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β-Type3/MOD  作者: Stairs
SIGNAL
35/77

35. 『破機』

 

 高温を物ともせず孔から現れたその姿に、兵士達は息を呑んだ。


 彼らが見慣れているのは女性的な造形が多い機械人形だが、機械兵は違う。全身剥き出しの骨格フレームに、内部を保護するための装甲。赤く明滅する目と、顎の無い顔。


 仮に王国で発掘されたのが機械兵なら、神が作った人の失敗作だから大切にしようという宗教観は生まれなかっただろう。


 それほどまでに、機械兵の姿は異質だった。


「あいつらが持っている剣とまともに打ち合うな。受け流さないと剣ごと上から叩っ切られるぞ」


 そのすべてが地下で見た機械兵と同じブレードを所持している。一度斬られたことのあるメアは、周囲に警告の声を上げた。


 現れた機械兵は機械的な高音を何度か発しながら、周囲を見渡すと、メアと視線を合わせた。


「……」


 睨み合い、のような時間が過ぎる。メア側は相手の出方を伺うが、機械兵はメア達を品定めしているようであった。どちらかが動いたとき、その時点でメア達の敗北と全滅が確定する。それをこの場にいる全員が理解していた。







 静寂を切り裂くような一際高く、長い機械音。







 それを皮切りに、機械兵が踏み込み、飛び出す。





 機械兵達は孔から飛び降りると、メア達の方へ次々突撃していく。




「戦闘開始ッ!!」


 メアの号令に合わせ、機械人形が動き出した。それを援護するように、兵士達も後を追う。





 まず、最初に接敵した機械人形が機械兵のブレードによって両断された。




 赤い体温模倣液が撒き散らされる。


 同時に行動していた機械人形がナイフで機械兵のブレードを受け流す。



 両断された機械人形の持っていたナイフを空中で受け止め、機械兵の首元の装甲に突き刺し、引き剥がした。


 機械人形が腰の六式単発銃に武器を持ち換えようとした瞬間、その機械人形は機械兵の振り上げたブレードで腕を斬り飛ばされる。


 スパークを散らせながら飛んでいく腕部を気にすることなく、機械人形は残った手で銃を持ち直そうとするも、機械兵の手で胸部装甲を剥がされ、コアごと回路を引き裂かれた。


 倒れていく機械人形の後ろから兵士が機械兵を攻撃しようと剣を振り下ろす。


 鈍い音と共に、骨格フレームで鉄剣は阻まれてしまう。思わず姿勢を崩した兵士を、機械兵はブレードで斬り捨てた。



 この一瞬で、機械人形が2機、戦闘課の兵士が1人死んだ。それでも、感情を持たない機械人形は当然ながら、それを見ていた兵士の士気は落ちない。機械兵の目的が、王国民の皆殺しであることを知っているからだ。


「一秒でも止めろ、一発でも叩き込め!」


 メアは装甲の剥がれた機械兵に切っ先を向け、踏み込んだ。機械兵はそれに対応して、ブレードをメアに突き刺すような形で振るう。


 メアにブレードが接触した瞬間、ブレードはメアの体を()()()()()


 機械兵に隙が生じたことを見逃さなかったメアは、機械兵の首元に剣を突き刺した。


 内部を守るための装甲が剥がされていた機械兵はコア接続回路を切断され、赤い光を明滅させながら崩れ落ちる。


「……まずは一機」


 状況を確認するため、メアは周囲を確認する。何十と転がる機械人形達の残骸。折り重なるように倒れる兵士達。


 対する機械兵の破壊は数機のみ。一部が欠損している機械兵はもう少し多い。


 絶え間なく響く金属音と、銃声、怒声、断末魔。


 メアを休ませる気など無いように、次の機械兵がメアに襲い掛かる。メアは剣でブレードを横に流し、そのまま機械兵を斬りつけた。


 胸部ではなく関節部を狙って振るわれた剣は、メアの目論見通り機械兵の腕を切断する。


「関節が、弱い……!」


 骨格フレームは鉄剣程度では切れない。しかし、柔軟な動作をさせるため、機械兵の関節部は比較的弱いのである。切断できなくとも、変形させるだけで動作不良を起こすほどに。


