リディアナ伯爵令嬢は恩知らず。
誤字報告頂きました、有難うございました!!
拙作を読んで頂いてめちゃくちゃ嬉しかったです、次作は気をつけたいです。
「ほらほら、あの娘ですわよ?この間彼の令息と馬に乗っていて・・・。」
あぁ・・・また蜜の時間がやって来た。
ひそひそと囁かれ耳を閉ざしながらディアナは渡り廊下をカツカツと早足で駆け抜けようとする。
関わりの無い者達だからこそ噂が出来る、関わりが無い者達だからこそ不幸を面白がる。
「アンソニック様も不幸な事故でございましたわね、まさか落馬されるなんて。」
「そうですよね、あの林に大きな蜂の巣が出来ているなんて思いませんもの」
「蜂に刺された馬が暴れて足を怪我なされたそうよ、お可哀想においたわしいわ。」
そう、林周辺に先月は蜂の巣など見なかった。
たまたま運悪く、その林を馬で駆けよう等と言わなければアンソニック令息は落馬等しなかった。
ディアナは息苦しさの中で今にも胸が潰れてしまいそうになった。
しかしあの時、彼女『リディアナ・フォスター伯爵令嬢』はアンソニックの馬に騎乗し、嬉しさの余り「湖を外周したい」と細やかなお願いをアンソニックに告げたのが事実として残った。
全ての要因がたらればの仮説に過ぎないが偶然が重なって真実が浮き彫りとなった。
「いいね、僕も久しぶりに腕が鳴るよ」整った顔に白くきれいな歯が少し見えた。
ディアナはその笑顔が大好きだった、だから長く傍に居たかった。
アンソニックは乗馬も得意なディアナより1つ年上の婚約者であり幼馴染みだった。
喧嘩一つもした事がない程に2人は仲の良い間柄であった。
お互い伯爵同士で親世代が昔からの友人となれば家格も申し分なく自然に素直に2人は結婚するのだと思っていた。
彼を怪我させてしまう迄は・・・。
(私が湖が見たい等と言わなければ良かった!)
彼が暴れた馬を宥める為に手綱を引っ張ればディアナは傾き背中から転落しそうになった。
(乗馬も出来ない私が彼の馬に一緒に乗ってしまったから!)
彼は彼女を庇い肩から転落し頭と背中を痛打した、その後暴れた馬がアンソニックの左足を踏んだのだ。
(彼の足が治らなければ彼は卒業セレモニーの騎馬隊長なのに参加出来なくなってしまう!)
優秀な彼は卒業生として大々的なセレモニーに参加し得意な騎馬を披露する予定であった。
ディアナは学園からタウンハウスに戻ってもずっとこの事柄を引きずったまま立ち直れずに居た。
「リディアナお嬢様、お帰りなさいませ。」フワリと果実の香りが部屋に優しく立ち込める。
帰宅後すぐ机に向かったものの顏を沈めたままディアナは動けずにいた。
何週間もこの状態で学院から戻っては机に向かってペンを握り、そして日が暮れるまで延々と頭を抱えたり顏を埋めたりを繰り返している。
我ながら情けなく恥ずかしくどうしようにもなかった。
「リディアナお嬢様、お茶をお飲み下さいませ。」
メイドから柔らかく労わる様に声が掛けられる。
そんなに優しく対応して貰える様な人間ではない、自分は最低だとディアナは返答さえ出来なかった。
(私は、あの事故からアンソニック様に謝罪さえ出来ずにいるのだから。)
どう謝罪すればいいのか、どう償えばいいのか時間が経つにつれて分からなくなってしまっていた。
せめて手紙でお詫びを、とペンを持つものの言い訳ばかりが先に出てしまい『謝罪の言葉』や『自分を庇ってくれたお礼』さえもが上面だけの言葉ではないかと嫌悪した。
自分はこんなに礼儀知らずな恥知らずであったのだろうか、これでは伯爵家にも泥を被せる恩知らずではないだろうか。
けれど、どうしても手紙もお見舞いにも行けず原因となった自分を許せる気になれずどんな顏をして会いに行けるというのであろうディアナは前にも後ろにも進めないでいた。
事故当日、アンソニックは気を失ってしまい、通りかかった馬車に助けて貰うまでは本当に死んでしまうのではないかとディアナは動揺しパニックを起こしていた。
アンソニックの家族が迎えに来るまでフォスター邸で医者を呼びディアナは看病をしていた、意識が戻らず頭や首は打ってないかと心底心配し丁寧に体を清拭し安静を心掛けていた。
ディアナの両親とアンソニックの両親も揃った所で初めて彼女は謝罪の言葉を口にしたのだ。
「全部私の所為です、アンソニック様に怪我を負わせてしまいました。」
「彼を死なせてしまったのではないかと思い怖かったです、本当に申し訳ございません。」
