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短編小説(異世界恋愛)

聖女が来たのに、陛下が一途で困ってます

作者: 三羽高明

 私の夫が治める国に、聖女が現われた。


「額にあるあのアザは紛れもない聖痕! 神から力を授かった乙女の証!」

「実にめでたいですねえ!」


 教会で行われた聖女のお披露目式に参列した人々は、興奮しながらそう囁いていた。


 誰もが嬉しそうな様子だ。そんな中で、暗い顔をしているのは私くらいのものだろう。祭壇の前に厳かにたたずむ聖女様を、どんよりとした気分で見つめる。


「どうか陛下とお幸せに!」


 誰かが甲高い声で叫んだ。


 聖女は国王の妻となる。この王国にはそういう決まりがあるのだ。


 当然、この聖女……パオラ様も国王と結婚することになっていた。


 でも、それには邪魔者がいる。それが他ならぬ私、現王妃のロベルタだ。


 まだ式典の途中だったけど、私は密かに席を立つことにした。どうせいつかはいらないと言われるんだ。だったら、自分から出て行く方が潔いだろう。


 さようなら、アンソニー様。


 心の中で隣に座る夫に別れを告げる。皮肉なものだ。この教会は私とアンソニー様が結婚式を挙げた場所なのに。永遠の愛を誓ったところで、今度は永久の別れを決意するはめになるなんて。


 私が腰を上げようとした時のことだった。


「嫌だ」


 アンソニー様がはっきりとした声を出した。教会内は突然水を打ったような静けさに包まれる。


「陛下? 嫌、というのは……」


 宮内大臣が顔を引きつらせた。アンソニー様が私の手をしっかりと握る。


「俺の妻はロベルタだけだ。他の王妃などいらない。誰が聖女なんかと結婚するものか!」



 ****



「アンソニー様……」


 あの式典から一ヶ月が経った。


 王の居室で、私は夫を膝枕している。


「よろしいのですか。パオラ様のところへ行かなくても」

「構わん」


 アンソニー様は即答した。


「他の王妃はいらんと言っただろう。聖女が何だ。俺にはロベルタがいればいい」


 アンソニー様の言葉はとても嬉しい反面、複雑な気持ちにならざるを得ない。


「パオラ様のことはあの式典で見たきりですが、可愛らしい方でしたね」


 私は目を細めた。


「私はアンソニー様より十歳も年上ですが、パオラ様は十六歳。アンソニー様と同い年です。それに、歴代の聖女の中でもトップクラスに強い力の持ち主だそうですよ。そんな方と結ばれた方が、アンソニー様にとっては幸せ……」


 いきなりアンソニー様が起き上がり、キスで私の唇を塞いだ。


「俺の幸せが何かは自分で決める。俺の傍にいるのはロベルタでなければいけないんだ」


 拗ねたように言って、アンソニー様はまた私の膝の上に頭を乗せた。


「それとも、もうロベルタは俺に飽きたのか? 俺たちが結婚して、まだ二月も経っていないが」


「そんなことありませんよ」


 愛しています、アンソニー様、と心の中で付け足す。


 でも、口にはできない。そんなことを言ってしまえば、アンソニー様はますます私と離れたがらなくなってしまうだろうから。


 私たちの結婚は政略によるもの。でも、私はアンソニー様の花嫁候補の一番手じゃなかった。アンソニー様は、本当ならもっと若い令嬢と結婚するはずだったんだ。


 けれど、候補者が次々と流行病や事故で亡くなった結果、彼よりもずっと年上の私にお鉢が回ってきたのである。


 そんな事情があったにもかかわらず、アンソニー様はもったいないくらい私を愛してくれていた。もしかして年上が好きなのかしら?


