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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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10/22

小さな恋の拳②

 放課後。改めて亀ちゃん先輩と話し合うことにした。

 時間的にもう少しすれば他のクラスメイトもやって来るだろうしな。落ち着いて話せない。

 なので放課後、人気のない場所でということになったのだ。

 そして今、俺と茉優ちゃんは学校近くの雑木林の中にある小さな池のほとりで亀ちゃん先輩を待っている。


「ってか何で私も一緒なわけ?」

「いや女の子の意見も欲しいし……だめ?」

「しょうがないなあ。勇八くんは本当にしょうがないなあ」


 ふふん、と何故か楽し気。

 口では面倒がりつつも茉優ちゃんとて女の子。恋バナには興味があるのだろう。


「悪い。待たせた」


 掃除当番と日直を終えた亀ちゃん先輩が合流。

 いよいよ話し合いの始まりだ。仕切りは頼むと茉優ちゃんの肩を叩くと彼女はため息交じりに口を開く。


「じゃあまずは先輩の好きな子のこと教えてよ。何も知らなきゃアドバイスなんかできっこないし」

「う゛……い、いやそうだな。うん、その通りだ」


 やっぱり恥ずかしいのだろう。

 亀ちゃん先輩は軽くうめき声を漏らしたがそれでも承諾してくれた。

 良いね。勇八ポイント高いよ。恥ずかしくてもそれを飲み込めるぐらいってことだもんな。


「お、同じクラスの間下麻里香って子なんだけどさ。髪は肩にちょっとかかるぐらいで笑った時の八重歯がすっげえ可愛くて」

「いやそこ聞いてないし」

「茉優ちゃんもうちょっと手心をですね」


 好きな女の子の話で饒舌になるのはしょうがないよ。男の子だもん。

 いや女の子もそうなのか?


