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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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16/22

この拳いっぱいの愛を③

 以前にも述べたがこの世界には悪の組織とか普通に存在してる。

 秘密結社だったり巨大財閥が裏でだったりバリエーションは様々だ。

 で、


【――――喜べ、お前たちは秘密結社F.U.CK.の礎となるべく選ばれたのだ】


 俺たちは見事そんな雨後の竹の子の如く生えてる悪の組織に拉致られちゃったわけだ。

 目が覚めるとそこは窓も何もない冷たい石造りの壁に囲まれた大きな部屋。

 同じように拉致られたであろう人たちも沢山、居て皆一様に困惑していた。

 人数は多いがツリーに居た人間全てというなら少なすぎるので多分ここだけではないだろう。

 他にも同じような部屋があるんだと思う。

 で、全員が目覚めるのを見計らって壁の一部に映像が投射。

 赤いスーツに身を包んだ高慢ちきなムキムキマッチョなオッサン(フリューゲルという名らしい)がドヤ顔で野望を語り出した。


(実験材料、洗脳して兵士にとかコッテコテやなあ)


 思わず西の言葉が出てしまうぐらい王道の悪党だった。

 ちなみにF.U.CK.は略称で正式名称はFluegel Under Crime Kingdomとのこと。

 薄々察しはついてると思うがフリューゲルツリーにもF.U.CK.が関わっている。

 ツリーは肉体、或いは霊的な素養を持つ人間をチェックするための施設だとのこと。

 商売に力を入れてたのは人の出入りを増やすためなのだろう。

 で、入場の際に素養アリと判断された人間にはコッソリ暗示をかけていたらしい。

 ある程度数がまとまったところでツリーに来させるためのものだ。

 運の悪いことに俺と茉優ちゃんは奴らが人間を回収する日に当たってしまったようだ。


「……ごめんね茉優ちゃん。俺がツリーに行こうなんて言ったせいで」

「……ううん、勇八くんは悪くないよ。悪いのはアイツ」


 小さな声で謝罪をすると茉優ちゃんはギュっと俺の手を握りそう言ってくれた。

 怯えはある。だがそれ以上にその瞳には悪党どもへの怒りが滾っている。

 本当に、本当に素敵な女の子だね君は。


(――――ここでカッコイイとこ魅せないと男が廃るよな?)