 公務の時間がやって来て、アンソニー様は渋々私の膝の上から去っていく。それと入れ違いで、宮内大臣が訪問してきた。


「王妃様……まだこのようなことを続けるおつもりですか」


 大臣は呆れ顔だ。


「早く陛下と別れてください。あなた様はこの国の伝統を何だと思っていらっしゃるのですか」


 どうやら廷臣たちの中には、アンソニー様が聖女と結婚したがらないのは、私がワガママを言っているせいだと思っている者もいるらしい。宮内大臣もその内の一人だ。


 迷惑な話である。私は愛するアンソニー様の幸せのためなら、身を引いてもいいと思っているのに。


 ……ううん。本当にそんなことを考えてるのかしら?


 まだ未練があるから、こうしてアンソニー様のお側にいるんじゃないの? 私が曖昧な態度を取り続けているせいで、アンソニー様もすっぱりと私を諦め切れないって可能性はないかしら?


 一度生まれてしまった疑惑は中々消えない。揺れる心に宮内大臣が踏み込んでくる。


「王妃様、どうか勇気あるご決断を」


 勇気ある決断。


 大臣が私に期待していることを悟り、ため息を吐く。


 そうよね。神から授かった力で王を支えられる聖女と、特別な能力を持たない私じゃ、初めから勝負にすらなっていない。


 アンソニー様は自分の本当の幸せが何か、ちゃんと分かっていないんだわ。


 居室に戻った私は、夫に向けて短い手紙を書いた。


『探さないでください』


 そして、すぐさま王城を出たのだった。



 ****



「はあ……」


 実家へ向かう馬車に揺られながら、私は悶々としていた。


 これで良かったんだ。これで、アンソニー様は真の幸福を手にできる。


 そうと分かっているのに、気が晴れない。頭の中はアンソニー様と過ごした日々でいっぱいだった。


 でも、今さら引き返せなかった。あの手紙を出してから、もう何日も過ぎている。アンソニー様はとっくに書き置きを発見しただろう。そして、私に捨てられたと分かってショックを受けたに違いない。


 その衝撃で、愛情なんて冷めてしまったかも……。


 心を締め付ける痛みを振り払うように馬車の小窓から外を見れば、前方に実家が見えてきた。


 あら、門のところに誰か立ってるわ。出迎えかしら?


「ロベルタ! 里帰りなら俺も交ぜてくれ!」


 え!? ええっ!?


「アンソニー様っ!?」


 馬車から降りた私は仰天して立ち尽くしてしまう。


「何でここに!?」

「お前が手紙をくれただろう。だから来た」

「何でそうなるんですか!」


 探さないで、って書いたのに! 思いっきり反対のことをしてるじゃない! しんみりした気分なんて、秒速で吹き飛んじゃったわ!


「さあ、二、三日実家でのんびりしたら城へ帰ろう。今度は俺も同じ馬車に乗るからな」


「私はお城へは戻りません!」


 馬車に飛び乗り、御者に出発を指示する。車外からアンソニー様が「ロベルタ!」と叫ぶ声が聞こえてきた。


「とりあえず、一番近い街に避難よ!」


 両手で耳に栓をしながら御者に命じる。予想外の事態に、心臓がバクバクと音を立てていた。


 けれど、街でも想定外の事態が発生する。


「ロベルタ、一番いい部屋を取ってあるぞ」


 一休みしようと立ち寄った宿屋の待合室で、アンソニー様が待ち受けていたのだ。


「今夜は二人きりで過ごそうな」


 アンソニー様は私の肩を抱いて上の階へ連れ込もうとする。私はちょっとしたパニックを起こさずにはいられない。


「どうしているんですか!?」

「この街からお前の気配がした」


 なるほど、分かりません。


「あの、アンソニー様。私はですね……」


 部屋に連れ込まれた途端に、アンソニー様からの激しいキスを受ける。顔やら腕やら首筋やらに押し当てられる唇。私は、その柔らかさに恍惚とならないよう必死だった。


「知ってる。宮内大臣に勇気ある行動を取れと言われたんだろう」


 アンソニー様は私をひょいと横抱きにして、ソファーに座らせた。


「王妃であるお前が勇気を示すのなら、その夫である俺も同じことをするまでだ」


 アンソニー様に抱きしめられる。私は「アンソニー様の勇気?」ときょとんとなった。


「俺の勇気はロベルタを諦めないことだ」


 アンソニー様が私の耳元で笑う。


「見せつけてやろうじゃないか。大臣と……望むのなら、お前自身にもな」


 ……ああ、これはとんでもないことになっちゃったわね。


 私の勇気とアンソニー様の勇気が、火花を散らして真っ向からぶつかり合うのを感じる。


 果たして勝つのはどっちかしら?