 ブレードを失った機械兵は、脚部から小型ナイフを取り出した。恐らく、機械人形の所持するものと同じナイフだろう。


 姿勢を低く、ナイフを持つ手を引いて機械兵は構えを取る。


 同時に、メアは持っていた剣を機械兵に投げつけた。機械兵がそれに反応して剣を払い落とした瞬間、メアは足元の標準支給ナイフを蹴り上げ、手に取った。


 機械兵がメアに向かって接近し、ナイフを振るう。メアは拾ったナイフで刀身を受け止めた。


 感じたことのない衝撃と、甲高い金属音、飛び散る火花。しかし、メアの持つナイフに傷は無い。


 火花が散っている以上はナイフに傷が入っている筈である。しかし、標準支給される兵装の内部にはナノマシンが充填されているため、破損した所から修繕が始まるのだ。



 恐らく、このナイフをメアが扱ったとしても、機械人形が使った時と同じような攻撃力は発揮できない。しかし、持って振るう事が可能な以上は純粋なナイフとしての運用が可能なのだ。


 全身に力を込め、機械兵のナイフを払おうとした瞬間、機械兵から放たれた横からの蹴撃がメアの腹部に突き刺さった。


 骨の折れるような音と感覚が伝わる。


 吹き飛ばされたメアは立ち上がり、ナイフを構える。その手は痛みに震え、呼吸も粗い。


 機械兵は再び踏み込み、メアへ接近する。それを受けるメアも機械兵の動きから目を離さない。


「……!」


 メアが迎撃しようとしたその瞬間だった。横から振り下ろされた剣が機械兵を叩き落としたのだ。


「大丈夫か、メア」


 機械兵を落としたのは隊長だった。隊長は起き上がろうとする機械兵の背中を踏みつけ、何度か首元に剣を突き刺す。何度か暴れていた機械兵だったが、やがて動かなくなった。


「隊ちょ、う……ッ!?」


 隊長に視線を向けると、その姿にメアは言葉を失った。


 制服が余すところなく血で塗れ、見るからに満身創痍。怪我の状態はメアよりも酷いだろう。


「問題ない。致命傷は避けている」


 隊長は機械兵の持っていたブレードを手にしていた。恐らく、破壊した機械兵から奪ったのだろう。


「で、でも……」


 致命傷は避けている? この傷で? メアはそう思わずにはいられなかった。


「上層部が今、こちらに機械人形を全て配置した。あと少しは保つだろう」


 周囲を見ると、確かに機械人形の数が増えている。メアの命令を共有しているのか、数機で固まって機械兵と戦っているようだ。


「それより、早く、治療しないと」


「それは貴様も同じことだ」


「しかし……」


「俺が貴様の寿命を一秒でも伸ばしてやる。だからまだ死ぬな」


 機能停止した機械兵からブレードを拾い上げた隊長は、それをメアに差し出した。メアは震える手で、ブレードを受け取る。


「……はい」


「次が来るぞ」


 孔から現れる機械兵は尽きない。次の機械兵がすぐさまメア達に襲い掛かる。



 隊長は機械兵のブレードを受け止め、上に跳ね上げる。その隙に、メアが機械兵の関節を損傷させる。それを数度繰り返し、動きが鈍った機械兵の首元にブレードを隊長が差し込み破壊した。


 当然、メア達も無傷ではない。ブレードを封じてもナイフで攻撃を続行し、それを防いでも脚部による攻撃が襲い来るのだ。一機撃破するたびに、傷が徐々に増えていく。


 特に隊長の傷が酷い。メアが攻撃を受けそうになる度、隊長が前に出て肩代わりをしているのだ。軽い切り傷のようなものはメアにも増えているが、メアであれば気を失っているであろう攻撃を隊長は何度も受け止めていた。


