折り紙
俺はさ、ずいぶん不器用だったんだ。
幼稚園ってのはさ、不器用なやつはえらく損をするように、出来ていたんだな。
お絵描き、工作、粘土遊びに、泥団子づくり。
とりわけ、俺は紙モノが全部だめだったんだ。
紙を切って貼るとか、繋げるとかはもちろんなんだけど、とくに折り紙。
こいつがまた曲者でさ。
端と端をきっちり合わせないとさ、全然うまく折れてくんないのさ。
ほんのちょっとずれただけで、最終的に大幅にずれてさ。
説明通りに折ってんのに、全然見本と同じように折れなくてさ。
俺の幼稚園はさ、毎年卒業生に、プレゼントを渡すことになっていたんだ。
年中組のやつらが、折り紙で制作した、オブジェ的な、カードをさ。
みんなが折り紙で器用にカードを飾り立てていく中、俺ときたら。
「…ねえ、フミちゃんはそれホントにあげるの?」
「・・・うん。」
あまりにも汚い仕上がりのカードを見て、憧れのサツキ先生が・・・苦言を、呈してだな。
なんというか、完全に、ものづくりを、手放してしまったんだな、俺は。
「何これ!!へたくそすぎる!」
「俺やってやろうか!」
「フミちゃんよりはましだからいいか!」
「…うっせえ!!!」
図画工作の時間が嫌で嫌で仕方がない。
週に二時間、必ずバカにされることが決定している俺は、ほかの分野で誇れるよう、努力を重ねた。
体育しかり、作文しかり、漢字しかり、計算しかり、英会話しかり、プログラミングしかり、実験しかり、天体観測しかり、イモリの飼育しかり、気象予報士しかり・・・。
だが。
「フミちゃん頭いいのに、不器用すぎんだろwww」
「何この葉っぱの絵、ひし形じゃん!」
「つかわざと?」
「…うっせえな!!!」
どれだけ俺がマラソン大会で上位に食い込もうと、読書感想文で表彰されようと、漢字検定に合格しようと、数学オリンピックに出ようと、英検に合格しようと、アプリ開発で収益を得ようと、実験動画でバズろうと、星空実況で登録者数を伸ばそうと、イモリの繁殖に成功して水槽があふれかえろうと、気象予報士としてテレビで活躍しようと。
たった一つの汚点を、皆がグリグリと抉りやがる。
あいつはいろいろできてすげえけど、不器用だからさ。
あいつ頭いいくせにめちゃくちゃキモイ絵描くの。
あいつ稼いでるけど、折り紙ひとつ折れねーんだぜ!
俺は、気が付けばずいぶん…拗らせてしまっていたのだ。
漢字を知らないやつが、俺を笑うのも。
計算のできないやつが、俺を馬鹿にするのも。
知識の無い奴が、俺を否定するのも。
金の無い奴が、俺を蹴散らそうと必死になるのも。
許せない、許したくないやつらが。
俺の回りには、たくさん、いた。
俺は、気が付けばずいぶん…孤独になっていたのだ。
何一つ、愉快と思えない日々。
ただ淡々と過ぎてゆく、時間。
孤独に知識を溜め込む、むなしさ。
「お兄さん、いいものあるけど、買っていかないかい。」
大学の帰り、俺はおかしな老婆に、声をかけられた。
路地裏の、民家の軒下で露店を構えている、白髪の女性…。
俺は、何の気なしに、足を、止めた。
…学校で孤立していた俺は、ずいぶん、人の声を聞くことに、飢えていたのだ。
実家を離れて、一人暮らし。
大学に友達はいない。
一部の先生でさえ、腫物をさわるような対応をする。
一度研究をごり押しして薦めてきた教授を激しく論破したのが、いけなかったらしい。
「いいもの?」
こんな路地裏で、露店を構えている…老婆。
一体何を売っているのかと、膝に手を置き、のぞきこむ。
シートの上に、所狭しと、雑貨が置かれている。
ぬいぐるみ、望遠鏡…は古いものだな、ミニカーにクッション、傘…服に鏡に…。
「これ、大切に使ってくれるなら、100円でいいよ。」
差し出されたのは、ケースに入った…折り紙?