 ……などと余裕のあることを考えていられたのは最初だけ。その後、私はアンソニー様の「勇気」のすさまじさをこの身を持って体験することとなる。


 他の貴族の家に匿ってもらおうとすれば、すでにアンソニー様が私が泊まる予定の客室に待機済み。


 平民に化けてパン屋で売り子をしていたら、アンソニー様がお客さんとして来店する。


 女子修道院にこもろうとしたこともあったけど、そこでもアンソニー様から逃れられなかった。なんと、女装姿の彼が修道院長の席に座っていたのだ。


「神よ……私は永遠にあの方から離れられない運命なのでしょうか……」


 国中をぐるりと周り、ついに王都に戻ってきてしまった。駆け込んだ教会の祭壇の前で、祈りを捧げながら跪く。しくも、聖女のお披露目式が行われた場所だった。


「私はどうしたらいいのでしょう。もう訳が分かりません……」

「簡単なことじゃ、ロベルタ。そなたの夫を愛せばよいのじゃ」

「アドバイスありがとうございます、神よ……って、アンソニー様っ!」


 座席の間に身を屈めていた夫が、ひょっこりと姿を現わす。彼のお陰で、すっかりノリツッコミのスキルが身についてしまった。


「やっぱりいましたか」


 長椅子の上に崩れ落ちるように座る。


「この展開には、逆に安心感すら覚えるようになってきましたよ」

「それは良かった」


 アンソニー様はにこやかな顔で隣に腰掛けた。


「ロベルタ、そろそろ王城へ戻ろう。お前も自分のベッドが恋しいだろう?」


「アンソニー様はどうしても私を手放さないおつもりなんですね」


「当たり前だ。俺はお前がいいんだ。年が上だからとか、聖女じゃないからとか、そんなくだらない理由でお前を諦め切れるか」


「アンソニー様……」


 まったく、とんでもない人。


 私がコンプレックスに思っていることを全部、「くだらない」っていうたった一言で吹き飛ばしてしまうんだから。


 やっぱりこの人が好きだ。


 元々、私の行動は全てアンソニー様のためを思ってのことだもの。彼を愛しているから姿を消そうとした。別の人との間に温かな関係を築いて欲しいと思った。


 でも、そんなのは嫌だとアンソニー様は主張し続けたのだ。どこまでも妻を追いかけることで、自分を幸せにできるのは私しかいないと訴え続けたのである。


「大体な、俺が聖女と結婚しなかったとしてどうなるんだ? 国が滅ぶ? 誰かが呪われる? そんな影響など、何もありはしない。国王と聖女の結婚は、ただの伝統というだけだ。古くさい決まり。役に立たないバカげた因習だ。そんなものは打破しても何の問題もない」


 若さゆえなのか、アンソニー様は時々無鉄砲なことを言い出す。でも……今回に限っては、私も彼に同意する方がいいのかしら?


 だって、私もこんなにもアンソニー様を愛しているんだから。


 それに、逃げ回ったって無意味だということははっきりしていた。どこへ行こうが、アンソニー様は必ず私を見つけ出すに決まっている。


「ああっ、そこにいらっしゃるのは国王陛下と王妃様!」


 可愛らしい声が聞こえてくる。聖堂に入ってきたのは、なんと聖女パオラ様だった。あっ、そうか。彼女、この教会に住んでるんだったわ。


「お二人揃ってお祈りタイムですか!? 仲がいいんですねえ!」


 パオラ様はきゃっきゃとはしゃぎながらこちらへ駆け寄ってくる。あらあら。お披露目式の時はもっとシャキッとしていたように見えたけど……。あれはよそ行きの姿だったのかしら。


「何の用だ、帰れ」


 アンソニー様はつっけんどんに言い放つ。パオラ様は「きゃ! 今あたし、陛下とお言葉を交わしてるわ!」と口元を押さえた。


 その表情に確かな憧れを見て取り、心がチクリと痛む。きっと、彼女は機会があれば私からアンソニー様を奪おうとするだろう。


 そんなのダメ! この子に彼は渡せないわ!