 機械兵をもう一機破壊したところで、メアは隊長の制服を掴む。


「……下がってください。これ以上は本当に死にます」


「……」


 隊長はメアに言葉を返さない。


「隊長?」


 最悪の事態を想像したメアは血の気が引いていくのを感じた。


 慌てて隊長の顔を見る。隊長はどこか一点を睨みつけていた。


「どうしたんです、か……」


 隊長の目線を追い、メアは同じ方向を見た。



 ……男が、戦場の真ん中をゆっくり歩いている。


 着ている服は戦闘課の制服ではない。他の課の人間だろうか。……しかし機械兵はその男を避けるように動いている。


 まるで、戦場に生じた空白だった。


 その男が、メア達に向かってゆっくり歩いて来るのだ。


「止まれ」


 隊長が男にブレードを向ける。それを見た男は表情を変えず、立ち止まることもない。しかし、反応を示し口を開いた。


「あなたがたの命令で行動を変更するには、より上位の権限が必要だ」


 優しい声色で男は話す。敵意など微塵も感じさせず、ただ淡々と言葉を発している。


「……機械か」


「肯定する。当機は指定範囲の生命及び機械人形の破壊の命を受けている」


「機械兵、ではないな。機械人形でもない。……何者だ」


 初めて、男の足が止まった。


「当機は構成員の情報の記録を所持していない。この正常における指揮官と推測するが正しいか」


「何者だ、と聞いている」


 隊長が再び男に問いかける。


「何者、という表現は当機に対して適用できない。管理番号であれば解答可能だ」


 首を傾げながら、無表情で男は話す。そのあまりの不気味さにメアは男から目が離せない。隊長は男に続きを促した。


「答えろ」










「当機の管理番号はγ-5型」


「γ……?」


「以上。これより戦闘行動を開始する」






 一瞬、だった。


 見慣れぬ黒いブレードを展開したγ-5型は、メアが視認できない程の速度で接近。隊長に向けてブレードを振り抜いた。


 メアは目で追えなかったが、隊長はそれに反応した。ブレードを盾にし受け流す構えを瞬時に取ったのだ。


 しかし、隊長の持つブレードにγ-5型のブレードが衝突した瞬間、γ-5型は隊長の体ごと弾き飛ばした。地面から真横に飛ばされた隊長は、数度跳ね飛んだ後、動かなくなった。


「………ぇ……あ……?」


 あまりに、あっけない。


 メアは言葉を発することも、ブレードを構えることもできなかった。


 γ-5型は戦意を喪失しているメアを次の標的とし、ブレードで軽く突きを放つ。



 メアは動けない。咄嗟に持っているブレードで防ごうとするが、もう遅い。


 γ-5型の黒い刀身が、体を貫く。


「う、ぐ」


「……?」






 衝撃も、痛みもない。




 ふと、メアは己の腹部を見た。黒い刀身が、寸前で止まっている。メアはゆっくり顔を上げた。






 戦闘課の兵士が、メアの前で貫かれていた。


「何、やってんすか、副隊長」


「な……ん、で……」


 その顔には見覚えがある。メアの傷を塞ぐため、魔術で剣を熱した兵士の男だ。


 状況が理解できないのか、メアの代わりに兵士を貫いたγ-5型は首を傾げて何かを考えている。


「食事会……するん、ですよね。主催いないと、始まんないっすよ……」


「ちがう……ちがう。……あれは……だって……」


 ――その場の冗談だろう。メアにはそう続けることが出来なかった。


「まぁ…………あんまり話してる暇も、ない、ですねぇ……」


 兵士の口元から血があふれ出す。ブレードが体を貫いているということは、その間常に体の中が裂かれ続けていることになるからだ。

 

 メアは、兵士の腕や首元に赤い結晶のようなものが浮かび始めていることに気付いた。


「魔術か」


 γ-5型がそう言葉を漏らすと、γ-5型の持つ黒いブレードから火花と炎が噴き出した。ブレードから手を離したγ-5型は、ブレードを握っていた手の関節が動作不良を起こしているのか、指を痙攣させている。


「……《(Focus)》」


 兵士の言葉を聞き、僅かに下がったγ-5型であったが、痙攣していた指の節々からも次々に火花と炎が噴き出し始めた。


「何を……」


「副隊長。私は……少し先に行ってます」


「おい、ま……」


「遅刻しても、いいですよ」



 轟音。




 爆ぜるような音と共に、γ-5型の手首とブレードから火花が大きく炸裂し、沈黙する。


 同時に兵士の体も崩れ落ち、地面へ倒れた。宝石のような結晶が、体のあちこちに析出している。



 息は、していなかった。


「ブレード損傷。指関節部の神経接続LTが切断。修復を開始」


 γ-5型は動作不良を起こしている右手を下ろし、足元の白いブレードを左手で取ると、






 ――――再び、右手に持ち直した。




「修復完了。戦闘行動を続行する」


「……」


 足元で倒れている兵士から、メアは目を離せない。γ-5型がブレードを再び構えていることに気付いているが、顔を上げる気力すら残っていない。


 メアはゆっくりと目を閉じた。







「γ-5型だな」


 ふと、声がした。


「……」


 また、代わりに死んでいく者が現れたのか。

 そう絶望しながら、メアは背後に顔を向けた。


「あなたは?」


 γ-5型が声の主に問いかける。


 ()()()()()()を持つその声の主は、少し考える素振りをしてから、答えた。




「レヴェル。貴機にはそう名乗ろう」



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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです…! 「貴機にはそう名乗ろう」かっこいい…。 レヴェル、かつては命令なしに動けない「機械頭」だなんだとラインに言われてましたね。
[一言] 決戦兵器同士の決戦キター そういえば最近出番なかったね、レヴェル君
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