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色物格ゲー世界はパラダイスだった  作者: カブキマン


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席替え鉄拳伝

「それじゃあ今から席替えだ。廊下側の一番前から順番にクジを引いてくれ」


 と先生。

 俺が静かに手を挙げると先生はどうした十波(となみ)、と発言を許可してくれた。


「どの席が良いか希望がある人も居るでしょうしクジよりも戦って決める方が良いと思います」


 俺の発言に先生はお、と嬉しそうにするが直ぐに困った顔になる。

 何せ俺たちはまだ小学三年生。早い奴はこの年齢でも既にストリートファイトぐらいは経験している。

 だが大体は五年生ぐらいからというのが世の常識だ。

 かと言って子供の(ファイティング)(スピリット)を尊重しないのは大人としてどうなのか。

 先生が悩んでいるのは恐らくこんなところだろう。


「はいはーい! 俺も勇八(ゆうや)に賛成でーす!!」

「あたしもあたしも! 一番前とか絶対やだもん!」

「窓側の一番後ろに座りたーい!!」


 クラスメイトたちの援護射撃が入る。男女問わずだ。

 まあね。子供にとっては席替えともなれば一大イベントだもの。

 結局、三十二人全員が賛同を示した。

 アホみたいな世界とは言えバトルが苦手な人間もいるがどうやらうちのクラスは全員、好き者だったようだ。


「ったくお前らは……先生嬉しいぞ! こんな闘志溢れる子たちばかりで!!」


 今は三時間目だが今日の授業はもう全部中止。

 校長に掛け合って体育館の一つを貸切るから席替えトーナメントだ! と宣言し歓声が巻き起こる。

 そして全員で体操服に着替えて体育館へ向かった。


「とりあえず上位十人が優先的に席を決められることにしようか。

ルールは分かってると思うが武器、金的、目潰しはNGだ。そういうのはもうちょっと大きくなってからな」


 中学ぐらいになると変則的なルールやリングがあったりするんだが小学生だからな俺たち。

 子供の席替えトーナメントならこれぐらいが妥当だろう。

 席替え用のクジをトーナメントの組み合わせに転用し、全員でクジを引く。


「お、勇八一発目からじゃん」

「カズシはつええぞ~」

「十波くん頑張ってー!!」

「カズシも負けんなよ!」


 初っ端とは景気が良いじゃないの。

 ぐるぐると肩を回しながらリングに上がる。


「へへ、俺一度ゆうちゃんとやってみたかったんだ」

「俺もだよ。まあ俺はカズシだけじゃなく皆とやりたいけどな」

「ゆうちゃんは欲張りだな~」


 ロープに背を預けながら笑い合う。

 俺たちの様子を見て先生がうんうんと頷き、声を張り上げる。


「一回戦第一試合、十波勇八VS山木一志――――始めぃ!!」


 カァン! とゴングが鳴り響くやカズシが駆け出す。

 勢いよく踏み込んで体を捻りながら……の胴回し回転蹴り! あまりにも隙だらけ。

 防ぐのも躱すのもカウンターを叩き込むのだって容易だ。


「ぐっ……!?」


 しかし俺は敢えて受けた。一瞬で意識が飛びそうになるが踏み堪える。

 子供とは言えこのパラダイスみてえな世界の人間。

 身体を動かすのが苦手な子はともかく多少動ける程度でも前世の同年代とは比べものにならない。

 前世のかなり運動できる中学生ぐらいのスペックはこの齢でも当然のように備えている。


「しゃあ!!」

「甘い!!」


 追撃の拳に額から当たりに行く。う、と呻くカズシの頭を両手で挟み込んで躊躇なく頭突きを三連発。

 たたらを踏みながら離れたカズシはファイティングポーズを取ろうとするがダウン。

 意識を失うと同時に先生が勝負あり! と叫ぶ。


「ぬぅん!!」


 回し蹴り二連発からその勢いのままドン! と腰を落とし構えを取る。

 バチィ! と雷のようなエフェクトが発生。勝利ポーズの完成だ。

 俺の勝利ポーズがキマったところで歓声が上がる。


「良い戦いだった! ホントは一人一人ちゃんと褒めたいけど時間かかるし全部終わってからまとめてやるな!!」


 カズシを担いでリングから下りると直ぐに第二試合の選手がリングに上がった。


(多江ちゃんと健太か……楽しみだ)


 速さを活かしたヒットアンドアウェイを得手とする清水多江ちゃん。

 重戦車のように真っ向から攻めるのを得手とする蔵元健太。

 こりゃあ良い組み合わせだでよ。


「や!」

「ぬぉ!?」


 激しい戦いを繰り広げる光景を見て俺は改めて実感する。


(っぱこの世界最高やな)


 俺、十波勇八は改造――じゃねえ転生者である。

 死因ってか死んだかどうかすら判然としないが正直もうどうでも良い。

 生まれ変わった当初、俺は絶望的なまでに体が弱くずっと病院の世話になっていた。

 正直、絶望した。何でこんな目に、と。

 だが四歳の頃。何とか普通の個室で入院生活が送れる程度になったことで絶望は消え失せた。

 外界の情報が入手できるようになったことで俺はこの世界の正体に気付いたのだ。


『……は?』


 テレビの向こうでは解散総戦挙の様子が映し出されていた。

 与党野党がバチバチの殴り合いを繰り広げ、コメンテーターがそれを解説している。

 こんなイカレタ光景に俺は覚えがあった。


『せ、政拳伝説?』


 正式名称は政拳伝説~legend of politics~。

 販売禁止に追い込まれたあの伝説の色物格闘ゲームだ。

 “――――民意はコイツで掴み取れ!!”

