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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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2/22

席替え鉄拳伝②

 昼休み。

 一回戦は午前中の内に消化することができた。

 長引く試合もあったが場の熱にあてられたのだろう。

 リング外で勝手に始めるのも居て同時進行での試合があったりもしたからな。

 ちなみに先生は場外での戦いを叱らなかった。


『まったくお前らと来たら……先生を泣かせるんじゃないよ』


 可愛い可愛い教え子のファイティングスピリッツに感動しきりだ。

 先生は昔ながらの人情家で涙脆いのだ。

 さて。試合が終わったということは勝者と敗者で色分けが成されたということ。

 しかし教室内の空気は決して悪いものではない。むしろ何時も以上に温かい。

 そりゃそうだ。憎くて戦ったわけではないのだから。

 願いがあってそれを叶えるために全霊でぶつかり合った結果。そこに悪感情など生まれようはずもない。

 いずれそれぞれのスタンスが定まればまた話は変わって来るかもしれないがな。


「よォはっちゃん。呑気にとんかつ食ってるけど大丈夫なんかよ」


 友人の野田佐吉が声をかけて来た。


「何が?」


 ちな今日の給食の献立はとんかつがメインだ。

 まあ給食ゆえ店やご家庭のそれに比べると肉は物足りないがこれはこれで悪いものではない。


「次、はっちゃんと当たるのは弁慶だろ。アイツは文句なしの優勝候補だぜ」


 弁慶というのはあだ名だ。フルネームは員弁 慶(いなべ けい)

