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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第3章 ひきこもり、拉致監禁される

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37話・監禁生活3

 アールカイト侯爵家に監禁されて五日目。


 僕が閉じ込められている最上階の客室に、アリストスさんが様子を見に来た。



「ははは、どうだ!そろそろ参っただろう!」


「へ?」



 意気揚々と尋ねられたが、意味が分からず間の抜けた声を上げてしまった。


 監禁と言っても、客室は広くて綺麗。


 テラスは眺めが良くて開放感がある。


 専属の年配メイドさんは穏やかで優しい。


 三度の食事とおやつ付き。


 暇潰しの本と翻訳の仕事。


 学者貴族さんと一日一回の面会。


 マイラ達への伝言は間者さんに託した。


 唯一出来ないのは外出だけど、元々ひきこもりなので全く苦にならない。


 何不自由ない生活を送っているので参る筈が無い。


 気落ちした感じを微塵も見せない僕に対し、アリストスさんは苛立ちを隠せないようだ。



「……ぬぅ。異世界人というのは度し難い存在だな。監禁に耐性があるのだろうか」



 なんだそのイヤな耐性は。


 異世界人全体に妙な誤解を与えた気がする。


 ダメージを与えたかったら、もう少し待遇悪くした方がいいと思う。牢屋に入れるとか。


 あ、僕は牢屋に入れられても平気だったな。やっぱり監禁耐性があるのかもしれない。


 というか、アリストスさんは目的を誤ってない?


 僕を弱らせてどうしようっていうんだ。



「此奴が弱って死んでしまえば、兄上も異世界人研究など諦めて下さると思ったのだが。なかなか上手くいかんものだな」


 

 おっと、予想を上回る酷い筋書きだ。夜店の金魚じゃあるまいし、そんな簡単に人が死ぬ訳ないだろ。


 想定外に僕がピンピンしてるから、アリストスさんは困惑している。


 王様が作った異世界人を保護する法律があるから、直接僕に危害を加えられない。精神的に弱らせるというのは、回りくどいけど現状唯一取れる手段ではある。


 だけど、肝心の作戦が甘かった。 僕を弱らせたければ監禁ではなく、逆に外へ出せばいいのだ。一人の時間をこよなく愛する僕にとって、外で他人の視線に晒される方がよっぽどツラい拷問だ。



「はあ、下賤の民は図太くて敵わんな」



 とうとう溜め息を吐いてしまった。


 思い通りにいかなかったのがショックだったようで、アリストスさんの顔色が悪い。なんで監禁した側がダメージ受けてるんだ。



「……兄上もあまり話をして下さらないし、私は一体どうしたらいいのだ」



 僕をダシに学者貴族さんを呼び寄せたはいいが、どうも兄弟の会話は上手くいっていないらしい。


 嫌がる人を無理やり脅して言う事聞かせてる時点で、上手く行く訳ないだろうに。



「アリストス、いい加減にせんか!」


「兄上」



 学者貴族さんまで来た。


 この生活に嫌気が刺しているようだ。



「ヤモリを閉じ込めても無駄だと分かっただろう。これ以上好き勝手をすると許さんぞ!」


「何を言うかと思えば……。私を咎めるというのですか、アールカイト家を棄てた貴方が?」


「棄てたのは侯爵家の方だろうが!」


「なんですと!?」



 激しい口喧嘩が始まってしまった。


 何故僕の前でやるんだ。


 口を開けば悪態ばかりつく二人に、周りの騎士さん達も止める事が出来ず困っている。


 場所を移して他でやってくれないかな。そう思ってたら、外が騒がしくなった。


 門から庭園を抜け、猛スピードで馬車が玄関先に向かってくるのがテラスから見えた。門番や庭師の人達が突然の来訪者に驚いている。


 アリストスさんにも心当たりはないようだ。騒ぎに気付いて口喧嘩をやめ、騎士さんに命じて調べさせている。


 騒ぎは屋敷内に移り、次第に近付いてきた。来訪者の目的はこの部屋に違いない。


 扉の向こうで、警備の騎士さん達が誰かに向かって止まるように頼んでいるのが聞こえる。


 その口調は慌ててはいるが丁寧で、目上の人間が相手だと分かった。必死の頼みも虚しく、来訪者はこの部屋の前まで辿り着いた。



「開けてもらおうか」



 場にそぐわない、涼やかな声が響いた。


 主人(あるじ)以外の命令に従わないはずの騎士さんが扉を開くと、そこには藍色の制服を着た金髪の男の人が立っていた。


 

