表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

Episode0 作戦開始。成すべきことはただ1つ〝飛翔〟せよ

  




あの後、俺はすぐ寝てしまった。赤ん坊の体力は貧弱でパイロットをしていた時は筋骨隆々だったのに…残念だ。


次、目が覚めた時となりに知らない子が寝ていた。すこし考えたあとすぐに分かった。この子は俺の妹だと、なぜなら腰に羽が生えていて俺と違い一対しか無かったがヴァルキュリアはそう簡単に生まれてこないと昨日の会話からして思っていたのだ。同じお腹から産まれたのなら種族が同じ可能性もあるだろうから。


そして人間と違う点はいくつかあって、既に歯が生え揃っていること。羽毛が生えていること。髪が首元まで長いこと。足が鳥類みたいに硬い皮膚で覆われていて立つことができること。足の指が4本で手のように物を掴めること。

人間の赤ちゃんよりだいぶ成長が早いようだ。

俺の翼は黒色で1部白色。同じく髪も黒の中に白が混じっている。

これは全部、妹を観察した結果なのだが自分がどうなってるかは分からない。視界の端に覗く髪が白色だったので俺も妹と同じだろうと思う。


たまに見回りにくる人達はシスターでここが教会だってことがわかる。

母だと思う人からはパンの切れ端を貰った。

どうやら翼を持つ種族の扱いは鳥と同じらしい。毎日3食、芋入りの薄い塩味スープ。

ってかんがえていたけど間違いだった。

ベッドから移動して明かりのある部屋へ行った時、シスターや神父。親と知らない子供や大人。みんな同じご飯だ。

この教会は貧しかった。




次の日には外を走り回れるようになった。

3日目にしてこの成長ぶり、自分が人間じゃないって改めて実感した。

午後には急な雨により妹との散歩は中止された。

教会の人々はみんな役割を持っていて、馬の世話をする人、ご飯の支度をする人、洗濯や水汲みをする人、子供のお世話をする人、勉学を教える人。

俺は勉学を教える人に付きまとった。

早くこの世界に慣れ、目標を達成するためだ。

目標とは何か、それは大空を自身の力で飛ぶこと。

まぁ、今の体力では到底無理だから成体?になるまで待つしかない。


妹は馬に興味津々のようで日中は馬小屋によくいる。

俺と違って勉学が嫌い。教師のお兄さんにはよく妹を説得してこいと言われた。いや、俺たちまだ1歳にもなってないし言葉も話せないのにどうしろと…

原因は俺にある。会話も理解出来てないのが普通なのに人間の子供と同じように椅子に座って熱心に授業を聞いているからである。翼を持った人。この国では翼人と言うらしいが翼人は1歳にもなってないけど勉学もできるって思わせてしまったから。

翼人の研究は進んでおらず、その成長過程も不明なようだ。

これは教会に来た医者の話を盗み聞きして知った。

ヴァルキュリアなどと大層な名前で崇められている以上、解剖とか絶対にできないんだろうな。




一週間後には羽もしっかりしてきた。

空気を掴むという感触を知った時はとても感動し、教会を駆け回った。

助走をつけると飛び立てそうな感覚がしてくるが離陸したことは無い。地面を蹴っても大抵転けて終わりだ。


まだ、しっかりとした言葉は話せない。妹とは鳥のように鳴いて話す。

何となく、鳴き方で思考が読めるのだ。不思議なもんだなぁと思う。


こんなふうに貧しいが衣食住に困ったことは無い。

みすぼらしくても教会だ。一応、援助金も出ているようだし、自給自足で賄える。たまに依頼が来て神父やシスターが仕事にも出かける。

俺たちは不自由なく、このまま成長してこの教会の生きる神様なんかになれるのでは?とか思ってみたりして。

だけど未練も残ってたりする。あの時、戦闘に勝っていたらどういう結果になったのか。俺が死んで悲しむ人もいただろう。そして、領空侵犯した敵機が俺の国に何をしに来たのか。爆撃機ではなかったしなんの目的があったのか検討つかない。また、同じ小隊の中島や野藤がどうなったか俺みたいに生まれ変わってるのか気になる。