この俺に、折り紙を買わせようというのか?
「ごめんね、俺は不器用だからいらないかな。」
「これは器用とか不器用とか関係ないから大丈夫だよ。」
…俺は、大丈夫という言葉に、飢えていたのだ、多分。
「じゃあ…もらっていくよ。」
「ありがとう。」
ワンルームのアパートに帰って、テーブルの上に折り紙のケースを置き、観察してみる。
ケースは…千代紙の貼られた、引き出し状のもの。
おそらく手作り品だ、こんな細工の施されたもの、100円で買ってよかったのかな。
民芸品屋で買ったら800円くらいするだろうな、そんなことを思いながら、組み紐の取っ手を引いて、引き出し部分を、開け…。
「は!あわわ!!!あああああけましてはじめまして、なのじゃっ!!!」
「なんだい、君は。」
開いた引き出しから、折り紙ではなく、少女が出てきた。
…折り紙は…一応入ってはいるな。少女をつまみ上げて、中身を確認していると。
「こりゃ!!!つまむで…ない!!!わしを何だと思うておるのじゃっ!!!」
「俺は折り紙を買ったはずなんだけど。」
それともなんだ、この少女にしか見えないものは、折り紙なのだろうか。
俺は、少女が折れるのかどうか確かめようと、手を伸ばした。
フウム、この衣服は布でできているな、皮膚は一般的表皮だな、角層がやや乾燥しており…。
「ふ、ふがっ!!この…無礼者が!!わしを折ろうとするとは許しがたき愚行!!!」
ぱ、ぱささささ・・・!!!!!
俺の頭の上に!!!
夥しい数の…折り紙が!!!!
「おぬしには…千羽鶴の刑じゃあアアアアアアア!!!!」
俺は、千羽の鶴を折らねばならなくなったらしい…。
部屋の中に飛び散った折り紙をすべて拾い上げ、無造作に重ねてサイドテーブルの上にのせ、胡坐をかきながら…ついでに頭も、かいている、俺。
「グぬぬ、おぬし鶴は折れんというのけ!!!」
「うん、折ったことない。」
おそらく千枚の折り紙を召喚したであろう少女を目の前に…俺はなすすべが、ない。
どうせ、俺には鶴なんて折れやしない。
・・・この少女も、気の毒になあ。
なんでこんな俺の元にやってきてしまったのか。
せっかく出した色とりどりの折り紙が、すべてゴミクズと化すことは目に見えている。
せっかくの折り紙が、ゴミになってやがて燃やされ、炭素と水と炭になり…。
「何や、折ったことがないだけか!ならば折ればええ!!何ぞ折らぬと誓いでも立てておったのかと思って焦ったがな…。」
なんだ、誓っていたら折らなくて済んだとでもいうのかい。
「でも俺はさ、その…すごく不器用で、多分君の願うような鶴は折れないと思うんだけど。」
「んなことあらすか!!まずは一枚折ってみるのじゃ!わしが教えたるで、ほれ、ほれホレ!!!」
やけに強気な女子を目の前に、自分のキャラがぶれるのはなんでだ。
…そうだな、こんなに誰かと話した事なんて、久しぶり過ぎて。
…そうか、俺はこういう感じの人間なのか、初めて知った気がする。
自分の事を分析するのは意外と…面白いもんだな。
ワクワクするって、こういう事なのだろうか…。
おずおずと、青い折り紙に、手を、伸ばす。
少女は、自分と同じ大きさの、桃色の折り紙を一枚…スゴイな、念力か?どうやって動かしているんだろう、手を振れずにモノを動かすというのは、静電気を利用している?いやもしかしたら磁力で…。
「ほれ、集中せんかいな。まず、紙を二つに折るでな…一緒に、やるよ?」
俺は、折り紙を…少女と同じように、折り、はじめ…。
「いいか、その角を重ねて…。」
…どうせ、俺には、折れやしないと。
「ゆっくりやればええ!!」
…俺には、折り紙なんて。
「そっと、開いて、ごらん?」
俺が、折り紙を、折る…。
「できたやないか!」
「うわ…俺にも、鶴が…折れ、た…!!!」
初めて俺が折った鶴は…ずいぶん、誇らしげに、翼を広げて、いた。
諦めてくしゃくしゃに丸めた折り紙しか、作ったことがなかった俺は、やけに、心が…満たされた。
…思えば、俺はいつだって。
どうせできやしないとあきらめてきて。
どうせゴミにしかならないと、手を出す事すらせずに。
どうせ誰かにバカにされると、逃げるように。
「じゃあ、また明日一羽一緒に折るでな!」
少女はぽすんと消えてしまった。
…いったいどういう仕組みなんだ。
折り紙ケースを開けてみても、ただ折り紙が入っているだけだ。
夢を見ていた?
