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母の叫び ~新米父ちゃん爆誕~

.....悪癖発症。読み切り式なんで、御容赦を。


 おあと、タイトルがね~。良いのが思い浮かばなくて、おざなりです。何か良い題名あれば..... 募集してみようかな。


「誰か.....っ」


 苦し気な息の下、潰れた車体から這い出ようともがく女性は腕の中の我が子を何とか窓から押し出した。

 気を失っているのか、ぐったりとしたまま横たわる子供。

 歪んだ車体の窓から片側の腕しか出せない女性は、金切り声をあげて絶叫する。


「誰かぁっ! 誰か助けてぇっ!!」


 だが返事はない。


 ここはトンネル中央。


 泥酔していた車が事故を起こし、立て続けの玉突き事故に巻き込まれた複数の車の中間に、彼女の車はあった。

 場所がトンネルだったため、後続の車は避けようにも避けられず、次々と壁や事故車両に突撃する。


 そんななか、車体がひしゃげ、ハンドルと座席で完全に挟まれてしまった女性は、後部座席に座らせていた我が子をなんとかベルトから外し、外へ脱出させた。

 しかしここは、煙が充満して至るところで火の手の上がるトンネルの中。

 周りは車の残骸に囲まれており、ちりちり炙るような熱気がしだいにその温度を上げていた。


 このままでは我が子も助からない。


 未だ、ぐったりとしたまま動かない子供。こないだ二歳になったばかりの我が子を見て彼女の瞳が大きく揺れた。


 まだ二歳なのに..... こんな短い人生なんて。


「誰かぁぁーっ! ここにいるのっ! 助けてぇぇーっ!」


 誰か.....っ! 神様、御願いしますっ! もう、何でも良いっ! 悪魔でも構わないっ!! この子を助けてーーー!っ!!


 パチパチと爆ぜる炎と、喉を炙るような黒い煙。ぜひぜひ音をたてて女性の呼吸が細くなり、遠退く意識を彼女が必死に繋ぎ止めていた時。


 朦朧とする意識の中で、彼女は何かを耳にした。


《助けてくれって言ってんじゃんっ! 子供くらい良いだろうっ!》


《ならんっ! この二人の寿命は尽きておるのだ! 運命を歪めてはならぬっ!》


地球(ここ)ではって話だべっ? 俺んとこ連れて行くわっ!!》


 そんな喧々囂々の言い争いが暫く続き、女性は誰かに頬を触れられた気がする。


《子供は預かるからっ、安心しなっ! この子の名前は?》


 .....武です。


《タケルな? おけっ! ちゃんと立派に育ててやるからなっ!》


 思考の海に沈み始めた女性は、霞む視界の端に黒いマントを翻す何かを垣間見た。

 黒髪黒目の少年は、我が子を小脇に抱えて走っていく。

 その後を追うように駆けていく誰かも見えたが、少年の早さに追い付けないようだった。


《戻れ、魔王ーーーーっ!》


 .....魔王?


 まるで泡沫の夢をたゆとうように揺らいでいた彼女の意識は、そこで途切れる。


 その日、地上波を独占した大規模なトンネル事故。

 数多の人々を巻き込み、多くの死傷者を出した大事故は長く世間を騒がした。




『.....で?』


《で? じゃねーよ。俺じゃ育てられないから頼むわ》


『..........』


 じっとりと眼を据わらせるのはニワトリ。彼女は目の前の少年を三白眼で睨みつけて微動だにしない。

 そのニワトリの周りには生まれたばかりのヒヨコがいた。ヒヨコらは少年の抱いた子供を興味津々の眼差しで見下ろしている。


 そう、見下ろしているのだ。


 このヒヨコ様、体長二メートルほどあり、真ん丸なため、動くとまるで運動会の大玉転がしの玉が転がっているようである。

 そんなんが四つも五つもたむろう洞窟の中に鎮座するニワトリ様。当然、こちらも巨大で、立てば体長七メートルほどあった。全長は十メートル近いだろう。

 これが標準な訳では勿論無い。彼等は魔物と呼ばれる種類の生き物で、普通の地球サイズなニワトリもいる。

 

