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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第6章 ひきこもり、帝国へ行く

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77話・緊急会議と王女の決意

ラトス誘拐1日目

 ラトスを助ける為、僕は犯人の要求通りに帝都に行く事を決めた。しかし、僕の一存で全てを決められる訳もなく、すぐに場所を移して会議を開き、そこで審議する事となった。


 マイラはアドミラ王女の私室で休ませて貰っている。弟のラトスが目の前で誘拐され、精神的にショックを受けているからだ。茫然自失状態になったシェーラ王女も、侍女さん達に連れられていった。


 会議に参加しているのは、王様とヒメロス王子、各長官達、王国軍師団長三人、オルニスさん、エーデルハイト家の騎士、それと僕。アーニャさんが不在の為、司法部からは副長官が出席した。


 僕は何故か王様の隣の席に座らされた。重臣達から注目が集まって居心地が悪いけど、ラトスを助ける為の会議だから黙って耐える。



「犯人側からの要求に帝国侵攻の中止がありました。既に早馬を出しております。軍務長官達が王都を出てからまだ日が浅いので、十分間に合うでしょう」



 早馬から事情を聞いたら、エニアさんは爆発しそうだな。ラトスの命が掛かってるから、怒りに任せて帝国に突っ込んだりはしないだろうけど。


 次に、捜査状況の説明。


 第一師団長が街道の検問や捜索体制を掻い摘んで報告した。初動が早かったにも関わらず、まだ怪しい人物は見つかっていない。



「包囲網は完成されております。案外、王都から出るに出られず、近くに潜伏しておるのかもしれませんな」


「おお、それならば捕縛も容易いのではないか」


「いや、オルニス殿の御子息が人質となっております。発見したとしても下手な手出しは出来ませんぞ。追い詰めればどうなるか……」



 ちらりと、王様を挟んで向こう側に立つオルニスさんを見た。普段と変わらない表情に見えるが、顔色が良くない。未だラトスの安否が分からないからだろう。



「犯人がまだ王都から出ておらんのは確実だ。隈無く捜索し、速やかに発見するのだ!」


「しかし、犯人も愚かですな。帝都での人質交換を申し出ておきながら、王都から出られず困っておるのではないか?」


「その通りだ。じきに根をあげて投降してくるやもしれんぞ」



 各長官達が場を和ます為か、はたまた本気で思っているのか、やや楽観的な発言を繰り返していた。


 その時、会議室に王国軍の兵士が飛び込んできた。ノックもなしに扉を開け、会議室の中央まで勢いのままに転がり込む。



「しっ失礼致します! 先程、王都の端にある森から鷲型の魔獣が飛び立ちました! かなりの大型魔獣で、背に何人か乗せていたと目撃した兵士が証言しております!」


「なんだと!?」



 兵士の報告に、会議室にどよめきが起こった。


 十中八九、ラトスを誘拐した犯人達だ。王国軍の包囲網は陸路だけに展開されている。空を飛ばれては追いようがない。



「馬で後を追っておりますが、とうに陽も落ちております。見失う可能性も……」



 徐々に言葉を濁らせる兵士。


 エーデルハイト家の馬車が襲われ、ラトスが攫われたのが今日の夕方。恐らく犯人は、辺りが暗くなるまで潜伏し、予め森に隠しておいた魔獣に乗って逃げたのだろう。闇夜に紛れ、追っ手に見つからないように。


 もし、エニアさんやアーニャさんが居たら、相手が空を飛んでいても魔法で何とか出来たかもしれない。でも、二人は今、クワドラッド州に出掛けている。この二人が居ない時にラトスを誘拐したのも、犯人の計画の内だ。



「……魔獣はどちらに飛んでいった?」



 王様が尋ねると、兵士は前に進み出て、テーブルに拡げられている地図を見た。まず、王都の端にある森、そして鷲型の魔獣が飛び立った方向へと指を滑らせる。



「ここから南東に向かって飛ぶのを見ました。やや東寄りで、ファレナン州とクワドラッド州の境界方面だと思われます」


「ふむ。真っ直ぐ南に行く訳ではないのだな」


「王都からそのまま南下致しますと、街道を移動中の第四師団に発見されるからでしょう。敢えて避けているのではないかと」



 東寄りではあるが、南に向かっているのは確かだ。サウロ王国の南にはユスタフ帝国がある。それに、異世界人()人質(ラトス)の身柄交換に指定された場所は、ユスタフ帝国の帝都だ。