「アンソニック様は今お熱が上がって苦しいかと思われます、足が腫れて酷く痛いと思います。」
「こんな事になってしまい本当に、本当にごめんなさい。」
ディアナは謝罪の言葉を繰り返し、状況説明を思う程に冷静に話せている自分に内心驚いていた。
アンソニックの両親は彼女の言葉を聞き謝罪を受け入れ、自分ばかりを責めない様にと労わりの言葉をディアナにかけて彼を連れて帰って行った。
ディアナの両親は彼女の痛ましい姿に沈痛な思いが押し寄せ只々優しく背中を撫でてくれていた。
身体の節々に痛みが出ていたことに気づき落馬した事の恐怖に今やっと心が追いついて来たのだと分かった。
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それから瞬く間に1ヶ月が過ぎ、秋から冬にかけて寒さが体感と共に景色を赤から次第にモノクロへと一変に移り変わる頃杖を付きながらアンソニックがやっと学園に復学した。
「ねぇディアナ学園のパンフこんな量でいいかな?ねぇ・・・ねぇってば!!」
「え?!・・・あぇ・・っと!うん、大丈夫これでいいと思うわ。」
「ねえ、大丈夫ディアナ?」ヒョコと正面から顏に近づきディアナの目をみた。
「な、何が?」
「もぅ!アンソニック・デズモンド卿の事に決まっているでしょ?まだ話せていないの?」
唯一の友達レイチェルが心配げに覗き込む。
今回の事件や噂には更に尾ヒレ背ビレが付いて学園ではディアナは総スカンを喰らっていた。
【礼儀知らずで、恩知らずの婚約者ディアナ伯爵令嬢】
アンソニックに助けて貰った癖に謝罪がなく見舞いにも行かなかったとの噂が拡がっている、
だけれどそれは事実で噓偽りが無かった、ディアナはその噂を否定もせず声もあげなかった。
それが災いし学園から浮いた存在になり誰も彼女を擁護せず遠巻きにされていた。
「私は相手の理由も聞かずに誹謗中傷するのは嫌いなの、当事者でもないし。」
「・・・・レイチェル、ありがと。」
レイチェルはライモン男爵の庶子で出自が平民というだけで謂れのないイジメを受けていた、
ディアナはそのレイチェルが学問や学園での活動において非常に優秀な事を知っている。
決して卑屈にならず前向きで表裏のない闊達な性格や能力を尊敬し好ましく思っていた。
「リディアナさん、レイチェルさんやっと見つけたわ良かった、今から生徒会役員室に行くのだけれどパンフレット見せて下さる?」穏かで静かな声が後ろから掛かる。
「あ、はい、遅くなり申し訳ありませんミシェル様」
「ちょっと!!ミシェル様に探させて時間が倍掛かったのに下級生は遊んでいたの?!」
背後に立っていたのはミシェルだけではなく口うるさい取巻き令嬢達がいた。
「いえ、けれど先輩方には迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした。」
ディアナは深く頭を垂れた。
「あら!!礼儀知らずの恩知らずでも謝る時があるのね!」目と口元が歪んだ笑顔を浮かべた。
「おやめなさい貴女達、リディアナさんもレイチェルさんもきっと何か事情があったのよね?良いのよ、じゃあ預かって行くわね。」そつなく穏かな笑顔でミシェルは廊下から階段へと移って行った。
「何なの!?あの先輩たち、生徒会室にパンフレットを持って来いって言ってた癖に。」
「さぁ・・・分からないわ。」
ディアナは生徒会に行かずに済んでホッと胸を撫でおろす。
アンソニックが今日は生徒会室に居る筈である、どうやっても顏を合わせねばならなくなるからだ。
「レイチェル・・・私もうダメなのかも知れない。」
「えっ!?ディアナどうしたの?!」
「今・・・顏を会わさずにいられる事に安堵してしまったの。」
「デズモンド卿に?」
「もう終わってるよね、本当に。」ディアナは思い詰めた溜息を一つ中庭に落とした。
「今日邸宅に戻ったらお父さんに婚約解消の相談するわ。」
ボソッと零した言葉にレイチェルは息を吞んだ。
「あなたそれでいいの?!自分にも彼にも誠実に向き合ってないじゃない。」
「レイチェル・・・。」
「彼の意見も聞かずに自己完結も程々にしときなさいよ?一体何が怖いの?」
「それは・・・全部、全部かな。」
「あなたはデズモンド卿の事を知り過ぎて見えてないのよきっと!」
「見えてない・・・・?」