 小三でありながら既に身長は150近くあり体重も相応のものがある。

 かと言って決してガタイだけの男ではない。堅実に積み上げ続けている柔道の腕前もかなりのもの。

 油断慢心もない。強さを鼻にかけない謙虚な武人タイプ。優勝候補の看板に偽りなしだ。

 だが、


「全て問題なし」

「……問題なく勝てるってか?」

「そうじゃない。そうじゃないさ」


 無論、やるからには当然勝ちを目指す。戦う上でそりゃあ大前提さ。

 本気で勝ちに行かないとか無礼にもほどがあるからな。

 けど、そうじゃない。俺が言ってるのはそういうことじゃないんだ。


「勝てるからやる。勝てないからやる。そういうんじゃないだろ?」


 やりたいからやるんだ。だったら全力で楽しむのが筋ってもの。


「今俺がすべきは何だ? 全力で楽しむため全力で飯を食うことじゃないのか?」

「はっちゃん……いや、そうだな。そうだよ。はっちゃんの言う通りだ。ごめんね」

「良いさ。プリン貰うぜ」

「何でだよ!!」

「賭けただろ」

「う゛」


 たっぷり食べて、食べた後は裏庭で時間ギリギリまでお昼寝。

 食べて直ぐに寝るとか体に悪い、なんてのは関係ない。

 心の調子を整えるのが最優先。だから気持ちいいことは我慢しない。


「絶好調、だな」

「ああそうさ」


 リングの上で向かい合う。

 今日の空よりも澄み渡った心。満たされた腹と相まって幸福の絶頂に居るようだ。

 弁慶は寡黙で表情も乏しい。だけど俺と戦うことを楽しみにしてくれていたのだろう。口元が微かに緩んでいる。

 それがどうしようもなく嬉しくって俺も笑ってしまった。


「やろう。弁慶」


 互いのすべてをぶつけ合う気持ちの良い戦いを。


「ああ。やるぞ十波」


 試合開始の合図を待たず俺たちは歩き出す。咎める声はない。

 先生が空気を読んでくれたのだ。こういう気遣いができるのがモテる男の秘訣なんだよね。


「「ッッ!!」」


 互いの領域に入ったところで真っ向から組み合う。

 体格差。柔道経験の有無。当然のことながら均衡は一瞬にして破られ綺麗な一本背負いを決められる。

 受け身は取ったがその衝撃は生半なものではなくこひゅ、と変な息が出てしまう。

 ダウンした相手への追撃もありだが弁慶はしない。あくまで柔道一本で、ってことだろう。


「カッコ良過ぎるぜ」


 手をつけ倒立。勢いのままに跳躍。思いっきり体を捻りながら蹴りを放つ。

 どっしりと根を張る大樹のような弁慶相手に飛び蹴りという不安定を見舞う。

 悪手、のように思えるかい? 違うんだなこれが。


「!」


 冷静に蹴り足を捕らえようとしていた弁慶の顔が驚愕に染まる。

 そりゃそうだ。蹴ろうとしていた俺の右足が空中でぴたりと止まったのだから。

 一瞬とは言え物理的にどう考えてもおかしい不自然な滞空から更に一回転。

 左足で弁慶の頭部を強かに打ち据える。


「あれは」

「間違いない」


 どよめき。


≪“キャンセル”!!≫


 技の硬直(隙)をなくして別の技を出す。格闘ゲームのお約束だ。

 コマンドを打つ人類なのだからキャンセルも当然、実装されてるわな。


「つ、使えんのかよ勇八!」


 使えるとも。

 現実でコントローラーを手にやるのとは勝手が違うからかなり苦労したがな。

 打倒病魔を掲げて鍛え続けていた時に身に着けた。


「驚いた」

「そうかい? ならもっと驚かせてやるよ」


 楽しそうに褒めてくれるものだから俺も嬉しくなってしまった。

 後が辛くなるけどテンション上がっちゃったんだからしょうがない。


「! !?!!!?」


 組み付こうとした弁慶に真っ向からぶつかるように見せかけキャンセルし横に回り込む。

 横っ面に右拳を繰り出す。見えていたようで腕を挟み込みガードしようとするがキャンセル。左拳で横腹を打つ。

 行動キャンセル別の行動。行動キャンセル別の行動。行動キャンセル別の行動。行動キャンセル別の行動。

 キャンセルを挟み続けながらひたすらに弁慶を翻弄し打ち据えていく。


「……は?」

「きゃ、キャンセル連打……?」

「ここまで来るともう」


 その通り。これは俺の必殺技の一つ“この拳を止めてよ”だ。

 ありとあらゆる行動にキャンセルを挟み込むことができる。

 でもまだだ。優勝候補の名に恥じず俺に全力でぶつかって来てくれた弁慶に報いるならもっと!!


「……あれ? 何かおかしくない?」


 殴って殴られて。蹴って蹴られて。

 正面切っての殴り合いに興じる俺たちを見て誰かが呟いた。


「柔道にも打撃技……当身はあるけど」

「幾ら何でも多用し過ぎってか当身しか使ってない」

「せ、せんせぇ! これ! これ!」

「ああ。員弁は完全に十波の流れに巻き込まれている――――これは必殺技だ」


 ふふ、はは。


「Exactly!!」


 叫び答えると同時にディスコミュージックが流れ出す。

 ヒップアタック気味に互いに腰をぶつけ弾かれ合う。

 そして弾かれた勢いで身体を捻り反動をつけてフックを互いの顔面に突き刺す。


「その名も“君にPUNCH”」


 テンポの良いメロディに乗って踊るように殴り合うこの状況こそが必殺技。

 正面切っての殴り合いの強制。この場ではノってる奴が強くなる。

 嵌まってしまえばどちらかが倒れるか六分十三秒が経過するまでここからは抜け出せない。


「俺とお前が居て! 拳と音楽がある! だったらもうそこはフロアだろうがよ!!」


 うわははははははははははは!!!!!


「気取ってたら負けちまうぜ!? べぇええんけぇえええええええええええええ!!!」

「……まったく……最高だなお前は!!」


 二分十三秒。俺たちは互いに上着を脱ぎ捨てる。

 リング外から飛来したペットボトルをキャッチし中身を頭から被った。


「ラストスパートか」

「ああ、ラストスパートさ」


 四分四秒。ドツキ合いの最中、旋律に寂しさが混ざり始めた。

 でもそれを吹き飛ばすように踊るのさ。


「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」


 果ての果て。上り詰めて俺たちは弾けた。


「見事だ……とな、み……」


 六分十三秒。

 弁慶が倒れ俺は立っている。勝者は俺だ。

 ミラーボールの光に照らされ衝動のままにステップを踏みスピンを刻む。

 最後に腰を捻りながら高々と左腕を掲げキメ。


「最高だったぜ弁慶」


 よっこらせと弁慶を背負いリングを下りる。


「二回戦初っ端から熱くさせてくれるね!!」

「僕らも負けてらんないや!」

「おい勇八! 俺も勝って上がるから次は俺だぞ!!」

「はぁ!? 俺に決まってんだろうが!!」


 胸打つ戦いができたようだ。


「お疲れはっちゃん。最高だったぜ」

「サンキュ」

「ったく……負けちまったのが本当に悔しいよ。俺もはっちゃんとやりたかった」

「その悔しさをバネに次、頑張れば良いさ」


 と、そこで鋭い。殺気にも似た視線を感じた。


「ああ――って、どした?」

「……ん、何でもない」


 ちらりと殺気を飛ばして来たクラスメイトを横目で窺う。

 艶やかな前髪を綺麗に切り揃えたツーサイドアップの女の子と視線が交わる。

 白とピンクを基調にしたふりふりの服と相まってお姫様のような彼女の名は相沢茉優(まゆ)