 どんな世界観かはこのキャッチコピーで察せられると思う。

 この世界は一部の人間がおかしいんじゃない。皆、おかしいんだ。

 そして創造主たるクリエーターも皆、おかしいんだ。


『良いですか? この世界の人間は頭の中にコマンドが浮かんでるんです。

それを心のコントローラーで入力して現実では考えられないような技を出すわけですね。

そんなのがはたして我々現実の人間と同じ生き物と言えるでしょうか? つまり似てるだけで別人、いやさ別種です』


 歴史の一ページになった過去の政治家どころか存命現職の政治家まで使ったことに対する言い訳だ。

 そんなん通るわけねえだろとしばらくして普通に販売禁止になったがな。

 頭おかしい奴から出力された世界だ。そりゃその世界の住人も皆、頭ハッピーになる。

 ゲラゲラ笑いながらやるIQ3ぐらいの馬鹿ゲー世界観を俺は深く愛していた。


『何だここパラダイスか?』


 地獄は消し飛び天国が顕現した。

 俺はその場で呼吸器を引き千切ってひたすらシャドウを始めたね。

 ここがそういう世界なら諦めず闘志を燃やし続ければ奇跡は起きる。いや起こす。

 最初は止めようとしていた両親や医者も決して折れない姿を見て常識はあっさりと蹴っ飛ばした。


『OK! まだやれる! まだやれるよ!!』

『ファイト! 君ならやれるぞ勇八くん!!』

『ナイスガッツ! ナイスファイト!』

『何だよこの息子。来来世ぐらいまでの親孝行されちゃったよ。誇らしすぎるわ』

『パパと結婚してなきゃ惚れてたぐらい素敵よ勇八ちゃん!!』


 声援を背にひたすら鍛え続け、俺は奇跡を掴み取った。

 小学校入学までにくたばるだろうと言われていたが入学の少し前、健康な肉体を手に入れた。

 ずっと病院生活だったから他の子に比べれば武術的にはかなり遅れている。

 だがまあそこは前世の経験で相殺ってことで良いだろう。

 ある程度成熟した思考や知識は最初から健康な肉体があったなら大きなアドバンテージだからな。


「OK!(顔はイマイチだけど(こっち)はイケるクチじゃない!)」

「OK!(そっちこそただの性格ブスじゃなかったんだな!)」

「OK!(言ったわね!!)」

「OK!(お前もな!!)」


 OK! という威勢の良い声に重なって聞こえるこれは幻聴ではない。

 この世界の人間が持つ特徴の一つだ。


『この世界の人間は感情が高ぶるとある種のテレパシー的なものが発生するんです。

OK! の一言で伝えたい思いがダイレクトに伝わる――――これを我々と同じ生き物と考えるのは違うでしょう?』


 プロデューサーの言い訳その2だ。当然、これも通らなかった。

 ちなみに何でこんな設定なのかと言えば予算の問題である。

 メイン数人に大物声優使った結果、予算枯渇。

 じゃあ社員でやるべってなったがゲーム作りのプロでも演技のプロじゃない。

 会話パートで素人の喋りを延々聞かされるのはどうなんだ? ということになった。

 その結果、この設定が生まれた。単語を一つ叫ぶぐらいなら素人でもまだマシだろうと。

 前世じゃ会話部分はテキストだったがこっちはちゃんと声も聞こえる。

 どうしてその創意工夫を販売禁止対策に活かせなかったんですか?


「きゃっ!?」


 チクチク刺し続けていた多江ちゃんだが遂に健太が捉えた。

 ドギツイタックルを食らって足に来ている。

 アウトレンジでの立ち回りを柱にしている多江ちゃんには大打撃だ。

 だが健太も足を鈍らせるまでにかなり食らってしまった。


「こりゃあ……どうなるかわかんねえぞ!!」

「多江ー! 根性見せなさい! あんたならやれるわ!!」

「健太ァ! お前の実力はこんなもんか!? ちっげえだろうが!!」


 バトルが熱くなればオーディエンスも熱くなる。

 歓声は半々。まあそりゃそうだ。

 ヒールスタンスでよっぽど嫌われてるのでない限り声援は大体、二分される。もしくは両方応援するだな。

 ちなみに俺は後者だ。どっちも素晴らしい。手に汗握る戦いに俺のボルテージはどんどん高まっていく。

 さっき戦ったばかりだというのにもうこんなに戦いたい。


「おぉ!?」


 健太のラリアットが炸裂。

 多江ちゃんは咄嗟に両腕を挟み込んで防いだが踏みとどまれず吹き飛んだ。

 コーナーに叩き付けられてから地面に片膝を突く多江ちゃん。

 追撃のチャンス……ではあるが健太もキツイ!


