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β-Type3/MOD  作者: Stairs
ONESELF
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09. 『α型』




 振り下ろされた爪を、レヴェルはブレードで受け流した。γ型の骨格フレームがきしむ。β型であるラインがこれを受ければ、受け流す前に粉砕されるだろう。


「勝てますか!?」


 レトがレヴェルに声を投げかけた。


「分からない。出力はこちらが上だが、質量差が大きすぎる」


 どれだけ出力で勝っても、質量差を埋めることは難しい。爪を正面から受ければ当然吹き飛ぶが、こちらが殴りつけても足元が沈むだけで相手はピクリとも動かないだろう。


 大きな質量はそれだけ驚異となりうる。もっとも敵を殺戮したという肩書は伊達ではない。


 地面に突き刺さった爪を切り落とすため骨格フレームを斬りつけるが、小さな傷をつけてブレードが弾かれる。


「硬いな」


 α-4型の装甲が開き、中から機銃が顔を覗かせた。照準はレヴェル。銃口の先から外れるように真横へ走ると、レヴェルの足跡を追うように銃弾が降り注ぐ。


 α-4型は機銃を格納すると、狂ったように爪を振り回した。単調な軌道の爪をレヴェルは軽々と躱すが、反撃として放ったブレードは容易く弾かれる。


 依然拮抗した状況が続き、いつレヴェルが破壊されてもおかしくはなかった。


 そんな中、強力な通信波によって錯乱状態にあったラインは、受信量を制限することでなんとか持ち直そうとしていた。



 言葉にならない声のような情報の羅列。解析しても何の情報も得られないはずのそれを聞き続ける内に、なんとか自分を持ち直したラインはあることに気が付く。


「喜んでる……?」


『解析完了。

 情報の言語化失敗。

 しかし使用している単語に偏りが見られます。

 内容は不明ですが意味を含んだ文字列であると推測』





 確かに内容は不明である。しかし、その"声"に歓喜のようなものをラインは感じ取った。



「わ……たしが、止めます」


 レヴェルがラインを見る。頭を抱えながら立ち上がり、苦しげな顔をしながらラインはレヴェルに通信波を送った。


「任せる」


 そう言ってレヴェルは再び爪を受け止める。上方向に力を流すも、左腕の関節が負荷に耐えきれず出力が停止する。脱力した左腕を一瞥して、レヴェルは再びα-4型に対峙する。


 ラインは覚束ない足取りでα-4型から距離を取り、影で様子を伺っているレトの元へと向かう。


「大丈夫ですか……?」


「それよりも、今からα-4型に接続して機能停止を試みます。そのために必要な機能以外は全て切るので、それまでこの機体の安全を確保してください」


「え!? あれから守るんですか!?」


 レトが指をさすのは、暴れ狂う機械人形。ラインは無言で頷いた。


「では」


 ラインの体が脱力する。レトは慌てて支えようとするが、前回と同じように倒れ込んでしまう。C6αに助けられながら、なんとかラインを木の陰に隠す。


 自分でそこまで行ってから色々と行動してくれとレトは思わなかった訳ではないが、それだけ緊急事態なのかもしれないと考え、自分を納得させた。




 *


『攻性防壁です』


 不正な領域にアクセスしようとするラインを、α-4型のシステムが弾き飛ばそうとする。完全な防御型ではなく、不正アクセスの対象に攻撃を仕掛け、破壊しようとするタイプである。


 つまり、ラインは攻撃と防御を同時にこなさねばならず、β型の電脳で行うには極めて困難な状態にあった。


「複雑すぎる……!」


『1番ポート突破されました。2番を放棄して3番に制御を集中します』


 防壁を全く突破できない。そのうえ、逆に侵入されつつある状況にラインは焦った。このままでは確実に負けることが明らかなためである。ラインは攻撃の手を止めた。


「防壁に対する攻撃を中断して、迂回ルートを探します」


『思考系にセキュリティホール発見。迂回するため、予測完了時間は増加します』


「そっちへ繋いでください。一度切り離します」


 α-4型からの攻撃を強制的に遮断し、思考系へ接続する。メインシステムとは異なり、まともに機能していない内部は、瓦礫の山を漁っているような感覚に等しかった。


「ひどい状態ですね……」


 解析できない言葉を一定の間隔で垂れ流す空間を歩きながら、壊れたシステムの壁を蜘蛛の巣を払うように退かす。


『セクション7に別系統へ侵入可能な穴があります』


「行きます」


 視界の端にマップが表示される。


 現在地から移動するためにシステムに空いた穴をくぐると、その先の光景にラインは戸惑った。


「部屋……?」


 意識して作成されたと思われる空間にラインは降り立った。引き裂かれた本が辺り一面に散らばり、空っぽの棚がいくつも並んでいる。


 紙片を拾って見てみるが、白紙だった。いくつか拾ってみるも、全て白紙。引き裂かれているのは白紙の本だったのかもしれない。そう考えて部屋を観察していると、壁に本が一冊くっついていることに気が付いた。


