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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第1章 ひきこもり、異世界へ転移する

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13話・キサン村の因縁1

「おはようアケオ!あたしが来てあげたわよ!」


「間に合ってます!!」


「なんでよ、さっさと開けなさいよ!!」



 朝も早くから屋根裏部屋にマイラが押し掛けてきた。昨日の顔合わせ以来、辺境伯の孫娘から気に入られてしまったらしい。


 世話になってるから邪険に出来ないけど、グイグイ来られると引いてしまう。


 室内の僕と廊下のマイラ。


 鍵の掛かった扉を挟んで押し問答をしていると、室内の何処からか黒服の間者さんが現れ、そっと鍵を開けた。


 その途端、勢い良く扉が開かれ、僕は顔面を強打した。



「最初から素直に言う事を聞きなさいな」



 蹲る僕の横を悠々とすり抜け、ソファーに腰を掛けるマイラ。そして、その後ろをついて歩き、姉の隣にちょこんと座る弟のラトス。


 痛みで涙目になってる僕を見て、彼は鼻で笑っている。やっぱりラトスには嫌われているみたいだ。


 ちなみに、間者さんはマイラとラトスが室内に入ったと同時に姿を消している。辺境伯(雇い主)が溺愛する孫達の希望を、影ながら叶えているのだろう。


 ていうか、もしかしてずっとこの部屋に潜んでる?



「こんな朝早くから何の用かな……」


「あら、あたしがわざわざ朝食に誘いに来てあげたのよ?もう少し嬉しそうにしたらどうなの」


「は?なんで?」


「エレナから聞いたわよ。アケオはいっつもこの部屋で、一人で食事してるんですって?」


「……そうだけど」


「我が家の客人がそんな寂しい食事をしてるなんて、考えられないわ!だから、今日から一緒に食堂で食べましょう!」



 おそらく、完全なる善意なんだろうけど、一人が大好きな僕にとってはありがた迷惑な話である。


 なんとか断ろうと口を開きかけた時、マイラの隣に立つラトスと目が合った。殺気のこもった鋭い目付きだ。


 まだ十歳かそこらの子供の癖に眼力が凄い。


 

(お前ごときがねえさまの言う事に逆らう気か?)



 という圧と、



(ボクとねえさまとの水入らずの時間を邪魔するな)



 という圧を同時に感じる。


 つまり、僕がどっちを選ぼうともラトスの反感を買う事が決定しているわけだ。それなら気楽に一人で食事した方がマシだ、と断ろうとした時。


 

「あたしはもっとアケオと仲良くなりたいわ」



 と、マイラが少し照れながら呟いた。可愛い女の子からそう言われてしまっては断れない。


 了承したら「先に食堂で待ってるわね!」と嬉しそうに部屋から出て行った。


 その後にラトスが続くのだが、部屋を出る瞬間、僕だけに聞こえるように舌打ちしていった。


 どうしろっていうんだよ……。


 ラトスは重度のシスコンだな。


 この日から、僕はマイラ達と一緒に食堂で食べ、食後は屋根裏部屋でまったり過ごすようになった。


 大抵異世界についての質問をされて答えたりしている。説明が面倒な時は、紙に絵を描いて見せている。


 辺境伯のおじさんや団長さんは乗り物に反応してたけど、マイラは異世界のファッションに興味があるようだ。ラトスは何故か武器や兵器の事ばかり聞いてくる。物騒な子供だ。


 学校の長期休みで帰省してるって話だけど、宿題とかないのかな。貴族が行く学校だから、宿題があるか分からないけど。


 暇だから僕に付いて回ってるんだろう。


 三人でダラダラしてたら、団長さんが訪ねてきた。

 普段来るのは夕方以降なのに、今日はまだ昼間だ。

 心なしか、表情が硬い。


 

「ヤモリ君。少し時間を貰えないだろうか」


「あ、はい。なにかありましたか」


「遠方のキサン村出身者が今朝方ノルトンに到着した。これから兵舎で事件の説明をするのだが、出来れば君も同席してほしい」


 

 ノルトンに住んでいるキサン村出身者は、調査隊と一緒に現地を見ている。ノルトン以外の人達には、遠方の為なかなか連絡が取れなかったが、先日やっと事情を知らせる事が出来たという。


 僕は唯一の目撃者であり生存者でもある。ここは出向いて、必要ならば説明するべきだろう。


 

