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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第2章 ひきこもり、王都へ行く
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28話・魔法の勉強

「へぇ〜、あなた異世界人なんだぁ〜!ウチで預かってたんだ。知らなかったわ」



 みんなで応接室に戻ってから自己紹介をしたら、驚かれてしまった。


 エニアさんは、最初から砕けた口調で親しげに話し掛けてくる。オルニスさんとは違い、体育会系な雰囲気があるから少し苦手かも。


 エニア・ディアンヌ・エーデルハイト。


 クワドラッド辺境伯エーデルハイトの一人娘で、現在は王都で国王軍のトップ、軍務長官を務めている。

 オルニスさんは婿養子なんだとか。


 エニアさんもオルニスさんも三十代後半なんだけど、とてもそうは見えないんだよな。鮮やかなオレンジ色の髪がとても綺麗。


 マイラ達の髪は母親譲りだったんだな。


 青い瞳は父親のオルニスさん似。



「ヤモリ君の件は、お義父さんからの手紙に書いてあったんじゃないのかな。読んでないのかい?」


「お父さまの手紙は長いから全っ然読んでない。ま、家のことはオルニスが把握してくれてるし、何の問題もないわ!」


「ははは。たまには返事を書いてあげないと、お義父さん寂しがるよ」

 


 辺境伯のおじさん、かわいそう。返事がないどころか、そもそも読んでもらえてないなんて、本人が知ったら泣いちゃうかも。



「で、今はアールカイトんとこの変態学者の屋敷に通ってるんだって?大丈夫なの〜?」



 変態学者って言われてるよ! ホントに良い評判ないんだな、あの人。


 てか、格上貴族に対してこの言い様、色々大丈夫なのかな。エニアさんって生粋の貴族の割に、そういう家のしがらみとか全く気にしてなさそう。


 良く言えば豪快、悪く言えば大雑把な感じ。



「えーと、今のところはなんとかなってます」


「何か嫌な事されそうになったら、ちゃんと抵抗しなさいよ〜?異世界人に危害を加えるのは、国の法律で禁止されてるんだから」


「え?そんな法律があるんですか」



 聞いた事ないぞ、そんな法律。


 そういう決まりがあるのなら、採血とかキッパリ断っても大丈夫かな。学者貴族さんとバリさんにそういうまともな話が通じればの話なんだけど。



「王が作った特別な法律なの。平民には浸透してないけど、貴族ならみんな知ってるはずよ」



 辺境伯のおじさんは『異世界人には、より高位の貴族による保護が必要』と言っていたが、それもその法律の一文かな。


 過去に王宮で保護された松笠美久(まつかさ みく)ちゃんが数年で亡くなってしまった事を悔やんで制定されたとか?


 あれ?


 その法律だと僕は──


 いや、余計な事は言わないでおこう。



「ねぇ、お母さまも明日お休みー?」


「そうよ〜!仕事はぜーんぶ部下に投げてきたし、明日は何があっても連絡してくるなって釘刺しといたからだいじょーぶ!」


「やったー!」



 サラッと部下に仕事丸投げしたって言ったぞ。前倒しで仕事を片付けてきたオルニスさんとは正反対だ。


 マイラ達は、久しぶりに会った両親にべったりくっついている。いつもは大人びた態度を取る二人だけど、こうしていると年相応の普通の子供に見える。


 明日は家族水入らずの邪魔をしないでおこう。


 学者貴族さんちに行く日じゃないし、久しぶりに一人の時間を満喫できるぞ!


 部屋でゆっくり本でも読んで過ごそうかな。


 そうだ、魔法の本があれば読んでみたい。


 さっき庭園で見たマイラの魔法、本当に凄くて感動したから、どんな原理か詳しく知りたくなったんだ。


 僕の部屋には無かったから聞いてみよう。



「マイラ、初心者向けの魔法の本ってある?」


「初等部の魔法学の教科書が一番簡単だと思うわ」


「読んでみたいんだ。貸してくれるかな」


「いいわよ。あたしはもう使わないからあげる」


「ホントに?ありがとう!」


「あとで部屋に運ばせるわ。他にも何冊かあるから、それも一緒に」


「うん、助かるよ」



 よし、明日は魔法を勉強しよう!


 平民や新興貴族には魔力はないらしいけど、僕は異世界人だから関係ない。もしかしたら魔力があるかもしれないし、魔法が使えるかもしれない。


 夢だったんだよなあ、手からファイヤー!って炎出すの。


 火と水が出せるようになったら、また森で迷子になってもなんとか生きていけるし。


 その後、エニアさんとオルニスさんは晩酌を始め、マイラ達と僕は自分の部屋に戻った。




 翌日の午前中、マイラ達親子は馬車でピクニックへと出かけていった。


 一緒に行こうと誘われたけど、せっかくの家族水入らずだ。邪魔する訳にはいかないからと断った。


 それに、僕にはやらなければならない事がある。


 憧れの魔法を学び、実践する!


 魔法の書も手に入れた!

 

 ──まあ、初等部用の教科書なんだけど。


 玄関ホールでマイラ達を見送った後、僕は意気揚々と自分の部屋に戻った。そして椅子に正座し、目の前のテーブルに借りた本を全て並べた。


 まず、魔法学の教科書から手に取って捲ってみる。子供向けなので挿し絵が多いが、魔法の原理も何も知らない僕には丁度いい。


 マイラは魔法を使う時、呪文を唱えてなかった。無詠唱といえば、ファンタジー小説ではかなり高度なテクニック扱いだった気がするけど、この世界では元々決まった呪文が無いみたい。


 頭の中で魔法が引き起こす現象を具体的にイメージして、それを自分の魔力を消費して創り出す。それさえ出来れば呪文は必要ないようだ。


 だから、想像力がないと魔法が発動しない。


 炎や水とか、イメージしやすいものしか出せない人も多いみたい。逆に、イメージさえ出来れば、属性関係なく何でも出来るらしい。


 言葉があった方がイメージしやすい人は、自分で決めた呪文を唱える事もあるんだとか。


 呪文がある方が絶対カッコいいよね!


