プロローグ
「ブレイク!ブレイク!」
「逃げ切れ中島!コマンドポスト、攻撃許可を!」
高度18000ft
領空侵犯した機体がフルスピードで本土へ接近している。
接近中の機体を護衛するように2機が後方へ並び3機で三角形の陣トライ・フォーメーションを組んでいる。
ロックオンを受けた仲間が1機撃墜された。
「くそっ、能倉ぁ!攻撃してもいいよな?」
「野藤少尉、俺が責任をとる。落とすぞ!」
敵機の陣形が変わり後続2機が旋回して2人に襲いかかる。その旋回方法は無茶苦茶で機体をその場で360°ターンさせたのだ。我々は敵機を追い越してしまう。
「なんだあの動き!機体が壊れてもいいってのかよ!」
野藤にロックオン警報が鳴った。
「野藤!振り切れぇ!」
1kmほど離れた位置からの赤外線誘導空対空ミサイルの発射だ。
避けれるはずない。
野藤は脱出できず爆発に巻き込まれた。
その数秒後、俺の後方を取った敵機がミサイルを発射。
フレアを発射して1発目を避けることに成功したが、野藤を狙っていた敵機が次弾を発射、それにエンジンを破壊され高度が一気に下がる。
咄嗟に緊急脱出装置を作動させたが、座席が射出される前に機銃でコックピットを撃ち抜かれた。
当たりどころが悪く射出座席のロケットエンジンに着弾。俺は火だるまになる。
目が見えなくなり、ただ叫ぶことしか出来なかった。
次に感じたのは水の感触、海に落ちたとわかりもがいて海面に行こうとするが手に当たるのはキャノピーで俺がまだコックピットに縛り付けられていると理解した。
だめだ、もうどうすることもできない。
水圧で苦しくなってきた。これが溺れるってことか…。
俺の思考は壊れていって、死にたくないだの、苦しいだの、それしか出てこない。上官によるシゴキに耐え抜いてきたからどんな苦痛も大丈夫だと思っていたがどうやら〝死〟は克服できないものらしい。
酸素不足で意識が無くなる前、ペンギンは海を飛ぶっていうのを思い出した。鉄の塊を使って空を飛んだが、自分自身で飛んだことは無い。騒音と振動と圧力。人間は鳥のように空を飛べない。
俺の将来の夢は〝鳥になりたい〟だったか。
鳥に近づくことが出来ても、成ることはできない。次に生まれ変わるなら今度こそ夢を叶えたいものだ。強く、大きく、速く。
これ以上、思考することはできない。脳が死んだからだ。
体の機能は全停止し水底へ深く、深く沈んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あぁ!これはっ。ミリアさん!ヴァルキュリアですよ!」
「4つ羽か!すごいぞ!これで我々は一生安泰だ。」
なにかに包まれている。あたりの声がうるさい。ここが海底と言うのならさぞかしアトランティスとかそんなもんか?
人類は未だ海の95%を解明していないのだから魚人がいてもおかしくないだろ。目が開かないから天国でないって分かる。
と言うかヴァルキュリアって北欧神話に出てきて、戦死者をヴァルハラに送る役割を担う女性で、羽の生えたキャラだったよな。逆に送られる側の俺が送る側なのおかしいだろ。
「この子、泣かないな?」
「フォセさん、大丈夫ですよ。ヴァルキュリアは特殊なので泣かない子もいるそうですよ。」
「そういうものか…。ミリアよく頑張ったな。これからだ!俺たちはやっと幸せになれる。この子は神様からの贈り物だ!」
「フォセ、この子は女の子だからルイスって名付けましょう。」
「いい名前だよ、この子も気に入るだろう。」
女の子?ルイス?何を言っている。俺は 能倉 創一、33歳の男だ。アトランティスかどうか知らないが生まれ変わったり……俺がそう思った時、背中と腰に違和感を感じる。背中に腕が生えてるような、腰から足が生えてるみたいな。思い切って力をいれてみる。体が持ち上がったように浮いて、包まれているものが剥がれた。
「ああぁ!」
「何をしている!」
一瞬、宙を落下して誰かにキャッチされた様だ。
なんだ、これ…。人間じゃない。ほんとに魚人になったのか?
俺の脳裏にペンギンが思い浮かぶ。
「あぁ!」
思わず叫んでしまった。ヴァルキュリア…翼。海、ペンギン。
「あぁ!?」
気づいてしまった。
「泣いたわ!」
「はぁ、ちょっと鈍感な子なんだな。心配させよって…。」
ジャルネスタ国 北方、ノヅト。漁業を盛んとする小さな町の古びた教会。
ルイス・V・ヴァールブルク。誕生。