「そこらどうなの?」

「今それ関係なくない?」

「ご、ごめん」


 気になって聞いてみたらバッサリ。


「私が聞きたいのは見た目とかチャームポイントじゃなくってさ。性格とかそういうの」


 何に喜びを覚えるのか。何に怒りを抱くのか。

 プラスであれマイナスであれその人の心に響くものを知らなければアドバイスのしようがない。

 茉優ちゃんの言葉は徹頭徹尾正論だった。やっぱこれぐらいの年頃だと女の子は男より心身共に成長早いねえ。

 俺は一応中身大人と言えなくもないけどすっかり退化しちゃってるし何なら茉優ちゃんのが大人かもしれん。


「そ、そうだな。気は強い方だと思う。あと真面目? 授業中お喋りとかしてって真正面から堂々と叱り飛ばしてくるし」


 うざいという奴もいるが俺的にはそこが良くてとまたプチ惚気。

 亀ちゃん先輩見てると俺の中の乙女な部分がぎゅんぎゅん刺激されちゃう。


「頑固ってこと?」

「気は強いし芯はあるけど何が何でも自分の意見をってタイプでもねえ」


 そう前置きして亀ちゃん先輩は間下先輩のエピソードを語り始めた。


「うちのクラスにハッシーってのが居てさ。そいつ調子乗りで掃除の時間とかもめちゃふざけんの。

間下もめっちゃ注意とかしてる。で、こないだの掃除でもめちゃはしゃいでたわけ。

普段からそんな感じだから俺らは気付かなくてさ。間下に説教されんぞ~って茶化してたの。

したら間下が自分とこの班の掃除終わらせて教室にやって来たんだ」


 これはドギツイ雷が落ちる。亀ちゃん先輩を含め皆、そう思ったらしい。

 だが予想に反して間下先輩はこう話しかけたのだという。


『あんた何かあったの?』


 亀ちゃん先輩らはえ、となったらしい。

 間下先輩曰く楽しそうなのは何時もと同じだけど何時も以上に浮かれているように見えて気になったのだとか。

 それでハッシー先輩から詳しい話を聞いてみると……。


「その日、ばあちゃんの誕生日で学校終わったら姉ちゃんとプレゼント買いに行く予定だったんだと。

ハッシーばあちゃん子だからさ。ばあちゃんに喜んでもらえるのを想像してはしゃいでたってわけ。

したら間下がさ。今日はあたしが代わってあげるからさっさと帰りなってハッシーの当番代わってあげたんだよ」


 厳しいだけじゃない。ちゃんと優しさもある。

 そこでまた亀ちゃん先輩は間下先輩のことが更に好きになったのだという。


「あらやだ素敵じゃないの。あたしもそういう子、好きよ」

「何でちょっとオネエ入ってるの」

「ごめんごめん。ちょっと俺の中の乙女が刺激されちった」


 でもまあイイ女だというのはよ~く分かった。

 エピソード一つでも垣間見えるものは確かにある。間下先輩は思わず恋しちゃうぐらい魅力的な女の子なんだろう。

 俺がそう言うと亀ちゃん先輩は嬉しそうに笑った。

 そうだよね。好きな女の子を褒められたら嬉しいよね。亀ちゃん先輩も可愛いぜ。


「先輩はどうなの?」

「ど、どうって?」

「間下先輩とはどれぐらいの仲なのかってこと」


 見栄を張らず正直に答えて。

 茉優ちゃんはどこまでもストレートだった。亀ちゃん先輩からすれば怖いかもだが俺やっぱ茉優ちゃん好きだわぁ。

 リングの上で真正面から嫌いって本音をぶつけて来た時から思ってたけどこの真っ直ぐさが堪らん。

 かと言って頑迷ということもなく非を認めたら素直に謝れるのも可愛いよね。


「……ふ、普通のクラスメイトっす」

「そ。じゃもう道は一つだね。とっとと告るしかないよ」

「「直球!?」」


 男二人、揃って驚愕の声を上げてしまう。

 いやでもしょうがないでしょ。

 好きな子が遠くに行っちゃうけど諦めたくない繋がってたい。でもどうすりゃ良いかわかんない。

 そんなシャイボーイのご相談に告白しろはあんまりじゃねえか!?


「いやだって特別仲が良いってわけじゃないんだよ?

まあこんな相談持ち掛けて来る時点で分かってはいたけどさ。

それならもう、気持ちを伝えるしかないでしょ。間下先輩だって新しい生活があるんだよ?

何時までも前の学校のクラスメイトと縁を持ち続けるのは難しいでしょ。

仮に連絡先聞いてメッセージのやり取りとかしてても近くに居ないんだし話題も自然となくなっちゃうよ。

これが仲の良い友達ならそうでもないだろうけどさ。ただのクラスメイトなんでしょ? 無理無理。

それとも何? 先輩は好きな女の子が転校先で幸せに暮らしてるのを願えないわけ?」


 わぁ正論。

 でももう少し手心を……亀ちゃん先輩涙目になってんじゃん。

 俺がそう言うと、


「いやでもこれ以外にないでしょ」

「あるよ」

「「え」」


 驚いたのは亀ちゃん先輩だけでなく茉優ちゃんもだった。

 俺の考えが正しいかどうかは分からない。

 でも亀ちゃん先輩の話を聞く限りではワンチャンあるのではと俺は思った。


「そりゃまあ最終的に告れってのはその通りだぜ?」


 それは確定事項だ。どんな結末が待ち受けているのであれ伝えなければいけない。

 秘めたまま終わらせるのも一つのカタチではあるが未来を望むなら不確かな道に踏み出す勇気が必要だ。


「ただ素直に気持ちを伝えられねえ男の情けねえとこも間下先輩は分かってくれるんじゃねえか?」


 俺の言うワンチャンってのは腹を括るまでの間、縁が途切れないようにすることだ。

 亀ちゃん先輩を見るに間下先輩の転校の話は急だったんだろう。

 それ自体は結構前から決まってても他人にそれを伝えるのは本当に最近だったんだと思う。

 もうあんまり猶予がない。焦りの中で腹を括れというのは酷だと間下先輩は理解を示すのではなかろうか。


「でもさ。それって間下先輩に気持ちがないなら残酷じゃない?」


 どちらにとっても、と茉優ちゃんは言う。一理ある。

 振るのを分かってるのに相手の告白を待つ間下先輩もキツイし幻の希望を追う亀ちゃん先輩も可哀そうだ。

 でも、そうじゃないと俺は思う。


「だから繋がってる間も全力でアプローチするんだよ。振り向かせるための努力をするんだよ」


 例え今気持ちがなくてもずっとそうとは限らないだろ?

 何もしなけりゃ何も変わらないが、動けばそこに可能性は生まれる。

 ゼロじゃない可能性を追うのが辛いならもう諦めるしかねえが、


「亀ちゃん先輩はどうなの? あるかどうかもわかんない希望を追うのは辛い?」

「……辛い、と思う」


 けど、と亀ちゃん先輩は続ける。


「す、好きだから……諦めたくねえよ……」

「だよね!!」


 それでこそ男の子。恋する男はそうじゃなくちゃ!


「……でもどうやってモラトリアムを確保するの?」


 おぉ、茉優ちゃんてば難しい言葉知ってんね。

 言いたいことは分かる。間下先輩は融通が利かないというわけではないが基本は気の強い人みたいだしな。

 普通に連絡先聞くぐらいじゃ仮に亀ちゃん先輩の気持ちに気付いても意気地なしと切り捨てるだろう。

 でも、どうやってなんて考えるまでもないさ。


「バトルさ」


 それ以外に何がある?


