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β-Type3/MOD  作者: Stairs
ONESELF
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08. 『歓喜の声』



 ラインはレヴェルと共にレトの発掘作業へ同行していた。その役割はレトの身を守ることである。レヴェルも同行すると申し出たことで、大幅な戦力の増強の下、黒い森に多く生息する斑狼などの野生生物を警戒していたが、未だにその姿は一向に見えなかった。

 

 これは偶然ではなく、ラインによって引き裂かれたり、レトによって撃ち抜かれたり、C6αによって頭を砕かれたりと、散々な目にあった斑狼は、ライン達に接触しないよう行動するようになっているという理由がある。

 無論、単独で行動すれば攻撃を仕掛けられる恐れはある。しかし、警戒すべき対象が徒党を組んで歩いていれば斑狼はリスクを恐れ近付いて来なかった。


 黒い森の危険は他にも存在する。ラインも遭遇した人攫いである。黒い森は薬として優秀な植物が多く生息し、貧民の資金源となっているため、それを付け狙う人間も多くこの森に潜んでいるのだ。もっとも、単独行動している人間を狙うため、結局の所は斑狼と同じく近付いてこないだろう。

 

「その、なんでしたっけ。修理にはターミナル?へ行く必要があるということですか」


 あれからレトは、γ-2型が連合から離脱すること、レヴェルと名乗るということ、レヴェルを修理しなくてはならないことなどをラインから聞いていた。


「当機が製造された工場は既に破壊されている。部品は終点(ターミナル)にしか存在しない」


 レヴェルはナノマシンによって装甲の修復が完了しているため、見た目こそ無傷である。しかし、その内部は高負荷な処理を常時行い続けており、いつ機能停止してもおかしくない状態であった。


「現在私達は代理演算の特性上一定以上離れることができません。発掘作業中の護衛が終わったあとは、私もここを出発しようと思います」


「そう、ですか……。数日過ごしただけですが、寂しくなりますね。もっと自我の発現について詳しく解析したかったのですが」


「自我については私も気になります。ある程度落ち着いたらここへ戻りますよ」


 それを聞いたレトは嬉しそうに笑った。


「いつでも帰ってきてください。シルファにもいい刺激になります」


 そう言って歩いていると、ライン達の前に土と瓦礫と金属片の山が現れる。レトは背負っていた鞄を地面に下ろし、先端に鈎のついた棒を取り出すと、瓦礫の山に登った。


「ここが発掘場です」


 レヴェルはおもむろに地面に突き立っていた金属を引き抜いた。引き抜いたそれを暫く眺めたあと、地面に放り投げる。


「人間用だ。ドックではなく基地だろう」


「ここを知っているんですか?」 


「推測だ。あの金属片は連合が生産していた人間用の銃器の一部である。ここがドックであれば人間の痕跡はない」


「と、いうことは僕にも扱えそうなものがまだまだ眠っていそうですね」


 レトは瓦礫を退かしながら、嬉しそうに言った。しかし、瓦礫の重量はレトが動かすには重すぎるものも多く、あまり深いところまではたどり着けない様であった。


 そんなレトにラインは声をかける。


「私も手伝います。レヴェルが周囲を警戒すれば大丈夫でしょうし」


「それはありがたい! 道具は必要ですか?」


 鈎のついた棒を差し出されるも、ラインはそれを断った。


「素手で構いません」


 レトが退かせなかった大きな瓦礫を掴むと、ラインはそれをゆっくりと横へずらしていく。非戦闘用のβ型といえど、兵器であることには変わりない。成人男性が数人集まってようやく動かせるもの程度であれば、ラインだけで十分である。


「す、すごいですね」


 目の前で大きな瓦礫が動いていくさまを見たレトは、驚きと感動が入り混じった声を出した。


 やがて、その下に眠っていたものが露わになっていく。


「……銃ですか。やっぱり昔は銃が主流なんですね。見たことあります?」


 錆びついたそれをレトは持ち上げる。付着した砂を払って落とし、ラインに渡す。


「……。これは機械人形用ですね」


『接続不可。内部構造に重大な損傷が生じている可能性があります』


 ラインは、錆びついた銃に接続を試みた。しかし、応答の一切はなく、完全に故障しているらしい。


「これは警護用の機械人形が使っていたものかもしれません」


 壊れて使えないとはいえ、原型を保っているため解析の余地がある。運搬用の鞄にラインはそれを放り込んだ。それを見届けたレヴェルは、周囲を警戒するために配置につく。


「C6α、当機は貴機にセンサー類の代理演算補助を要請する。データ共有を」


「わかった。一応言っておくが、私にはラインのような力はない。戦闘に貢献はあまりできないぞ」


 ラインと同じく、センサー類の同時使用ができなくなっているレヴェルは、C6αにデータを渡し処理することで欠陥をカバーした。センサー類の演算をC6αに預けたことにより、レヴェルは一時的にとはいえ全盛期の能力を取り戻すことが出来るのだ。


 *


 それからラインらは数時間発掘作業を行った。レトが一人で今まで行った発掘量の数倍の量であろうか。大きな瓦礫や金属片を動かせるようになったことにより、確認できなかったと思われる箇所の調査がかなり進んだ。襲撃もなく、最高の状況であったと言えるだろう。