「思い出しなさいよ!デズモンド卿の性格はどうなの?何て言うとおもう?!」
「そうか・・・そうね、事故という事象に相手を見失って自分をも失念してしまったのね。」
(彼は何をも咎めたりする人ではない・・・そんな小さな人ではない。)
「馬鹿みたいに簡単なことなんだよきっと!」レイチェルは令嬢らしからぬ歯を出してニカっと笑った。
「レイチェル、そうね・・・馬鹿だわ私、いつもの癖で彼に甘えきっていたのね、最低だわ。」
「あはっ!今頃気付いたのね?!」ミシェルの取巻き令嬢の真似をした。
「もぉ!酷いんじゃない?」2人は声を出して笑った、ディアナは久々の笑顔だった。
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アンソニックSIDE
「アンソニック様、パンフレットをお持ちしました。」嫋やかな所作で机にそっと手が置かれた。
「うん?ミシェル嬢が持って来て下さったんですか?有難う。」
「いえ、そんな最上級生として当然の事ですから。」
サラと長い金の髪が肩を流れると皆が惚ける様な溜息が生徒会室に聞こえた。
(あれ・・・ディアナが持ってくる手筈だったんだけどもな・・・。)
アンソニックは手元にある資料を眺めながら小さく嘆息する。
「アンソニック様、根を詰めてお疲れではございませんか?まだ傷も癒えて日にちも浅いですのに」
ミシェルは形の良い眉を下げて心配そうに尋ねた。
「いや、もうほぼ痛みもないし問題ないよ、気を使わせたね。」
「それなら宜しいのですけれど・・・未だ痛む様でしたら侍女に薬を持たせますわ。」
「大丈夫だよ、最近は身体が訛ってしまってね少しは動かさないとね。」
その気遣いにアンソニックは愛想笑いを向けるとミシェルは殊の外目元を弛ませた。
「こないだお持ちしたお菓子はお気に召しまして?」
「あぁ、お見舞いにわざわざ来て頂いて申し訳なかったね、妹が喜んでいたよ。」
「そうでしたか、良かったですわ!次は是非私のお気に入りの菓子店の物を妹様に・・・」
「いやいや、そんなに気を使ってもらう訳にはいかないよ元気に回復してるんだし。」
ミシェルの家は薬品会社を数件もつ侯爵令嬢でアンソニックの主治医も最新鋭の薬品を卸して貰っていたが
幾度かアンソニックのお見舞いにも訪れ、何くれと気遣ってくれた生徒の一人であった。
「回復が早くて良うございましたわ、それでは私はこれで。」
ミシェルは令嬢然とした所作を崩す事無く生徒会室を下がろうとした。
「あぁ、そう言えば先程リディアナ様にお会いしました。」
「うん?そうなんだ。」おもむろにパンフレットから視線を上げ再びミシェルを見る。
「アンソニック様に『お会いしたくない』と仰っておられましたのでパンフレットをお預かりしたんですの。」
「そう、か。」アンソニックは立ち上がりそうになる体を再び深く椅子に預けた。
「只、彼女のお考えは私等では計り知れませんが、アンソニック様のお気持ちを慮ると、私は彼女の意思を到底受け入れられませんわ。体に無理をしてまで学園にやっと復学なさったというのに」
ミシェルは悔しさを口元に滲ませ瞳は赤く瞬きをすれば零れる様な涙が浮かんでいた。
「いや、ミシェル嬢が心を砕く必要はないよ済まなかったね、これは僕とディアナの問題だから。」
ここは生徒会室であり他の生徒も多く滞在している場所、公私を弁えている事を口にし線を引くとミシェルの瞳孔に剣呑とした光が一瞬差したがすぐ様悲しさを湛えた笑みに戻っていた。
「同じ生徒会の者ですし、同級生ではありませんか?いつでも私に相談くださいませ。」
「有難う、気持ちだけ受け取っておくよ。」最後に感謝だけを口にするとミシェルは生徒会を後にした。
アンソニックの長い睫が静かに伏せられ額に手を乗せると後悔が押し寄せてくる。
(ディアナ・・・こんな事になっていたとは・・・浅慮だったよ・・・。)
学園に戻ってからの日々、遠避けられていた噂が自分の耳に入って来た時は愕然とした。
まさかほんの数ヵ月休学をしただけなのにこんなにディアナに対して悪意ある誹謗中傷が蔓延しているとは考えずにいた。
(僕は早く治す事ばかりに専念して周囲が見えていなかったのだろうな)
アンソニックは事故後に目覚めた時、自分を恥じた。
ちゃんと送り返す所か、彼女を危険に晒してしまった上にまさか失神昏倒してしまうなんて思いもしなかった、騎馬隊の隊長等とご大層な役を貰いながら無様な恰好を晒してしまった。