その日の午後、感傷に浸る時間をぶち壊すようなニュースが教会に入ってきた。東方に1つ国を隔てたところ、ゲイルという国が隣国スパロスに宣戦布告したという内容だった。

俺はまだ、教会の外に出たことないからこの世界の技術力がどれくらいのものか把握してない。欧州の田舎なら現代だったとしても同じような衣服で、建物の作りも似ているだろう。

教会に軍人が来るまでは少なからず現代っぽいと認識できていた。


奴らは次の日の朝早くに訪ねてきた。

訪問理由は徴兵だ。15歳以上の男で重要な仕事に就いていない者、市長とか神父とか地主とかそういう人以外は全員だな。

または兵士に向かない者、怪我や精神疾患患者、男兄弟の内1名を徴兵した場合残りは免除などそういった人も対象外だ。


もちろん俺達も対象外と思っていたが違ったようだ。

姉妹のどちらか片方を徴兵すると軍人は話した。

この世界には翼人部隊がいるらしいのだ。親や神父は抗議したが翼人種を産んだ家庭はその子供を国へ預けることでお金が貰えるという合法的に子供を売れるような制度がある。それを聞いたとたん抗議をやめた。

母はこんな時、お姉ちゃんが妹を守るのよって言ってきたが、睨み返してやった。

妹の目の虹彩は黄色で鷹の目の形だったので俺の目も同じ、睨まれた母は腰を抜かした。

生まれ変わる前、何十年も前だが士官学校を卒業したのだ。今更、兵士になるなど簡単だ。俺は妹の頭を撫でる。


「私が行くよ、ヘンリー。空を見たら私がいると思いなさい。私たちは離れていても繋がっている。必ず帰ってくるから待っていて。」

1歳にもならない小さな体、

(まぁ成長が早いから既に人で言う6歳程度には大きくなっている。脳みそは年相応だけども)

から発せられた声は小鳥のような綺麗なさえずり、俺以外の全員が初めて言葉を聞き場が凍りつく。自分も驚いた。

俺はそのまま軍人の後をついて教会を出ていく。一応、お世話になったので一礼した。

軍人の服装から2次大戦初期かなーっと思う。

教会の門を初めてくぐった。初めて外に出た感想は古い、ただ古い。

隣の建物との感覚は600mを超えている。

緑の畑がずーと続いていて真ん中に舗装されていない道がある。

教会の門外から少し離れた位置にクラシックカーが見えた。昭和を舞台にした映画に出てくるあの黒塗りの車だ。他には大型のトラック。その車両には徴兵された青年が大勢乗っている。

車のドアには剣を持った鷹のマークが描かれていてそれが国旗だとわかる。


軍人が車のドアを開けた時

「お姉ちゃん!絶対!絶対帰ってきてね!待ってるから。」


最後の言葉には力が入ってなかった。悲しいんだろうな。戦争に行くって分かってなくてもなんとなく理解しているだろう。


俺は思わず敬礼してしまった。

「約束、必ず帰る。またね。」

ヘンリーは車に乗った俺が見えなくなるまで手を振っていた。


俺は悲しくなって涙をこぼした。

中身は33歳のおっさんでも体は少女だ。


「申し訳ないが確認と連絡事項を伝える。君はルイス・V(ヴィ)・ヴァールブルクで合っているな?」


俺は頷く


「よし、では連絡事項を伝える。君はこれから翼人部隊専用の学校に入り長くて3年、短くて数ヶ月通ってもらう。もちろん宿舎からの登校だ。部屋は既に割り振ってあり2人1組の部屋だ仲良くするように。学業の成績と適正によって配属される部隊が決まる。好成績だからと言って安全な部隊に入るとは限らない。後で文句を言わないよう今、理解してくれ。学業内容は基本教練の座学と航空機動術の実技だ。実技には体力作りも入る。覚悟しておくように。必要なものは全て部屋に置いてある。追加注文がある場合は寮監に伝えなさい。できる限り用意する。」