 ここは異世界ラグナス。


 地球と似通った世界観を持つ別世界だった。




『魔王よ..... いきなり訪うたと思えば何事だ? まずは説明せぬか』


 心底嫌そうな顔を隠しもせず問いかける巨大ニワトリ様。

 それに、ああ、とばかりな顔をして、魔王と呼ばれた少年は、どこからか聞こえる悲痛な叫びに喚ばれた話から始めた。

 彼がその声に気付いて駆け付けたところ、そこには今にも死にそうな親子がおり、声の主が母親なのだと知る。

 悪魔でも構わないから助けてくれと彼女は叫んだ。その切実な気持ちが次元の壁を超えさせ、魔王まで届いたのだろう。

 己の命を贄とした魂の叫び。これに応えねば魔王の名が廃る。

 そう考えて、魔王は死にかかった親子の世界から子供を救出してきたらしい。


 生き物のはびこる世界は数多にあり、天界と魔界は全世界共通。


 それぞれの世界を管理する神々も同じ天界に所属し、当然、魔界にも世界の数だけ魔王がいる。

 だが人間を食べ物としてしか認識していない魔界の魔族らの中で、この子を育てるわけにもいかず、魔王は自分の世界の僕に子供を任せようと考えたのだ。


 母親には立派に育ててやるとか大言壮語を吐いておいて、このていたらく。


 無責任極まりない魔王の説明を聞き、割れるような頭痛に襲われるニワトリ様。彼女は思わず羽根の関節でこめかみのあたりを揉む。


『.....経緯は理解した。納得は出来んがな。で、なぜアタシに?』


《他は肉食獣ばかりだからだよ。ウサギや鹿じゃ、コイツを護れないだろう?》


 魔物はそれぞれに一族を持つ。大抵は野生動物が進化した姿だ。

 初代は魔力による突然変異。そこから仲間を生み増やして今にいたるのだが、当然魔物にも食物連鎖が存在する。

 草食系は肉食系の餌だ。狂暴な牙に逃げ足で対抗しているに過ぎない。

 身体が大きく魔法が使え、知能が高いというだけで、その暮らしは野生動物と何ら変わらないのだ。

 しかし、その魔王の言い分にニワトリが異議を唱える。

 

『我等とて動物を食うぞ』


《お前らが食うのは昆虫や魚だけじゃん。獣肉食わねぇべや》


 ぐっと詰まるニワトリ様。


 彼等が食するのは基本的に森の恵み。あとは産卵期や怪我などをした時の滋養で魚なども獲ったりした。

 はあっと大仰な溜め息を漏らしつつ、ニワトリは魔王の抱く子供を見る。

 まだ二つかそこらの小さな生き物。柔らかな肌に短い手足。とても、この森で生きていけそうには思えない。

 彼女らは人間も踏み込まぬ深い森の洞窟に棲んでいる。嘴と羽根しか持たぬ自分達に、人間の面倒などみれるはずがない。


『人間の子供など育て方を知らぬ。せめて哺乳類..... 猿とかのところへ連れていってやれ』


《あいつら雑食じゃんよっ、やべえって。コイツもう二歳らしいし、飯は俺が運ぶからさぁ。肉食系は怖いし、草食系は頼りないし、お前しか思い付かなかったんだよー》


『だよー、では無いわぁぁぉっ!! 子供らが孵化したばかりのアタシを頼るでないよーっ!!』


 ケーーーっと小さな鶏冠を逆立てて吠えるニワトリ様。

 ビックリした周りのヒヨコらが、慌てて親鳥の羽根の下に潜り込む。


《だからだよ。一匹増えても大した手間じゃないだろ? なっ? 頼むよ、この通りだっ!》


 人間の産婦が聞いたら総スカンを食らいそうな台詞を吐きながら、五体投地の勢いで両手を合わせ、拝み倒す魔王様。

 流石に魔王の頼み事を一蹴するわけにもいかず、ニワトリは恨みがましい眼を向けた。

 

 いつもの威厳はどこへやった、どこへっ!! 大体、泣く子も黙る魔王が、何の酔狂で人間を助けたりするんだかっ!!


