席替え鉄拳伝 Result
席替えトーナメントで優勝を果たした俺は見事、窓側の一番後ろという王様席をゲットできた。
前世でも席替えでここら付近に当たると嬉しかったが今感じている喜びはその比ではない。
運だけで掴んだものと血を流して掴み取ったものの差だと思う。
(席替え一つでこの充足感。何だこの世界パラダイスか?)
身体はボロボロ。あちこち痛いがこの上なく満足している。
おっと、俺だけじゃないぜ? 皆もそうさ。
負けた悔しさはある。でも胸を張って誇れる戦いをしたんだもの。
そりゃあ満たされるさ。次は勝つって前向きな炎を燃やせるさ。
「明日は調理実習あるから皆、エプロン忘れずになー」
あとは何かあったっけと先生がうんうん唸っている。
空気は読めるのだがこういう連絡事項とか忘れがちでちょい抜けてるんだよな先生って。
だが本人の人柄ゆえ不快には感じない。やっぱ大事だよ性格って。
「あ、そうそう。不審者情報だ。最近、小学生を狙って声をかける不審者が居るから気を付けるように」
息を荒げながらおじさんと戦わない? などと言ってくるそうだ。
なるほど確かに不審者だ。前世とはベクトル違うけど不審者だ。
戦業は年齢性別問わず誰とだってやるがアマは違う。公式大会でも年代別で分かれてたりするしな。
昨今では上司の立場を笠に着て部下にバトルを迫るバトハラも社会問題になってるぐらいだしな。
闘争心溢れる人類の居る世界ならムカついたら殴り飛ばすし問題ねえだろって?
いやムカつくとかそういうんではなく単純に気持ち悪いと思う感性もあるから別問題なのだ。
「へへ、んなキモ親父キン●マに一発よ」
などと血気盛んなクラスメイトが口にするがこれはよろしくない。
手を出せばバトルに同意したとされてしまうからな。防犯ブザーが正解だ。
(まあ俺はやるけどな)
席替えトーナメントを提案したこと自体、欲求不満ゆえだもん。
他学区の悪ガキたちとやり合うのも楽しいけどファイターとしてはね?
やっぱりこう、公に認められた場で戦いたい欲もある。
子供が不審者に挑むのはそれとは外れてしまうが勝てば話は別だ。
後から認められたバトルになる。全て問題なし、だ。
「じゃ、帰りの会はこれで終わり。掃除当番はさぼんなよ~」
というわけで放課後。
この後は佐吉を含む普段つるんでる奴らと一緒に駄菓子屋に行く予定だ。
賭けの景品だな。奢ったり奢られたりするので結局トントンだろう。
「おい早く行こうぜ」
「いや俺ら掃除当番だし」
「勇八だけだかんな今日当番じゃねえの」
「どっかでテキトーに時間潰してろよ」
俺を寂しん坊と知っての狼藉か?
「知らんし」
「ってかそれなら掃除手伝ってよ」
「じゃ、俺屋上で時間潰してっから」
「コイツ……」
一応、中身は大人だが子供として暮らしてるんだ。そりゃ劣化するよねって。
正直もう多少論理的な思考ができる程度のガキだと思う俺。
いやホント、大人の時は別にどうとも思わなかったんだが今は掃除とかクソ面倒くせえんだ。
自分でもどうかと思うほどかったるい。なので手伝うという選択肢はあり得ない。
るんたったとスキップで教室を出て屋上に向かうと心地よい五月の風が頬を撫でた。
「はー……」
先客はおらず俺の貸し切り。
気分が良くなった俺は貯水槽に上がってそのまま大の字に寝転がった。
目を閉じ大きく息を吸い込み今日の戦いを反芻する。
「ふふ」
クラスメイトたちと互いをぶつけ合えたことが本当に嬉しい。
これからクラス替えまで二年、一緒に居るんだ。早い内にこうなれたのは僥倖だろう。
みんなみんな良い奴ばかりだ。
今回は俺が提案したけど次は別の誰かがやるだろう。
ねじ込めそうなチャンスがあれば絶対、見逃さない。
その時は今回よりずっとずっと強くなってるはず。
「――――楽しそうだね」
ふと影がかかる。
目を開ければ傍らに相沢さんが立っていた。
「そりゃもう。相沢さんは楽しくなかったかい?」
「楽しかったよ。嘘偽りなくね。でもさ、勇八くん。あれはないんじゃない?」
あれ、とは……まあ、あれだろう。
「私、こう見えても乙女なんですけど」
じとーっと半目で俺を見る相沢さん。
俺はただいや、ははと愛想笑いを浮かべることしかできない。
「そりゃ受け止めるって言ったのは私だよ? 真正面からぶち抜けなかった私が悪いって言われたらその通り」
「……」
「あんな形でファーストキス奪われるなんて想像もしてなかったよ」
