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β-Type3/MOD  作者: Stairs
ENTRANCE
49/77

49. 『帝国』

 

「あれが帝国……」


 遠くに見える街並みは徐々に大きくなっている。王国は小さな村が点在しながら、中心部の王都を壁で囲う形だが、帝国は巨大な一つの街がその国の全てだった。

 

  他国に対して圧倒的な攻撃力を持つが故の集中型、と言えるだろう。王国以外の国境を面していた小国はその全てが帝国に組み込まれており、王国の村にあたるものがかつて国だったもの、という状態であった。失われた技術を発掘し、再利用する術を持たなかった国は全て帝国が侵略したのである。


 本来であれば緩衝地帯となる国々が帝国による戦争の被害を第一に受けることになっていたが、ラインの目の前に広がる景色はその事を忘れさせてしまうほどのものだった。



 膨大な面積を誇る街の一部が消し飛び、所々で白煙の立ち上るこの様が、帝国の現状である。



 多くの者は、巨大な手で地面を掬った様だと表現するだろう。死傷者は王国の比ではないことは想像に難くない。ラインも、アシストカノンが街の中に置かれている可能性を考えなかった訳ではなかった。状況的にそうせざるを得なかったことも理解しているため、特に思うことはない。


 しかし、王国を滅ぼそうと侵攻した国が甚大な被害を負っている姿は言葉を失わせるものであった。


「……アシストカノンが豆鉄砲か」


「α型の兵装はその全てが唯一の兵器として開発されています。かつての人類も、砲撃という分類での攻撃はα-2型が最大でした。私が動かせるように再設計された"SAgittariu(サジタリウス)s"は威力も落ちていましたが……」


「あれで、か。古代の人間がどんな存在だったか想像すらできないな」


「しかし、恐らくは……α-2型としては帝国に撃ち込んだものがもっとも戦果を挙げたと言えるでしょう」


「……昔は効かなかったのか?」


「磁気で逸れることに気付かれ防がれてしまった、と」


 実際にラインがその光景を見た訳ではなかったが、当の本人がそう言っていたのだから、そうなのだろう。大振りな攻撃は神々にとって脅威となり得なかったという教訓からβ型が製造されたのだから。


 現在ラインと同じ初期ロットの姉妹機は全て破壊されているが、数機はこちら側の世界で破壊された記録がある。γ型の様な脅威にはならないものの、発掘され、修復されている個体があるかもしれないとラインは思った。


「滅茶苦茶だな……。結局、自分に対して銃口を向けた方が被害も大きかった訳か」


「そうなりますね」


 帝国の内部は機能不全に陥っており、街自体への潜入は容易かった。半壊状態の地域の救助活動、時折起こる火事の消火、物資供給の混乱。それらを眺めながら、ラインとイーシェは帝国の奥へと入っていく。


 被害の少ない地域になると、その混乱も収まっていた。荷物の少ない二人は、被害のあった場所から避難してきたと思われたのか、時折すれ違う帝国兵から声をかけられることも無かった。


「避難してきたって言えば宿も取れそうだな」


「泊まるんですか?」


「この現状じゃ、夜出歩くほうが危険だ。できればこれに乗じて昼間に移動したい。混乱もいつまで続くか分からない以上、明日中に帝国の中心まで行くつもりだ。細かい計画も話しておきたいし、今日は休もう」


 イーシェの予想通りと言うべきか、部屋を借りたいと言ったイーシェに対し、宿屋の店主は憐れむ目線を送り簡単に部屋の鍵を渡した。店主の背後に掛けられている鍵の数がかなり少ないことから、同じ様に避難してきた住民が多いのかもしれない。


