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第2話 グラズヘイム





高度4000feet 地上から約1200メートル程度上空

B22地点

(グローム要塞、壁上を横軸線とした地図の行をアルファベット。列を最大50までと現し、その地図から座標点にしている)


ノストラファ軍曹から指定された座標はB(地図の左)の22番(グローム要塞は25番)だ。要塞を越え、少し離れた所だろう。



「ルイス!小隊長が見えたわ。」


「やったぁ!補給っ補給っ!」

イェンが小躍りする。


小隊長。基、ノストラファ軍曹は大型の単葉機でこちらへむかっていた。主翼全長20メートル、宛ら小型の爆撃機と言った感じか。前方と後方に7ミリ機関砲、胴体にはグライダーが付けられている。トラックで運んでいたあの飛行機だ。

動力は9気筒星型エンジン2門。


「小隊各員に告ぐ。胴体下部に取り付いたあと待機しろ。グリップを下ろす。」


単葉機は旋回し腹をこちらへ見せ、グローム要塞の方へ進む。


「聞いたか!総員速やかに着艦せよ!」


出力を落として減速させているため高射砲の餌食になってもおかしくないのだ。


我々4名は単葉機の胴体に併走する形で飛んだ。

胴体から4つの窓が展開し中からロープに繋がれたグリップが射出される。そのグリップを握りぶら下がる形で着艦する。


「着艦終わりました!」


「よし、高度を上げるぞ。」


単葉機はエンジンを唸らせ機首を大きく上げて上昇する。ノストラファが機体をねじりながら上がるので我々はブラブラと揺らされる。

その動作は回避行動で右翼と砲弾がすれ違った。


「小隊長!狙われています!」


「フェッツ1等、慌てるな。要塞を見たまえ。」


ノストラファ軍曹がそう言うと、要塞の向こう側からジャルネスタ派遣兵団の戦闘機群がやってくる。


「よっしゃあ!やっちゃえ、やっちゃえ!」

イェンが羽をバタつかせながらガッツポーズをした。



「航空機動小隊へ。こちら第18飛行大隊、アルファ小隊である。初陣ご苦労であった。後は我々が引き継ぐ、交代しろ。陽動は十分だ。」


「こちら、第1航空機動小隊グラズヘイム。報告に感謝する。ご武運を…。」


赤に塗られた機体が我々の横を過ぎ去った。その後に50機の戦闘機が続く。アルファ小隊は1度高度をとってから強襲した。

地面から黒煙が上がり、敵の陣地が焼かれていく。

それに合わせてグローム要塞の正門が開き、要塞防衛隊の機甲部隊と歩兵が突撃していく。


「スパロス軍が打って出たよ!」


「そうだな。要塞がいつまで持つかも分からない。スパロスはこの突撃に全てを賭けているだろう。交代と聞いたが我々も協力しよう。陽動と言ってもひとつしか破壊できてないからな。」


