ぽかぽかぽかぽか
何を隠そう、スイカが好きすぎる者ですヘ(≧▽≦ヘ)♪
近所のコンビニに飯を買いに行った。
弁当買って、カップ麺と菓子パン買っていこうかな。
そんなことを考えつつ、コンビニのドアを開けようとした僕の目に映った、緑色の物体。
けっこう大きめのスイカがひと玉1000円で売っている!
これは安い!
僕さあ、スイカ大好きなんだよ。
小さい頃はいっつも端っこの味のない部分ばっか食わされてさあ!!!
大人になった今は贅沢に真ん中の甘いとこが食えるしあわせにどっぷり浸ってだな!!
よし、これは買いだな。
幸い今日明日は休みだ、二日間のスイカパラダイスを心行くまで楽しもう!
「ありがとーございまーす!」
かくして大玉スイカが我が家にやってきた。
さて、冷やしておくかと考えて…。
ヤベえ!冷蔵庫にスイカが入らねえ!!
半分に切って入れるにしても…ギリギリ入るかどうか。
うーん…。
ああ、食べやすいようにカットした状態で冷蔵庫に入れるか。
まるのまま入れとかなくてもどうせ明日には食い終わるはずだし。
そう思ってスイカに包丁を入れようとして、ふと思い立った。
「スイカ割り…するか。」
せっかく丸のまま買ったんだ。
いつも四分の一カットしか買わない僕にとって、またとないチャンスじゃん!
一回くらいスイカ割りしたいなって思ってたんだよね!
思い立ったが吉日、好機逃すべからず、善は急げ!
なんとなく違う気もしないでもないけど、まあとにかくやるか!!
キッチンのフローリングにごみ袋を広げて、スイカを置いてと。
手ごろな棒がないな…フローリングモップの柄でいいか。
モップの先をクルリクルリと回して取ってと。
目隠しなんかしないぞ!まっすぐスイカを見据えてだな!
まっすぐ棒を振り下ろし!!
ぼぐっ!!
「こりゃ!!!変な棒で叩くでない!!!」
「ひゃああああ!!なんだこいつは!!!」
スイカの表面から、頭にたんこぶのできた少女が出てきた。
「スイカは叩くものではない!食うものじゃ!!!」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
「なんかすみません…。」
エライ勢いでぽかぽかと叩いてくるので、その剣幕に押されて思わず謝ってしまったじゃないか。
「まあ良いわ!!さっさと切って冷やすのじゃ!!」
僕は包丁を床の上のスイカに突き刺そうと…。
「まず、スイカの表面に二十か所くらい包丁の先端を軽く刺すのじゃ。すると、スイカがうまく切れるでな!」
なんだそのおばあちゃんの知恵袋的なのは。…とりあえず言われたとおりにスイカ表面に包丁の先端で二十か所くらいプスプスと軽く刺してみる。
「表面に傷が入ることでスイカのはちきれようとする力が弱まって包丁が入っても割れることがなくなるのじゃ!!」
「へえー。」
ざくっ!
「本当だ!きれいに真っ二つに切れた!」
「そうじゃろうそうじゃろう!!」
二つになったスイカの片方にラップをして、冷蔵庫に入れる。もう片方は冷えてないけど、食っちまおう。
「わしも食うでな!!四つに分けたひとつをくれ!!」
「けっこう食うな…体と同じ体積だぞ、食えんのかよ。」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
「わしを誰だと思うとる!!スイカの神じゃぞ!!食えるわ!!」
「そりゃ失礼しました。」
なんだい、この暴力的な神様は。
スイカの神様を自称する少女は、スイカをカットするたびに現れるようになった。
どうも、スイカに包丁を入れる時の、あのザクっという音、あれが召喚?の合図になっているらしい。
週末になるたび僕はスイカを買った。
…というのも。
「ふふん、主はタネを飛ばすのがへたくそじゃのう!!」
僕がタネをぷっ、ぷっと一粒づつ飛ばしていると、少女はいつも得意げな目を向けてきてさあ。
ついついこう、その挑戦的な目に対抗したくなったっていうかさあ!!
「ふっ!一粒入魂、それが僕流さ!!」
「なにおう!負けんぞ!!!」
テーブルの上には、得点の書かれた空き缶が十本。
カン!スコン!コン!ポン!カンッ!ガッ!コン!ポン!コ-ン!カンっ!!