「おめでとう十波くん」

「ああ、ありがとう相沢さん」


 勝利を祝う言葉とは裏腹にその目には俺への敵意が滲んでいる。

 ……順当に勝ち上がることができれば、多分最後に当たるのは彼女とだ。

 嫌われてる理由は分からないが、まあそれも含めてリングで語り合えば良いだけだ。

 じゃ、と差って行った相沢さんを見送り腰を下ろす。

 次に備えて少しでも休まんとな。


「ねねね!」

「多江ちゃん。どしたん?」


 戦う男の必需品。カロリーファイトを齧ってたら多江ちゃんが話しかけて来た。

 順番的に次は彼女なんだが対戦相手の大ちゃんが便所の住人になってるので後に回されたのだ。


「あのあれ! 必殺技!」

「あー、君にPUNCH?」

「そうそれ! あれどうやるの!? 私もあんな感じの使いたい!!」


 勝利ポーズにダンスを取り入れていることも分かるように多江ちゃんはリズムを重視するスタイルだ。

 となれば俺の君パンに興味がわくのも当然だろう。

 俺としても惜しみなく教えてやりたいんだが……必殺技ってそういうもんじゃねえしなあ。


「多江ちゃんが今のスタイルのまま鍛え続けてればピッタリな必殺技浮かぶと思うよ?」

「それママとかも言ってるけどさあ。ホントに必殺技っていきなりできちゃうようなものなの?」

「ものだよ」


 相伝系のもあるらしいが必殺技は基本、天啓方式だ。

 バトルスタイルだったり心の在り方だったりがある日、突然結実してコマンドが脳裏に浮かぶ。


「ってかあれやばくね? 打撃が得意じゃないのを無理矢理土俵に引き摺り込むとかさ」

「まあね。ただその分、発動条件も難しいからアレ」


 佐吉の言うように投げや関節主体の相手が君パンを食らえばかなりキツイだろう。

 だからこそ君パンはコマンドだけでは出せないようになっている。

 条件を満たした上でコマンドを叩き込まないと技が始まらないのだ。


「へえ、条件って?」

「野田くん、普通そういうの聞かないわ。マナーよマナー」

「いや良いよ別に。俺は隠すタイプじゃないし」


 君パン含め半分ぐらい必殺が条件付きなんだよなあ俺。


「音楽が流れ出すまでの打撃戦あったでしょ?」

「「うん」」

「あれは必殺じゃなくこっちの立ち回りで付き合わせてたのね」

「あ、じゃあ一定時間自分だけで巻き込んでからってことか?」


 惜しい。


「も一つ条件あるんだ。ペースに巻き込みながら打撃でリズムを刻むこと」


 音ゲー方式だな。

 そこでコマンドが解禁されタイミングよく入力すれば音楽が流れだし必殺が始まるのだ。


「クッソめんどくさ!!」

「最高じゃない! 良いわ私、そういうのすっごく良いと思う!!」


 両極端な反応だ。

 多江ちゃん的には好みだろうさ。でも音楽系の趣味趣向がなければただ面倒なだけだ。

 まあそもそも好ましいと思ってなかったらこんな技生まれないけどな。


「十波のそんな複雑なんだなあ。俺も必殺使えるけど普通にコマンド入れるだけだわ」

「あたしも~」


 他の面子も会話に加わって来る。

 そうしてしばし歓談している間にリングの清掃が終わる。

 血やら汗が飛び散ってるからね。こまめに掃除しないと。皆が使うリングは綺麗にしましょう、だ。

 掃除が終わるや脇で控えていた二試合目の選手二人がリングに飛び込んだ。

 顔を見れば分かる。待ちきれないって顔だな。

 先生も空気を読んで前置き抜きでいきなりゴングを鳴らした。


「山川と海野。奇しくもボクシング対決ってわけね」


 と多江ちゃん。

 山川武と海野次郎。たけちゃんとじろちゃんはどちらもボクシングを習っている。

 違うジムなのでスパーとかはしたことないがお互い、以前から気にはなっていたようだ。

 言葉はないが目を見れば分かる。お前の拳がどんなもんか知りたい、ってね。


「そしてインファイターとアウトボクサーでもあるわけだ。そそるぜぇ!!」


 佐吉がきゃっきゃとはしゃぐ。正直、俺もはしゃいでる。

 大人しいのは身体を休めているからで次の試合がなきゃ大はしゃぎしていただろう。


「よおはっちゃん、賭けねえか?」

「放課後のおやつか?」

「おう!」

「良いよ」


 午前中もそうだったが賭けは咎められない。

 詳しく説明するとそれが観客の礼儀だからだ。

 どういうことかって? 選手は全力で戦うのが礼儀。観客は二人の戦いを全力で楽しむのが礼儀。

 この世界ではそういう価値観なのだ。ゆえに賭けも戦いを楽しむ一環として問題視されないのだ。

 ちなみにゲーム内のアドベンチャーモードにおけるゲーム内通貨を稼ぐ手段の一つでもある。

 P曰く、


『このゲームの人間は健全にギャンブルを楽しめる精神が標準搭載されてるわけです。

先だって賭け麻雀で話題になった議員先生のような問題は起こらないわけですね。

つまり何が言いたいかと言うとギャンブルを問題なく楽しめる生き物は我々とは(省略』


 まあ、通らなかったよな。何で釈明で喧嘩売るんだお前は。

ちなみに主人公の名前はゲーム漫画問わず格闘創作系で私が好きなキャラの名前をミックスしたものです。

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