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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第4章 ひきこもり、王族に会う

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閑話・アドミラ王女のひとりごと

 ここはサウロ王国の王宮。


 王都の中央に聳え立つ白亜の城。


 その王宮の中庭に面した部屋で、お茶と会話を楽しむのが私達の休日の午後の過ごし方。



「本日のお茶菓子はクルミ入りの焼き菓子と果物の砂糖漬け、季節の果物の盛り合わせにございます。まずはどれをお取り致しましょうか、アドミラ様?」


「そうね、砂糖漬けを頂くわ」



 テーブル中央に並べられたお菓子の中から、指定したものを侍女が取り分けてくれた。シェーラは焼き菓子を選び、お兄様は果物の盛り合わせを選んでいる。



「ありがとう。下がっていいわよ」


「はい。御用の際はお呼び下さいませ」



 さて、侍女は控えの間に下がらせたし、ちょっとだけ楽な姿勢を取りましょう。使用人が側に居ると、どうしても肩に力が入ってしまうのよね。生まれた時からそうだったから慣れてはいるけど、決して疲れない訳ではない。


 尤も、お兄様は完全に自然体で『王子様』を演じているのだけど。



「お兄様、最近ご機嫌ですわね」



 私が声を掛ければ、お兄様はすぐに手元から視線を上げ、にこやかに微笑み返してくれた。


 ふわりとした金髪と淡い翠の瞳。同じ配色なのに、何故だか私より気品に満ち溢れている気がする。


 そんなお兄様は、近頃とても機嫌がいい。元々笑顔を絶やさない人ではあるけれど、愛想笑いや作り笑い等ではない、心からの笑みを浮かべている。


 あの日、三人で一緒にエーデルハイト家に行って以来ずっとだもの。


 原因は分かっているわ。あの異世界人よ。



「こんなに心が躍るのは久々だよ」



 私の言葉に頷き、お兄様は微笑んだ。


 その手には紙束がある。書き記されているのは異世界の『物語』。昔噺と呼ばれる摩訶不思議な話を始め、異世界にはありとあらゆる様々な『作られた物語』が存在する。


 お兄様が異世界人ヤモリ・アケオに頼み、覚えている限り書き出して貰ったとか。


 少し見せて貰ったのだけど、荒唐無稽で意味が分からない話ばかりでびっくり。でも、物語の中には教訓が必ず含まれているらしくて、無意味なお話はひとつも無いんですって。


 異世界人の発想の豊かさに、お兄様は深く感銘を受けている様子。



「やはり異世界は素晴らしい。父上が執着なさる気持ちが分かった気がするよ」


「コレ、お父様にも見せてあげたら?」


「駄目。これは私がアケオ君から貰ったのだから」


「……お父様が聞いたら泣くわよ」



 お父様は、二十年前に保護した異世界人の少女の影響で、異世界に深く興味を持っている。私が生まれる前に亡くなってしまったから面識はないのだけど、肖像画は見たことがある。


 長い黒髪を左右に結った、痩せた少女。


 多分、今の私と同じ年頃に描かれた絵よね。その絵を時々眺めては、お父様は哀しそうな目をしているの。助けられなかった事を後悔しているみたい。


 だから『異世界人保護法』なんていう法律を作ったのよね。少しでも異世界人の助けになるようにって。


 異世界の研究を進めさせているのもお父様。


 ちなみに、お父様は謁見以来、異世界人には会えていない。大規模遠征後の復興事業で、たくさん会議をしたり、書類に目を通して判を押したり、国王を始め、長官達もみな忙しい。


 隙を見て逃げようとしても、オルニス文政官に捕まって、何日も執務室から出られてないとか。


 お兄様は、お父様の影響で異世界に興味を持ったのだけど、直接会ってから更に心惹かれたようね。


 彼の為に陰で動いてるのも知ってるわ。


 私から見るとパッとしない方だと思うのだけど。マイラも何故かあの人に懐いていたし、直接お話したら、何か違うのかしら。



「ねぇ、シェーラ。あなた異世界人のヤモリさんと何かお話した?」



 妹のシェーラに話を振る。


 私と違って真っ直ぐ伸びたサラサラな髪。大人しくて、お人形さんみたいに可愛らしい。



「いえ、ラトス様と課題をしておりましたので」


「あ、そうだったわね」



 あの時も、二人で黙々と課題に取り組んでいた。


 マイラの弟のラトス君と一緒に。



「ラトス様との貴重な時間、一秒たりとも他の事に使いたくありませんもの」



 うふふ、と可愛らしく笑うシェーラ。


 そう、妹はエーデルハイト辺境伯家の跡継ぎ、ラトス君が好きなのよね。王族相手に媚びへつらう貴族の子女が多い中、彼だけは他者と分け隔てなく接してくれたのが嬉しかったみたい。


 ラトス君は単にマイラ()にしか興味がないだけなんだけど、それが良いんだとか。私には全く理解出来ないわ。


 お兄様にもシェーラにも夢中になれるものがあって少し羨ましい。


 普段、貴族学院と王宮の往復だけで、滅多に遠出出来ないのもつまらない。近頃は特に魔獣や暗殺者騒ぎで護衛も増えたから、前にも増して自由な時間は減っている。


 シェーラのように、恋でもしたら変わるかしら?