 ギリギリと嘴を鳴らし、さらに怒鳴り付けようとしたニワトリの前で、小さな子供が眼を醒ます。

 キョロキョロと大きな黒い瞳を動かす愛らしい姿に、思わず固まる魔王とニワトリ。

 そんな固まる周囲を見渡して、子供は今にも泣きそうに、みるみる眉を寄せていく。


《ヤバいっ、泣くなっ、な?》


 抱いていた魔王の手を小さな両手で叩き、タケルと言う子供は、ふやぁぁと泣き出した。

 眼を見開いて、あらん限りの声を上げる幼児様。仰け反り、手足をバタつかせられて、手に負えなくなった魔王は、必死の形相でタケルを地面に置く。


「ぁーっ、まぁーぁぁっ! まぁーまぁぁぁっ!」


 あ"ーっっと火がついたかのようにギャン泣きする子供。

 どうしたら良いのか分からず狼狽え、おろおろと百面相をする魔王。

 子供の鳴き声を聞きつけて、ピヨ? と顔を出すヒヨコ達。


 プチカオス。


 はあぁぁぁ~っと天を仰ぎ、ニワトリは仕方無しにタケルを羽根の下に押し込める。


『泣くでないわ。ほれほれ』


 ゆらゆら揺れる暖かい羽毛に包まれつつ、柔らかなヒヨコらに囲まれて、タケルは泣き疲れたのかウトウトと微睡み、睡魔の誘いに落ちていった。

 すうすう心地好さげな寝息をたてる子供を見つめ、ニワトリはギンっと魔王を睨めつける。


 こうなれば仕方がない。この馬鹿野郎様には任せておけぬ。


『この戯け者が。預かるはしてやろう。だが、我は人間の食事など知らぬ。必ず持ってこいよ?』


 剣呑な光を一閃させる炯眼のニワトリに、高速でコクコク頷く魔王様。

 他にも着替えやすい服や水樽。盥や食器など、人間に必要になりそうな物を彼女は次々と並べたてた。


『.....ったく。犬猫じゃあるまいし、厄介なことを』


《助かるよ、ダミアン。なるべく顔を出すから》


『顔を出すからではないわっ! 毎日来いっ!!』


《ええええーっ?!》


 思わず間抜けな顔をする少年に、コンコンと説教するニワトリ様。


『子供を引き取ったからには、そなたは父親になったのだ。子育てとは片手間に行えるものではないっ!』


《はい.....》


『我等はニワトリなのだっ! 人間のアレコレを教える事は出来ぬし、人は人と触れあわねば人でなくなるっ! 子供を育てるというのは、餌だけ与えて放置することではないっ!!』