「よっしゃ!!満点ゲットじゃ!!」
あれだよ、猫とネズミのアニメのさあ、連射してタネ飛ばすやつ。あんな感じで連射すんだよ、この少女はさ。器用にまあ、空き缶の的をすこんすこんと倒していくのさ。
「くそう…この口、いったいどういう仕組みになってんだ?」
「ム、ムガッ!!こりゃ!!人の口を無理やりこじ開けようとするでない!!失敬なやつじゃ!!」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
無理やり口開けたら怒っちゃったぞ。
「こりゃ失礼しました。」
毎週土曜の朝、近所のコンビニでスイカを買って。
半分にカットすると少女が出てきて。
土曜の昼にぬるいスイカを四分の一づつ食べ。
土曜の昼過ぎに、食べ終わったスイカの皮の中に消え。
半分のスイカを四分の一にカットすると少女が出てきて。
日曜の昼に冷たいスイカを四分の一づつ食べ。
日曜の昼過ぎに、食べ終わったスイカの皮の中に消え。
そんな週末を過ごすのが当たり前となっていた、ある日。
「あれ、スイカは?!」
「もう終わりですね、すみません。」
いつもスイカを買っていたコンビニから、スイカが消えた。
「ちょ…!!そこを何とか!!」
今日は新しい的も作ってだな!!今日こそは勝てると踏んでだな!!!
「うーん、ダメもとで来週発注してみますけど、入らないかもしれないです。」
「来週?!お願いします。」
とりあえず注文だけして、少し遠いところにあるスーパーに行ってスイカを買ってきて家で包丁を入れてみたものの…少女は出てこなかった。あのコンビニで買わないと、多分少女は出てこないのだ。
少女のいない週末は…ずいぶん味気ない、つまらないものになっていた。
翌週。僕はコンビニでスイカを買うことができた。
「もうこれで本当に最後です。毎週ありがとうございました。」
「いえいえ…ありがとう。」
そうか。もうこのスイカで最後。あの少女とも今日明日でお別れか。
…つまらない週末、代わり映えしない毎日になりそうだなあ。
ザク!!
「おお、久しぶりじゃのう。先週はどうしたのじゃ、修行でもしとったんかいな。」
何も知らない少女はにこにこして僕に挑戦的な目を向ける。
「もう対決するのは今日明日でおしまい。…スイカの時期は終わるんだってさ。」
「そうか…残念じゃのう。結局お前さんはわしには勝てなんだな!!」
むむ。なんだその言い方は。僕だってけっこう百発百中ですごいんだぞ!…人としては!
「あのね!!人はそんな連射できるような口の作りしてないの!!」
「なんじゃ、体のつくりが違うとおぬしは言うのか。じゃあ人になって勝って見せようぞ。」
少女はみるみる大きくなって、女性になった。
「見ておれ!!ぷ、ぷぷぷぷぷぷ…!!!」
カン!スコン!コン!ポン!カンッ!ガッ!コン!ポン!コ-ン!カンっ!!
「よっしゃ!!満点ゲットじゃ!!」
「おお!!すげえ!!」
いったいどんな口してんだよ!!
「ム、ムガッ!!こりゃ!!人の口を無理やりこじ開けようとするでない!!失敬なやつじゃ!!」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
無理やり口開けたら怒っちゃったぞ。…大きくなっても全然威力のない打撃だな。
「こりゃ失礼しました。」
「わはは!!まいったか!!」
人の大きさになった元少女、現女性は、ガッツがっつとスイカを食って、ぷっぷぷっぷとタネを飛ばした。
気が付くと、スイカはすべて食べられてしまった。
「おい…今季最後のスイカ!!なんてことしてくれるんだ!!」
「うまかったのじゃ!!まだちいと足りんのう…。」
あーあ、明日の分がなくなっちゃったじゃないか。
これでこの少女とも来年までおさらばか。
…寂しいじゃないか。
「大きくなったまんまだからだろ!!小さくなって食えば腹いっぱい食べられたのに…。」
そしたら明日も、会えたのにさ!!
「おお、そうじゃな、次からはそうするか!!」
「来年はぜひそうしてくれよ…。」
僕のセンチメンタルには微塵も気が付かず、少女は人間大で豪快に笑っている。
「じゃあわしは帰るわ!」
いつものように、スイカの皮に乗り込もうとした元少女は…。
ばりぃっ!!!!
「わ、わしのスイカの皮がぁアアアアアア!!!」
なんと、スイカ界?に帰るためのスイカの皮を、踏みつぶしてしまった!!