「ラキオス様とお出掛けするの?あたしも──」


「申し訳ない、マイラ嬢。今回はご遠慮願いたい」


 

 マイラの申し出を、団長さんはやんわりと拒絶した。まあ、貴族のお嬢様を兵舎に連れてったら、周りが大騒ぎするだろうから仕方ない。


 それに、この件は無関係な人が興味本位で立ち入っていいような話じゃない。


 しょんぼりと肩を落とすマイラとラトスに見送られ、僕は団長さんと馬車で兵舎に向かった。




 兵舎に入ると、少し広めの会議室のような部屋に通された。そこには既にキサン村出身者と思われる人が十人ほど待っていた。前回見た人もいる。


 僕は団長さんに促され、一人で部屋の隅にある椅子へと腰掛ける。他の人も用意された長椅子に座った。


 全員が揃ったのを確認して、団長さんが前に出た。



「ノルトン駐屯兵団団長、ラキオス・グラディアだ。キサン村の出身者である君達に集まって貰ったのは、此度の事件の説明をする為である」


 

 キサン村出身者の人達は、神妙な顔つきで事件のあらましを聞いていた。


 そして時折僕の方を見てヒソヒソ話をしている。兵士でもない、村出身者でもない部外者が何故居るのかと思っているのだろう。


 団長さんは、村を襲った魔獣が白狼(しろおおかみ)の群れであった事、村長さんとロフルスさんが倒したものの、相討ちになった事を説明した。白狼の下りではどよめきが起こった。


 元々白狼はクワドラッド州に生息していないらしいので無理もない。



「……それで、そこの人だけが生き残った、だって?」



 声を上げたのは、一番前の長椅子に座った三十代くらいの男の人だった。村長の息子さんだそうだ。



「そうだ。彼は事件の数日前に森でロフルス氏に保護され、村に滞在していた」


「コイツが怪しいだろ!」


「やめんかトマス!ヤモリさんを疑うなんてとんでもない!失礼だぞ!」


 

 団長さんの説明に、尚も食い下がるトマスさん。

 後ろの席にいた医者のアトロスさんが止めるが、怒りは収まらない。アトロスさんは村長の奥さんの弟だから、トマスさんにとって叔父にあたる。


 兵舎に向かう馬車の中で、あらかじめ団長さんから「一部の者が君を怪しむかもしれない」と言われていたから、気持ちの準備はしていたつもりだった。


 突然身内が悲惨な死を遂げて、落ち着いていられる者はいない。現実を認めたくなくて、関係者を逆恨みしてしまうのも分かる。


 それでも、自分に対して怒っている人が目の前にいるというのは、かなり恐怖を感じる。



「だってよぉ!コイツが来た途端、村に魔獣が襲ってきたんだろ?コイツが呼び込んだんじゃないのかよ!」


 

 今にも掴みかかって来そうなトマスさんの勢いに、周りの兵士さん達が僕の前に立ちはだかって守ってくれた。


 それが彼の怒りの火に油を注いだようだった。



「トマス君、落ち着きたまえ。ヤモリ君にそんな事をする理由もないし、魔獣は人が操れるものでもない。それに、村人達を看取って埋葬してくれたのは彼だぞ」



 団長さんは静かに諭すが、トマスさんには届かない。 虚ろな目で僕を睨み付けている。



「……コイツが、ユスタフ帝国の手先じゃないって、誰か証明できるのかよ」



 その言葉に、他のキサン村出身者が反応した。

 

 どういう意味か分からず、団長さんの方を見た。なんだか深刻そうな表情をしている。


 何故ここでユスタフ帝国の名が出てくるんだ?



「滅多な事を言うもんじゃない、トマス」


「帝国が裏切り者の村を消しにきたんじゃないのかよ!」



 部屋の中が静まり返った。


 トマスさんは何かに怯えているようだ。


 他のキサン村出身者と兵士さん達も青褪めている。キサン村とノルトンの人達には、僕の知らない特別な事情があるのかもしれない。


 誰もが俯き、項垂れて黙り込んでいる。


 

「──キサン村の件は、私の指示不足のせいだ」


 

 沈黙を破ったのは、団長さんの一言だった。

 

次のお話の更新は2019年7月22日中の予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] ラトス、シスコンだった!! なるほど、それであの態度か。 納得! キサン村関係者が集まって例の事件のあらましを話たところで、やっぱりアケオを疑う人が……。 村長の息子……。 裏切者の村って言…
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