意識が戻ると両親からディアナの当日の様子をつぶさに伝えられると余計にそう感じた。
(自分は何やっていたんだ!全部彼女に任せて寝込んでいただけじゃないか。)
穴があれば入りたいとはこの事だった、なのに彼女は責めもせずに自宅で看病をしてくれて医者も呼んでくれていたなんて。
(ディアナに会いたい!謝って・・・それからもう1度湖へ遊びに行く約束をしよう。)
早く治って早く会いに行こうと気ばかりが逸ると両親に咎められた。
「リディアナ嬢のご両親からも連絡があった、体調が万全になって再び騎馬が出来る様になれば会いに来てやってくれとの事だ。」凄く体調を労わってくれている事は伝わる。
けれどディアナに会いたい一心で回復を逸る気持ちはどうしようにもなかった。
ディアナは幼い時から自分よりも他人の事を気にして優先してくれる所が多々あった。
昔、流行風邪で咳が酷い僕に山奥にしか生えていない薬草を使った薬湯をディアナは持ってきてくれた事があった。
甘い蜂蜜と柚子入りの薬湯を「良く効くから飲んでね。」とその小さな手で自ら飲ませてくれたのだ、その優しさと思いやりに僕はよく救われていた。
後日、山奥までディアナ自ら登ったのだとメイドから聞かされた時はビックリした。
(僕をいつだって1番に考えていつだって心配してくれていた。)
それを知ると嬉しくなりそして切なくなっていた。
そんなディアナが事故が起きてからは手紙やお見舞い等をぱったりと止めた。
彼女の心が手に取る様に分かっていたのに、せめて自分が心を砕くべき時を逃してしまった。
ふと窓に飾られたオレンジ色のポピーの花が昨日より増えている事に気付きこんな季節にメイドが好きなのだろうかとふと聞いてみた。
「やっぱりフォスター家に行く様調整しよう。」
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「リディアナさん、今日の生徒会は無くなりましたので下級生の皆さんに通達をお願いね。」
「はい、いつも有難うございますミシェル様」資料を受け取って鞄に入れた。
「時間がありましたらテラスでお茶は如何?」小春日和なのもあり、生徒会同士の交流は時々あったから、最近みんなに疎ましがられているのを知っていたのでわざと避けてはいたが、ミシェルがわざわざ声をかけてくれた事に断るのも失礼かと思い誘いを受けた。
「秋の入りから急に寒くなりましたものねテラスも閑散として淋しいわね。」ミシェルはクスクスと笑いながら椅子に腰掛けていつもの笑顔を見せていた。
「そうですね、ですが今日は暖かくて有難いです。」ディアナもつられて愛想笑いをする。
生徒会の役員でもあり最上級生のミシェルは下級生の面倒を見てくれてディアナにもいつも声を掛けてくれる親切な先輩であった。
「ねえリディアナさん、私、あなたへの配慮がなかったですわねごめんなさい。」
「え?どうかなさいましたか?」急に謝ってこられて焦りがでる。
「ほら、転倒事故があった時私、『秋は湖見物が1番良い』と言ってしまったから申し訳ない事をしたなと思っておりましたの。」
「そんな、お気になさる事ではございません。」
生徒会で『秋の散策の話』として会話に上っただけのお茶話でしかなくディアナはミシェルのアドバイスとして参考にはしたが事故とは関係ないと思った。
「けれど、林は危険な事をお伝えしませんでしたから。」
暗に蜂の巣を知っていたと仄めかした。
「そうでしたか、でもそれはもう過ぎた事です。」
ディアナは誰かの所為で起こった事でもないと言いたかった。
「優しいのねリディアナさん、有難う。」ミシェルは嬉しそうにディアナの手を握り言葉を告げた。
「けれどアンソニック様のお見舞いに伺った時は彼、随分落ち込んでおられて『湖にはもう行きたくない』と私だけには仰ってましたの。」
「え?・・・。」ディアナは背中に嫌な汗が流れた。
「謝罪が無かったのも気にされていましたわ、それにもうリディアナさんにお会いしたくないとも。」
「そ・・・れは。」
「手紙もお見舞いもなく、婚約者としての情も失われておられるリディアナさんにアンソニック様はどれだけ傷ついておられたかお分かり?私が婚約者ならば直ぐにでも駆けつけてずっと看病を致しますわ、それにアンソニック様を悲しませたりしませんもの!」ミシェルの瞳は大きく見開かれ自信に満ちた強い光を放つ。