「了解…」



単葉機ハーピー・ワンはそのまま反転し、スパロス兵の後に続いた。





















攻勢に出てから1時間後


「弾薬をもってこい!はやくっ!」


「くそっ、こいつら塹壕を掘ってやがった!地面に注意しろ、伏兵だ!」


「俺の足がぁぁ!」


「前に進めぇ!止まるなぁ!」


「くたばれぇ!」


「先行する!続けっ!」


「ハーピー・ワン!C5地点に支援砲撃を!」


ジャルネスタ派遣兵団第18飛行大隊の奇襲後、ゲイル領地側の航空基地から来た攻撃機の登場で地上の支援に回ることができず、帝国の第3機甲師団に苦戦を強いられる。

第1航空機動小隊グラズヘイムの指揮機ハーピー・ワンも攻撃機に狙われ地上の支援に集中できなかった。

前方銃座についていたブレイカーズの1人は撃ち抜かれ戦死。

戦況は非常に芳しくなかった。


俺が思っていたよりゲイルの軍事力は上を行っていたらしい。

機関砲を積んだ軽戦車ではなく既に7センチ砲弾を撃ち出せる重戦車が地上を蹂躙していた。

奴らは塹壕に車体を隠し、硬い砲塔だけを覗かせる。

近づこうものなら塹壕から出て後退するためこちらは常に待ち伏せを受ける形だ。


ジャルネスタ派遣兵団の第4歩兵連隊もスパロス突撃隊に加勢しているが人数が足りない。


ハーピー・ワンの操縦席には支援要請の無線が途切れることなく鳴っている。

第1航空機動小隊の面々が降下してから1度も着艦していない。我々が上昇しようにも味方と敵の航空機が邪魔だ。



今、俺たちは前線の歩兵部隊と一緒に地上戦をしている。

それはまるで走るニワトリのようだ。




「もうやだぁ!帰りたいぃ〜」


「フェッツ!泣き言いうな。ちゃんと生きて帰って親の元へ帰るんだ!そして怒ってやれ!」


砲弾でめくれ上がった地表に身を隠し、前へでるチャンスを伺うが敵兵の機銃が怪しいところを的確に狙うため10分以上動けないでいる。俺の脳内マップもここがどこだかわかってない。


「ルイス…この銃どうやって弾を入れるの?」


「銃床付近のチャンバーを引く、そしたら中の板が出るからその後、5発の塊を装填。それで引き金を引いて発砲。」


チキンッ

死んだ兵士の武器をとりアルネシアが言われた通り装填した。


「チキンだって。鶏肉、鶏肉。」


「物騒なこと言うな…」


「ごめん…」


イェン1等は元から頭のネジが何本か抜けているようだ。

しかし、このままここにいても埒が明かない。

野砲や自走砲に居場所がバレればここもすぐに砲撃されるだろう。止まれば死ぬ。それが戦場というもの。

我々は空に飛んでこそ効果が期待できる。この羽が取れれば話しも変わってくるが無理だ。

俺は壁にもたれ帽子を下げた。

この手にあるのは小さな拳銃のみ。

フェッツが寄りかかってくる。数時間前は陽の光を反射するほど綺麗な白だった髪は泥でクタクタになっている。


「ルイス。戦車隊が前進してる。」


「なんだと!?それじゃあスパロスの突撃隊は」


「最前線は瓦解したと思う。」


「要塞の砲手は何をやってるのか!これでは突撃隊が無駄死にだ。加勢したうちの歩兵隊も…もう。くそ、やはりどの世界でも初動は帝国が上か…。」


「なら、早く逃げよう…。」

フェッツが声を震わせながら言う。だが誰もが無理だとわかっている。今行っても蜂の巣にされておしまいだ。

しかし、留まっていても結果は同じ。


「私が囮になる。」

発言したのはイェンだ。

「訓練でも1番足が速かったし、飛び立つのも早い。低空だったらルイスに負けなかったんだよ?」


俺より羽が小さく小柄、だがフェッツやアルネシアよりもパワーがある。彼女ならうってつけだが…


「私はやるって決めたら絶対行く。時間がないんでしょ?アルネシアは頭がいいし、ルイスはリーダー、観測員は絶対1名必要だからフェッツもダメ。残ったのは1人だけ。」


「戦車隊。距離およそ300。」

アルネシアの報告で俺の胸が苦しくなる。



「イェン。これだけは言っておく、自己犠牲は綺麗でもカッコよくもない。その行動が自己犠牲ではなく自分自身にもメリットがあるものだと思うのなら行け。」


「ルイス分隊長…ありがとう。」


イェンは装備を全て脱いだ。

「私が行ったら、1秒遅れでみんな逃げて!そして、要塞内で生きて……会おうね!」


彼女が飛び出す直前、俺の頭の中でこちらの世界へ飛ばされる前の記憶を思い出した。

あの時も2名の部下を失った。

形は違えど戦死した事実は変わらない。

俺は顔を上げ、イェンの足を引く。


「うぇっぶ!」


「あの時、俺が、俺が!私が判断を間違ったから!」



「ルイス!逃げてぇぇぇぇ!!」

アルネシアの悲痛な叫びを聞いて我に返る。

俺が振り返ったとき、重戦車はしっかりと私を狙っていた。

イェンを引いた反動で影から飛び出てしまったようだ。


俺は死期を察し、最後の抵抗として拳銃を撃ち切る。

どれも分厚い装甲に弾かれ高い音を鳴らすだけ。


敵の重戦車が発砲する。

その砲弾は螺旋に回転し真っ直ぐ飛んでくる。

徹甲弾か、榴弾で焼き鳥にされないだけましだな。


俺の潜在意識はまだ生きてたいようで体をひねり回避行動をした。宙で一回転した時、俺の胸のすぐ前を砲弾がすれ違う。


地面に両足をつけ着地した後、後方で大きな土煙があがった。

今、俺は何をした?バレルロールか?