 木製の扉を開け、部屋に入るとベッドが2つ。広めの部屋に案内されたらしい。


「あー、野宿は最悪だったなぁ」


 荷物を下ろし、イーシェはベッドに寝転んだ。旅の疲れを落とすように、伸びをしている。提示された金額の割には小綺麗にされていた。さすがは帝国と言うべきか。


「何処か体に問題でも?」


「いんや平気平気。でもほら、ベッドの方が良いに決まってるじゃん……?」


 イーシェは仰向けになったままそう答える。


「そういうものなんですか」


「そっか、ラインはそういう感覚無いのか……。寝なくても良いんだもんな……」


 ふぅ、と息を吐いてイーシェは起き上がった。窓の外を見ると既に空は薄暗くなっており、街のあちこちに明かりが灯り始めている。


「点けますか?」


 ラインがランプを見てそう言うと、イーシェは首を振る。


「いや、今日はもう休むよ。取り敢えずその前に、一旦明日の計画を話しておこうと思うんだけど──」






 ────不意に、扉がノックされた。



 イーシェは言葉を止め、警戒した様子で扉を見る。ラインは腰のブレードに手を添え、起動状態に移行させた。


 ラインがイーシェを見る。イーシェは手を小さく挙げてラインを制止した。イーシェが扉に近付くと、ラインは扉の影になるように動いた。


 再び扉がノックされる。イーシェは警戒を強めながらも扉を開ける。



「──おぉ、やはりお前か」



 ノックの主は、イーシェの顔を見るなりそう言った。目を見開いたイーシェは、その人物がここに居ることが信じられないといった顔をする。


「クレックス……」


「久し振りだな。お前なら来ると思っていたぞ。……まぁ、とは言いつつ、宿を虱潰しに探すハメにはなってしまったがな」


 状況が分かっていないラインに気付いたイーシェはラインを見て頷いた。


「……大丈夫だ、と思う」


「おや、使用人か? いや、違うな。同行者と言うべきか」


 クレックスと呼ばれた男は部屋に入ると、未だ警戒した様子のラインの前に立つ。



「俺はクレックス・インペリタ。一応この国の第二皇子だ」


「あなたが第二皇子……」


 ラインがそう呟くと、イーシェは思い出したように口を開いた。


「そうだ、どうして俺がここに居ると?」


 その言葉に第二皇子は顎に手をやり、少し考える。


「帝国に落ちたあの光、王国からの反撃とこちらは見ている。どこにそんな兵器を隠し持っていたかは知らないが、現にこうして痛手を負わされた以上は実在するのだろう。……で、だ。これにお前が一枚噛んでいたかは分からないが、少なからず帝国が大きく弱ったこの機会を見逃す筈がない」


「……あぁ」


 自分の考えが、あれだけ離れていたにもかかわらず読まれていたことに、イーシェは内心驚いていた。


「全てを捨てて他国の人間として生きていけばいいものを、お前の中に流れる皇帝の血がそうさせたのか……いや、そんな事はいい。混乱に乗じて帝国内を移動するなら昼間が適しているとお前も考えるだろうと思い、宿屋という宿屋を調べていた訳だ」


「何でそこまで……俺が確実に帝国に入る保証なんて無かった。第一、あんた自身が直接動き回って俺に接触する理由がない」


 イーシェのその言葉に、クレックスは不敵な笑みを浮かべる。


「いいや、理由なら俺にもある。帝国も馬鹿ではない。恐らくこんな事態は二度と起こらないだろう。即ち、お前にとってこの状況は千載一遇の機会となる。……そして、それは俺にとっても同じなのだ」


「何……?」


「イーシェ、お前の力を借りたい。城の内部はある程度俺が動かせるが、何を何処に動かしたかは全て把握されてしまう。そこで、帝国に本来居ない筈のお前が必要なんだ。そうして初めて俺の賭けは、ようやく己の全てを賭ける程の価値を成す」


 クレックスが何を言おうとしているのか、それを理解したイーシェは目を見開く。


 そして、遠く。窓の外に見える城に親指を向けたクレックスは、強い決意の籠った声で囁いた。



「現皇帝を玉座から叩き落とす。武力で人を脅し、蹂躙する時代をこの手で終わらせるために」

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― 新着の感想 ―
[一言] お、簒奪狙いか 最後に全ての元凶としてイーシェを片付ければ奇麗な形で継承出来るしね
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