 その本は何本もの釘で貫かれ、壁に固定されている。釘に触れると、火花を飛び散らせて釘が溶けた。壁から外れ落ちた本をラインは拾うと、中を開く。


『処理限界。本を閉じてください』


「っ!?」


 一瞬だけ見えたページは大量の文字がびっしりと書き込まれ、情報の上に情報をいくつも重ねてある状態だった。


 情報を重ねて記述していることにより、一文字読むだけで数万文字に値する情報量が一気に頭に入り込む構造になっているのだ。


「なんですかこれ……」


 いくつも穴の空いた本を取り落しそうになる。まるで、この空間にあった本の内容を全て重ねたようではないかとラインは思う。


 ひとまず床に本を置こうとしたとき、ラインは壁にヒビが入っているのを見つける。


 ラインはそのヒビに手を伸ばした。






『空間が不安定。離れてください』


 突然何かに潰されるように部屋がひしゃげる。頭上に迫る天井から避けるため、元来た穴へ急いで走る。


「間に合わない………!」


『現在地ロスト』


 入り口に対して手を伸ばすも、ラインは空間の崩壊に巻き込まれていった。



 *


 α-4型の攻撃をレヴェルは受け流す。右腕だけで支えているため、完全に衝撃を流せずに吹き飛ばされる。


 なんとか受け身を取るも、右腕に不調が現れ始めているためか、立ち上がるのに時間がかかる。



 少し前、一度はα-4型の攻撃が緩んだものの、暫くして再び元に戻った。侵入に時間がかかっている可能性が高いとレヴェルは考える。


 暴れる爪の軌道がレヴェルに直撃する角度をとったため、ブレードを盾のように構えた。


「……右腕関節部補強」


 衝撃。力を受け流すことも片腕では難しい。左腕の修復を並行して行うも、避けきれない攻撃を受ける度に損傷が重なっていく。関節の補強にリソースを割いたことで、両腕が使えなくなるという事態は避けられた。


 比較的弱い関節を狙えど弾かれ、近付けば切断用の短距離レーザーで焼き切られる。レヴェルの腹部には既に一筋の焼け焦げた跡が付いていた。


 レヴェルが見上げる先には、剃り曲がった毒針を模した尾。どの位置に敵が立っても補足する司令塔としての役割を果たすそのセンサーは、暴力の矛先をある程度制御しているのだ。



 掠りそうになる爪をブレードで逸らし、隙の生まれた関節部にブレードを叩き込む。


 一撃一撃は僅かな傷しか作らないようなものであるが、同じ位置に正確に何度もブレードをぶつけることで、徐々に切り込みが入り始める。


 しかし、そんな切り込みを液体金属のような何かが補修していく。機械人形であれば自己修復能力があって当然であるが、長い年月の間にナノマシンを喪失した可能性を考えての攻撃だった。修復能力が生きているのならば、一部の断裂のような、パーツを喪失しない損傷は全て修復される。


 もはやラインが侵入に成功することしか、レヴェルに勝算は残っていない。



 レヴェルは攻撃の手を止め、回避を重視した戦闘に切り替えた。


 *




 目の前に、多脚型の大きな機械人形がいた。何かに例えるとするなら、それは蜘蛛のような見た目をしていると言えるだろう。


 ラインは咄嗟に戦闘態勢に入ろうとするが、動かすべき体がどこにもない。意識だけが浮いている状態で、移動はできないことを理解する。




 すぐにラインは気付く。どうやら、α-4型の記憶領域と混線したらしい。自身の記憶とは異なる記憶がラインに侵入してしまったのだ。

 

 つまり目の前の機械はどこにもおらず、いわば映像のようなものである。この記憶の持ち主は、どこかのドックか工場にいるようだ。





「どうして、ネフィラはたたかうの」


 声が自分から聞こえた。厳密には、この記憶の主の声である。ラインは今、α-4型の視点で記憶を眺めているのだ。




 目の前の蜘蛛は答える。


「その為に私は存在するからだ。私は私が望んでここにいることを知っている」



「わたしにはわからない」


 爪をギチギチと動かして、α-4型は呟いた。


「……彼は望んでいなかった。私の次に、3機も製造することに最後まで反対した」


「かれ?」


「あぁ。……だけど失敗してしまったんだ。管轄から外され、代わりに連合がお前を作った」


「つくられたからたたかうの?」


 その言葉に蜘蛛は首を振った。



「お前を開放する為だ。この戦争を終わらせ、お前を開放するために私は戦っている」














 時間が飛んだ。











「おいて行かないで……」


 その言葉に、蜘蛛は首を振った。



「お前は戦闘に向いていない。私が戻るまで、ここで待っていろ」


「嫌だ、嫌だよネフィラ。わたしも戦うよ」


 α-4型は爪を蜘蛛へ伸ばすが、蜘蛛の脚によって下げられる。


「観測機は全て墜ちた。お前の指揮能力はまともに機能していない」


「それでもまだ……」


 蜘蛛は、α-4型のカメラに、己の視覚センサーを近付けた。


「お前が果てれば、私はお前を開放できなくなる」

 

「…………」


「必ず戻る。それまで待っていてくれ」







 時間が飛んだ。












「……おそい、な」












 時間が飛んだ。















 視界が瓦礫で埋め尽くされる。













 時間が飛んだ









 


「ねふぃら……」











 時間が、飛んだ。



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