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第1話 自殺初日

 私の自殺未遂体験から記そうか。(何を気取っとんねん!)

 

 金に余裕がない。


 100円200円にアクセクすることになるとは思わなかった。


 なんだ、10円20円じゃねえのかよ、と言う声が聞こえてきそうだが、暑い夏に自販機のジュースを買うのを躊躇する生活は充分貧民だろう。


 貧乏は心までも蝕んでくる。四六時中カネのことを考えている。


 それもあまり建設的な考えには至らない。


 食費を切り詰めてミニロトを買おう、とか、1円パチンコで2000円だけ勝負しようか、とか。自分のことながら情けない。


 情けないが、兎にも角にも食わないと生きていけない。

 

 別に食わないで死んじまってもいいのだが、空腹というやつは強烈で耐えられない。


 というのは、死ぬ覚悟が定まってないからだ。


 実を言うと、今はもう少し生きたい。


 もう1度人生の(自分にとっての)快楽を味わってから死にたい。


 私は6年前に首を吊った。


 今この文章を書いているということは未遂で終わったのだが。


 自宅の玄関部分が吹き抜けになっていた。好都合だった。


 踊り場に置いてある、小学校に入学した時にお祖父さんに買って貰った学習机は重量もあり、重しとしては充分だと思った。


 ロープはホームセンターで太いものを10メートルかそこらオーダーして切って貰った。


 2階の学習机にロープを結び、飛ぶ。私の計画は単純ながら自死には充分だと思った。


 自殺しようと決意し、首吊りを選んだのは苦痛が少ないという情報を完全自殺マニュアルほか、ネットなどで得たからだった。


 人生の一大事なのに決め方が安易だった。でもしょうがない。自殺する時の詳細なデータも少ない。


 薬物を注射する安楽死のような方法は個人では現実的ではない。


 地方なので電車も頻繁に走っているわけでもない。


 飛び降りる高いビルもない。


 現代の睡眠薬は致死量まで処方されることはない。


 ネットなどで入手しても、致死量まで飲む前に胃がパンパンになってしまうだろう。


 それくらい現代の睡眠薬は安全だ。


 それでも飲めば、命より先に腎臓をやられて、人工透析のツライ生活が待っている。


 ツライのがイヤだから自殺するのに、それでは本末転倒だ。


 手首を切って水に浸す? 刃物は痛いから論外だ。


 水死? 苦しいに決まってる。


 練炭? 風呂場にこもって酒でも飲んで待てば逝けるだろうが、風呂場の薄いドアを再び開けない自信がない。


 ようは、1回実行したら、死までの時間が出来るだけ短く、強制的に進む方法がいいということだ。


 それに自殺は誰もが初心者なのだから、上手く出来なくてもやむをえないだろう。


 死ぬ前に母親に電話した。


 だが、彼女は私の自分勝手さに激高し、通話を切った。


 この時点で私と家族の関係は不可逆的に悪くなっていた。


 よく死ぬ前の決意とか言うが、自殺を決行してしまう人は、なし崩し的な気持ちで死んでいくのだろうと思う。


 現実感はあるのだが、その感じを上手くつかめない、みたいな。自分はそうだった。


 だいたい自殺しようと考えること自体が正気ではない。


 でも、私はこの日の1年前から死を検討し始め、毎日毎日死ぬ決意を練り固めた。


 出来るだけ苦痛の少ない方法を探して自殺しようとする根性無し? だから長い月日が必要だった。


 何事も準備をしないと上手くいかないことが多い。


 心の準備が必要だった。


 母親との会話が決裂した。


 人生のすべてをやり尽くしたわけじゃないが、自分が打てる手は打ったと思う。


 後はロープの輪を首にかけ、吹き抜けの手すりをまたいで飛ぶだけだ。


 1年間の心の積み重ねが効いたのか、躊躇することなく、缶ビールを一口飲んで、索漠とした気持ちで飛んだ。

 

 衝撃があって、脚に激痛。


 玄関に叩きつけられていた。


 立ち上がれないので匍匐前進みたいに這った。


 激痛で動かずにはいられなかった。動いても意味はないのだが。


 耐えられないので、這ったまま玄関から階段を登り、2階に残した携帯を取りに行った。


 119番にコールした。


「119番です。火事ですか、救急ですか?」


「救急です」


「どうしました?」


「あの、自殺しようとしたら失敗しちゃって2階から落ちちゃって」


 みたいなことを話したと思う。


 電話が終わってから救急隊員のことを考えて、自分が運びやすいようにまた這って階段を降りた。


 玄関の自分が落ちた場所にはだらしなくロープの輪っかがぶら下がっていた。


 他人にこれを見られるのは恥ずかしい。


 しかし、脳内のアドレナリンが切れたのか、また2階に登り、ロープを処理することは激痛のためムリだと思った。

 

 さっきまでは火事場の馬鹿力だったようだ。


 玄関の鍵を開けておくのが限界だった。


 結果から先に書くと、両足を骨折していた。


 私はただコンクリートの玄関に膝から飛んだだけだった。


 私が入院している間に、両親がロープを処理してしまったので、ロープがほどけた原因はわからなかった。

どうもはじめまして、夜男(よるお)です。


この話は今の私の気持ちを記したり、寄り道したりして書いていこうと思っています。


ギリギリまで偽りなき気持ちを記しますので、どうか最後までお付き合いください。


最後になりましたが、読んでいただき、本当にありがとうございます。

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