っていう話をされていたが砂利道を走るせいでガタガタと音がするし車のエンジン音はうるさいし、サスペンションが弱弱だから振動でお尻も痛いし話を聞きたくても頭に入ってこない。

要は、前世の士官学校時代に戻ったってことだ。なーんだ簡単だなって思う。


隣に座る軍人はまだ、マニュアルを話していたが聞いている振りをしながらぼーっとしていた。これからどうなるんだろうな。航空機動術とか言うので空を飛ぶ練習するのかな。それだけが楽しみだ。もう戦死体験は二度としたくない。テキトーにやって事務処理になっても良いな。


宿舎までは車に乗って6時間かかった。

寝たくても痛くて寝られない。移動の時間は苦痛で退屈でなんの面白みもない。外の景色を見たくても背が小さいから見えない。

車が止まり、ドアが開いた時田舎からガラリと風景は変わり塔のような建物や大きな工場、車も行き交い、人々でごった返していた。

観光気分で街を歩いていると軍人に手を引かれ、屋敷の様な大きい建物に連れてこられる。

屋敷の門には同じように連れて来られた翼人がいる。

悲しいことに、4つ羽は俺だけだった。


「整列!」


頭に鉄兜を被った軍人が号令する。

俺は背筋を伸ばし直立不動の姿勢をとる。

つくづく染み付いてるなーと落胆した。


「ほぅ?君がルイス君か。よし!ルイス・V(ヴィ)・ヴァールブルクの左側に並べ。あとから順を決める今は適当に整列!」


俺の左側に翼人が次々に整列する。訓練されていないので時間はかかるし、みんな不安げにしていてゴソゴソと動いている。

人数は全員で16名。


「国中から集めてこれだけしかいないか。」


「ノストルファ大佐、兄妹などの関係もあり全員ではありません。」


「そうか。よし!君たちは新生翼人部隊の1期生だ。前の対戦で活躍した翼人部隊は既に前線へ出ている。ここへ来る前、聞いただろう。何故、君たちが集められたのか!東の悪魔共が周辺諸国に宣戦布告したためである。翼人は航空機に並んで非常に価値の高い兵科だ。嘘偽りなく話そう!君たちは家族に売られたのだ。翼人の育児は難しい。十分な環境が整っていないと数年で死んでしまう。また、多くの金も必要になろう。30年前には育児放棄された翼人が自由奔放に空を飛び、時には人間に危害を加えたこともあった。それゆえ管理しなければいけない。古来からの言い伝えを信じヴァルキュリアなどと言う者もいるが君たちは人外であり、危険な存在である。そんな君たちの安全を保証し最大限に活用する!それがこの翼人部隊である!」


どうどうとクソみたいな演説をしてくれたノストラファ大佐。大半の翼人が意味を理解出来ず大声で泣いている子もいる。いや、理解できない方が良かった。言葉が分かる子達は絶望する子、大佐を睨む子など様々な感情が現れているだろう。


「ノストラファ大佐。恐れながらも申し上げます。大佐の演説はこれから活躍するであろう我々翼人部隊の指揮を低下させる言い様であり、挨拶としては大変そぐわないものだと考えられます。よって発言の訂正をお願いします。」

思わず、大口をたたいてしまった。発言してから後悔したが思い切って言ってやった。


「ルイス君、君はまだ入隊していない。なので何とでも言うことが出来る。だがこれは事実だ。先に認識してもらわないと君たち翼人は自分たちが上位種だと、どうやら勘違いするようでな。今の君のように上官に口答えしてしまうのだっ!」

