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神亀文房具店  作者: otocinclus
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大事なものと引き換えに

 今日の朝ごはんは卵かけごはんだ。手軽でおいしい。俺は忙しい両親のために、自分で朝ごはんを作っている。


そのことについては、両親も申し訳なさそうにしているが、俺は自分が好きなものを朝から食べられるから何の不満もない。


6時半になったら、父さんは家を出て学校に行く。今日は組体操の練習があって、準備に忙しいらしい。母さんはというと、父さんと同じく学校での授業の準備や掲示物の貼り替えなどを朝に済ませたいらしく7時になったら家を出る。


よくわからないし、そうはみえないけど先生って仕事は実は大変らしい。朝ごはんを済ませたら、前日にやった宿題と今日の授業で使う教科書やノートをランドセルに入れて準備した。班長に文句を言われないように、登校班の集合場所に出発時刻の5分前にはつくように家を出た。学校につき、いつもの5年2組の教室に入ると


(じん)!おはよう!」


と声をかけられた。寛太はいつも元気だ。


「放課後はいつもの場所に集合な!」


「わかった。」


 嬉しいが気持ちは言葉に乗らず、あっさりしてしまう。とりあえず、朝マラソンを走ったあとに教室で飼っている虫のえさを調達してこようとすぐに体育着に着替えて外に出た。今日もいつもと変わらない一日が始まる。

 

 学校が終わって家に向かっている途中、何だか強い寒気がしてきた。背中に氷でも入ったみたいな感じだ。風邪でも引いたかなと思っているとふと目についた古びたお店があった。


「あれ?こんなお店あったかな。」


いつも歩いて通り商店街だが、このお店は全く知らなかった。不思議に思ったが、まぁそんなこともあるだろうと特に気にも留めず、家に向かった。


 家についてランドセルを片づけると、寛太といつも練習しているバスケットコートに向かった。寛太とは同じミニバスで、スタメンとして一緒に頑張っている。


中学校に行ったらお互い選抜選手に選ばれて、もっと活躍しようと約束していた。気づいたら黙々とシュート練習やドリブル練習に打ち込んでいた。


1時間くらい練習をして、疲れた体に水筒に入れた冷たい麦茶を流し込んでいると寛太が何やら嬉しそうな顔をして話し始めた。寛太は興奮しているとき、いつも小鼻が少し膨らむ。


「お前知ってるか。この商店街に、おもしろい店があるんだってよ。その店長が変わっている人らしくて、しかもすごいきれいらしいんだよ。」


「ふうん。それは知らなかったな。おもしろそうだから行ってみるか。お前、場所知ってるの?」


「それがさ、知らないんだよ。噂だけはよく聞くんだけどなあ。」


「とりあえず、おもしろそうだから探してみるか。」


「よし、決まり!さっそく商店街をぶらぶらしにいこうぜ!」


 商店街について20分ぐらいぶらぶらしただろうか。足も少し疲れてきた。ふと、また寒気がしてきた。何となく目についたお店があった。


それは学校帰りに見つけたあの古びたお店だった。気になったのでよく見てみると看板には「神亀(じんき)文房具」と書いてあった。ブラインドが下がっていて、中は見えない。何か嫌な予感がしたが、


「あれかな。寛太、お前この店知ってたか?」


「いや、初めて見るな。前にここは通ったことがあるけど気が付かなかったわ。」


「とりあえず入ってみるか。」


 チリンチリン。店に入ると今まで見たこともないような、とてつもなくきれいな人がお店の中を掃除していた。母さんと同じ40歳ぐらいだろうか。首から「神亀玲子」と書かれたネームプレートをぶら下げている。


「いらっしゃい。めずらしいお客さんね。」


「?」


「ああ。失礼しました。ここはね、なかなかたどり着けないお店なのよ。」


 言っていることがよく分からないが、お店の中に俺たち以外は誰もいない。繁盛していないというふうに理解しておこう。それにしても、きれいな店長とその店長の不思議な言動からも、どうやら俺たちが探していたお店はここらしい。店長は再び、お店の中を掃除し始めた。俺たちはお店の中の商品を見始めた。すると、


「記憶消しゴム ~あなたの嫌な過去をキレイに消します。消しすぎると、生きた人形になってしまうのでご注意ください~」


「縁切りはさみ ~嫌いな人と、きれいさっぱり縁が切れます。切れ味が鋭いため、良縁を切らないようにご注意ください~」


「絆のり ~壊れた友情を修復します。ただしもう一回壊れると二度とくっつきません。それに加えどちらかが、必ず命を落とすでしょう。ご注意ください。~」


 どうやら、やばいお店に来てしまったらしい。ぼったくりのお店か。値段も書いていないし、良くわからないことが多すぎる。入って3分しか経っていないが、危険な香りがしたので寛太と目配せをして、店を出ることにした。チリンチリン。


