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第9話 抗不安薬


 午前中、あまり効かない痛み止めを多めに飲んで、病院に行くことが出来た。


 タクシーを使ったのだが、貧乏人には痛手だ。

 

 診察の結果、骨に異常は見られない、とのことで痛風が確定した。


 痛み止めの効きが悪いことを訴えると、ボルタレンのカプセルになった。


 そして、ついに尿酸値を下げる薬“フェブリク”も処方された。


 帰宅して、フェブリクについてきた注意書きを読むと、飲み始めに痛風発作が起こることがあるらしい。


 尿酸の濃度が急激に下がった場合に起こるらしい。

 

 少しづつ良くなってきているのに、イヤだな、と思ったが、飲まなければ尿酸値が下がらないまま、また痛風発作が起こるだろうし、それはもっとイヤだったので飲んだ。


 ボルタレンも飲んだ。

 しばらくすると、尿酸値はどうかわからないが、痛みは大分ラクになってきた。


 痛風発作の時から、敷布団に腹這って生活するのに慣れてしまったのだが、横になっていると、ついつい眠ってしまうことがよくある。


 22時くらいに眠った時に、しんどい夢を見た。


 私の人生の総決算のような夢だった。


 総決算といっても、人生のうまくいった部分が巧妙にカットされている非常に重苦しい夢で、あまりの悔しさに涙を流して目が覚めた。


 夢で泣いたのか? と、瞼に触れてみると濡れていたので、実際に涙を流したようだった。


 24時になっていた。


 夢のあとの荒涼とした気分がどうにもやりきれない。


 私だけ重力が2倍になったかのように、気持ちが重い。


 ココロにスキマが出来てしまっている。


 酒が飲めたらな、と思った。


 醒めているとどうにもならない気持ちもある。


 これは精神安定剤ではどうにもならない。


 1回気持ちを高揚させるというか、発火させねばならない。


 1度気持ちを高く(そんなに高くなくてもいいのだが)上げれたら、その高さから着地点も見えるし、そっちに向かって着地することも出来るようになる。


 ハードランディングになろうと、着地点に近づくのはたしかだ。


 それには酒が適している。というか簡単だ。


 ようは、低地でくすぶっている状態の気持ちを、酒を飲んで軽く押し上げてやれば良いのだ。


 低地では見えなかった景色が見える。


 色々な可能性が見えてくる。


 日中体を動かしておくと気持ちよく寝れるように、気持ちも少しは発火させてやったほうが、すっきりと灰になれるのかもしれない。


 酒でやると不完全燃焼を起こす可能性はあるが。


 精神安定剤の話も少し記しておこう。


 私が服用していた、デパスやレキソタンなどの精神安定剤は、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる系統の薬で、よい効き目を発揮するのだが、依存性があるようだ。


 たしかに、飲んでいて陶酔感を感じることは多々あった。まったりとした気分になるのだ。


 その気分を味わうために飲んだりしていたのだから、私もしっかりと依存していた。


 そんなこともあってか、私の主治医(何回か変わっているのだが)はある時期から、これを出すことを渋るようになった。


 長く飲み続けると痴呆になる危険性もあるらしい。


 やめる際には離脱症状があらわれることもある。

 私はある事情で急にやめたので、結構ひどい状態になった。


 しかし、私が初めて診察を受けた頃は、デパスやレキソタンなどはポンポン処方してくれた。


 それも、3か月分を一気に処方してくれた。


 遊びに使われるハルシオンやエリミンの処方には慎重だったようだが、それでも今よりはゆるかった。


 現在は発売中止になったエリミンは、細かく砕いて鼻からスニッフすると多幸感を味わえた。

 舐めると甘かったと思う。


 デパスやレキソタンのベンゾジアゼピンがにわかに良くないと言われても困った。


 依存していたのもあるが、ほかにちょうど良い感じに効く薬が無かったからだ。


 色々と批判はあるようだが、対人恐怖症にはベンゾジアゼピン系がドンピシャで効いた。


 効果が強すぎず弱すぎず、ほど良かった。


 で、離脱症状もツラかったが、1番こたえたのが、感情についての作用だった。


 ベンゾジアゼピンを服用すると、緊張や不安などは緩和される。


 と同時に、私だけかも知れないが、感情にも膜が張られたようになる。


 みずみずしい感情が感じられなくなってしまう。

 これは結構深刻なことだと思う。


 しかも、長い間服用していると、みずみずしい感情を感じないことにもマヒして、図太いというか、鈍感な人間になってしまうと思う。


 自分の感情が鈍磨しているので、相手を気づかえない人間になってしまうのだ。


 それ自体気にもとめないような鈍感な人間でそのまま暮らしていく分には仕方ないのだが(仕方なくないが)、薬をやめた時にみずみずしい感情が甦る。


 すると、今までの自分は何だったんだ、という自己嫌悪に襲われる。


 まれに、重い統合失調症の人が寛解すると、今までの自分と現在の状況を正視できなくなり、自殺してしまうことがあるらしい。


 今まで見ていた妄想が晴れると、現実は親族からも見捨てられた入院中の年老いた自分。俺|(私)の人生はなんだったんだ? となるらしい。


 残酷な話だ、と思う。


 私も、若い日のみずみずしい感情を失ったことは悔いても悔い切れない。

 読んでいただき、ありがとうございます!

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