 僕は五年間ひきこもってる間に何作もの有名RPGをクリアした男。最近プレイしていたのは、魔法使いが主人公のオンラインゲーム『Magical Romancer』。


  全ての魔法の習得を目指して世界を巡る物語で、多種多様の魔法が登場する。時間だけはあったので、僕は隠し魔法までフルコンプリートしている。とにかくグラフィックが綺麗で、敵を倒すより映像見たさで魔法を使っていたくらいだ。


 つまり、魔法のイメージなら既に頭の中にある!


 初心者向けの魔法の本は全部目を通した。この世界の魔法の理論も理解した。


 今ならイケる気がする!


 あとは実践あるのみ!


 しかし、部屋の中で試すわけにはいかない。


 昼間に庭に出たら、庭師さんや他の使用人さんに見られてしまう。屋敷内で働くメイドさん達は、僕が人見知りだと知っているので割と放っておいてくれるけど、他の人はどうだろう。


 マイラ達がいない今、僕一人で外をウロウロしてたら絶対怪しい。


 誰も来なさそうな場所ってないかなあ。



「……間者さん、いる?」



 僕は天井を見上げて声を掛けた。


 すると、すぐに何処からともなく黒服姿の間者さんが現れた。今日は天井裏ではなく、二間続きになってる隣の寝室から普通に出てきた。


 まさか布団で寝てたんじゃないだろうな。



「なんか用っすか」


「今更だけど、マイラ達の馬車についていかなくて良かったの?護衛とか」


「あー大丈夫大丈夫、エニア様めちゃ強いんで。あとオルニス様も普通に戦えるし、過剰戦力っす」



 エニアさんが強いのは昨晩なんとなく分かってたけど、オルニスさんも強いんだ。ちょっと意外。



「あのさ、どこか広くて人が来ない場所ないかな」


「厩舎の裏なら昼間は誰も来ないっすよ」


「ありがとう、じゃあちょっと行ってみる!」


「自分もついてっていーすか」


「だっ駄目!ここにいて!」



 厩舎は確か使用人寮の裏手にあったはず。場所を教えてもらった事だし、早速行ってみよう。


 部屋を出て階段を降り、玄関ホールでプロムスさんに見送られ、屋敷の隣に建つ使用人寮の裏に回る。昼間のこの時間はみんな持ち場で働いているので、寮の近くには誰もいない。


 辺境伯邸の厩舎は大きくて、最大二十頭お世話出来る。世話係のおじさんが厩舎前で馬具の手入れをしていたので、近くの茂みに隠れつつ裏手に移動した。

 

 間者さんが教えてくれた場所は、開けた空き地になっていた。屋敷側からは木々が生えていて見えない。ここなら何かあっても大丈夫そうだ。


 昨晩マイラがやったように、まずは手を前に伸ばし、掌を上に向けて目を閉じる。


 何かが掌から出るイメージを浮かべるが、魔力の塊である光球は出なかった。


 まあ、魔力を体外に出すのは魔法学の試験内容なワケだから、僕は出来なくても問題ない。


 要は魔法が使えればいい。


 右手だけを前に突き出し、力を籠める。


 何も出ない。


 魔法のイメージが足りてないのかもしれない。


 僕は『Magical Romancer』のプレイ画面を思い出した。一番好きな魔法は『極炎魔法カオスフレイム』だが、これはプレイヤーを中心に地獄の火炎が渦を巻く、かなり強力なものだ。万が一うまく発動したら厩舎が消し飛んでしまう。


 ここは控え目に、ゲーム初期に習得出来る『フレア』が良いだろう。『フレア』は発動すると標的に向かって小さな火球が飛んでいく魔法だ。


 体内の魔力を利き手に集め自分の腕に炎を這わせる、という映像を脳内で再生する。


 よし、イメージは完璧だ。


 再度右手を前に翳し、僕は呪文を声に出した。



「……フレア」



 なにも出ない。


 いや、気合いが足りてないからだ。声も小さかったし。もう一度、全ての精神力を注ぎ込む勢いでやろう。



「フレア!!」



 ……


 …………


 ………………



 やはり、手からは何も出てこなかった。


 何度かやってみたけど、結果は同じだ。


 魔法学の教科書や参考書を読み込み、イメージも完璧に出来ていたのに、魔法は発動しなかった。


 やはり僕には魔力はないのだろうか。


 ちょっと悲しいけど、心の何処かで分かっていた。

 僕には特別な能力はないのだと。


 さっきまでのウキウキ気分は消し飛び、なんだか急に気恥ずかしくなってきた。


 誰も見てないよな?と周りを見回したら、厩舎の屋根の上で小刻みに震える間者さんの姿を発見してしまった。


 ……部屋に居てって言ったのに。


 厨二病現場を目撃された僕は、そのまま速攻で部屋に戻って不貞寝した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 変態学者www いやそうなんだけど言い方www 格上貴族なんだし、せめて形だけでも良いからオブラートに包もう!!wwww 異世界人に危害を与えるのはダメって法律あるんだ! やっぱミクちゃん絡…
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