 「あら。もう行ってしまったの。まぁ、またすぐに会えるわ。」


店長は掃除を終えて、一休みすることにした。夕焼けで空が真っ赤に染まっている。仁と寛太は家に向かって歩いていた。


 「なんか変な店だったな。商品もよく分からないものがあったし。」


 「店長の人はみたこともないぐらい美人だったけどな。おまえよくあのお店を見つけたな。」


 「なんとなく気になって。」


 「あのお店怪しすぎるぜ。記憶消しゴムは欲しかったけど、絶対にあんなのウソだよな。」


 「確かに。いまいち信じられないし、値段も書いてないからな。」


 「まぁ、でも暇つぶしにはもってこいのお店かもしれない。また今度行ってみるか。」


  2人は途中で分かれた。


 「また明日!」

 

 次の日の朝、寛太はいつも通り、朝ごはんを準備する。今日はパンを焼いて、マヨネーズとケチャップを大量にかけるだけのお手軽なメニューだ。


今日は少しはやく起きたので、ヨーグルトと牛乳も準備した。我ながら豪華すぎる、満足いく朝ごはんだ。父さんは、今日は学校で卒業アルバムの集合写真を撮るらしく、入念に鏡を見ながら身だしなみを整えている。


母さんはというと、今日は朝から、宿題やノートの丸つけが溜まっているそうで、それを消化しに父さんよりも早くに家を出た。いつも忙しくて俺にかまってくれない分、父さんは休日はいろいろなところに連れて行ってくれたり、母さんは定時で必ず帰ってきて平日は豪華な夕飯を作ってくれたりする。前にも言ったが、朝ごはんについては特に不満はない。


自分の支度を済ませていつも通り、家を出た。そして学校につき、教室に入ると何だかみんなが騒いでいる。どうしたというのか。担任の和銅先生が俺に話しかけてきた。


 「おお、白雉か。ちょうどいいところにきた。なんか教室でみんなが騒いでいてな。事情をきいてみたら、どうやら教室のランドセルの中に入れておいた天平の給食費がなくなっていたらしんだ。私も困っていてな…。お前、何か知らないか?」


「何も知りません。朝はいつも通り、着替えてすぐに朝マラソンに行ってしまったので。」


「そっか。そうだよな。すまんな白雉。」


「いえ。お力になれず、ずみません。」


 その日、クラスのみんなで探したが、一向に見つからなかった。そして気づいたら下校時刻となっていた。寛太と一緒に一緒に帰っていると、おもむろに寛太が口を開いた。


「誰か、盗んだんじゃねえかな。仁は本当に何も知らないのかよ?」


「ああ。何も白知らないよ。すぐに外に走りに行ったからな。そういう寛太はどうなんだよ。」


「おれは今日寝坊しちまってさ、教室を最後に出たんだけどよ。特に変なことはなかったぜ。教室から誰もいなくなるのは朝の時間ぐらいだからさ、俺が見てなければうちのクラスのやつらは全員やってないともいえるかもな。」


「確かに。よくわからないな…。そういやさ、この前行った変な文房具屋があっただろ?あそこにあった文房具は色々な効果があっただろ? ダメもとでもう一回あの店に行ってみないか?」


「お! いいなそれ! またあの美人店長にも会いたいし。いい給食費事件を解決するような文房具が見つかるかもしれないしな。」


「よし! 決まりだ。家に帰ってから、あの商店街の入り口に集合な。」


 そして二人は別れ、家に帰った。家についたら、持っている鍵で玄関を開けた。中は真っ暗だ。ランドセルだけ片づけて、いつも遊びに持っていくバッグだけをとってすぐに外に出た。


 集合場所についた。もう10分ほど待っているが寛太はなかなか来ない。すると、キッズ携帯が鳴った。寛太からだ。


「弟が熱を出していけなくなった。ごめんな。」


 まぁ、世の中いろいろ家庭の事情ってのはあるもんだ。寛太は4人兄弟の一番上だから、俺とは違って忙しいのだろう。気を取り直して、文房具店へ向かった。不思議と毎回場所が覚えられないのだが、店に近づくとする寒気は覚えている。15分ぐらいぶらぶら探していると、急に寒気がしてきた。あの文房具のお店だ。