「ミシェル様・・・私は・・・。」
「安易にアンソニック様を弄び傷つけるのでしたら、もう彼に近づくのを止めて頂戴!!」
「言っている意味分かりますわよね?リディアナさん」
ギリギリと手を強い力で握り締め約束を誓わせようとディアナにミシェルは迫った。
「ディアナは謝罪する必要はないしお見舞いもしてくれていたよ。」
振り向くとアンソニックは杖を使わずに立っていた。
「「アンソニック様!!」」
手を振り解きミシェルはアンソニックに近づいて行くと媚びた目で声を張った。
「いいえ!いいえ!彼女は礼儀も恩も分かっておられませんわ!」
「僕とディアナは対等な筈だよ?何故、彼女だけが謝罪し恩を着せられる立場なのかな!?」
「アンソニック様・・・。」
ディアナはその言葉に嬉しくなりやはりアンソニック様はそんな方だったと思い出した。
「あぁ、ディアナが本当に恩知らずというのなら僕は人でなしなのだろうな。」
「そんな筈ありません!!」初めてディアナが大きく声を出した。
「ポピー・・・有難う。」屈託なくアンソニックがディアナに笑顔を向けた。
「ポピーですって?それが何ですの!!」
ミシェルを残して2人がその話一つで伝わっている事に苛立つ。
「ミシェル嬢、もう代弁は無用だよ?僕とディアナの問題だからとお伝えしたよね?」
君の出来る事は無いので早くこの場を立ち去りなさいと告げられたも同然だった。
アンソニックは噂にかき混ぜられた学園に少し腹が立っていた。
責任も傷つきもしない第3者がまことしやかに自分達を語っていた事に、そして一番伝えたい人に自分の思いが伝わらなかった数ヵ月に。
アンソニックは自分の足で歩きながらディアナの手を引いて歩きだした。
「リディアナ、会いたかった!やっと伝えられたよ。」
ごめんとか、心配したとか、辛かったとか、迷惑かけたとか、そんな些末な感情全部いらなかった。
「私も・・・ずっと、ずっと会いたかったです!!」
ディアナの目から初めてやっと涙が溢れた、声を出して泣いてしまった。
何があっても2人がこうやって会えて話をするだけで全て足りる、全部が満たされてゆくのが分かった。
「あぁ、やっぱり目が赤く腫れてしまったね。」
アンソニックはディアナを抱きしめながら目元を気にしてハンカチをそっと拭う。
「ポピーって怖い花言葉もあるんだって?でもディアナが1輪ずつ送ってくれたオレンジはやっぱりディアナらしいと思ったよ。」
「私が出来る事なんて・・・それだけだったから。」
「そんな事!ポピーが秋に見られるとは思わなかった、凄く嬉しかった。」
ディアナはアンソニックに思いが伝わっていた事に胸が一杯で何も言えなかった否、言わなくても伝わっている等、傲慢で相手に失礼な感情なのだと分かった。
「アンソニック様が大好き過ぎて怪我をされた時、自分を見失いました。」
「うん。」(サラリとディアナが告白してくれたよね!?今!!)
「アンソニック様が目の前から消えるんじゃないかと怖くて・・・。」
「うん、うん。」恥ずかしくて切なくてお互い涙が零れた。
「もう少し足の調子が良くなったら、きっともう1度行こう、湖に。」
ディアナはコクリと静かに頷いた。
その後2人はフォスター邸へと戻り、学園での色々を話して必ず卒業セレモニーの騎馬隊をやり遂げる事を誓った。
ポピーが山に咲き出す頃、無事アンソニックは足を快癒し先頭をきって王都の街を騎馬で駆け学園と王城の大歓声を受けた。
ディアナはその後、乗馬を習い春にはアンソニックと共に湖へと速駆けを出来るまでに成長した。
来年卒業と同時にアンソニックの元へ嫁ぐ予定である、レイチェルからお祝いの馬の鞍を貰った。
「2人を強く結び直したのは私と馬のお陰よね!」と。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
設定がちょっと重いかな?とか思ったり、ミシェルは最初はほんの正義感で語っていたのが徐々に押し付けとかになって嫉妬も入ってしまい最後はディアナを糾弾してしまった感じ。
噂話って蜜の味と言いますか責任はどこにもないんですよねと悩みつつ書いてました。
ざまぁがないし、アンソニックをとんでもクソ男にしようかとかじゃあ誰がディアナを救うべ?とか悩んだ作品です初心者あるあるですスミマセン。
余談ですがポピーのオレンジの花言葉は「いたわり」「思いやり」です。