おい、これを食え。
ある日、木陰で休んでいると。
「おい、これを食え。」
手の平サイズの、和風女子がでっかいおにぎりをもって現れた。
でっかいおにぎりといっても、女子にとって大きいだけで、僕にとってはまあ、大き目のおにぎり、といったサイズ。
「いただきます。」
もぐもぐ、、むしゃむしゃ、おお、中身は昆布か。
この絶妙な塩加減と、甘辛い昆布、しっとりのりの、絶妙なコラボレーション!!
「うまい!!めっちゃうまいな!!!」
「それは重畳。」
べふん。
手の平サイズの和風女子は消えた。
なんだい、これは。
そのまたある日、木陰で休んでいると。
「おい、これを食え。」
手の平サイズの、和風女子がでっかい稲荷寿司をもって現れた。
でっかい稲荷寿司といっても、女子にとって大きいだけで、僕にとってはまあ、ちょいと大きめの稲荷寿司、といったサイズ。
もぐもぐ、、むしゃむしゃ、甘くて美味い!二つ目のは五目寿司だ!三つ目のはわさび稲荷!クウー!つんとキター!
この絶妙な酸っぱさ、歯ごたえ、ふっくらお揚げの上品な味わい深さ!!
「美味い!!めっちゃ美味いな!!!」
「それは重畳。」
べふん。
手の平サイズの和風女子は消えた。
なんだい、これは。
そのまたまたある日、木陰で休んでいると。
「おい、私もたまには食べたい。」
手の平サイズの、和風女子が手ぶらで現れた。
あいにくと、僕は食べるものを何も持っていない。
「食べられるものを持っていないよ。」
「では、お前を食べさせてくれ。」
なんと。
今まで色々と僕に食わせていたのは、太らせて食らうつもりだったのか。
「僕を食べる前に、君を食べさせてくれよ。」
「食べさせたら、食べさせてくれるのかい?」
「ああいいとも。」
和風女子はなにやら考え込んでいたが、ふむと言って、僕の口の中に飛び込んだ。
もぐもぐ、、むしゃむしゃ、香ばしくてほのかに甘い!こんなものは食べたことがない!なんだこの極上の旨味は!!!
舌の上で蕩ける食感、鼻に抜ける芳醇な香り、のど越しのよさ、このような食材がこの世に存在しているなんて!!!
「美味い!!めっちゃ美味いな!!!」
和風少女をおいしくいただいてしまった。
なんだい、これは。
それから随分経ったある日、木陰で休んでいると、女子がやってきた。
「おい、お前を食べさせてくれると約束したものだが。」
普通サイズの普通の女子だ。
「食べることができるのであれば、どうぞ。」
普通サイズの普通の女子は、僕の腕をもぐもぐしていたが、食べることはできなかった。
「食べられなかった、残念だ。」
普通サイズの普通の女子が立ち去ろうとしたので。
「じゃあ僕がおいしいもの食べさせてあげるよ。」
僕は普通サイズの普通の女子と共に、クレープを食べに行った。
「美味い!!めっちゃ美味いな!!!」
普通サイズの普通の女子は、クレープをおいしくいただいていた。
それからずいぶんおいしいものを一緒に食べて過ごして。
今。
普通サイズの奥さんは、僕と娘に、毎日美味しいお弁当を作ってくれている。
こちら同タイトルで5月のショートショートに公開されたものです。