめました! グッゲーム! で良いと思いますよ」

「そ、そうですか……何でしょうこのエロ漫画に出て来る性に寛容なお姉さんのようなショタは……」


 ドキドキが止まりません、と小声で言ってるがちゃんと聞こえてるからな。

 まあ武士の情けで聞かなかったことにしてあげるけど。


「あ、そうだお金」

「あ、良いです別に。あれ募集のために書いただけだから」


 ただでバトろうぜとか言うと余計に釣り臭さが増すから書いただけだし。

 過不足なく綺麗にゲージを削ってくれてオーバーキルとかもなかったから病院代も必要ない。


「し、しかしここまで楽しませてもらったのに何もなしというのは」


 後ろめたさもあるかな?


「じゃあ俺が満足するまでもっと付き合ってもらって良いですか? バトルだけじゃなく色々教えてもらいたいこともあるし」

「そ、それは構いませんがそれだと私ばかり得しているような」

「満足するまでって言ったでしょ?」


 俺は欲張りな男だからな。早々に帰しはしないぜ。

 お誂え向きに今日は父さんも帰って来ないからな。

 仕事の打ち上げで一泊してくるそうな。今朝、いきなり言われた。

 あれ言わなかったっけ? みたいな顔してたけど聞いてねえよ。父さんはそういうとこある。


「どうしても外せない用事あるとかなら別ですけど泊まりはもう半ば確定ですからね」

「泊ま……!?」


 透さんは身体を折り曲げながら鼻を抑えた。

 興奮してるようだけど興奮して鼻血出すってあれマジなのかな?


「た~っぷりワガママ聞いてもらうつもりですし……ね?」

「わ、分かりました」

「じゃ早速、截拳道について教えてくーださい!!」

「ええ。ああでも、ここはアレなんで最初の開けた場所に戻ってからにしましょうか」

「そうですね。脱いだシャツも置きっぱですし」


 というわけで来た道を戻り服を着直す。


「勇八くんは截拳道についてどれぐらい知っていますか?」

「殆ど何も。初見の感動を味わいたかったので!」


 なので知っていることと言えば名前と開祖がアクションスターであること。

 そして身を以って知った、


「“ガチ”だってことぐらいですかね」

「ふふ、そうですか。では基本的なところから説明致しましょう」


 ミネラルウォーターで喉を潤した透さんは懐からメモ帳を取り出しペンを走らせた。


「截拳道とはこう書きます」

「知らない漢字だ……拳と道は分かりますけど」

「まあ小学生で習う漢字ではありませんね。常用漢字というわけでもありませんし」


 こほんと咳払いをし透さんは続ける。


「この字はたつ、きる、たちきると言った意味を持ちます」

「つまり」

「はい。読んで字の如く相手の「拳」を「截」つ武術なわけです」

「道理で……」


 思い返すのは怒涛の追撃だ。

 流れを引き戻そうとする俺の攻撃を悉く潰してのけた技術。

 あれが截拳道の肝ってわけか。

 出鼻を挫く。巧みなフェイントを織り交ぜる。鋭いカウンターを突き刺す。

 様々なやり方で俺の攻撃は封殺された。


「相手の攻撃を潰して一方的にこちらの攻撃を叩き込むというのが截拳道の基本的な戦術になります」

「んん? となると同格や格上相手には」


 厳しくなかろうか? 基本的な立ち回りが通じ難くなるのは必定だ。


「と、思うでしょう? 実はそうでもありません」


 曰く、截拳道は決まった型を持たず基本的な戦闘哲学を下に常に進化し続けるというのが理念なのだという。

 俺が抱いた疑問も先駆者たちは当然、熟知していた。

 そういう穴を埋めるための技術もちゃんと存在しているとのこと。


「その理念ゆえ同じ截拳道の使い手でもまったく似ていないということはままあります」


 基礎を築いた上でそこから己に合わせて最適化させていく。

 截拳道のみならずどの武術にも共通することだ。

 しかし截拳道はその理念ゆえ、人によってはかなり乖離することもあるのだという。

 進化を柱とするがゆえアプローチも多岐に渡るってことか。


「私はまあ、オーソドックスというかあまり癖のない使い手に分類されるでしょう」


 自分なりに工夫は入れている。

 しかし大胆なものではなくあくまで自分の気質や身体に合わせたものなのだとか。


「言い方は悪いですが小細工レベルでしょう」

「でも小細工だって幾つも積み重なれば大きな力になるんじゃないですか?」


 小を寄り集めて大に勝つ名作スイミーは皆、ご存じだろう。

 透さんのそれはきっとスイミーと同じだ。


「……面映ゆいですね。どうしてそのように感じたのですか?」

「だって透さん、綺麗ですもん」


 その動きの随所に俺は地道で丁寧な努力を感じた。

 あっさい工夫をどれだけ積み重ねてもこうはなるまい。


「『God is in the details』」


 とある建築家の言葉だ。


「……神は細部に宿る」


 博識っぽい透さんなら知ってるか。

 ちなみに俺がこれを知ってるのは父の影響だ。


「人も家も同じです。人には見え難い部分でも手を抜かず丁寧に作り上げるから完成したそれは輝くんです」


 あいや人の場合は完成と言うのは少々違うか。

 人間は家と違ってずっと積み重ねていくわけだしな。

 まあでもええやろ。ニュアンスは多分、伝わってる。


「だから透さんも見惚れるぐらい綺麗なんだと思いますよ」

「……」

「透さん?」

「君は、君はもう……本当にもう……」

「?」

「……いえ、ありがとうございます」

「どういたしまして? それより続き! 続きお願いします!!」


 截拳道についてもっと知りてえんだ。

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