「あーあ。私も恋がしてみたいわ」



 私の言葉に、お兄様とシェーラが目を丸くした。



「お姉様からそんな言葉が出るなんて」


「父上が聞いたら卒倒しそうだね」



 確かに、お父様に聞かれたら泣かれそう。


 晩餐会で貴族の子息から声を掛けられた私を見て、離れた場所から走って妨害しにきた事があった。友好国から婚約の打診があっても、私に確認すらせず即断ったり。国王の娘でありながら、未だに婚約者も決まっていないのよね。


 あら?


 私が恋愛出来ないのはお父様のせいでは?



「アドミラの相手がアケオ君なら父上も反対しないかもしれないね」


「は?」



 いけない。思わず素で聞き返してしまったわ。



「何故そこでヤモリさんが出てくるのよ」


「普通の貴族と結婚したら、アドミラが降嫁して王宮から出てってしまうだろう? 父上はそれが嫌なんだよ」



 確かに、降嫁したら王宮から出る事になる。相手が大貴族なら王都に屋敷があるから遠くはないのだけど、もし地方貴族や他国に嫁ぐとなったら、里帰り自体が難しい。



「その点、異世界人相手なら彼を王宮に住まわせれば良いだけだし、私も父上も異世界の話が聞けて楽しいし」


「……結局、お兄様達の都合じゃないの」



 そんな事で結婚相手が決まるなんて御免だわ。私はもっとこう、ときめきが欲しいの。お父様とお母様みたいな仲睦まじい夫婦になるのが夢なんだから。



「でも、まだアドミラには早いかな」



 ふ、と微笑むお兄様。


 ──これよ。


 美貌の兄に見慣れたせいで、同級生や護衛の騎士を見ても、何とも思わなくなってしまったのよ。お兄様を超えるような殿方なんていないし。


 異世界人のヤモリさんなんか、地味過ぎて顔もうろ覚えだから論外ね。


 恋の相手は、お兄様を超える方とでなきゃ!



「話は変わるが、卒業後は外交等の公務を引き受けてもらいたい。アドミラもそろそろ講義を受けようか」


「えっ、外交? 公務?」


「そう。外務部から講師を招いて学ぶ事になる」



 確か、お兄様もお父様の名代で何度か隣国に行った事がある。それを、私もやるの?


 学院の勉強とは別に、外交関係の勉強もしないといけないなんて。これではますます恋愛どころではないわ。



「一人で講義を受けてもつまらないだろう? 誰か信頼のおける友人も呼ぶといい。外遊時も一緒に行けば寂しくないよ」


「だ、誰でもいいの?」


「勿論。貴族学院の生徒ならね」


「それなら私、マイラと一緒が良いわ!」



 学院で一番仲が良いのはマイラだもの。他の子では駄目だわ。


 私の言葉に、お兄様は目を細めて微笑んだ。



「では、マイラ嬢で決まりだね」



 ……なんだか、策にハマったような気がする。


 早まったかしら。でも、一人で講義を受けるのも、一人で外交に行くのも嫌なんだもの。



「マイラ嬢が王宮に出入りするようになれば、弟のラトス君もついてきそうだね」


「その話、詳しく聞きたいですわね!!」



 この発言にシェーラが食い付いた。さっきまで眠そうにしていたのに、ラトス君の名前が出た途端、立ち上がって身を乗り出している。


 恋する乙女の反応早い。



「では、エーデルハイト家にその旨伝えておこう」



 お兄様、楽しそう。こういう時は絶対何か企んでいるのよね。見た目は完璧な王子様なのに、腹黒さはオルニス文政官並みなんだから。


 実の兄ながら、お兄様の考えている事は想像もつかないわ。



 次の計画は一体何なのかしら。


更新遅れちゃった(´・ω・`)


四章の登場人物紹介を挟んでから

五章に移ります。


が。


まだ全然書けていないので、

五章からは、これまでのような毎日更新から

数日おきの更新に変わります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回はここまで拝読させていただきました。 ユスタフ帝国がやはりきな臭いですね…… 魔獣つくるとかかなりヤバいことしてるし。 非人道的な国は嫌ですね…… なんだかんだでアケオくんが中核に…
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