「やあ、ヤモリ君。元気そうで何よりだ」


「オルニスさん!」



 乗り込んできたのはオルニスさんだった。


 手には一枚の書類らしきものを持ち、いつもの穏やかな表情でこちらを見ている。


 急な事に固まっていたアリストスさんが、気を取り直してオルニスさんに向き合った。



「……これはこれは、第一文政官殿ではありませんか。我が家に何か御用ですか?」


「この屋敷に用なんかないよ」


「!?ならば何故ここに」


「──決まっているだろう。娘達の友人を返して貰いにきただけさ」



 娘達の友人。


 そう言われて、僕は泣きそうになった。嬉しさと申し訳なさが湧き上がる。


 アリストスさんは格下の辺境伯、しかも爵位を持っていないオルニスさんに軽く扱われ、怒り心頭といった感じだ。


 貴族の身分に年齢は関係ない。


 本来ならば、気を遣い、頭を下げて請わねばならない面会を、オルニスさんは無断でやってしまった。


 これは侯爵と辺境伯の争いに発展するのではないかと、その場に居た誰もが思っただろう。



「これは異な事を。異世界人はより高位の貴族により保護されるべき。これは我等が王が作られた法律。私はそれに則り、この異世界人を保護したまで」


「私やエニアの留守を狙ってかい?法律に則って行動したと言う割には、やり方が姑息ではないかな」



 口調は穏やかだが、目が笑ってない。オルニスさんは笑顔を浮かべているが、間違いなくめちゃくちゃ怒っている。



「正式な手順を踏まず、無断で我が家に入り込み、ヤモリ君を連れ去った。その上で法律を語るとは、流石侯爵家はやる事が違うね」


「黙れ!侯爵家当主に向かってその口の聞き方は失礼にも程がある!立場を(わきま)えよ!!」



 アリストスさんが怒りに任せて叫ぶと、部屋の中の空気がビリビリと震えた。


 周りの騎士さん達も身体を強張らせている。


 だが、それを向けられたオルニスさんは、顔色ひとつ変えないまま、手にした書類を拡げて見せた。


 その書類を見て、アリストスさんが目を見開く。



「これ、なんだか分かる?陛下直筆の命令書だよ」


「なっ……」



 オルニスさんが掲げた物は、ただの紙ではない。このサウロ王国の王様が書いたものだという。二、三行ほどの文章に、日付と署名、そして大きな四角い朱印が押してある。


 この印が間違いなく玉璽である事は、侯爵家当主のアリストスさんにはすぐ分かったようだ。先程までの勢いが削がれ、その場に立ち尽くしている。


 王直筆の命令書を持って来たという事は、つまりオルニスさんは王の名代。


 頭を下げ、立場を弁えるべきは自分の方だったと、アリストスさんは気付いた。




『異世界人に精神的苦痛を与えない事』


『本人の希望を優先し保護する先を決める事』




 命令書には、このように書いてあった。


 僕の権利を守るための言葉だ。


 多分、この数日の間に王様に頼んで書いて貰ったのだろう。この国で一番偉い文官とはいえ、王様に軽々と頼み事が出来るとは思えない。


 僕の為に無理をさせてしまった。


 いや、マイラとラトスの為か。



「辺境伯の婿養子殿もなかなかやるな」



 学者貴族さんが僕の肩を叩いて笑った。


 王の命令書をくるくるっと巻いて片付け、オルニスさんが僕に向かってこう言った。



「さあ、ヤモリ君。君はどうしたい?」


オルニスさんの戦い方はこうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] オルニス様ぁぁぁぁ!! 素敵いいいいいいい!!(*´艸`)♡
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