ノストラファ大佐の蹴りが俺の腰に当たる。すぐさま左腕で受けたが6歳くらいの体躯では到底受け止めれない。

しまった、この体は元の世界の俺のように図体がでかいわけでも筋肉も多くついていないのだ。

少女の体は意図も容易く中を舞い、地面に倒れる。

俺も抵抗し着地する時に前転させ衝撃を和らげる。それでも姿勢を崩し怪我をした。

痛い。骨は折れていないが打撲と出血か…。

地面に伏せた状態でノストラファ大佐を見る。

余程いいのを入れれたのか足を回して得意げにしている。周囲の軍人の顔は青ざめていてどう対応しようか迷っている様子だ。


「この国は、大人が子供を守らず玩具にしているのですか?」


俺は1人の軍人へ話しかけた。

話しかけられた軍人は俺か?俺なのか?と言った感じでドギマギしている。

だめだ。この大佐といい部下といい腐ってる。多分この大佐は権力を振りかざすダメ人間なのだろう。左遷みたいなもので翼人の訓練校へ配属されたかもしれない。


俺が蹴飛ばされてから動揺していた翼人達が一切話さなくなり圧力に怯えている。このザマでは前任の翼人部隊の程度が知れる。

新生、つまり1度解体している。前線に出た翼人。せいぜい歩兵部隊の支援役などだろう。2次大戦にもなると航空技術もある程度いい物が揃ってくるはずだ。翼人を活かせる場面も少なくなったのだろう。

折角、空を飛び回れると思ったのに…。

妹をここに行かせるよりマシか。


「余興は終わりだ。本日はこれにて解散、各自宿舎に入り用を済ませるように。あとは寮監に任せる。撤収。」


ノストラファ大佐とお付の2名は車に乗って司令部にでも帰ったのだろう。

くそ、俺は寝返りをして空を見上げる。

いつになったら飛べるのやら、成長が早くても練習しなきゃ無理か。さっき飛ばされた時、飛んで受身が取れれば良かったのに。

俺は15分くらいその場から動かなかった。傷口から血が流れていた。1回戦死を体験、内容は溺死だったがを経験してからか鈍痛になったらしく全然痛くない。



「ねぇ。あなたヴァールブルクさんよね?私、アルネシア。あなたのルームメイトなんだけど寮監さんに呼んで来いって言われて…。」


俺の顔を覗いた彼女の髪と翼は真っ黒で長い髪の毛が俺の視界を塞ぐ。

「ねぇ?傷、大丈夫?痛がってないから深刻そうに見えないけど、大きな傷よ。」


そう言われて擦りむいた右腕を見た。

これは不味いな。大きな石で肉を抉ったようで深さ10ミリくらいの穴から血がドクドク出ていた。

俺はその時初めて、痛みを感じ手で押えて宿舎まで全力疾走した。

化膿したらまずいぞ!この世界の衛生状況がどういうものかわかってない以上、これだけの傷で重症の可能性もある。

屋敷の扉を開け、寮監らしき人物に話しかけた。


「す、すみません!手当をお願いできますか?」


「え?えぇ!わぁ!」

寮監は傷を見るや驚いて、俺の左手を引き寮監室に入れた。

傷口を水道水で洗い流し,徹底的に異物を取り除く。

清潔なガーゼを直接傷口に当てて、手のひらで圧迫し止血する。

さすが軍事機関の施設だ。手馴れている。


「血が収まるまで止血を続けてね。あー、よくみたらそこまで深くないけど傷が沢山あるわね。染みるかもしれないけど我慢してね。」


ほかのところも手当してくれて打撲のところは氷を入れた袋で冷やしてくれる。


そこへ、アルネシアが入ってきた。

「ねぇ、ヴァールブルクさん大丈夫?痛くない?」


「あ、あぁ大丈夫だ。このくらい我慢出来る。」


「ほんと、気おつけなさいね。ノストラファ大佐は最近降格されてイラついているの。実は翼人部隊の創設者で前の大戦では大きな功績を残したわ。その後、将軍になって彼も調子づいていたのかクーデターを計画して軍の乗っ取りを考えた。結局はバレて失敗。翼人部隊は没収されて解体。彼は降格処分を受けたのよ。」


自業自得じゃないか。革命を起こしたかったとか目的があったのかは説明してないけど勿体ないなっと思う。人間欲をあらわにしたらボロが出るって聞くもんな。


「どう?血は止まってきた?」


「はい。」


「それじゃあ、薬を塗って蓋をするわね。」

寮監は傷口にワセリン?みたいな物を塗ってから腕の外周に合わせて薄い金属板は曲げて蓋をした後、包帯で巻いて固定した。

「大きめの傷だから今日の入浴はやめてアルネシアに拭いてもらいなさい。アルネシア、お願いするわ。」


「はい。寮監さん。」


へー、設備が整ってるんだなーと感心した。ノストラファの言い方だと収容所みたいに聞こえたからだ。


寮監に挨拶し、その場を後にする。

アルネシアに連れられ自分たちの部屋へ行く。この屋敷は5階まであり部屋は100近くあるようだ。訓練を終えた翼人たちの拠点変更はなく基本的にこの宿舎で一生暮らすのかもしれない。