敵の砲弾を避けたことで脳が興奮していて、自然に口角が上がってくる。

しかし、妙な感覚だ。動体視力が一気に上昇したのか戦車の砲塔が微妙に振動していることも分かるし、聴覚も良い。次弾を装填する金属が擦れる音さえ聞こえてくる。


五感の良さも翼人の体質かもな。

遮蔽に隠れる3人の表情が面白いくらい固まっている。

俺の脳はゾーンに入った。この好機、活かす他あるまい。


戦車隊に俺が最優先目標だと思わせるため、前に駆け出す。五感が研ぎ澄まされていても体力は同じだ。走る速度は変わらないが対応できる速さが上がっている。3人にはあのSF映画の金字塔、マ○ックスの様に見えているだろう。


戦車隊はフォーメーションを組んでタイミングよく発砲してくる。今の俺にとっては1発1発避けれるから非常に有難い。逆に怖いのは機関銃だ。俺が横に走れば後に続く銃弾は1本の縄のようになる。加えて、反動でバラけている。

もし、かすり傷でも受けて脳が痛みを感じた時ゾーンは解除されるかもしれない。


まずは3人近づく脅威の注意を逸らす。それから俺も撤退を始めればいい。帝国兵も要塞に近づけば砲で破壊されると理解しているはずだ。要塞砲の必中距離まで下がればこっちの勝ち。


やれる、まだやれる。可能性はある!

俺の肩が少し軽くなった気がした。



キャタピラの音、搭乗兵の声、エンジンの振動、装填音。

車体の傾き、履帯の回る向き、砲塔の動き、前進か後退か。

分かるもの全てを判断材料に先手を打つ。







「ルイス…。すごいよ……笑っちゃうくらいにね。」


「アルネシア!見とれてないで行こう!ほら、フェッツも」


「ねぇ、イェン?私もあんな風になれるかな。」

イェンに引きずられながらフェッツが呟く。


「なれるから!今は走る。」



イェンはとても行動力のある兵士だ。

彼女に2人を任せて大丈夫だろう。

俺の行動に合わせて、友軍が撤退していく。敵も要塞砲を恐れているのか行軍速は遅い。

だがその一瞬の遅れを俺は逃さない。


敵兵の撤退した砲撃陣地にはまだ使える野砲が残ってるはずだ。俺は一目散に駆け、砲弾が装填済みの野砲を放つ。敵もまさか、自分たちの砲を利用されるとは思ってもないことだろうな。


スパロス突撃隊は非常に惜しかった。敵砲撃陣地を半壊させる事ができたがその陣地を奪取し、維持することはできなかった。敵は陣地を再確保し要塞への攻撃をもう一度行いたい。


俺はそれを利用する。

今更、陣地を破壊し我々に利用できなくする時間もない。


ハハッ、楽しくなってきたぞ。


「さぁ!殺ろうか!」



「この悪魔がぁ!」

先頭の戦車に接敵したとき運転手がそう怒鳴ってくる。

車両の窓から見える顔は焦っていた。


砲撃陣地の土嚢にある機関銃を剥ぎ取って、その窓へ銃口をねじ込んで撃つ。

近づく俺を機銃や砲が狙う。

その射線の間をぬって飛び込む。


戦車隊は後退しながら交互に攻撃してくる。


「た…たった1人に、20両以上の戦車隊が退却ぅ!?」


「まだ1両しか倒してないよ?」

大声で戦車隊を煽る。俺の言葉が通じているか分からないが相手には機関銃を担いで怒鳴ってる狂人に見えるだろう。

くわえて、攻撃は一切当たらない。


だが挑発にのる車両は1台もない。

おかしいな。とっても冷静で有能な指揮官でもいるのかな。



と、思ってたら上空で大きなプロペラ音が聞こえた。


「ちっ、航空支援か…。」


真っ直ぐヘッドオンしてくる帝国軍機。

二門の機銃が火を噴く。おれも負けじと撃つ。


「落ちろォ!」

敵機は降下中、目標の移動が不規則な動きだったら機銃など当てれない。しかし、俺から見ればお前は大きな的、加えて直線的な動きだ。勝てる。


カチンッ


なんだ。

「弾切れぇ!?」

こんな時に限って…。


頭を回せ、回せ…回らんかい!