 俺という存在の明確な反則(チート)。それはこの世界の(ルール)を知っていることだろう。

 F.U.CK.という組織についての知識は今ここで語られたことだけ。ゲームには出て来ていない。

 だが悪の組織は最終的に何だかんだトーナメントやら色々な方式のバトルで潰えることを知っている。

 そこに至るまでの犠牲が消えるわけではない。最終的に潰えるとしても途上の悲劇は確実に存在する。

 俺が選べる選択肢は二つ。


 一つは今日がF.U.CK.の潰える日であることを信じ大人しく悪意を受け入れること。

 これは不確かな神頼みのようなもので他力本願極まる運任せだ。

 つまりはあり得ない。

 もう一つが世界の理を利用して今日この日にF.U.CK.が潰える運命を引き寄せること。

 ただこれにはリスクも存在する。

 大人しくしていれば向かうはずのなかった悪意に茉優ちゃんや他の人が晒される可能性だ。

 つまりはまあ唯々諾々と従うのと反逆の末に従わせられるのでは扱いが変わるってことだな。


「ねえ茉優ちゃん」


 ゆえに問う。

 全員にではない。彼女にだけ。

 だって俺はエゴイストだから。この胸焦がす情動のままに生きる特級のエゴイストだから。


「カッコいい俺と情けない俺、どっちが見たい?」

「え」


 突然の質問に目を丸くする茉優ちゃん。気にせず言葉を重ねる。


「カッコいい俺はこの状況を何とかできるかもしれないけど失敗したら今より酷いことになっちゃう」


 更に言葉を続けようとして、


「良いよ」


 遮られる。今度は俺が目を丸くする番だった。

 迷いのない返事。ともすれば何も分かってない……いや事実分かってはいないのだろう。

 ただ茉優ちゃんの瞳には覚悟があった。


「その時は私も一緒に死んであげる」


 だから、と彼女は見惚れる笑みで言った。


「――――勇八くんのカッコイイところ私に見せて?」

「――――最高だ」


 覚悟完了。我が心に一点の曇りなし。

 俺はとても晴れやかな気持ちで未だご高説を続けているフリューゲルに聞こえるよう笑ってやる。


【……躾のなっていないガキだな】


 よし釣れた。


「いやごめん。だって……ふふふ、あんまりにも……ちっさいなって」

【何?】

「ああごめん聞こえなかった? でけえ図体の割りにちっちぇえ野郎だなって言ってんの」


 立ち上がり両手を広げニンマリと笑ってやる。


「分からないか? お前はもう既に負けてるんだよ。俺を含むお前が拉致って来た人たちにな」

【私が子供だからと手心を加える優しい人間だと思っているのか?】


 余裕ぶってるが不快感が隠せてねえぜ。


「単なる事実だよ。だってそうだろ? ここに居るのは何らかの素養を見出した人間だってお前自身が言ったじゃないか」


 中には実験材料として有用だからというのもいるので全員が全員とは言えない。

 しかし戦力として役に立つと判断した人間も含まれているのは揺るぎない事実だ。


「ガスか何かで眠らせて拉致。んで実験材料なり洗脳なりする際も同じように無力化してからやるわけだ」


 つまりはどういうことだ?


「お前は逃げたんだ。戦うのが怖いからケツまくって逃げ出したんだよ!!」


 こういうことだろう。


「俺はどうなるのかな? 実験体? 戦闘員?」


 まあどちらでも良い。

 だが俺は忘れないぞ。


「この身が生きたまま切り裂かれようとお前が逃げ出したという事実を」


 決して忘れやしないぞ。


「心を操られ人形に成り下がろうとお前が負けたという事実を」


 指鉄砲でフリューゲルを撃つ。


「――――こんな情けない野郎が世界をどうこうしようだなんて笑っちまうぜ」

【無知で無力なガキがほざいたな……!!】

「一々キレんなよ! 露呈してんぜ? 器の小ささがよォ!!」


 ゲラゲラと笑ってやる。


「それと無知はともかく無力ではないさ」


 今なら使える。茉優ちゃんのお陰で最高に気分が盛り上がってるからな。

 コマンドを打ち込むと俺の身体が光に包まれ、


【な……モードチェンジだと!?】

「良いリアクションサンキュ♪」


 高くなった視点。低くなった声。

 今の俺は大体、二十代前半ほどの肉体に変わっていた。

 これが透さんとのナイトバトルで目覚めた新たな力、モードチェンジだ。条件満たしてコマンド入力すればこっちになれる。

 それはさておきこの形態になると成長に伴い服も変化するんだが、


(あれ? これ前と違うな)


 以前夜の公園で変わった時は露出多めのセクシーな感じだったが今は違う。

 見える範囲で確認してみるとこれは……道化師?

 道化師風のおっしゃれ~というかおっされ~な感じの出で立ちのように見える。

 ……今日茉優ちゃんと購入した服の影響だろうか? まあええわ。


「ついでに言うと俺は必殺技も超必殺技も複数覚えてる。この年齢でこれは中々ないんじゃないか?」


 自分で言うのも何だが才能という意味ではかなりのものだろう。

 幼さゆえの身体的な不足等もモードチェンジをすればバトル中は補える。


【ッ……だから何だと言う? 貴様程度、この私にかかれば】

「ならやろうぜ」


 流れは定まった。ここまでお膳立てしてやればバトルには持ち込める。

 まあこれで負ければ酷いことになるんだろうが生憎と今の俺は欠片も負ける気がしない。


「お前が本当に世界を獲るに足る器だってんなら真正面から俺たちを屈服させてみろよ」


 高らかに指を鳴らし宣言する。


「五対五の団体戦だ! 俺含む被害者から代表を選出しお前とお前ご自慢の部下で潰し合おうや!」


 勝ち星の数で競うのはつまらない。勝ち抜き戦だ。

 これはどちらにとっても都合が良いだろう?

 負けが込んでも大将が最後に全員、倒せばそれで済むのだから。


【……良いだろう。ただし貴様は大将として固定だ】


 徹底的に絶望を叩き込むためだろう。

 自分しかいない、後がない、という状況はこの上なく心を苛むからな。

 だが全て問題なし。重圧よりも高揚の方が上回ってる。


「何だ。フリューゲル、やればできるじゃないか」

【どこまでも舐め腐りおって! 数々の無礼に対する報い。敗北すれば最早貴様だけでは留まらぬと知れ!!】

「家族? 友人? それも巻き込むって? 良いね良いね。やられる悪党のお約束だ!」


 ふ、ふふふ……ははははは!!