部屋は2階の1番東、階段から離れた奥だ。


扉は鉄でできていて重々しく頑丈な感じだ。

室内には薄板でできたタンス、木製の机、木製の2段ベッド。

机の上に2着の服が置いてあった。体の採寸がまだのため仮の服なのだろう。俺用のやつはすぐに分かった。背中と腰に羽用の穴があるからだ。


アルネシアは2段ベッドの上を陣取り

「私はアルネシア・V(ヴィ)・バーシュクス。生まれはホル。あなたは?」


「俺、私はルイス・V・ヴァールブルク。生まれた土地名は知らない。」


「故郷も教えてもらってないの?愛想のない家族ね。」


言われてみればそうだった。あんまり親と関わることがなかった。妹の方はどうだったか知らないけど俺は教師の人とばかり話していた。彼も地名を話してくれなかったし、俺に帰ってきて欲しくないのだろうか?

妹のことが気がかりになってきた。外出許可を早々に受理しないだろうから今は我慢か。


「よろしく、ルイス。私は上を貰うわ!」

アルネシアはそう言い毛布にくるまった。

毛布がある…季節は秋か春か。そのどちらかかな。

俺は机に座り引き出しを漁る。教科書でも入ってるだろ。何も無いわけない。


結果、中身はスッカラカン。持たせてくれたものはないし退屈しのぎは外を眺めるくらい。暇だ。

元の世界でも俺は静かな性格ですぐ友人が出来るタイプではない。

でも、人見知りではなくて声をかけてもらえば快く応じる。ただ1人で過ごしていても困らない感じだ。

アルネシアはたくさんの本を持参してきたようでベッドの上に寝転がって読みまくっている。重そうな分厚い本。年頃の女の子が絶対読まなそうな推理小説だ。


外を見ながら考える。

この世界で翼人たちがどのような兵器運用がされているのか。航空機があるのなら翼人部隊が今も尚、前線に出ていることの意味がわからない。

そんなことを考えていると昼になった。

昼食は1階の食堂で食べる。

システムとかは学生寮に似ている。食堂のスタッフがいて、午前午後と交代制で寮監がつく。12時間労働ってのが可哀想だけど基本座っているだけなので大丈夫なのかな。それと清掃員。


