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王子さまとわたし

 一人で、草原のシロツメクサを集めて、花冠を作っていたの。


 そこに、白馬に乗った王子様がやってきたのよ。



 ぱからん、ぱからん、ぱからん。



 とっても大きな白馬の上から、王子様が私に声をかけた。


「君に世界を見せてあげる。」


 王子さまは、私をふわりと抱え上げて、白馬の上に、のせてくれた。


 広い、広い草原の、遠い、遠い端が見えたわ。


 私の目の前に広がっていた草原は、こんなにも広かったんだ。

 私の目の前に広がっていた草原は、あの場所で終わりなんだ。


「この草原の向こうには、もっと広い世界が広がっているんだよ。」


 草原の向こうに広い世界があるというならば。


「僕が君を、ここから連れ出してあげる。」


 私は広い世界を見に行きたいと願ったの。



 私は作り終えた花冠を一つだけ持って、王子様にさらわれたわ。



 王子様の連れてってくれた世界は、とても大きな世界だったけれど。


 どこにも広い草原がなくて。

 どこにも広い空がなくて。

 どこにも私の自由がなくて。


 私、何も知らなかったわ。


 私、自分が何者かという事すらわかってなかったわ。


 私、とても無知だったわ。


 シロツメクサの花冠が、私をずいぶん慰めてくれていたけれど。

 いつしか枯れて、何も言わなくなってしまったわ。


 何もない部屋で、私はただ一人、毎日訪れる王子様を待っていたけれど。



 王子はすぐに命を終えてしまったわ。


 人は、ずいぶん、急いで、輪廻の輪に戻るものだと、気付いたわ。



 王子はずいぶん、私のもとに生まれ変わっては姿を見せたけれど。


 誰一人として私を覚えていなかったのよ。



 いつもいつも初めましてから始まって。

 いつもいつも生まれ変わったらまた君と恋をすると約束をして。

 いつもいつも私のことを忘れて生まれてきて。



 最後に王子が生まれたのは、遠い遠い昔の話。



 私を囲い込んでいた石の砦は崩れ去って。

 私を囲い込んでいた石の砦の隙間からつたが伸びてきたから。


 私を囲い込んでいた石の砦から抜け出したのよ。



 私がずいぶんぶりに見た青空は。

 私がずいぶん昔に見た青空と変わらなかったわ。


 人がいなくなってしまったこの場所は。


 どこまでも限りなく緑が覆いつくしていたのよ。


 人のいなくなったこの星で。

 緑だけがただ自由に存在しているわ。


 私はずいぶん、寂しがり屋になってしまったみたい。


 王子様が、とても愛おしくてならないの。


 あんなに私を忘れて生まれてきたというのに。

 あんなに私を置いて土に帰ってしまったというのに。


 こんなにも、私に涙を流させるなんて。



 緑が限りなくあふれるこの星で。


 私は一人で、人の誕生を待ちわびて。



 星の命の尽きる前に。



 人が再び生まれることを祈りながら。



 私はただ一人、シロツメクサの花冠をこしらえるの。



 私はただ一人、愛する人を、待ち続けるわ。



 私はただ一人、愛する人を、愛し続けるわ。



こちら同タイトルで6月のショートショートに公開されたものです。

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