「嗚呼、嗚呼、駄目だよフリューゲル。フリュゥウウウゲル!!」


 そんな目で俺を見るな。


「――――興奮しちゃうじゃないか♥」


 股間がずぎゅぅううん! と熱を帯びていく。


【きさ……!? き、貴様親にどんな教育を受けてる!?】

「おや? 存外初心じゃないかフリューゲル。悪の組織の親玉ともなれば淫蕩に耽ってるイメージなんだけど」


 エッチなドレス着せた美女とか大量に侍らせてそうだよね。

 あとワイン片手に猫抱いてそう。何だっけペルシャ猫?


【私をそんな低俗な輩と一緒にするな!!】

「これは失敬。ちなみに親からはとても大切にされて育ってるよ」


 可愛い一人息子だからな。


「ま、それはさておきだ。俺は強制選出だから問題ないけど他の部屋に居る人たちは違うだろ?」


 事情説明とかもあるし選出にも時間がかかろう。


「準備が整うまでは相応の持て成しがあるんだよな? それぐらいの器の大きさは期待して良いんだよな?」

【……つくづく生意気な! フン、だが良いだろう。最期の享楽に耽るが良い】


 人を寄越してやる、と告げ映像は途切れた。


「さて」


 改めて部屋を見渡す。

 俺のオンステージで口を挟めず傍観を強制されていた人たちに向け告げる。


「他人。それもこんな小さなガキに運命を託す、なんてのは中々納得できることではないでしょう」


 だから不満があるなら相手をする。実力を以って証明してみせる。

 そう宣言したのだが、


「いや良い」

「……俺らは直ぐに立ち向かうことができなかった」

「そうね。チャンスを掴み取ったのは坊やだもの」

「それに小さいと言ってもそこまでのものを見せられたら、ね」


 意外や意外特に反発は起きず受け入れられた。

 俺としてはありがたいことだが……いや良い。信じて託すのも紛れもない強さの一つだ。

 信じてくれるというのなら、俺が成すべきはその期待に全力で応えること。それだけだ。


「ありがとうございます」


 ふぅ、と息を吐きモードチェンジを解除する。

 別に消耗とかはないけど落ち着かないからな。本番までは普段の姿で居させてもらおう。

 あ、いや他の代表と顔を合わせる時に揉めないよう見せるべきか。


「……前言ってた新しい力ってモードチェンジのことだったんだね」

「ああ」


 亀ちゃん先輩の時は新しい力とだけしか言ってなかったからな。

 どっかでサプライズ的にお披露目しようと思ってたからなんだが……こんな形でとは予想してなかった。


「どんなエネルギー使ってるの? 霊力? 妖力? 魔力? 気?」

「愛」

≪愛!?≫


 何故か他の人まで反応して来た。

 いやでもこれが何の力かと言えば愛なんだよ。


「俺の中の愛が爆発した結果っていうか。ほら、俺の必殺ゲージも同じ仕様じゃん?」

「そ、そう言えば愛が溢れないと貯まらないんだっけ……いやどういうシステム?」


 そないなこと言われても愛は愛じゃよ。

 今回モードチェンジしたのも茉優ちゃんへの愛だしな。

 カッコ可愛い姿見せられて応えなければ! と気分が盛り上がった結果だ。

 後フリューゲルが予想以上に“好み”だったのでその分も加算されてる感ある。


「まあ俺のことはともかく、だ」


 茉優ちゃんに聞いておかねばならないことがある。


「私に?」

「ああ、とっても大切なことだよ」


 これからの戦いを左右する一大事と言っても過言ではないだろう。

 俺の言葉で茉優ちゃんの顔に少し、緊張が走った。

 構わず笑顔で問いを投げる。


「俺、カッコ良かった?」

「――――」


 目を丸くするが、直ぐに満面の笑みに変わり……。


「うん、とっても! でも、もっとカッコイイところ見せてくれるんでしょ?」

「勿論!」


 漲って来たぜ!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何が礎だ貴様等は甚だしい勘違いをしている…! Fluegelはドイツ語で!!Under Crime Kingdomは英語だ!(お約束 [一言] 唐突で濃厚なヒ◯カ臭。俺じゃなくても見逃…
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