1番嬉しかったのはご飯だ。

教会の時より比べ物にならないくらいグレードアップしている。

トマトスープに小さく切り分けられたソーセージとキャベツ。味付けは塩コショウでミネストローネっぽい。

主食はパンだ。ここは欧州だし米がないから慣れるしかないな。

俺はトマトスープを何杯もおかわりした。


「ルイス。食べ過ぎじゃない?大丈夫?」


「心配ないよアルネシア。成長期なんだしたくさん食べなきゃね。だからアルネシアもおかわり行ってきたら?」


「いや、私はいいよ…。」

アルネシアは頑なに拒否する。なんでかなーと周りを見ていると美味しそうに昼食をとっているのは俺だけのようだ。


「アルネシア?もしかして口に合わなかったのか?」


「いえ、違うの…。多分ここに来ている子達みんなは裕福な家庭出身なのよ。だから、これを見て残念だと思ってるはず。ルイスもそうでしょ?」


「いや、私は貧しい教会の出だよ。だからこれだけ自由に食べれるのが嬉しい。」


「そう…。ヴァルキュリアは貴族や王家の子供として生まれてくることが大半でルイスみたいなケースは聞いたことないわ。」


はぁ、そうなのか。なんか知らなくて良い事実を聞いたみたいだ…。

でも腹いっぱい食えるだけでマシなのにな。


「あぁ!ご、ごめんなさい。気を悪くしてしまって。」

俺の食べるペースが落ちたことを自分のせいだと感じたのかアルネシアが必死に謝ってくる。


「いいよ別に、美味しく食べてくれさえすればさ。戦地に行けばこれより酷い状況になるんだからね。」


「ルイス〜、やめよ怖いって。」

仲が深まったような、逆に距離が空いたような。

なんとも言えない状態で2人は昼食を終えた。

午後からのスケジュールでは寮と明日の予定についてのガイダンスがあった。

その後はアルネシアが読み終えた本を借りた。以外に面白く没頭しすぎた。読み疲れて寝落ちし気づけば朝だった。








「本日から航空機動能力開発訓練所の授業がスタートされた!貴様らに文学など必要ない。教えるのはただ1つ敵兵の殺し方のみだ!」

初っ端からノストラファ大佐の授業。

苦痛でしかない。案の定、俺しか当てられなかったが全問完璧に近い回答をした結果、大佐に怒られる。たまには間違えろと…。

間違えても怒られるって思ったのは俺だけか?


午後からは実技がある。

大佐からの命令は飛べるようになることであった。


「貴様らにはまず体で覚えてもらう。この42式汎用型射出機に乗り、仰角80°で飛ばす。上昇限界点に到達後、羽を開き滑空して帰ってくるのだ。」


大佐の部下が転がしてきた物は通常の何倍も大きなボウガンだ。これに翼人を乗せて飛ばそうって考えたノストラファ大佐は余程の狂人か?


「まずはヴァールブルク!貴様が一投目だ。」


「はい。」

俺は素直に返事した。要は迫撃砲の弾を翼人にしたって感じだ。100mくらい上がれば着地の衝撃も緩和されそう。


ボウガンの矢を乗せる台にうつ伏せに寝そべる感じで待機する。背中に固定具が当てられ胸と背を板で挟む感じだ。


「カウント…3、2、1、射出!とべぇ!」

大佐の号令でトリガーを倒す。シリンダーのように下から押され宙に投げ出された。体を伸ばし続けてないと体が回転しあらぬ方向へ落下してしまいそうだ。

体感で時速100キロオーバー、最大高度は300mを超えていると思う。


落下しだしたら広げる、落下しだしたらと心の中で呪文を唱えた。


きた!一瞬体が停止して胴から落ちていく。

トンビが風に乗って滑空するように大きく羽を伸ばしてみる。すると高度を維持したまま直進できた。

この時、俺は初めて自分で空を飛べたのだ。

羽の角度を変え、円を描く。

全開に開いた羽は前進翼の様だ。次に腰にある大きい方の羽を少し閉じ、再加速してみる。背中の小さい羽はカナード翼の様に機動性を向上させる役割を果たしていた。


激しい機体の運動や姿勢変更をした時、尾翼が後ろにある飛行機だと、主翼の流れのちょうど後ろに尾翼が入り、尾翼(舵)の機能が効かなくなるようなことがある。しかし水平尾翼を無くしカナード翼に変更すれば回避できる。

加えて、より素早い機動を行うためには、航空機は本質的に不安定でなければならない。前進翼にカナード翼、この組み合わせは不安定の極値に達する。


最高だ。戦闘機を操縦するより遥かに楽しい。

亜音速から超音速の飛行は出来なくなったが、より無茶な動きが可能になった。翼人部隊の利点はこの機動性だろう。まだプロペラ機が主流の時代、この変則的機動に追従し機銃をあてられるパイロットがどれだけいるのか。


20分ほど飛んでいただろうか。地上に降りた際、大佐が拍手をしてくれた。42式汎用型射出機は16名の翼人を空にあげた。

その中で上手く滑空できたのは3人。俺は滑空でなく飛行だったので除外する。


あぁ、これから楽しくなって来そうだ。

俺は笑いながらアルネシアの元へ向かった。彼女は俺を抱きかかえ持ち上げた。


「ルイス!すごいよ!かっこよかった!」


ありがとう、ありがとう。

見たか、ノストラファ!やってやったぞ。

あははー最高かぁ!?








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