咄嗟に思いついた行動は両足の爪で機銃をつかみ、羽を広げる。大きく羽ばたいて距離を作り一回転して弾を避けつつ相手を機銃で殴ることだった。


敵機は俺が空に1メートルくらい上がった時、危険を察知して反転した。


「低空での回避行動など、エネルギー切れだろ!」


近所の野砲陣地に並列で置かれた野砲が三門。

端の野砲を助走をつけて蹴り、向きを変える。変えると言うか中の回転機構が壊れ勝手に回転した。


三門中、一門だけ弾が入っていたのですかさず撃つ。


砲弾は見事に命中した。


「Good KiLL」



火を吹いた敵機が地面に落ちる。巨大な爆煙が上がり、飛んできた土が当たる。


俺は泥まみれの自分をみて笑った。


手には火傷。

足の爪は何本か折れてる。

筋肉はブチブチと嫌な音を奏で、まぶたは痙攣している。


かまわず、歩を進める。敵の死体から小銃を奪い。

後退を続ける戦車隊に発砲した。


銃弾は弾かれ甲高い音を鳴らす。

しかし、数分前とは違う。戦車隊は後退を続ける。


空を見上げると、帝国軍機ばかり飛んでいた。

制空権は取られたか。


無線でハーピー・ワンに連絡するが応答無し。


大佐…。


「大佐は健存でございますか?」


無意味な通信を入れる。


その言葉を言った途端、一気に疲れがきた。

足がふらつき、立っていられない。

今しゃがむと、次に立ち上がれるのは何時間後か…。


「あぁ…。快進撃もここで終いか。」

戦車隊は後退を続けるも砲はこちらを向いている。

不味いな。







「ルイス上等、ご苦労であった。」


とても小さい音で聞こえた通信を俺は聞き漏らさなかった。



直後、戦車隊に向かい大きな単葉機が特攻した。

巨大な質量を見事に直撃してしまった戦車は爆発はしないものの見るも無惨な姿に変貌し、ほかの戦車や俺には粉塵が襲いかかる。

大型単葉機の燃料に火がついてそれを浴びた戦車からは炎に包まれた人間が何人も車外へ出てくる。


ここまで見てきた光景もどれも悲惨だったが、今のは予想をはるかに超えた。戦争映画でも役者の焼かれるシーンがある。しかし、それはあくまで演技であって実際の出来事、リアルでは無い。


俺は思わず口を塞ぎ、その煌々と燃える炎に目を奪われていた。


小さな少女は泥まみれで燃える鉄くずの中、ぺたりと座り込んでいた。背筋は真っ直ぐ伸び、その瞳には赤が映る。

血の赤、燃える赤、砲撃の赤、敵国の赤い国旗。

そのどれもが憎悪に溢れている。

私の幼い時、同じ経験をしたら精神がおかしくなるだろう。

戦争帰りの兵士の表情や心境に絶対と言いきれるほど変化が起こるそうだが、あながち間違ってない。

それでも平然でいられる人は特殊体質の持ち主だ。

頭の中でこんな自論がぐるぐると回る。


その後、私は1つの結論に終着した。





「大佐。ここはゴミ箱ですね。」


「人型の生ものが、消費期限も守らないような人間に捨てられている。無駄に、非効率にゴミと化す…。愚考の愚行。」


「大佐も死んでしまっては周囲のゴミと同じ。私はゴミ予備軍ですかね…。ははっ、おかしいな。」


俺は今、よく分からない感情に支配されつつある。最悪な経験をしたのに笑ってしまっている。

手が震えて、持っていた小銃を落とす。そして焦げてなんの効果も果たしていない革手袋を八重歯で噛んだ。


「肉が喰いたい…。肉を…。肉。」


俺はフラフラと立ち上がり、戦場の奥へ奥へと進んだ。

アルネシアたちとは正反対の方向へ。

ゆっくりと着実に。











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