《お説ごもっとも.....》


『基本的な育児は我がしてやるが、この子を野生動物にしたくなくば、そなたが教育して育てるのだっ!!』


《承知した.....》


 厳しく怠り諫むり、ケーっと雷を落とすダミアンと力なく頷く魔王様。


 こうして、至極まともなニワトリに叱責されながら、魔王の面白愉快な子育てが始まったのである。




《うああぁぁぁっ! やめろ、タケルぅぅぅっ!》


 追いかける魔王を余所に、チョロチョロとお漏らしをしながら、真っ裸な子供は洞窟を歩きまわっていた。

 それを後ろから抱えあげて絶望的な顔をする魔王様。


《ああぁぁぁ..... あー、もー、せっかく風呂に入ったのにぃ》


 きゃっきゃっと笑うタケルを見て、彼は情けない顔をしつつも柔らかく微笑んだ。

 ここに住み始めた当初、タケルは怯え、ぎゃーぎゃー泣きながら母親を呼んでいたからだ。

 それに比べたら、毎日悪戯ばかりでも今の方がマシである。




「まぁまぁぁぁ、あ"ーっっ!」


 ダミアンに言われたとおり、毎日やってきた魔王は、まずはタケルをあやすことに明け暮れた。

 ワンワン泣き叫ぶ小さな子供の姿に胸が締め付けられる。

 いくら母親の望みだったとはいえ、連れてきたのは間違いだっただろうか。地球の神の言うとおり、あそこで死なせてやった方が良かったのだろうか。


 そんな取りとめもない今さらな事が、脳裏にそぞろに浮かぶ。


 そして魔王はダミアンの洞窟に住み着き、タケルの御世話をしてから魔王の仕事に出掛け、帰宅した途端、休む間もなくタケルの御世話をするという生活をした。

 泣いて暴れる子供を宥めすかし、御飯を食べさせお風呂に入れ、毎晩同じベッドで眠る日々。

 母親を求めてしとどに濡れる幼子に、なんとも言えぬ憐憫が湧き起こる。


 ダミアンの言ではないが、こうしてしまったのは自分なのだ。責任は取らねば。


 奮起する彼だが、子育てを侮るなかれ。通常でも苦労の連続が子育てだ。しかもタケルはいきなり母親と引き離されて情緒不安定。

 いくら優しくしようとも懐かず暴れるタケルに、魔王も限界がやってきた。


《勝手にせよっ!!》


 今日も食事を引っくり返されて顔面にスプーンを投げつけられ、魔王はブチ切れてタケルを怒鳴り付ける。

 途端に、びくっと怯え、小さく泣く子供。


 ぁー.....っとホロホロ泣くタケルを置き去りにし、彼は洞窟を飛び出した。


 肩で息をしながら、湖の畔に立つ魔王。


 彼は洞窟の一角を整えて平らな床にすると絨毯やベッドを持ち込んだ。

 テーブルセットや洋服タンスも揃え、タケルの日常に不便がないよう気を配った。

 風呂や玩具も用意したし、魔法で泉を湧かせ、これでもかと心を砕いてきたのだ。

 将来タケルが恥ずかしい目に遭ってはいけないと躾にも力を入れる。整理整頓やテーブルでのカトラリーの使い方など。微に入り細を穿ち、丁寧に教えてきたつもりだった。


 なのにこれかよっ!


 タケルの癇癪は日に日に酷くなっていく。いつも仏頂面で笑いもしない。泣かれるよりは遥かにマシだが、世話をする身にもなってほしい。

 今までも何回か魔王は怒鳴ってしまったことがある。するとタケルは、ヒヨコ達の群れに飛び込み隠れてしまうのだ。

 でなきゃ、ダミアンの羽根の下で寝ていたり、魔王には一切可愛い素振りを見せてもくれない。


《俺だって、頑張ってんのに.....》


 思わず悔しさで涙が浮かぶ。ホロリと睫をかがる涙が零れ落ちる寸前、彼は後ろにダミアンの気配を察した。

 慌てて涙を拭い、素知らぬ風で水面を凝視する魔王。

 その横までやってきたダミアンは、無言でトスンっと腰を下ろした。


 黙って湖を凝視する一人と一匹。


 口火を切ったのはニワトリだった。


『子育ては大変だろう?』


《..........》


『アレは、まだそれなりに育っていたから良い。生まれたばかりの人間の赤子は、動けもせず泣いてるだけだそうだ。ちょっとしたことで死んでしまうし、頻繁に病気にもなるという。アンタは運が良かったよ』


 その通りだろう。だからといって、魔王の悔しさが和らぐわけではない。

 無言なままの魔王にほくそ笑み、ダミアンは言葉を続けた。


『アレが我が儘だと思うかい?』


《.....ああ》


『なぜ我が儘を言うか分かるかい?』


《..........?》


 言われている意味が分からない。我が儘に理由があるとでも言うのだろうか? ただ、自分勝手に暴れているだけではないのか?