 包囲網が破られた今、ラトスを助ける為に、期日内に僕を帝都まで連れて行かなくてはならなくなった。


 僕はとっくに覚悟を決めているんだけど、誰がどうやって連れて行くか、人選や方法が決まらない。


 普通で考えれば、王国軍の師団長が三人も残っているのだから、二人は王都の護りに残し、後の一人が連れて行けば良い。だが、犯人側はそれを許さなかった。ラトスを攫う際に、キッチリ条件を付けていったのだ。



「異世界人を帝都まで護送してくる役目に、兵士や騎士といった戦闘要員を付けてはならないと指示されました。……守らねば、ラトス様の命は保証しない、と」



 エーデルハイト家の騎士が、そう言って下唇を噛み締めた。目の前で主家の跡継ぎが攫われたのだから無理もない。しかも、汚名を返上したくても、騎士であるから救助に向かう事すら出来ない。


 犯人側の要求内容に対し、再び会議室にどよめきが起きた。


 これも、勇猛な王国軍兵士を恐れての事だろう。以前の魔獣大量発生時、王国軍の兵士は大規模遠征で魔獣を狩りまくった実績がある。国内の騎士隊も、その際に随分鍛えられた。十分な脅威だ。



「馬鹿な! 帝国領内には魔獣が大量に跋扈しとるかもしれんのだぞ! そんな場所に、兵士や騎士抜きで行けと?」


「まず、無事に帝都に着けるかどうか──」



 サウロ王国内はまだ良い。問題は、国境を越えて帝国領に入ってからだ。


 僕自身には戦う力はない。護衛に兵士や騎士が付けられないとなると非常に困る。



「私が参ります。私は文官ですので、相手の条件には沿うでしょう」



 オルニスさんの発言に、王様が待ったを掛けた。



「落ち着けオルニス。自ら息子を助けに行きたい気持ちは分かるが、お前まで居なくなっては困る」


「居なくなりはしません。暫く留守にするだけです。それとも何ですか。私が居ないと政務が滞るとでも? 陛下はお一人では何も出来ないと仰るのですか?」


「え? あ、いや……」



 引き留めようとする王様に、真顔で整然と反論するオルニスさん。これは誰に何を言われたとしても絶対行く気だろう。王都で大人しく待っている性格ではない。



「オルニス殿、帝国は危険ですぞ?」


「承知しております。多少の心得はありますので、帝都に行くだけならば問題はありません」



 ラトスの父親であり、相手の要求した条件に適うオルニスさんが行きたがるのは当然だ。会議に参加している重臣達にも妻子がいる。オルニスさんの気持ちを理解したようで、それ以上引き留める者はいなかった。