いやいや、ここにある鶴が、今起きた出来事が現実であったことを示している。
明日になれば、また少女が出てくるはずだ。
かくして、鶴を折る日々が続くように、なった。
一日一羽、たまに他のものも。
不思議なことに、折り紙ケースの中の折り紙は、何枚使っても数が減らなかった。
ただし。
「たわけ!!そこは谷折りじゃ!!」
「あ、ごめん。」
やけに厳しい指導付きだ。
「そこはな、ちいとコツがいるでな、まず紙をこうして…なめすと良いのじゃ!!」
「フムフム、なるほど…。」
厳しいけれども、それは決して恐ろしいものではなく、むしろ。
「上手に折れたやないかい!上出来じゃ!!ふふ…!!!ねえ、もらってっていい?」
「どうぞ、どうぞどうぞ。」
バカにされる事しか知らなかった俺に、誉め言葉をくれる、少女。
ごみとして捨てられるのが常だった、俺の作ったものを欲しがる、少女。
二年と、九か月。
毎日、毎日、鶴を折った。
毎日、毎日、少女と折り紙を楽しんだ。
毎日、毎日、少女と他愛もない話をした。
毎日、毎日、少女に雑学を伝授した。
「ではこめかみに梅干しを貼っても意味がないというのけ?!」
「東洋医学の五行論における同グループという事実があるだけだね。」
少女が俺に折り紙の技とテクニックを伝授してくれるのと同じように、俺も何かできないかなあってさ。
いろいろ考えてたんだけど、いつの間にか雑学教室みたいになっちゃって。
…わりと人にものを教える事って楽しいんだなって、思い始めたっていうか。
そうだなあ、俺は必要以上に知識を溜め込んできてしまったから、これからは知識を外に出していけたらいいんじゃないのかなってね。
「これで1000羽に届くね。」
「・・・そうよな。」
千羽鶴を入れてある段ボールが、いっぱいになった。
ケースの中から取り出した折り紙作品は、律義に毎日持ち帰って?いたのだが、鶴は持ち帰らずに貯めてあるのだ。
「この鶴は、どうなるんだい。」
「1000羽揃ったら、神の国に飛んでゆくのじゃ。」
初めて折った、青い鶴も、今折っている、藤色の鶴も。
ここから飛んで、神の国に行ってしまうのか。
…燃やされてしまうより、ずっといい。
「よし…できた。」
実に美しく折りあがった藤色の鶴を、段ボールの中に入れる。
これで、1000羽の、鶴が…完成した。
・・・すると。
ぱさり、ぱさり・・・。
鶴が、一羽づつ、羽をはばたかせて…飛んで、行く…。
ああ、あれは、裏表を間違えた、白い鶴。
ああ、あれは、頭を少し折り過ぎた、紫色の鶴。
あれは、試験に合格した日に折ったオレンジ色の鶴。
あれは、少女に初めて太鼓判を押された黄色の鶴。
あれは、少女を怒らせた日に折った金色の鶴。
あれは、少女に許してもらった日に折った、黒い鶴。
一羽一羽、折った時の事が、思い出される。
一羽一羽、少女と共に折った日々が、思い出される。
「わしも…そろそろ帰らねば、ならん…。」
箱から飛び立つ鶴は、天井のあたりでふわりふわりと、消えてゆく。