次々にスイカの皮を踏み潰していく人間大の少女!!
「ちょ!!床がエライ事に!!なんてことしてくれる!!」
「わ、わし、帰れんくなってしもうた!!」
ぐしゃぐしゃに踏みつぶされたスイカの皮の前で、ぺたんと座り込んで、涙をこぼしている少女。
…なんだ、人間の大きさになったくせに、やけに小さく見えるじゃないか。
「まあまあ。来年スイカが売り出されるまで、ここで暮らせばいいんじゃないの。」
「いいのかい。」
涙目で僕を見上げる少女。
「いいよ、…ただし!」
「…な、何ぞや!!」
少しだけ、怯えた眼差し。…いつもの強気がうそみたいだな。
はは、可愛いじゃないか。
「今すぐ!!ここを片付けることが条件だ!!!」
にっこり笑った少女と一緒に、飛び散ったスイカの皮を片付けた。
やや暴力的な少女ではあったが、大してダメージを受けることもなく。
休みの日には一緒にコンビニやスーパーに出かけ。
たまにスイカを買ってみたものの。
「なぜじゃ…なぜわしは帰れんのじゃ…。」
あのコンビニで買ったスイカでないと、スイカ界には、帰れないようだった。
そして、ずいぶん肌寒くなった頃。
「…うそだろ…。」
あのコンビニが、更地になってる!!
土曜日に買い物して、一週間後に更地?!こんなことってあるのかよ!!!
一緒に買い物に来ていた女性が、呆然としている。
ぽか、ぽか。
あれ、なんだ。元気ないじゃないか。
「わしは…帰れんくなってしもうたようじゃ。」
あれ、泣いてるのかい。
ぽん、ぽん。
僕は、いくぶん背の低い女性の頭を軽く叩く。
「何じゃ…失敬なやつじゃのう…。」
涙目で見上げても、全然怖くないぞ。…むしろ。
「帰らなくてもいいじゃん。僕とここで、ずっと暮らしたらいいのさ。」
ぽん、ぽん。
僕は、ずいぶん顔の赤い女性の頭を軽く叩く。
「…こういうときは、抱きしめるもんと相場が決まっておるのじゃ!!」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
「それは…失礼しました。」
僕は、ぎゅっと、女性を抱きしめた。
女性は、僕を叩くのをやめて、おとなしく、抱きしめられていた。
それから、僕は、ずいぶん、ずいぶん、ぽかぽか、ぽかぽか、叩かれ続けて。
…妻のぽかぽかが、懐かしくなってきた、暑い、暑い夏の日。
「今年もいいスイカができたなあ。」
自宅の庭には、スイカが六玉ほど生っている。
妻と共に、何度もこの庭に植えた、大玉スイカ。
今日は、このスイカをいただこうとするかな。
サクッ・・・。
スイカのつるを切り、持ち上げて部屋に持っていこうとして。
「おおっと!!」
ツルッ…ばりっ!!
手を滑らせて、スイカを落としてしまった。…ずいぶん、握力も、筋力も落ちたからな。
「こりゃ!!!スイカを落とすとは何事じゃ!!!」
割れたスイカから…たんこぶのできた少女が出てきた。
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
「これはこれは…失礼しました。」
はは、相変わらず、全然威力のないぽかぽかだな。
「割れてしもうたもんは仕方がないでな!ここで食うのじゃ!!」
少女が割れたスイカを僕に差し出す。
「コレはうまそうだ。…冷やして食べたかったな。」
「冷やさんでも十分うまいわ!!」
僕は割れたスイカの前に腰を下ろして、スイカにかぶりついた。
「本当だ、コレは、うまいな。」
「うまいのう。」
プッ…ああ、だめだな、もう、タネを飛ばすことができないくらい、僕は。
「タネ、飛ばしてくれないか。僕は飛ばすことができないから。」
「何を言う。…飛ばせるよ、ほら、吹いてみい。」
僕は、思い切って、スイカにかぶりついて…。
ぷ、ぷぷぷぷぷぷ…!!!
初めて、連射することが、できた。
連射されたタネは、割れたスイカを抱えて、幸せそうに横たわっている僕の体に当たった。
「おい!!うちの大事な旦那様になんてことをするのじゃ!!」
ぽかぽかぽかぽかぽかぽか!!!!
「…失礼しました。」
僕は最愛の妻にぽかぽかされながら、共に空へと上がっていった。