 私は弾かれたように声を上げた。


「アンソニー様のことは諦めてください」


 夫を胸元に抱き寄せる。


「この方は私のものです。たとえ聖女といえど、他の人にあげることはできません」


「え? あの、王妃様……?」


「どうしてもアンソニー様が欲しいと言うのなら、この私と決闘なさい! 聖女は不思議な力が使えると聞き及んでおります。けれど、私は怯みません。さあ、どこからでもかかってらっしゃい!」


 嵌めていた手袋を床に投げつけた。「拾いなさい!」と命じる。


「聖女如きが、私からアンソニー様をかすめ取れると思わないでください! 私がどれだけアンソニー様を想っているか、この一戦で教えて差し上げます!」


「あ、ああ……」


 パオラ様は震えだした。


 何? 怖がってるの? 聖女も案外大したことないのね。


「素敵です!」


 けれど、パオラ様は予想外の行動に出た。私とアンソニー様を丸ごと腕の中に収め、抱擁したのだ。


「パ、パオラ様?」


「素晴らしい夫婦愛です! これぞあたしの理想のカップル! 結婚式の様子は、会場に忍び込んでこっそり見ていましたよ! お二人ともとっても高貴で美しくて……あたし、感激しちゃったんです!」


 パオラ様はうっとりとした顔になる。私はポカンとせずにはいられない。


「私たちが理想のカップル? パオラ様は私に代わって、王妃になりたかったんじゃ……?」


「王妃? あたしが? そんなの無理無理」


 パオラ様は肩を竦める。


「あたしなんて、ある日突然聖女の力を授かっただけの平民ですもん。あたしの夢は、いつか現われる運命の男性と、両陛下のような素敵な夫婦になることです。それなのに、周りが陛下と結婚しろってうるさくて……。陛下と王妃様はあたしの目標なんですよ!? それなのに、二人の仲をこのあたしに裂けって言うなんて、ひどいと思いません?」


「思う」


 アンソニー様が私の胸元に頬を埋めたまま言った。


「聖女、どうやら俺はお前を誤解していたようだ。今度、国中にいる独身男性を集めたお見合いパーティーをセッティングしてやろう。今まで冷たく突き放して無礼を働いたこと、これで帳消しにしてもらえるか。……ロベルタ、頭を撫でてくれ」


「はい」


 いや、「はい」じゃないわ。


 アンソニー様をなでなでしてあげながら、パオラ様をしげしげと見つめる。彼女は「お見合いパーティー」と聞いてすっかり有頂天になっていた。


 どうやら、彼女にはアンソニー様を横取りする気は全くないらしい。そうと分かり、緊張が一気に解れていく。大丈夫。この子は敵じゃない。


「でも、それで周囲が納得するでしょうか」


 私たち三人の間での合意は取れても、皆はこの決定に反対するかもしれない。


「聖女は国王と結ばれるもの。誰もがそう思っていますよ」

「だったらあたし、聖女やめます」


 パオラ様はあっさりと言ってのけた。


「それで、代わりに王妃様が聖女になってください。これで万事解決です」

「私が聖女に? でも、そんなこと……」

「できるんですよねえ、これが」


 パオラ様がイタズラっぽく笑った。


「あたし、伊達に歴代最強クラスとか言われてませんよ。実は、こんなこともできちゃうのです! ……陛下。ちょっと退いてください」


「何だ。ロベルタが頭を撫でていいのは俺だけだぞ」


「知ってますってば」


 パオラ様が頬を膨らまし、アンソニー様が名残惜しそうに脇に退く。パオラ様は身を乗り出して私の額に口付けた。


「何だって!?」


 アンソニー様が慌てて私からパオラ様を引き剥がす。


「貴様! 汚いぞ! 実はロベルタが狙いだったのか! 油断させておいてこんなことをするとは卑怯者め! もういい! 決闘だ! どちらがロベルタに相応しい相手か分からせてやる! 手袋を拾え!」