その様子を見る少女の表情は…やけに、暗い。
…最近テンション低いなあと思ってたんだよ。
一区切りついたんだから、もっと喜べばいいのになあ。
「またここに来るんだろ?」
俺は、折り紙ケースの中から、えんじ色の折り紙を一枚、取り出した。
…いつも、鶴を折った後は。
折り紙を折りながら、蘊蓄を語って、それを聞いた女子が笑って…。
「…やっこさんを、折ってはくれんか。」
「はい、了解。やっこさんはね、参勤交代の時に重宝されてた…。」
俺が、折り紙を折る事ができなかったなんて…誰も信じないだろうな。
手際よく、紙を折り始めた俺は、丁寧に…やっこさんを、折る。
折り方は完璧に覚えている。
俺の中には、1000を超える、折り紙のレシピがあるのだ。
「はい、どうぞ。」
凛々しいやっこさんを、少女に、手渡す…あれ?
・・・なんで、泣いているんだい。
「これを、おぬしと思って、大切にするのじゃ…。」
「何それ、最後のお別れみたいになってるけど。」
ああ、そうだ、少女のテンションが上がるような折り紙を作って渡してあげようかな、そう思って、折り紙ケースを開けると。
・・・?!
ない、一枚も折り紙が…入って、いない!!!
これはいったい?!
慌てて、涙を流す、少女を、見る。
「もう、終い、なのじゃて…。」
「…どういうことなんだよ。」
聞くと。
少女は、もともと、千羽鶴の神様だったらしい。
千羽の鶴を折らせるために、この世界にやってきたと。
千羽の鶴が完成すれば、もう、ここに来る理由がなくなってしまうのだと。
最後の鶴に乗って、神の国に帰ったら、もう、この場所には、来ないのだと。
箱の中から飛び立つ鶴は、もう、間もなく…いなくなる。
赤いのと、白いのと、桃色のと、…初めて折った、青い鶴。
「わしは、おぬしの事が心配でならん!不器用だと決めつけて、諦める癖が…心配でならん!わしがいなくなっても、おぬしはちゃんと生きていけるのかえ!!」
赤い鶴が飛び立ち、、ふわりと、消えた。
「・・・いなくなったら、それなりに生きていくとは思うけど。」
目を、丸くして…ぎゅっと、俺の作ったやっこさんを、抱きしめる、少女。
大粒の、涙がこぼれて…ああ、やっこさんに染みてるじゃないか。
「そ、そう、か、え…。」
白い鶴が飛び立ち、ふわりと、消えた。
「でも、君がいた方がいいに決まってる。」
えんじ色のやっこさんの色が、少女のほっぺたに…移ったみたいだ、顔が真っ赤になってるぞ。
「帰らなくてもいいじゃないか。ここにずっといたらいいんだよ。神なんてやめたらいいのさ。」
桃色の鶴が飛び立ち、ふわりと、消えた。
「いいのかい。」
「もちろん。」
少女が、俺の前でぐんぐん大きくなっていく。
「これはいったい…どういう仕組みなんだ、細胞の急速分裂による増大?いや細胞核の膨張による…!!!」
思わず俺は少女に駆け寄り、頭頂部をポンポンと確認した後、頬筋のあたりをビヨンと伸ばして確認、確認!!!