「この寒気はよくわからんな。体の拒否反応か?」頭の中で独り言をいいながら、ドアを開けてお店に入った。チリンチリン。入るとネームプレートをぶら下げた傾国の店長が立っている。


「いらっしゃい。…ああ。この前の男の子ね。今日はお連れさんはいらっしゃらないのね。ごゆっくりご覧ください。」


 素敵なほほ笑みを浮かべて、前と同じように店内の掃除を始めた。仁は店内をうろつき、今回の事件を解決するようなものはないか探した。すると、「過去修正テープ ~不幸な出来事を、不幸中の幸いにできます。※不幸は決して幸せには変わりません。~」と書かれたものを見つけた。


何だか気持ちが悪い。ただ、その文房具の名前に惹かれた。過去を直せるってところに。ダメはもともとできたお店だ。これにしようと決めたが、値段が書いていない。もう一度商品紹介のポップをみていると、だんだんと数字が見えてきた。


「1Y3M」と書かれている。普通だったら値段が書いてある場所にあるのだから、きっとこれが支払いに使われるのだろう。よくわからないので店長に聞いてみることにした。


「すみません。この修正テープが欲しいんですけど、値段はいくらなんでしょうか。」


「あら! お目が高いのね、これは仕入れるのになかなか苦労したのよ。うちのお店は、すべてお支払いは時間なの。」


「時間? よくわからないんですけど。」


「そうよね。時間で支払うということは、あなたの時間を私にちょうだいってことよ。」


「?」


「この商品は、1Y3Mと書かれているわよね。これは1年と3か月という意味よ。あなたの生きる時間がお支払いによって1年と3か月短くなるってこと。」


 仁はこの人はふざけているのだと思った。とりあえず、ダメもとで来ているわけだし、この人のおままごとに付き合ってあげよう。


「わかりました。お支払いはどのようにすればいいのですか。」


「支払いはこのツボの中に手を入れるだけよ。」


奇妙なツボが目の前に差し出された。暗くて底が見えない。不気味な顔が描かれている。どうせ嘘だろうと思いながら、ツボの中に手を突っ込んでみた。すると、あのお店に近づくとしてくる寒気が突然襲ってきた。頭から氷水を浴びせられたような感じだ。その時、ツボの顔も少し笑ったように見えた。


「お支払いは終わり。どうぞ、上手に使ってね。使えるのは一回だけよ。」


店長はウインクをして、修正テープを渡してきた。そして、また、店内の掃除へと戻った。仁は寒気以外は特に体の不調もないため、気にもせずに店を出て家へと帰っていった。


次の日の朝、学校につくと、早速修正テープを使おうと付属の説明書を見た。きれいな字で手書きで書かれている。


①起こった事実を和紙に書きます。

②変えたい事実を修正テープで消します。

③新しい事実を修正テープの上から書いてください。


その通りにしようと家から持ってきた和紙を取り出した。そこに「天平の給食費がなくなった。」と書いた。そして、修正テープでなくなったという部分を消し、上から「天平の給食費が見つかった。」と書いた。


すると目の前が一瞬真っ暗になった。2秒後にまた明るくなったと思ったら、少し頭痛がする。目の前の和紙はどこかに消えていた。


天平が教室に入ってくると、なんだか嬉しそうな顔をしている。


「みんな! 給食費が見つかったの! みんな心配かけてごめんね。」


一件落着と思いきや、天平から話を聞いてみると腑に落ちない点がたくさんあることが分かった。まず、給食費は天平のランドセルの中に入っていた。


なくなった日に、ランドセルも含めてあれだけ探したというのに。天平の自作自演も考えられるが、長い付き合いなので、それはないだろうとその考えは捨てた。次に、中には給食費が全額入っていなかった。4300円だったのだが、4270円しかなかったそうだ。


しかも、入っていた千円札4枚は、なぜかすべて硬貨に変わっていた。犯人の目的や意図も分からず、なんとも気持ちが悪い幕引きである。しかし、見つかっただけでも不幸中の幸いとしておこう。


 仁は寛太に修正テープや支払いの話をした。


「なんか、修正テープの効果があったかどうかわかんないな。支払いもホントかウソかわかんないし。でも、給食費は無事にみつかったからよしとしようぜ。」


「そうだな。店長にも今度報告しに行くか。」


「そのときはまた一緒に行こうな。」


仁はふとした瞬間に目の端にあのツボが見えたの。びっくりしてもう一回見てみると、ツボはなかった。なんだかツボが笑っているように見えた気がした。

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