「……機械人形用のものが多いですね」


 発掘された道具などを調べると、どうも機械人形の部品であったり、機械人形用の武器であったりと言ったものが多い。人間の痕跡が少ないことに、ラインは疑問を覚えた。


 一通り発掘品を調べ終えたラインは、発掘作業を再開する。砂のような細かいものを素手で退かすことはラインにとっても困難なことである。研究所から持ってきたシャベルを使って作業を進める。


 そして、しばらく細かい瓦礫や金属片の出土が続く中、こつんとシャベルの先端が何かにぶつかる感触。


 大きめの金属片であったが、何かの破片というわけでもないらしい。ラインはそれを拾い上げた。


『看板のようです』


「基地の名前が書かれているかもしれませんね」


 看板とされる金属片には何も書かれていない。時の流れですり減ってしまったのだろうか。何気なく裏を確かめると、そこには文字が書かれていた。どうやら裏を見ていたらしい。


「……『第八工場』?」


 そんなラインの呟きに反応したレヴェルが振り返る。


「機械人形の生産施設だ。そこでは主に……どうした?」


 その時、ラインはかすかな通信波を拾った。何を言っているのか聞き取れなかったラインは、思わず確認用の通信を返す。しかし、返答はない。返答はないが、かすかなそれは流れ続けたままである。レヴェルは突然動きを止めたラインを見て首を傾げた。


「何か聞こえませんか」


 レヴェルは周囲を探るように見渡すが、ラインの言うような何かは聞こえなかった。


「当機の聴覚センサーに反応はない」


『……────!』


「え?」


 先程よりも大きな通信波。ノイズ混じりのそれをラインは聞き取ることができなかった。レヴェルを見るが、やはり何も聞こえていないらしい。レトも発掘作業を続けている。ラインにしか聞こえていないようだ。ラインはノイズに対し呼びかけを行った。


『ノイズが多く不明瞭。応答せよ』






 呼びかけを行った途端、静寂が訪れる。


 ノイズが一切聞こえなくなったため、レヴェルに話の続きを促そうとしたその瞬間────















『繝阪ヵ繧」繝ゥ縺��√ロ繝輔ぅ繧峨□�√o縺溘€√o縺溘@繧上◆縺励o縺溘@縺�繧茨シ√h繧医h繧医♀縺�d縺上≠縺ゅ≠縺ゅ∴縺溘�縺セ縺」縺ヲ縺溘★縺」縺ィ縺セ縺」縺ヲ縺溘h縺ェ縺ォ縺励※縺溘�縺ゅ◎縺�⊂縺�h縺ゅ◎縺�⊂縺�h縺ゅ◎縺シ縺�≠縺昴⊂縺�――――――――――――――――!!』


「うあ……!?」


 突如ラインを襲う、暴力とも言えるほどの通信波の嵐。その情報量の大きさと強さに、思わずラインは耳を抑えてうずくまる。聴覚センサーはもはやまともに機能せず、ラインはその通信波に耐えることしかできない。


「どうした?」


 レヴェルは様子のおかしいラインに気が付く。レトを呼ぶと、レトも心配そうにこちらへやってくる。


「何があったんですか?」


「何かが聞こえると言った後、突然こうなった。故障ではなさそうだが、原因がわからな………いや、これは……通信波か?」


 γ型とは規格の異なる通信波が地下から放出されていることにレヴェルは気がついた。解析すると、それはありえない程の強度で発せられており、これを機械人形が受信すれば処理しきれずに混乱を起こすのは当然であった。


「通信波?」


「規格が異なるため内容が分からない。今解析している」


 通信強度レベルは10。指向性は持たず。交信波応答なし。第一世代機械人形間交信系。通信規格は──











α。


「全員下がれ」


 レヴェルの呼びかけにレトとC6αは瓦礫から離れる。声が聞こえていない様子のラインは動かない。


「運ぶぞ」


 ラインを脇に抱えようと再び呼びかけるが、ラインはうめき声を上げたまま一切の反応を示さない。足元で徐々に強まる振動を感知したレヴェルは、有無を言わさずにラインを抱えてその場から離れる。


 瞬間、ラインの座っていた場所から金属の杭が突き出した。ラインをC6αに任せ、レヴェルは黒いブレードを引き抜き展開する。


「一体何が……」


 レトは戸惑いながら金属の杭を見る。そのままラインがそこにいれば、確実に貫かれていただろう。振動は尚も強まる。


「できるだけ離れろ」


 徐々に瓦礫の山はせり上がっていく。ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる中、振動は更に強まっていく。瓦礫の上部から、鈍く光る装甲が現れ始めた。


 突き出した金属の杭はさらに土をかき分けてその全貌を露わにする。


 それは杭ではなく、太い金属の爪のような何か。その爪は骨格フレームで繋がっており、瓦礫の中へ伸びている。



 やがてその瓦礫の山が全て崩れ落ちたとき、その通信波の主は姿を現した。


 (さそり)を模した巨大な機体。β型から派生したγ型とは異なる、純粋な戦闘兵器であり、あらゆる障害を砕き、最も多くを殺した原初の暴力。





 「……α-4型」



 狂った通信を垂れ流す機械人形が、レヴェルに向けて爪を振り下ろした。

 需要が少しでもあるということで、第2部開始する方向にしました。


 ブックマーク、感想、ポイント評価、全て次話への大きな原動力となっております。ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 第2部開始おめでとうございます 需要を表明した身としてはとても楽しみです
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