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足を失った少女と詐欺師の話

作者: 理想久
掲載日:2023/03/06

短いです。

「さて問題です。箱の中身は何でしょう?」

 男はそう言って箱を差し出した。

「……こういうのって、箱に手を入れられるものじゃない?」

「うん、けどそれじゃあつまらないだろ?」

 箱は完全に閉じていて、外から中は何も見えない。

 しかも箱自体を持っているのも男なのだから、重さも分からない。

 ならば何を以て箱の中身を推測するのか。

「もしかして質問はしてもいいの?」

「いいや?質問は完全に駄目。質問すれば分かっちゃうだろ、そういうのじゃ無いんだよ」

 私は少し考える。

「八方塞がりね。質問も駄目、持つのも駄目、見えないし触れない。文字通り手出し出来ない訳ね」

「この場合は箱なのだから六面……六方塞がりかな。でもそれで合ってるよ」

「もう一度聞くのだけれど、質問は?」

「…………」

 男は今度は答えない。何も言わずに、箱を私の方へと差し出したまま固まる。

 凝り固まった、或いは張り付いた様な笑顔が私を見つめている。

「あぁ、()()も質問なのね」

「理解が早くて助かるよ。僕は正直者だから。そろそろ君も僕を分かってきただろう?」

 男は口を開く。正直者とはよく言ったものだ。

「確かに、貴方は正直者ね」

 私も笑ってみせるけれど、この男にそれが通じているかどうかは分からない。

 とはいえ目の前の箱はまだある。

 消えたり、男が隠したり、壊したり、そんな事は無いのだから当たり前と言えばそうなのだけれど。

「どう、答えは分かったのかな?」

「ええ。正直者の貴方のお陰で少しだけね」

 まだ三分も経っていない。インスタント食品もまだまだ煮詰まっていないだろう。

 けれど私の解答は既に煮詰まっていた。

 ようはこれは問題なのだから、クイズなのだから、条件が必要不可欠だ。

 だから男は何度も強調し、馬鹿正直に決められた言葉を遵守していた。

 だから言葉がヒント。

「箱の中身は……本当にくだらないのだけど、敢えて言うのなら『空気』ね」

「へぇ、その心は?」

 こういう風に推理推測するのは私の柄では無いのだけれど、けれども促されたのならせざるを得ない。今の私は安楽椅子探偵も驚愕する状況下なのだから。

「まず第一に質問は駄目、ね。これは簡単、質問すれば分かるから。つまり概念では無い。概念は形が無いから貴方と私で答えが変わる。まぁ、箱の中身を聞いている時点でソレをするのは掟破りだと思うけどね」

 よく夢や希望が詰まっているとは言うけれど、本当に夢や希望が詰まっているなんて答えの問題があったのならそれは問題ですらないだろう。

「第二に、私に持たせてくれなかった事」

「それは君にヒントを与えない為かもしれないよ?」

「ええ、そうね。けれどそれもヒントなのでしょう?ヒントは直接回答であってはならない、クイズの基本だものね」

 ヒントとは道標であって、地図では無い。道標は方向性を示すけれど、地図では目的地が一目瞭然になってしまうから。

「つまり『持つ事』事態が中身を推測させてしまうのね。そう考えれば何も不思議な事は無い。箱越しなんてどんな物が入っているのか分からないのだから、何かがある時点でヒントにはなり得ない」

 物が見えているのならいざ知らず、物が見えていない状況で重さを知った所で結局その物自体を当てる事なんて出来ない。ましてや箱越しなのだから余計に。

 という事は逆説的に。『持って分かる物』とは重さが限りなく小さいか、存在しないものとなる。

「そして、第三、結局これが一番の理由ね」

「へぇ、それは何故?」

「だって貴方が好きそうな事だもの、詐欺師の貴方が」

 結局はこれが一番だ。第三の理由とは言っているけれど、それは展開の為に三番に当てたのであって本当はこれだけでも成り立っている。

「『けどそれじゃあつまらないだろう?』」

 男の言葉を一言一句違わずに繰り返す。

「これってつまり、気分の『つまらない』と箱に『詰まらない』の掛け言葉(ダブルミーニング)でしょう?貴方の好きそうな事ね」

 本当にくだらないのだけれど、これが決めてだった。

 問題の作成者の性格を読む、所謂メタ推理ではあるけれど。でもそれを前提にこの問題は出されているのだからズルじゃないし寧ろ正攻法だ。

「確かに、箱に手を入れる穴が空いているのなら『詰まらない』わよね。だってそれじゃあ『空気』の形は常に流動している事になるのだから、箱に入っているという条件から外れてしまう。箱の中身が密閉しなきゃ出て行ってしまう問題なんて前提が馬鹿馬鹿しいけれどね」

 そしてもう一つ。

「……そしてまぁ、これもね。箱の中身を聞いておいて、中身が『空気』っていうのはとても『つまらない』問題だと思ったから」

 なんて、なんてこの男が考えつきそうなくだらない問題なのだと。私は納得してしまったから。

「うん、コングラチュレーション。流石に簡単だったかな」

「ええ。小学生のなぞなぞの方が頭を悩ませるわ」

「でもあれって結構難しいと思うけどね。独特の頭の柔らかさが試される気がするっていうか」

 ……それには少し同意。

「ともあれおめでとう。正解だよ。思い付きで出してみた問題だとはいえ、君が正解出来た事には変わりないし、解答速度から言っても君の勝利だ」

「ならそろそろ良いんじゃない?」

 仰々しく褒める男を無視して、私は言う。

「そろそろ、私の足を返してよ」

 私は、私を見る。

 私は椅子に座っている。

 というのは少しおかしな表現だ。

 いや誇張でもなんでもなく。

 だって私には下半身が無いのだから。

 だから正確に言うのなら、私は椅子に置かれている。

「君は凄い人だ、尊敬する」

 だから……と男は続ける。

 安楽椅子探偵とは良く言ったものだ。

 彼等は好き好んでそこに居る。けれど私は違う。

 私は安楽椅子に置かれている、海外でよく見るみたいな人形の様に。

「さぁ、次の質問だ」

 男が笑う。この詐欺師は、酷い話、正直者なのだ。

 この、人間は。

続きません。

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