いやもうまったく以って仰る通り。返す言葉もないで御座る。
バトルの最中は気分が高揚してたからさして気にもならなかった。
でも賢者モード入った後で振り返ると……。
(ぶっちゃけ超必出す必要あったかって言われるとな)
出さなくても勝てたと思う。他にも技はあるわけだしな。
何度でもキスしたかったと繰り出したのはひとえにテンションぶち上がりしたからだもん。
気分で乙女の初キス奪ったのは……しかも小学生の……。
「なんて、ね」
「へ?」
「冗談だよじょーだん。確かにちょっと驚いたけどさ。でもあれが勇八くんなんだもんね」
お、おぉ……何て懐の大きい……。
「驚いたけどさ。うん、嬉しかった。あんなに真っ直ぐ熱いハートでぶつかってくれて、さ」
「相沢さん」
「……でも私以外の子には、使わない方が良いと思うよ?」
今はまだ子供だから良いかもしれないけど、とませたことを言う相沢さん。
これまた仰る通りなのだが、
「あれもう完全に気分だからなあ」
セクハラ超必殺という謗りを受けるとしてもこれが俺の超必殺なのだから仕方ない。
愛が溢れて放たれる技だからして自制が効くかはひっじょーに怪しい。
「まあとりあえずなるべく男だけに使うよう気をつけるよ」
「いや男だから良いってわけでもないと思うんですけど。というか勇八くんどっちも、なの?」
もじもじとそう聞いて来る相沢さんはやっぱませてる。
いや女の子だからそうでもないのか? 男より心身共に成長が早いって聞くし。
「いや俺はノーマルだよ」
というか愛って言っても色欲じゃねえから。
エロスではなくアガペーに近いと思う。だから性別の垣根はないんだ。
お爺ちゃん先生にもぶっぱしたぐらいだしな。
「愛が……愛がデカ過ぎる……!!」
「まあ小さいよりは良いんじゃないかな! 俺が言うのも何だけど!!」
とまらねえんだ、愛しさが。
「それはそうと相沢さん、身体の方は大丈夫なのかい?」
「手加減してくれたのか体力ギリギリだったから威力が半減したのか。ヒビぐらいで済んだよ」
一週間ぐらいで治るんじゃないかなとのこと。それは良かった。
「そういう勇八くんこそ平気なの? 私の蹴り完璧に食らったよね?」
「ああうん。あれは良い……実に素晴らしい蹴りだった」
つま先が突き刺さった胸を撫でる。
多分、骨をやってる。内臓も傷ついてるんじゃないかな。
しかしこの痛みをこそ俺は愛おしく思うので全て問題なし。
健康体になったことで治癒能力もこの世界の人間基準になったからな。数日安静にしてりゃ大丈夫だろう。
「鎮痛剤ぐらいは飲んだら?」
「よしてくれ。この痛みこそが君と俺を繋ぐ絆じゃないか」
痛みを感じる度、あの素晴らしい戦いを何度も思い返すだろう。
いや痛みや傷が消えてからもそうだ。折に触れてきっと思い返す。
「まったく……もう」
ぷいと顔を逸らしながら相沢さんは言う。
「そこまで感動したんなら苗字呼びは他人行儀じゃない?」
言われてみれば。
相沢さんが俺を下の名前で呼んでたのもそれが理由か。
「じゃあ茉優ちゃん」
「……」
「茉優ちゃん?」
「あ、ううん。何でもない。うん、それで良いのそれで」
ふふ、と笑う茉優ちゃん。
やっぱり品があるなあ。俺とは大違いだよ。
「ねえ勇八くん」
「何だい?」
「次は、私が勝つから」
隣り合っていた茉優ちゃんが滑るように俺の前に立つ。
後ろで手を組み屈みこんで俺を覗き込むように続ける。
「もっと強くなってもっと可愛くなってリベンジするから」
そして、
「――――ちゃんと私のこと、見ててよね?」
花のように笑った。
「ああ、勿論だとも。心から楽しみにしてる」
「ありがと。じゃ、ばいばい」
たん、と貯水槽を蹴って茉優ちゃんは去って行った。
「たまんねえな」
それから佐吉と合流し駄菓子を買い込んで丘の上にある自然公園でパーリタイム。
お菓子を食べながら今日のバトルについて日が暮れるまで語り合った。
充実した気分のまま帰宅すると仕事を終えた父が俺を出迎えてくれた。
父は建築士で自宅と事務所が繋がってるのでほぼ在宅仕事のようなものなのだ。
「やあ、おかえり」
「ただいま! 手ぇ洗って来るね! あ、これ連絡帳!!」
連絡帳を渡して洗面所へ。
席替えトーナメントの話は長くなるからな。まずは手洗いうがいだ。
しっかり手洗いうがいをしてリビングに戻ると父は喜色満面といった様子で俺に声をかけてきた。