「は、は、は……!!」


 立ったまま肩で息をする健太。

 どちらも動かない。お互い、体力の回復に努めている。


「序盤に食らい過ぎたのが尾を引いてるね」

「健太はもうちょっと防御を意識するべきだったと思う」

「ねえねえ勇八くん。勇八くんはどっちが勝つと思う?」


 これまで隣の席だった杏ちゃんが話を振って来る。

 どっちが勝つ……か。難しいな。

 だがここでどちらもありうるなんて答えるのは面白くない。


「そう、だね」


 じっと二人を観察し、俺は俺なりの答えを導き出す。


「――――多江ちゃんに今日のプリン一つ」


 別に賭けるとかは言ってなかったがまあノリだ。

 今日の給食では牛乳プリンが出るからな。最高だぜ。


「言うじゃん。何でさ?」

「多江ちゃんの方が焦ってる」


 という俺の言葉に話を聞いていた皆が疑問符を浮かべる。


「焦ってるならむしろ蔵元くんのが有利なんじゃない?」

「そーそー。何で多江が勝つって思ったの?」


 焦りは隙を生じさせる。うん、それも合ってるだろう。

 だがそれは焦りというものの一側面でしかないと俺は思うのだ。


「焦りはイコール勝利への渇望でもある」


 負けてしまうかも、という焦りが浮かんでいたのなら俺は多江ちゃんにプリンを賭けはしなかった。

 だが多江ちゃんの胸を焦がすそれは勝てないことへの焦り。すなわち勝利への渇望。


「今の多江ちゃんは勝利への餓えという意味では健太よりも上だ。だから俺はそこに賭ける」

「へへ、なるほどな。じゃあ俺は健太にプリン一つだ!!」


 その声を皮切りにプリンをチップにした賭けが始まる。

 先生は何も言わない。むしろ微笑ましそうに俺たちを見てうんうん頷いてる。

 こういう賭けも戦いのお約束だからな。それで身持ちを崩すのは論外だが。


「――――これで決まるな」


 先生が呟くや同時に二人の息が整った。まだ苦しくはあるが切り上げたのだ。

 先に動いたのは健太。コーナーを背にした以上、逃げ場はない。カウンターが来ても耐えてぶち抜く。

 そんな気概の下に放たれた拳に、多江ちゃんは当然の如くカウンターを合わせた。


「!?!!?」


 放たれた掌底が健太の顎を打ち抜き大きく吹っ飛んだ。


「な、何で」


 殆どのクラスメイトが想定以上の威力に困惑している。

 先生が分かるか? と俺に話を振ったので頷き、説明する。


「コーナーを利用したんだ」


 カウンターの瞬間、多江ちゃんはコーナーを背負って身体を固定した。

 それはつまりどういうことか。支えにしたのだ。

 結果、健太はつっかえ棒に自らぶつかりに行ったような形になってしまい吹っ飛んだ。


「……や、やるじゃねえ、か」


 何度も立ち上がろうとしたが結局、身体が言うことを聞かず健太はマットに沈んだ。

 良い、実に良い戦いだった。


「勝者、清水多江!!」


 先生が宣言するや多江ちゃんはその場でステップを刻み始めた。


(ほう、ダンスタイプの勝利ポーズか!!)


 ラテンの陽気なメロディが聞こえてきそうな軽やかステップを踏んでパッ! と両手を空に広げ〆。

 瞬間、リングに無数の花びらが舞い散った。

 ちなみにこれは幻覚でも何でもなくマジな現象だ。俺のバチバチだってマジにバチってる。

 P曰く、


『この世界において勝利ポーズはとても大きな意味を持ちます。

己が勝利を誇れないということは負かした相手への無礼にも繋がりますからね。

だからこの世界の人間は全身全霊で勝利を誇るんです。

己を誇り、相手をリスペクトする気持ちが爆発し発露した結果、エフェクトが発生するわけですね。

考えてみてください。我々は幾ら己を誇ろうがエフェクトなんて出ませんよね? はたして同じ人間と(省略』


 当然、通らなかった。


(実在の政治家に似たのが札束の雨の中で高笑いしてる勝利ポーズとか……)


 通るわけねえだろ。

IQ3ぐらいの馬鹿な話なので気楽に読んで頂けると幸いです。

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気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
めっちゃわらったwww ありがたやー(ノ_ _)ノ
[一言] 当然、通らなかった。 ・・・なんでだよぉ!!なんで通らねーんだよぉ!!意地でもなんでもいいから通して見せろヨォ!! (通して欲しいとは言っていない)
[良い点] 新連載嬉しいです。 今度は格ゲーの世界でコマンド使えるとかなぁにこれw [一言] >ルールは分かってると思うが武器、金的、目潰しはNGだ。そういうのはもうちょっと大きくなってからな もうち…
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