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ーーーーーー間に合ったあぁ。



俺は自室の椅子に腰掛け、一息つく。

危ない、もうすぐ授業の終わる時刻だ。

ダリアに俺が居ないことがバレてしまうところだった。



ーーーーーーガチャッ


「ノア様、お疲れ様です」

飲み物と軽食を持ってダリアが入ってくる。


もうミルクでも、離乳食でもない。正真正銘、大人と変わらない食事だ。この、味の濃く、歯ごたえのある食事をどれだけ待ち望んでいたことか!



「ノア様は本当にお食事が好きですね」

ダリアが笑う。そんなに喜びが顔に出ていただろうか?

子どもっぽさが全面に出ていて、少し恥ずかしい。



「あら?」

ダリアが俺を見て不思議そうに声をあげる。

なっなんだ?なにかヘマをしただろうか?

心臓が跳ね上がる。


「ノア様、汗をかかれていますね。……どうされたのですか?」

ダリアが小首を傾げる。

まずい、走って帰ってきたばかりだから……。


「……ああ、それはもう、汗をかくほどに集中していたからな」

焦って、自分でもよく分からない言い訳を口にする。

「左様でございますか、本当にお疲れ様です」

ダリアがにこりとする。誤魔化せたか……?



「さあ、それではお食事にしましょう。それからお風呂に入らなければ、準備して参りますね」

「よろしく頼む」



ダリアが部屋を後にしたのを見守り、俺は食事を口にした。




それから入浴をしたが、中庭でうろうろしていた為、服が少し汚れてしまっていた。ダリアは首を傾げていたが、まあ大丈夫だろう。




入浴を済ませた俺は自室へと戻り、カモフラージュの為にノートを開いた状態で机に向き合っている。

何かを考えるならばやはり机で集中したいものだ。


今はとにかく、状況を整理しよう。

俺は新城晃としての一度目の人生を終え、異世界へと転生を果たした。

恐らくここは、俺が生前購入した乙女ゲーム、『君に捧ぐ剣の誓い』の世界の中なのだろう。

ゲームショップで間違いなく購入する為に、タイトルとジャケットのデザインは頭にばっちり入っている。


黒髪に赤目の少女は、ジャケットにも確かにいた。

隅っこにおまけ程度のサイズだったが……。

その黒髪の少女は、悪役令嬢という性格のねじ曲がった主人公のライバルだ。

主人公はジャケットのど真ん中にいたピンク頭の()だろう。


周りにいた美形どもがいわゆる攻略対象ってやつか…。

あいつら何色だったっけか?赤、青、黄、信号機か!!

それに、ジャケットの乗っていない登場人物も勿論沢山いるんだろうな……。



ふっ…。

思わず笑ってしまう、なぜなら……。



ーーーーーーこれ以上知らねぇよ!!

だって、俺未プレイだもん!なんなら姉ちゃんも未プレイだよ!


普通こういうのって、あれじゃねぇの?

めちゃくちゃやり込んでて知識とか多く持ってたり、未来の流れが分かるから上手く立ち回れるとか。危機を回避出来るとか……。



したこともないゲームの世界でどうしろと言うのだ!

……とにかく、分かることの中で考えよう。

シェルの性格が急変したのは悪役令嬢という”役割”があるからなのか?この世界には原作の強制力ってやつがあるのか?


それなら、俺の立ち位置はなんだ?

悪役令嬢の弟ってモブなのか?

それなら大歓迎だ。なんの設定もなく、のびのびと暮らせるんだからな。

……てか、俺ってどんな顔をしてるんだ?

思えば、この世界に転生してから未だに自分の顔をまともに見ていなかったな……。



俺は後ろに控えていたダリアの方へ向き直る。

「ダリア…鏡持ってない?」

「鏡……でございますか?すぐに必要でしたら、手鏡ならございますが…」

「それでいい、貸してくれないか?」

「はい」



ダリアが近づき、懐から懐中時計のように美しい鏡を出した。

「これは…」

「戦死した夫から贈られたものです」

「そんな大切なものを……」

「良いのです。お使いください」

ダリアがふわりと柔らかい笑みを浮かべ細工を開けて手鏡を渡してくれた。



「ありがとう」

俺は美しく、小さな鏡を覗き込む。そこに映った顔は……。



暗い海の色の髪に金色に輝く瞳。

まさしく、グロリアにそっくりだった。



ーーーーーーまじかあああぁ



俺は本日何度目と知れない驚愕(きょうがく)と落胆を受ける。

別にあの母親にそっくりなのがショックとか、そういう訳じゃない。



この配色の人間に見覚えがある。

俺がこの世界の住人で見覚えがあるなんて決まってる。もちろん、ゲームジャケットで主人公を囲んでいたうちの一人だ。



つまり、俺は攻略対象ってやつで、ハーレムの一員になりうるってことだ。……この世界に原作の強制力という恐ろしいものがあるならば、の話だが…。警戒するに越したことはない。


「あ、あの…ノア様?」

自分の顔を眺めて急に落ち込む俺にダリアがおろおろとする。

「大丈夫だよ…。ダリア、ありがとう」

俺は鏡をダリアに返した。


「左様でございますか?」

「ああ」

未だに心配そうにこちらを見ているが、俺は軽く笑って見せて、再度思考を始める。



とにかく、もう一度シェルに会わなければ。

俺はこの物語の内容も進み方も知らないし、分かっているのは主要キャラ達の姿形だけで、名前も、どこにいるのかも、どう出逢うのかも知らない。

俺があのゲームの登場人物として知っているのはシェルだけだ。しかも、頼みの綱のシェルの立ち位置は悪役令嬢ときた…。



今のシェルの性格がもろに原作に沿っているというならば、原作から逸れたらどうなる?

もし、シェルの性格がゲームの登場人物としての性格と別物になったら…。それはもう別の物語だろう。



つまりは、シェルを悪役令嬢から真っ当な令嬢に育てあげれば、俺のハーレムの一員になるという最悪の未来も違ってくるはずた。



俺がこの世界を原作通りには進ませない。俺は俺の未来を変えるためにシェルの未来を変えてやる!

それが、原作の強制力に対抗できる俺の唯一の行動だ。



俺が悪役令嬢を清く正しく導いてやる!!

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