「お前勇八! やったなぁオイ!」
「?」
「連絡帳に書いてあったぞ。今日は席替えトーナメントをしたそうじゃないか」
あ、連絡帳に書いてあったのね。
俺から切り出そうと思ってたのでちょっと出鼻をくじかれた感あるがまあ良い。
「うん! バッチリ優勝キメちゃいました!!」
簡易勝利ポーズで雷をバチらせアピール。
父はよくやった! と俺を褒めてくれた。
「皆素敵なファイターでさ。特に決勝。茉優ちゃん――相沢茉優ちゃんって子となんだけどね」
「ふむふむ」
「バレエの動きを取り入れた華麗な動きで蹴り技がもうすんごいの!」
見てこれ! とシャツを脱ぎ蹴りを喰らった胸元を見せつける。
すると父はおぉ、これはと顎を摩りながら感心したように何度も頷いた。
「この年齢でこれかぁ……将来は戦業かな?」
「だろうね。今の段階でもゲージ出現させられてたし」
「まっじか! すごいじゃないかその女の子!」
そんな子とやれたなんて良い経験だと父は嬉しそうに笑っていたが、
「ホントね。超必殺まで出しちゃったよ」
「え゛」
ぴくりと頬が引き攣った。
「使ったの? 使っちゃったの勇八? え、どっち? あっちならまあ」
「何度でもキスしたかった」
「そっちか! えぇ……マジかお前……お前……うわぁ……セーフ、セーフなのか子供だし?」
「大丈夫だって父さん」
屋上でのやり取りを一字一句そのまま伝えてやる。
茉優ちゃんが懐のでっけえ女であることを教えてやったのだが、
「マジかお前」
何故か知らんが更に頬が引き攣った。
「お前……お前、それどう考えても……」
「……?」
「いや良いや。何かもう、しっかりしたお子さんみたいだし」
「何言うとんの?」
何でもないと父は頭を振りパンと手を叩いた。
「ママにも教えてやらないとな! きっと喜ぶぞ!!」
と父はいそいそとスマホを操作しだした。
「あ、写真撮るから服脱いだままポーズ取って!」
「りょ」
ナイトでフィーバーなポーズをキメてやる。
ちなみに母は現役レスラーだ。
出産を機に引退するつもりだったのだが所属する団体の花形だったからな。
残留を乞われ一先ず保留にしてる内に俺が生まれとんでもねえ病弱であることが発覚。
父も稼いでいるが足りねえと医療費のため産後間もなく復帰しバリバリ戦ってる。
今も続けてるのは何かと援助してくれた団体への義理もあるが、俺の一言が原因だ。
鍛錬を終え病室に戻り母が出ているという試合映像を見た時のことだ。
『かあさんカッケーな!!』
『え、そ、そう? ママカッコいい?』
『ちょうかっけー!!』
褒められたのが超嬉しかったらしい。
戦うママの姿をもっと見て欲しいもっと褒めて欲しいということで今も現役を続けているのだ。
ちなみに父との馴れ初めは高校時代のプロレス部でヒールタッグを組んだのが切っ掛けなのだとか。
当時のリングネームはボニー十三世とクライド四十九世でタッグネームは蘇った悪夢だ。
時系列どうなってんだとかそこは合わせとけよと思ったが不吉を優先したのだろう。
「とりあえずママが巡業から帰って来た時にもお祝いはするとして今日も何かしないとな」
「別にいーよ。十分楽しんだし」
「そう言うなって。とりあえず今日は外で食べようか。何食べたい?」
「肉」
「じゃあ焼肉だな。あとはプレゼントも買ってやろう」
「ご飯だけで十分だって」
「わがままが過ぎるのはどうかと思うが欲しがり過ぎないのも駄目だぞ」
玩具とか全然欲しがらないじゃないかと父が困った顔をする。
いや興味ねえし。娯楽はバトルで十分っつーか。
「あ、そうだ。スマホ! スマホ買ってやろう! これで何時でも動画とか見られるぞ!!」
「それは嬉しいけど父さんのあるじゃん」
父さんは仕事とプライベートでスマホ分けてるが基本、プライベートの方はテーブルの上に置きっぱだ。
動画(当然バトル)はかなり見る方だけど父さんのスマホと家族用のPCで事足りてる。
「いやでも自分専用のが嬉しくないか? 父さん初めて携帯電話買ってもらった時、かなりブチ上がったもんだが」
「うーん」
「ママだって勇八と連絡できればすっごい喜ぶぞ?」
あ、いや待てよ。スマホが手に入れば……。
「……良いかもしれない。うん、俺だけのスマホか」
「お、乗って来たな? よしよし、じゃあショップ行ってそれから焼肉だ!!」
参ったな。日々の彩りが増しちまうぜ。




