力
「あなたの名前は?」
歩いてる途中でそう尋ねられる。
「新荒健斗です。」
「そう。私は鶴池美奈子。よろしくね。」
日本人のような名前だと思った。でも明らかにおかしいのだ。日本にはこんな広大な草原などないはずだ。そもそもとしてこんな草むらを音なくして歩けるはずがない。
「あの…鶴池…さん。この世界は…この国はなんていうんですか?」
「国…ね。名をあえて言うなればイズベニア、かしら。最初に言っておくけどこの世界にいる人は人間であって人間ではない。みんなそれぞれ何かしらの力を持っていて、それを古より使いこなしている。不死身なものも多くないし、弱肉強食の世の中である。そんな中、あなたのような転生者は言わば貴重な存在。曰く、転生者は大きな力を持っている。…まあここからは私は口にしてはいけないと誓った。あの子のところに行くまでは私語を慎んでくれると助かる。」
彼女が紡いだ言葉はまるで漫画の世界のようなことで、でもその言葉が確かであると感じてしまう。
「大きな力…ね。」
自分では感じ取れなかった。
自分にはそんな大きな力があるという実感がないのだ。
だからこそ、弱肉強食という言葉が耳に残って仕方がない。
そんなことを考えだからヒシヒシと恐怖が背筋を凍らし続けるのだった。