「も、もが!!ふがっ!!!本当におぬしは不器用すぎて不躾で…!!!こ、こういう時は、違う確認の仕方が!!!」
「おっと、それは、失礼。」
俺は、胸のあたりまで大きく成長した女性を、そっと抱きしめた。
最後の…俺の初めて折った、青い鶴が、飛び立った。
俺と女性は…二人で、青い鶴を、見送った。
あれほど、不器用さに定評のあった俺は。
何故だか、器用さの求められる、仕事に、就くことになった。
…器用に器具を使いこなすわりに、ずいぶん不器用でさ。
ずいぶん、回りくどいやり方しかできずに、女性に怒られたりさ。
ずいぶん、誤解を招くような物言いで、女性を泣かせてしまったりさ。
肝心の指輪をコンビニに置き忘れるとかさ。
肝心の誓いの時に、思いっきりこけちゃうとか。
不器用で、不躾で、手際が悪くて、実に泥臭い俺だったけど。
いつだって、嫁は俺を笑ったりしなかったのさ。
いつだって、嫁は俺の横で待っててくれたのさ。
診察室には、俺と嫁の力作がいつだって壁に貼られていてさ。
ショーケースには、力作なんか飾っちゃったりしてさ。
調子の悪くない患者さんが、折り紙習いに来るとかさ。
嫁と一緒に、慰問先で鶴を何羽も何羽も、折ったんだ。
「このやっこさんと一緒に、燃やしとくれ。」
「それだけで、良いの。」
折り紙を、折れなくなってしまった妻の周りには…俺の折った作品が、溢れかえって、いる。
千羽鶴も、二本、つるされて、いる。
どれだけ、鶴を折っても…俺の、妻は。
「全部は、ちと、おおいでな…。」
愛する妻は、50年前に俺が折った、よれよれのやっこさんを胸に抱いて…空にかえって、行った。
一人ぼっちになってしまった俺は。
自慢の蘊蓄をこぼしながら…毎日、折り紙を、折る。
このところ、ずいぶんぼんやりするようになってきた。
蘊蓄が、ただの与太話になりつつ、ある。
手も、震えるようになってきた。
不器用だった俺は、また、不器用になってしまったのだな。
思うように、きっちりと紙の端を合わせることが…難しい。
ヘルパーさんが、俺の作品を集めて、コーナーを設けてくれた。
余りできのいい作品ではないが、ずいぶん、好評なようだ。
俺は、さらなる展示をしようと。
長年愛用している、折り紙ケースに、手を、伸ばした。
・・・ぶち。
ああ、この折り紙ケースも、ずいぶん、古くなってしまったからなあ。
ついに、取っての部分の紐が、ちぎれてしまった。
これでは、折り紙ケースを開けることは、出来ないな。
そう、思って、ベッドの上に伸ばしてある、簡易テーブルの上に、そっと…ケースを、置いた。
「わしの箱、壊したな!」
「わざとじゃ、ないよ?」
折り紙ケースの蓋が、そろそろとあいて…少女が、顔を出した。
少女は、昔と変わらない様子で…俺は、つまみ上げようと手を、伸ばしたけど。
ダメだな、手が震えてしまって、つまみ上げることはできないようだ。
これでは水分含有量の多そうな表皮の状態をチェックすることはできまい。
「…もう、品切れじゃ!」
紐のちぎれたケースの中には…ああ、折り紙が、一枚も、入っていなかったのか。
使い切った事すら、俺は覚えていることができなくなったんだな。
箱の中から、少女が出てきたことは、よく覚えているというのに。
「新しい折り紙、買ってきてもらわないといけないな…。」
「・・・折り紙なら、いっぱい、あるでな?」
差し出された、少女の手を取ろうと。
・・・ああ、差し出す事すら、俺は。
「迎えに、来たのじゃ。」
なんだ、少女に見えたけど。
…妻じゃ、ないか。
そうだな、少女は、女性になったんだったな。
遠い、記憶だ…。
「ありがとう・・・。」
愛する妻が差し出した手を、そっと、握ろうと。
……はは、ぎゅっと、握れるじゃないか。
「やっこさん、折っとくれ!」
「いいとも!袴もつける!」
重い体をベッドの上に残したまま。
俺は、愛する妻とともに、ふわりと…消えた。