 オルニスさんは強い、と間者さんに聞いた事がある。だから僕は心配はしていない。


 問題はここからだ。


 なにしろ、期日は十日しかない。王都からノルトンまで馬車で三日、そこから国境まで一日は掛かる。


 国境を越えて帝国領に入った後は、魔獣が待ち構えている可能性が高い。兵士や騎士の同行が許されていない以上、すんなりと帝都に入れるとは考えにくい。


 重臣達が同行させる者の人選を相談している時、隣に座る王様から声を掛けられた。



「ヤモリよ。本当に良いのか」


「もちろんです」


「……余は、出来る事ならば其方を危険な目に遭わせたくはないのだが」



 王様は、過去に美久ちゃんを失意のまま死なせてしまった事をまだ悔やんでいる。同じ異世界人である僕には、そんな思いをさせたくないのだろう。


 だが、オルニスさんは王様の大事な右腕だ。その愛息子であるラトスの救助は、最も優先されるべき事案だ。余所者の僕を守る為に犠牲にしてはいけない。



「大丈夫ですよ。僕は無理やり行かされるんじゃなくて、自分から行くんですから」



 笑ってみせると、王様は少し悲しそうな顔をした。すぐに表情を戻し、重臣達に向き直る。



「よし、人選を急ぐぞ! 国境までは王国軍で護送する。帝国領に入るのは、武装無しで戦える者に限られるが……」


「屈強な兵士を軽装でお供させては?」


「剣も盾も無しで、魔獣と戦える者が居るか? どんなに鍛えておっても限界があるじゃろう」


「いや待て。例え軽装だろうと兵士や騎士を出せば、向こうの条件を破った事になる。それでは人質が危うかろう」


「では、司法部から魔法使いを出しますか」


「現地でアーニャ長官に同行を願ってはどうか」



 思い付くままに意見が交わされる。


 アーニャさんが一緒に来てくれたら心強い。幻覚魔法の使い手だから、上手くいけば魔獣を惑わし、戦わずに帝都まで行けるかもしれない。


 様々な案が飛び交う中、突然会議室の扉が開かれた。全員が視線を入り口に向けると、そこには仁王立ちするシェーラ王女がいた。


 先程までとは違い、迷いのない目をしている。そして、重臣達の注目の中、高らかに宣言した。



「私がラトスさまをお助けに参ります!」



 シェーラ王女の発言に、会議室内が騒然となった。


 重臣達が驚くのも無理はない。シェーラ王女はまだ十一歳の少女。王族であり、か弱い女の子という、最も危険な場所に連れて行きたくない人物だ。



「し、シェーラ。お前まで何を言うのだ。それはならんぞ」



 流石に王様も動揺を隠せないようだ。しかし、そんな父親に構いもせず、シェーラ王女はずんずんと会議室の中央に進み出た。



「私、これでも魔法学で学年二位の成績ですの。魔力量だけなら貴族学院でも三本の指に入りますわ。それに、帝国側も私相手なら油断するでしょう」



 学年一位は、確かラトスだ。もしや、わざと一位の座を譲ったんじゃないだろうな。



「殿下! これは学院の試験ではありません。御身に何かあれば、それこそ一大事ですぞ!」


「護衛も付けられぬような場所に、殿下を行かせる訳には参りません!」



 各長官や師団長達から反対の声が上がった。大事に護られているべき存在が、自ら危険地域に行こうとしているのだ。家臣なら止めるのは当然だ。



「黙りなさい。私にとって、ラトス様の命より大事なものはありません。この件で私に命令する事は、例えお父様でも赦しません」



 普段は優秀なヒメロス王子と活発なアドミラ王女の陰に隠れ、大人しく目立たない存在だったシェーラ王女。彼女が人前で強い口調で話すのは、今日が初めてではないだろうか。


 悪く言えば、周りの大人はみんなシェーラ王女を侮っていた。それが一瞬で畏敬に変わる。王族特有の威厳に満ちた空気を、シェーラ王女も纏っていたからだ。



「……確かに、殿下には魔法の才がございます。相手の油断を誘えるでしょうな」



 肯定の言葉を掛けたのは、司法部の副長官である老紳士だ。貴族学院で、実際に魔法学の教鞭を取る事もあるのだろう。シェーラ王女の実力を正しく把握しているようだ。



「殿下は自主的に学ばれ、魔法学の授業で教えていない魔法も使えます。魔力が枯渇しない限り、ご自分の身は守れましょう」


「そ、そうか……」



 副長官にそこまで言われ、王様は納得せざるを得なくなった。王様が反対しない以上、他の人達も何も言えなくなる。



「これで決まりですね。さあ、早く帝国へ参りましょう!」



 今にも出発しそうなシェーラ王女を全員で引き止める為に、会議は一時中断となった。


いつも閲覧ありがとうございます。




***


時間経過が分かりやすいように、前書きにて


「ラトス誘拐○日目」の表示を追加しました。


事件が起こった当日も数えますので、


誘拐当日は1日目となります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかのっぴきならない状況になってきて…こういうの本当に大好きです。 [一言] 取り返しのつかない事態になってほしい
[良い点] 誘拐○日目 ←分かりやすい。
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