 アンソニー様はつい数分前の私と同じことを言い出した。自分の白手袋を脱ぎ、パオラ様に向かって放り投げる。


 彼女はそれをひらりと避けた。


「陛下、王妃様のおでこを見てください」


「その手には乗らんぞ! 俺がよそ見した瞬間に、死角からグサッといくつもりだろう!」


「違いますよ」


 パオラ様は焦れたように自分の前髪を掻き上げる。


 私は瞠目した。パオラ様の額には聖女の証であるアザ、聖痕があるはずだ。それが綺麗に消えていた。


「ロベルタ!」


 アンソニー様がこちらを見て驚愕の表情になっている。まさかと思い、祭壇近くの水盆に自分の姿を映した。


 私の額に、これまでなかったアザがついている。聖痕だ。


「さっきのキスで力を移しました」


 パオラ様は得意げである。


「聖女としての最後のお仕事です。愛し合う二人がいつまでも一緒にいられるように、手を貸しました」


「でも、それではパオラ様が……」


「あたしのことは気にしないでください。だって、あたしのなりたいものは王妃でも聖女でもなくて、素敵な奥さんなんですから! ……陛下、お見合いパーティーのこと、忘れないでくださいよ?」


「分かってる。飛び切り美形で誠実で裕福な男を、荷馬車に山盛りにして連れてこよう」


「そうこなくっちゃ!」


 パオラ様は両手を叩いた。


「では、後はお二人でごゆっくり! あたしは皆に伝えて来ますね。もう二人の邪魔はしないでください、って」


 パオラ様が聖堂から出て行き、後には私たちだけが残された。


「何というか……想定外の事態です」


 アンソニー様にしてもパオラ様にしても自由すぎる。私が聖女? 本当に?


「ロベルタ……お前はあんなことを考えていたんだな」


 水盆に顔を映していると、後ろからアンソニー様に抱きしめられた。


「俺を愛しているんだろう? そうなんだな? だから、聖女に立ち向かったんだな?」


「おっしゃる通りです」


 素直に認めた。


 パオラ様はあっさりと力をくれたように見えたけど、あの決断に至るまでには、何かと葛藤もあったはずだ。それでも、彼女は最終的に皆が幸せになる道を選んだ。それもまた、「勇気ある行動」だろう。


「あなたが好きです、アンソニー様。私は聖女。だから、これからもアンソニー様と夫婦でいられます。……いいえ。何かのきっかけでこの力を失うことがあったとしても、もう決してお側を離れません」


 体の向きを変え、夫に口付ける。


 愛の誓いを立て、別れを決意し、そしてまた愛する人と一緒になった。この教会は、私たちの波乱の夫婦生活を全部見ていたわけだ。


 祭壇の奥に安置された神像に目を遣る。


 もしかして、これって神のお導き?


 ひょっとすると、私は初めから聖女となるように運命づけられていたのかしら?


 奇妙な巡り合わせに心が震える。


 けれど今は、アンソニー様のことだけを考えていたい。


 そう思いながら、私は夫の唇の温かさを堪能していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な作品をありがとうございます。
[良い点] 王妃のロベルタ がアンソニーから離れるという決断をする勇気に、どうなるかと思ったのですが、まさかのアンソニーの行動が面白いですね。 個人的には、一途な陛下が女装をしてまで溺愛してきます、み…
[良い点]  アンソニーを思い身を引くロベルタの気持ちが切なくて。  どこまでも追いかけるどころか先回りするアンソニーは、きっとロベルタのことをよくわかっているからなのだろうなぁ、と思っていたのです…
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