 魔王は訝しげにダミアンを見た。


 ふふっと笑い、ダミアンは魔王がいない時のタケルを語った。

 ヒヨコ達と戯れ、遊び、疲れたら一緒に昼寝をする。ダミアンの言うことをよくきくし、賢い子供だとニワトリは話した。


《なんだ、それ。じゃあ、マジで俺にだけあんな傍若無人なのかよっ! 俺の何が気に入らないってんだっ?!》


 憤る魔王を見て、ダミアンは呆れたかのように笑う。


『逆だよ。アレは、アンタにだけ我が儘が言えるんだ。気づかなかったのかい?』


 愉快そうなニワトリの瞳。


《だって.....っ、俺にだけモノを投げてきて.....》


『怒っても見捨てられないって知ってるんだよ』


《俺にだけ癇癪起こして、暴れて.....》


『素直に感情をぶつけられるのが、アンタだけだったのさ。構って欲しいんだよ』


 そして突然、彼は気づいた。布団の中で、しとどに濡れる幼子の姿に。

 癇癪の果てに泣きわめくタケル。それら全ては魔王がいる時だけだった。


《俺の前でだけ..... 泣くんだ、アイツ.....》


『子供の我が儘は信頼の裏返しだ。アレはアンタにだけ我が儘が言えるのさ。今頃気づいたかい?』


 .....全く気づかなかった。


 茫然自失する魔王様。するとその後ろから、微かにすすり泣く声がする。


 慌てて振り返ってみれば、そこには五匹のヒヨコ。その背中にうつ伏せで乗った小さな影が、ひっくひっくと泣きながら顔を上げた。


「まーちゃ..... めんちゃい.....」


 真ん丸な大きな瞳を揺らして、ポロポロと泣く幼児。

 それを見た瞬間、魔王は怒りも悔しさも一気に洗い流され、ただただ純粋な愛しさのみが湧き起こった。

 がばっとタケルを抱き締めて、撫で回す魔王様。


《俺が悪かったんだ。怒鳴って、ごめんな、タケル》


「めんちゃい、めんちゃい、まーちゃ」


 タケルは拙い言葉で一生懸命魔王に謝る。少し言葉が遅いかなと思っていた魔王だが、その幼い身体の中身は、ちゃんと情緒が育っていたようだ。

 悪い事をしたと自覚し、素直に謝ることが出来るタケル。それが、こんなに嬉しい。


 抱き合うにわか親子を微笑ましそうに見つめつつも、ダミアンは魔王に釘を刺すのを忘れない。


『タケルの言葉が遅いのは環境だろうね。お前さんが話しかけを怠るからだ』


 じっとり冷や汗をかく魔王様。


 いや、だって、俺も疲れてるんだよ。魔王の仕事やって、タケルの御世話して、休まる暇もないし。


 だからタケルの御世話もなおざりになったり邪険にしたりが度々あった。


『そういうのを子供は敏感に感じとるからね? 子は親の鏡とは、よく言ったもんだよ』


 暗に、タケルが癇癪持ちなのはお前のせいだと仄めかされ、魔王は反論の余地もない。


『もっと気楽にいきな。育児なんて完璧でなくて良い。子供と寝転がって空を見上げて昼寝するくらいで丁度良いのさ』


 タケルを立派に育てようと気負い過ぎていた魔王様。

 部屋も綺麗にして、後片付けを躾け、食事もこぼさないよう口煩くしていた。

 お風呂でもちゃんと洗うことを心がけ、タケルが遊んでいると、時間がないのにと苛々したりもする。

 そんな余裕のない口煩ささや苛々がタケルに伝播し、数々の癇癪を起こさせてきたのだ。


 二人のアレコレを、ずっと見てきたダミアンの言は重い。


『だいたい、アンタは神経質過ぎるんだよ。埃で人間は死にやしない。まだ小さいんだ、手掴みで食べたって良いじゃないか。こぼしてナンボだよ。無意味に見える遊びだって子供には学びだ。付き合っておやりっ』


 ぴしゃっと言い放たれ、思わず項垂れる魔王様。どれもこれも心当たりが有りすぎる。


《だぁなぁ..... ちょいと気を抜くか》


 魔王が苦笑すると、タケルもほにゃりと笑った。泣いたカラスがもう笑う。

 そのキラっキラ笑顔に心臓を射抜かれ、うちの子世界一と、息子にデレデレな父親がここに爆誕した。


 そして宣言に違わず、だらける魔王様。


 日がな一日タケルを腹に乗せて昼寝したり、絵本を読んだり、擽りっこしていたり。

 躾けの、しの字もなくなり、散らかしっぱなしで片付けもさせない。

 きゃっきゃっと笑うタケルに困り顔をしながら、やりたい放題にさせている。


 あまりの豹変ぶりに、またもや青筋の隠せないニワトリ様。


 ヒヨコらも加わり、洞窟の中はカオス状態だった。


 


『だらけるのも大概におしーっ!』


 タケルに甘々で躾を放棄した魔王に、今度は逆の説教をかますダミアン。

 極端から極端に走り過ぎる新米親父の手綱を取り、彼女は要らぬ苦労を背負い込む。


 足して二で割れば丁度良いのにっ! 全くコイツはっ!


 魔王様を魔王様と思わぬ態度で、今日も彼女は、ケーっと鶏冠を逆立てていた。


 右往左往で手探りしつつ、必死に幸せ親子になろうと努力する魔王様の未来に乾杯♪


 短編にするか迷いましたが、この後の構想もあるので連載枠を取りました。超ランダム投稿になると思います。

 気にいっていただけたら、お星様やいいねを貰えると喜ぶワニがいます♪

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