「大好きなあの娘の気持ち(ハート)(コイツ)で掴み取るのさ♪」


 未だ言葉にできない想いも。少しだけ猶予が欲しいと願う男の情けなさも。

 真っ直ぐな気持ちを乗せた拳ならきっと伝わる。

 言葉にできずとも心の中で燃えるそいつをどれだけぶつけられるか。

 それによって間下先輩の心を動かせたのならば一先ず、縁は繋がると思う。


「ば、バトルかぁ」

「バトルは苦手?」

「あ、ああ。恥ずかしい話、多分お前らよりも弱いと思う」


 それに、と亀ちゃん先輩の顔が更に苦いものになる。


「……間下めちゃつよなんだ。多分、クラスで一番つええ」

「「わお」」


 そりゃキツイ。キツイが――――おいおい、これはチャンスじゃねえの。

 俺の言葉に亀ちゃん先輩がキョトンとする。


「チャンス?」

「間下先輩も亀ちゃん先輩が自分より弱いのは分かってるだろうってこと」


 つまりどういうことだ?

 そんな超格下が好きな気持ちだけで食らいついてみせたら超カッケーじゃんってこと。


「男を見せるチャンスだぜ!!」

「……勇八くんって、ホント情熱的だよね」


 呆れたような嬉しそうなそんな茉優ちゃんに俺はグっ! と親指を立てる。


「……そうか。そうだな。そうだよな! うぉおおおお! 何かめちゃやる気出て来たぜ!!」

「その意気だよ亀ちゃん先輩!!」


 良いね良いね楽しくなってきた。

 こうなりゃとことんまで付き合う。付き合わなきゃ嘘だ。

 この熱い想いが少しでも届くよう手助けするのが俺の役目。今、そう決めた。


「亀ちゃん先輩俺も手伝うからさ。バチバチに鍛えようぜ!!」

「おう! ありがとな十波!!」

「勇八で良いよ俺らの仲じゃん!!」

「どんな仲?」


 茉優ちゃんてば冷静。


「ま、それはともかく。うん、そういうことなら私も先輩に付き合ってあげる」

「え、良いのか?」

「今更でしょ。勇八くんが手伝うのにここで私だけじゃあ失礼しますじゃ私、空気読めてないじゃん」


 別にそんなことはないが……ああ、照れ隠しか。

 素直に手伝ってあげるというのは恥ずかしいから。


「へへ、茉優ちゃんてばホント可愛いな」

「ちょ、いきなり何を……」

「……コイツやっぱ女誑しなんじゃねえか……?」


 さてそうと決まれば早速、作戦会議だ。


「仕掛ける時期はどうする?」


 こっそりギリギリまで鍛えてから挑戦状を叩き付けるか。

 日時を指定した挑戦状を送ってその日まで鍛えるか。

 このどちらかだが、


「日時を指定した方が良いんじゃない? その方が本気度伝わるでしょ」

「俺も相沢の意見に賛成だ。しっかり期限を決めとく方が頑張れる気がするし。あの、あれだ」

「背水の陣?」

「そうそれ背水!」


 OK。やる気に満ち満ちているようで何より。


「あ、でも俺国語苦手なんだよなあ。挑戦状の文章、一緒に考えてもらって良いか?」

「私たち三年生なんですけど」

「まあ俺はともかく茉優ちゃんはそういうの得意そうだし力になってあげてよ」

「しょうがないなあ」


 言いつつも何だか嬉しそうだ。


「で、間下先輩はどんなスタイルなんです?」

「プロレス。それもゴリッゴリのストロングスタイル」


 おぉぅ。


「プロレス、ね。良いね良いね。それなら俺、結構力になれるかも」


 本格的に習っているわけではないが一番、身近ではあるからな。

 父さん母さんにスパー付き合ってもらったりもしたし対プロレス経験はそこそこだと思う。


「そうなの?」

「うん。父さん母さんのバトルスタイルがプロレスだからね」


 ストロングってことは父さんが近いだろう。


「しかしそうかストロングスタイルか。亀ちゃん先輩、風は俺らに吹いてるよ」

「何で?」

「何でも何もストロングスタイルってそーゆーもんじゃん」


 自分の中の感情=怒りを表現するのがストロングスタイルだ。

 こっちは自分の中の感情=恋心をぶつけるわけじゃん?

 そうなると自然、そのバトルはハートとハートのぶつかり合いという面が強調されるわけだ。

 剥き出しの心と心でぶつかり合うってことはそれだけ想いを伝えやすいということ。


「やろうぜ亀ちゃん先輩。満天下に純愛(ラブ)かましたろうじゃん!!」

「勇八……ああ、ああ! やるぞ! やってやるぞ!!」


 この日から俺たちの特訓が始まった。

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